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弱くてニューライフ~逆転のサードスクエア~  作者: 梨本 和広
2章 七貴舞踊会のフィナーレ
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15話 まとまり

『本当ですか?』


「うん。なんかゴメン、しばらく帰らないって言ってたのに」


『何を言いますか、自分の家なんですからいつ戻ったっていいに決まってるじゃないですか』


「そっか、そうだよな」


レインの家で特訓をすると決めた日の夜、レインは自室から出て外へ出ると、馬車を手配するためにリゲルへと連絡を入れていた。


最初は通話が切れたのかと思うくらい言葉を詰まらせていたリゲルであったが、今は穏やかにレインの言葉を聞き入れてくれている。


『マリンには知らせたんですか?』


「ううん、明日着いてから驚かせようと思って」


『ふふ、分かりました。明日は私一人で向かいますね』


「ありがとう、急な申し出で申し訳ないんだけどよろしく頼むよ」


レインがそう伝えると、一呼吸置いてからリゲルが話を切り出した。



『レインさまが学院生活を楽しんでおられるようで私は安心しました』



優しい声。誰よりも主を支えてきた従者の言葉は、レインの心を揺さぶるには充分過ぎた。


『私たちの唯一の不安をこんな形で解消できるとは夢にも思いませんでした。レインさまのご学友とお会いできるのを、心待ちにしております』


「……うん。月並みな言葉で悪いけど、いい人たちだから。リゲルもきっと気に入ってくれると思う」


『はい。レインさまのご学友ですから、そこはまったく心配しておりません』


嬉しそうに声を弾ませるリゲルと話して、レインもまた開放的な気持ちになっていく。たった一月、されど一月。家族と楽しく話せる時間は、レインにとって非常に心地よいものだった。


「そろそろ切るよ、おやすみ」


『はい。お休みなさい、レインさま』


リゲルとの会話を終え、ファーストスクエアを閉じてから自室へと向かうレイン。


明日の放課後はリゲルが迎えに来て、ザストとアリシエールと共にクレスト家へと出発する。


入学当初、こんな日が来る等考えたこともなかった。自身の目的から大きく外れているにも関わらず、レインも悪い気はしていない。


明日を待望する気持ちに少し戸惑いながらも、レインは無意識に足を速めてしまうのであった。



―*―



「それじゃあ今週は終わりだ。戦闘訓練参加者は漫然と休むんじゃないぞ、ちゃんとチームで鍛錬するようにな」


翌日。淡々と授業を終え終礼を迎えたレインたち。リエリィーの解散の合図を経て、レインの席へザストとアリシエールが集結する。


「じゃあ行こうか、門の前で待機していると思うから」


「おっ、なんだなんだ? 悪巧みかなレイン君?」


終礼後早々の集まりが目に付いたのか、リエリィーがからかうような視線をレインへ向けた。


「悪巧みって、人聞き悪いこと言わないでください」


「いやいや、俺からすれば立派な褒め言葉だから。頼むからAクラスに一矢報いてくれよ、それじゃあさいなら~」


言いたいことだけ言い放つと、リエリィーは手をひらひらさせてから教室を出て行ってしまった。


「レインってリエリィー先生に好かれてるよな?」


「好かれてるっていうのかあれ?」


「少なくとも嫌われてはいないと思います」


「それはそれで複雑だけど」


ザストとアリシエールからの言葉で、複雑な気持ちになってしまうレイン。自分に好意があるのなら、もう少し穏やかに接して欲しいものである。


「レイン君たち、行くんだね?」


リエリィーと入れ替わるように声をかけてきたのは、同じく戦闘訓練へ参加するテータ・ノスロイド。


朝食時にザストが楽しげに話していたため、ザストとアリシエールがレインの家で鍛錬するのは既に知っている。


「移動してまで隠し通したい作戦、Bクラスの一員として楽しみにしてるよ」


「おうよ、Aクラスのド肝抜いてやるからな」


「そんな大層なものじゃないんだけど……」


「ノスロイドさんも頑張りましょうね」


「うん、また学院で。全力を尽くそう」


互いにエールを交わし、今度はレインたちが教室を後にする。その歩みは、普段おしとやかに歩くアリシエールを見ても、少し浮ついているのが認識できた。


「楽しみだなぁ、昨日も楽しみだったけど、今日はもっと楽しみだ」


「なんだそれ」


「ふふ、すごく気持ちが分かります」


ニコニコと楽しげに歩く二人に、ついて行けないレイン。


だがそこに不快感を覚えないのは、レインも二人に近い感情を抱いているからであろう。


「分かってるとは思うけど、俺たちは鍛錬しに行くんだからな?」


しかしレインは敢えて気持ちを引き締めるように言葉を紡ぐ。


本来鍛錬に費やせる時間を移動にかけてまで誰にも見られないようレインの家に向かうのである。一通りやることを成功させるまでは、一瞬たりとも気を抜いてはいけない。


「そ、そうですよね。ごめんなさい、浮かれてしまって……」


――――とはいうものの、アリシエールにあからさまにしょんぼりとされてしまい、レインはどうしようもない罪悪感に駆られてしまった。


「あーあ、アリシエールさんすごく楽しみにしてたのに」


そしてザストが、ここぞとばかりにレインへ追撃を入れてくる。


わざわざこのタイミングで言う必要はなかったのかもしれないとレインは反省しかけたが、ザストの言葉に対してアリシエールが大きく首を振った。


「いえ! 楽しみは楽しみですが、目的をはき違えたらダメです! せっかくチームに招待いただいたのに、迷惑をかけるような真似だけは嫌です」


普段から弱気な面を見せることの多い彼女の、強い言葉。それだけに、アリシエールからは戦闘訓練に賭ける思いが充分に伝わってきた。


「……そうだな。このメンバーで戦えればそれが一番だけど、勝ってナンボだもんな」


気合いのこもった主張をするアリシエールに面を食らっていたザストだったが、ゆっくりと表情を綻ばせていく。


想定していた流れとは違っていたが、二人の気持ちが切り替わったのを感じ、レインも多少安心する。


Aクラスの人間、その上成績上位ともなれば実力は折り紙付き。実戦経験が足りていなくても、その才能だけでカバーできてしまうのが成績上位足る由縁。


一瞬でも隙を見せればやられる相手、そこを乗り越えるには才能に打ち勝てる経験を積まなくてはならない。


負けない戦いをする以上二人に喝を入れることも覚悟していたが、どうやらその心配はないようだった。


「それじゃあ、馬車で改めてルールと戦術の確認をしよう。明日からすぐに連携に入れるように」


「おう(はい)!」


止めていた足を、今度は皆一緒に前へ出す。それを心地よいと感じたのは、決してレインだけではないだろう。



だが、その感情に浸っていいのは、あくまで戦闘訓練を無事乗り切った後である。



レインは二人から飛んでくる質疑を丁寧に捌きながら、リゲルの待つ門の前へと向かうのであった。



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