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弱くてニューライフ~逆転のサードスクエア~  作者: 梨本 和広
2章 七貴舞踊会のフィナーレ
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13話 楽しい作戦会議

「さてさてさて、何の話をしよっか? 衣服? 食事? 最近の流行?」


放課後の空き教室を借りることができたザスト一行。その長は、現在の気持ちを楽しげに全身を使って表現するが、部下たちは訝しげに長を見ることしか出来なかった。


「カスティール君、戦闘訓練の作戦会議ってことで集まったんじゃないのか?」


「分かってるけどちょっとくらいはしゃいじゃってもいいじゃない、ねえアリシエールさん?」


「ど、どうなんでしょう?」


どうやらザストは、三人で何かに打ち込める状況に喜びを感じているようだが、レインとアリシエールはそこまで強く共感はできていないみたいである。


「しかしサードスクエアを戦闘訓練で使用できるとはね、これまた急なことだなぁ」


「カスティール君はサードスクエアを知ってたんだっけ?」


「サードスクエアって名前は知らなかったけどな。先生が言ってたように、15歳になってすぐだったよ」


「そういうものなんですね、私は今日の授業で初めて知りました」


「いやいや、俺が悪いだけでアリシエールさんが普通だから」


納得してしまいそうになるアリシエールのフォローに入るザスト。親から教えられたためサードスクエアを使用したことのあるザストだが、禁止事項には変わらない。アリシエールに「知っているのが当たり前」だと思われるのはまずい。


「しかしサードスクエアって意外と縛りがあるんだな、習ってなかったとはいえ知らなかったよ」


今日の講義で学んだことを反芻しながら、ザストは左手を大きく左方向にスライドする。そこには、何も展開されることはなかった。


「セカンドスクエアを使用した後の1分以内でなければサードスクエアは使用できない。つまり初手はお互い、セカンドスクエア単体で撃ち合うことになる」


「いや、バニスを放った直後にサードスクエアを展開すれば効果を付与することはできるぞ」


「それって超早業な上にイメージをうまく乗せなきゃいけないんだろ? 現実的じゃなくないか?」


「まあ確かに。これから使用する技に効果を付与するのが一般的だからな」


「いずれにせよモタモタ展開できないんだろうけどさ、こりゃ特訓が必要になるな」


難航しかけた作戦会議であったが、会話を進める内に本題へ入っていく。一番の課題はやはり、プレストラップの扱いだった。


「レインはどう思う? 結構場所が広そうだし、6カ所満遍なく設置するのがいいと思うんだけど、でも1カ所にまとめてそこへ誘う戦い方でもいい気もしてさ」


「方針次第だな、広く散らせば腐るプレストラップが出る可能性がある。だが1カ所に集中するとこちらの意図が読まれた瞬間その場所に誘導できなくなる。無難に行くなら散らす方がいいだろうな」


「じゃあそうするか」


「じゃあって……」


あまりにあっさりと決断するザストに、不安を覚えるレイン。


「そんな簡単に決めていいのか? 一意見として述べただけだぞ?」


「そうは言っても結論なんて出ないだろ? ならさっさと決めてそれに合わせた戦い方をするべきだ。ね、アリシエールさん?」


「私は戦略とかは正直分からないですけど、早く決めて慣れることに超したことはないと思います」


一瞬面を食らったレインだったが、二人の意志が固いのであればこれ以上議論するつもりはない。ザストの言うように正解がない問題なので、対策できるよう方針を早く決める方が良いだろう。


「とりあえずプレストラップの件は一旦置いとくとして、もう一つの攻撃方法だ。これについても正直考えあぐねてるんだけど」


ザストの言うもう一つの攻撃方法とは、『相手の背中へ触れる』というものであろう。プレストラップで相手に攻撃を当てるよりよっぽど現実的な手段だが、ザストは困ったように視線をレインへ向ける。


このまま方針を全て自分に決めさせようとしているのではないかとレインは思ったが、黙っていても話は進まない。レインはザストのSOSを受け取ることにした。


「これに関しては自分から行わない。以上だ」


「ってことは、背中タッチは行わないってことか?」


「うん。これの何より怖いのは、背中を触るために相手に接近する過程でプレストラップの餌食になる可能性があることだ。だから無理して相手を追うような真似はしない。ただし、相手がこちらの背中に触れようとしてきた時は、こっちも応戦していい。その時は、プレストラップを発動する相手がいないか注意しながらになるけど」


「成る程、10ポイント稼ぐために30ポイント失ったら洒落にならないからな」


「私もその方がいいと思います。プレストラップがある中でいたずらに動くのは危険ですから」


二つ目の方針を定め、順調に話は進んでいく。攻撃の手段は減ってしまうが、一つに絞った方が思考が散らなくてやりやすくなるともレインは考えていた。


「そうと決まれば大まかな流れを考えないとな。相手のやり方に対してこちらも合わせる、なんてやり方じゃ当然勝てないわけだし」


「そうですね、こちらの作戦に引きずりこむくらいでないとダメだと思います」


あーでもないこうでもないと思考を巡らせるザストとアリシエール。そんな二人を見ながら、レインも負けない方法を冷静に思案する。


レイン一人であれば、相手のやり方に合わせて隙を突く手段も充分検討できたが、今回は団体戦。相手のペースで進んでしまえば、こちらが連携できないまま惨敗してしまう可能性がある。そう考えると、できるだけ後手に見える先手を打ちたくなる。


それも、かなり大胆なやり方で。


「二人とも、実は考えている攻撃が一つあるんだ」


そう言って、ザストとアリシエールにその内容を話すと、二人は分かりやすく目を見開いた。


「そんなこと、可能なのか?」


「ルールは確認しなきゃだけど不可能じゃない。上手くいけば、完全に相手の不意をつける」


「でもそれって、相手の位置を完全に把握してないと無理な気がするんですが」


「うん。だから今回、俺はアニマを使おうと思う」


「アニマ?」


二人の疑問に答えるようにレインはその場でセカンドスクエアを展開。普段使用しているウィグとは違う行を選択し、バニスを発動させた。


円陣から現れたのは小さな白い鳥。パタパタと羽ばたくと、レインの方へピタリと止まった。


「すげえレイン! アニマ使えたのか!?」


「……可愛い……!」


レインに近寄ると、興奮気味で思い思いに感想を述べる二人。どうやら、身近な人間でアニマを使用する人間はいないようだ。


「これが俺の扱うアニマ、プリーバードだ。俺の意識で扱うから正直戦闘中の扱いは難しいが、今みたいに一定の行動させるだけなら問題ない。単体だと相手にぶつかるか攪乱させるか程度しか役割はないけど、サードスクエアがあれば話は変わってくる」


そう言ってレインは、左手をスライドしてサードスクエアを展開する。そして何かを選択してウィンドウを消去すると同時に目を閉じた。


「……?」


状況を飲み込めないザストが、腕を組んで首を傾げる。ザストほど顕著ではないが、アリシエールも困ったような表情を浮かべていた。


「二人とも、そんな顔しないでくれると助かるんだが」


「えっ?」


目を閉じているはずのレインからそう言われ、反射的に背筋が伸びてしまう二人。そして、この状況の可笑しさに目を丸くする。


「レイン、もしかして……?」


「そう、俺は今プリーバードの眼から二人を見てるんだ」


そう言ったと同時にプリーバードが消えてなくなってしまう。1分間経過すると、アニマで出現させた動物は消えてしまうのである。


「これを上手く使えば、俯瞰でフィールドを確認することができる。勿論、相手の位置だって把握できる」


その言葉を受けたザストが、豪快に身体を身震いさせた。


「……あれ、レイン? もしかして俺たち、本当に勝てちゃうのか?」


「どうだろう、まだまだ考えなきゃいけないことは山ほどあるからな。劣勢なのは変わってないさ」


「そうかもしれねえけど、俄然やる気が出てきたぞ!」


豪快に腕を振り上げるザストと、その横で小さく両手でガッツポーズするアリシエール。二人のやる気は大幅に上がったようだ。


「じゃあ早速、さっきのアニマをさらに応用していこう」


ザスト率いるBクラス三位チームの初作戦会議は、これ以上ない滑り出しを見せたのであった。



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