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弱くてニューライフ~逆転のサードスクエア~  作者: 梨本 和広
2章 七貴舞踊会のフィナーレ
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17話 貴族と貴族

「どうしたんでしょうか?」


四人で辺りを見回しながら村の中へ入ると、朱色の髪をトサカのように立てた肌黒の男が、村人の胸ぐらを掴み上げていた。


男の横には、小柄の男がニヤニヤと笑みを浮かべながらその場の光景を楽しんでいる。


「先ほどもお伝えしましたが、宿は既に以前からご予約されていた貴族様にお貸ししているのです!」


「ああ!? なら俺たちはこの土の上で寝ろって言うのか!?」


「ですから、私の住まいで良ければお貸しすると言っているではないですか!」


「なんで俺たちがテメエらの臭い家で過ごさなきゃいけねえんだよ、こちとら貴族様だぞ? 貸し切ってる宿と同様のものを用意するのが筋じゃねえのか?」


「そんな無茶な……」


どうやら自分たちに相応な宿を貸し出されず、いちゃもんをつけているようだった。


「それでは今お泊まりの貴族様に事情をお話いたします。宿は貸し切られておりますが、部屋は空いているはずですので、ご理解いただければこちらでお泊まりいただけます」


「ああ!? どうしてそういう風になるんだぁ? 俺は同様のものを準備しろって言ったんだ。それ以上はあっても以下は認めねえ」


「ぐっ、ぐぁ……」


肌黒の男の力が強まったのか、苦しそうな声を上げる村人。


「っ!」


険しい表情を見せてその場から飛び出そうとしたザストだったが、腕を引っ張られる感覚に足を止める。


ザストを制止させたのは、レインだった。


「おいレイン!」


「止めに行くならあの場を穏便に済ませる方法を説明してくれ」


「それは…………でも放っておけない!」


「俺もだ。――――だから、こういうのは適材適所で行こう」


「てき……?」


そう言いながら、レインは後方にいるリゲルへと目を向けた。


「状況は理解したよね? 穏便に済ませてきてもらっていい?」


無茶振りも甚だしいと目を丸くするザストとアリシエールだったが、


「承知いたしました」


一も二もなく、リゲルは笑みを浮かべながらレインへ返答した。身につけていたベストを脱いでネクタイを緩めると、リゲルは両手をポケットに入れながらがに股歩きで彼らに居る場所へと進んでいく。


「なんだテメエ?」


村人を掴み上げたままリゲルを睨み付ける肌黒の男。他の村人が、仲裁に入ってきたと思ったのだろう。



――――だが、リゲルが声をかけたのは、肌黒の男ではなく掴み上げられた村人の方だった。


「村長さん? 悪いんだけど宿貸してもらっていいかい? 一応貴族なもんだから、いい宿貸してもらえると助かるんだが」


それを聞いた村人の顔色はさらに悪くなり、肌黒の男と小柄の男は分かりやすく口角を上げた。


「おい兄ちゃん、残念だが宿は別の貴族様が借り切ってるようだぜ? 俺たちは路上で休むしかないようだ」


場をさらに荒らしたかったのだろう、小柄の男が大袈裟にジェスチャーを交えながら村人を追い込んでいく。


「はあ!? だったら別の宿を用意しろや! 勿論、テメエらの家なんかじゃ納得しねえぞ?」


レインと接していた優しい執事と同一人物とは思えない振る舞いと口調で村人に怒声を浴びせるリゲル。


震え上がって何も答えられない村人に対して、リゲルは溜め息をついて――――言った。



「もういい。お前じゃ話にならん。この村を治めてる貴族に繋げ」



その言葉を受け、肌黒の男と小柄の表情が変わった。笑みが消え、動揺を見せないよう無表情を作っているように見えた。


「しっかり言ってやらんとな、貴族が他に二組も居て、泊まる宿が平等じゃないのはどういうことかって。二人もそう思うよなぁ!?」


同意を求めるように二人へ振ったリゲルだったが、先ほどとは打って変わったように反応が乏しくなる二人。


「どうしたよお二人さん?」


「……おいジジイ、テメエの家で構わねえからさっさと案内しろ。こっちは疲れてるんだ」


肌黒の男は村人を地上に下ろすと、村人に自分の宿を案内するように指示した。


「えっ、でも、この方も」


「こっちが先だっただろうが!」


「申し訳ありません! 少々お待ちいただいてもよろしいでしょうか!?」


リゲルに頭を下げながら、肌黒の男の元へ向かう村人。


その光景を見て大きく息を吐くと、リゲルはいつもの笑みを浮かべながらレインたちのもとへ戻ってきた。


「これでよろしかったでしょうか?」


「完璧、さすがリゲル」


「ありがとうございます」


「えっ、なんで? なんでこうもあっさり?」


首を傾げながらリゲルに質疑を投げるザストだったが、一旦それを止めるレイン。


「先にここから離れよう。村人さんが戻ってきたらややこしいことになる」


「それもそっか、じゃあ出発してから訊かせてもらっても?」


ザストがリゲルへ問いかけると、リゲルはレインの方へ視線を向けた。


「馬車がありますので、レイン様にお任せしてもよろしいですか?」


「了解。さっきの説明は俺からするよ」


そうしてレインたちは、クレスト家へ向けて再び出発することとなった。



―*―



「で、さっきのはどういうこと?」


三人が馬車に乗り込み馬が走り出した瞬間、ザストが先ほどの村での出来事を訊き始めた。


「そうだな、その前に一つカスティール君に質問。君があそこで出て行ったとして、どうするつもりだった?」


「えっと、それは」


自分の行動が不正解だと思ったのか、回答を渋るザスト。


「構える必要はないよ、これからする説明に必要だから聞きたいだけ。俺は、あそこで飛び出そうとしたカスティール君の行動に間違いはないと思ってるから」


言いよどむのが分かっていたからこそ、レインはザストが答えやすいように前置きを入れる。伝えた通り、正義に基づいた彼の行動を責めるつもりなど毛頭ないのだから。


「あはは、そうは言ってもちゃんと考えていたわけじゃないんだ。村の人が苦しそうだったからそれを止めさせて、無茶なことは言わずに受け入れろ的なことを言ってたと思う」


「それ自体は悪くないと思う。ただその場合、こちらが貴族であることと、少なくとも一日は村で滞在する必要が出てくるんだ」


「……そっか」


レインの言い回しで、ザストは納得したようにボソッと呟いた。


「俺が言うだけ言ってその場を収めても、すぐに村から出るんじゃその後またあいつらに村の人が難癖付けられる。同じことを繰り返すだけだ」


「うん。だからあの場は、彼らが()()()()()()()()しない限り、場を収める方法はなかった」


「それがリゲルさんが行った方法なんですか?」


ザストと同じように頭を悩ますアリシエールが、レインへと質問する。


「それに答えるには、状況を整理する必要があるね。村の人と彼らのやり取りを見ていて、分かったことが二つあった。彼らが貴族であることと、他の貴族と接したくないということ。ちなみにカスティール君は、他の貴族と同じ宿って嫌かい?」


「えっ、どうかな? さして気にしないと思うけど」


「ストフォードさんは?」


「私も、同室でないなら気にならないと思いますけど」


「うん。だから村の人は提案した。貸し切り宿を予約した貴族に、余った部屋を借りられないか。だが彼らはそれを拒否した。現実的に不可能にも関わらず、別の宿を用意しろと言った。そこで俺は、彼らは貴族とは関わりたくないのだと思った」


「えっ、でもそんなことってあるのか? 他の貴族と話すのなんて別に苦でも……もしかして本当は平民とか?」


「いや、貴族を騙るメリットは大きいけど、デメリットはさらに大きい。たかがいい宿に泊まりたいという理由だけで貴族を名乗ることはないと思う。ただ、同じ貴族間でも身分の差は存在する。二卿三旗が貴族の上位と言われているように」


「成る程、つまりあの人たちはあまり高位の貴族ではないということですか?」


「確証はないけど、そうなんだと思う。だから他の貴族と口論になるような真似は避けたかった、争って勝てなくなるからね。なら後は簡単、こちらも宿泊希望の貴族を装って、貴族を絡ませるように動けばいい。それを嫌がった彼らは、自分の意志で村の人の家に泊まることを決めた」


「はええ、そういうことかぁ」


レインから説明を受けたザストは、背もたれに崩れるように体勢を崩した。いろいろ納得して、力が抜けたのであろう。


「その時に重要なのは彼らを一切否定しないこと、リゲルもあくまで村の人が悪い前提で話をしてたでしょ? 彼らを説教するような立ち回りをしたら、結局村の人が後々困ることになるからね」


「それでリゲルさんはああいった演技をされたんですね、お見それしました」


「だな。あのリゲルさんを見た時は頭おかしくなったのかと思ったもん、そういうカラクリだったわけか」


二人に満足のいく説明ができたところで、レインは別のことに頭がいっていた。


自分で説明をしていておかしな話だが、貴族と関わるのを避ける貴族というのは希有な存在である。


二卿三旗のような高位の場合は除くが、基本的に横のつながりを増やすために、貴族は一つの出会いを重要視する傾向にある。


今回の件にしても、村の人の提案を聞き入れれば、彼らも新しい貴族と交流を深めることができたかもしれなかった。だが彼らは、それを受け入れることをしなかった。


そしてレインは、そういった貴族でありながら貴族を良しとしない面々に覚えがある。


「……ただの勘違いで済めばいいけど」


二人に聞こえないよう呟くと、レインは決して彼らと関わることがないことを切に祈るのであった。


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