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弱くてニューライフ~逆転のサードスクエア~  作者: 梨本 和広
2章 七貴舞踊会のフィナーレ
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7話 不穏の予兆

「いやあ、座学の授業ってのも案外面白いもんだな」


本日の講義が全てが終わり、残すは終礼だけとなったタイミングで、ザストがゴルタの授業を振り返るように口にした。


「面白いも何も、座学あっての実践だからな。バニスにしたって自分が扱えなくても、相手が扱うことを考えれば理解できてないのはまずい」


「今日授業で出たのくらいはさすがに知ってるけど、それぞれの長所や短所、適性率なんかは改めて聞くとよくできてるって感じだった」


ザストの言った「よくできてる」という感覚は、レインも同じく思うところだった。


基本五称と言いながら、短所の比重が大きく使用率の低いグラドとサンガが、実際適性率も低いというのは、よくできてるというよりはできすぎている気さえした。


そして、基本五称以外のバニスに関しては、さらに適性率が低くなる。ナロンに至っては、100人に1人いるかどうかといったところだ。


養護教諭のシャルア・アーメストは、さぞ立派な待遇でアークストレア学院に滞在していることだろう。


「レイン、なんか先生遅くないか?」


ザストが教室のドアを見ながら、不思議そうに呟いた。確かに、普段の終礼開始時間より、明らかに時間が遅れている。リエリィーに何かあったのだろうか。


「おっとすまんすまん! 遅れちゃったな!」


そう懸念した直後、リエリィーは頭を搔きながら、相変わらず反省の色を見せず教室に登場。ザストを含め、固まっていた生徒たちが自分の席へ戻っていく。


「今日は皆に大事な話があるぞ、心して聞くように!」


そう前置きするリエリィーの表情は異様に明るく、レインはすぐさま嫌な予感を察知した。間違いなく、七貴舞踊会の件であろう。


「お前たちも知っているだろうが、これから一ヶ月ほど後に七貴舞踊会が開催される。七貴隊が訓練や戦闘ではなく、芸の一つとしてセカンドスクエアを披露する催しだ。150年続いている上に、数年前からはアークストレア学院の生徒も出場する資格を得ている。出場はこれ以上ない名誉なことだろう」


「お言葉ですが先生、それってBクラスは関係ないのではないでしょうか?」


今日も今日とて、Bクラス生徒の疑問を解消するかの如くテータ・ノスロイドがリエリィーへと質問を投げかける。


「それはどうしてだ?」


「いえ、僕は五年前から七貴舞踊会を目にしていますが、一昨年並びに昨年の参加者は皆、Aクラス在籍だったかと思います。実際に学園でもそのように動いていると聞いていました。ならば僕たちには関係ないものだと思ったのですが」


テータの言葉に、Bクラスの数名が同調するかのように頭を上下させる。他にも、分かりやすく不機嫌そうな表情を浮かべる生徒がちらほら。


七貴隊を目指す者が多いこの学院で、七貴舞踊会の話が話題に上がったことなどほとんどないBクラス。その理由はまさしく、Bクラスである以上七貴舞踊会に関われない嫉妬からだった。



「テータ。今の言葉、理由の説明になってないの分かるか?」



しかしながら、リエリィーはBクラスの意見を射貫き飛ばすようにテータを見つめた。テータが一瞬狼狽えたように机に脚を当てる。


「そ、それは」


「学院の行事だ、参加資格がなかろうが参加者を支える資格はある。頼られてから動く場合もあるし、積極的に自分に仕事はないか探す場合もある。自身が使う予定だった鍛錬スペースを貸すのだって参加者への立派なフォローだ。それなのに何故、お前たち生徒に関係の有無を判断できる?」


「……っ」


テータは何も答えられず、逃げるように目を伏せてしまう。先ほどテータに頷いた生徒たちも、どこか罰が悪そうにリエリィーから視線を外した。


普段めちゃくちゃなことを何気なく言うリエリィーだが、このことに関しては彼が正しいとレインは思う。学院の行事である以上、七貴舞踊会は学院の全生徒に関わってくるものである。参加資格がないのは実力がないからなだけで、それを言い訳に無関係な振りなどできるはずもない。


「……申し訳ありません。浅はかな考えでした」


声が震えないように気をつけて謝罪するテータは、一度目を伏せたことを恥じるようにリエリィーへと目を向けた。その強い瞳をしばらく見つめながら、リエリィーは大きく溜め息をついた。


「ったく、いつまでも代弁者なんてやってんじゃねえよ」


「えっ?」


「何でもねえ、反省したならさっさと座れ」


「は、はい!」


誰にも聞こえないように愚痴を漏らしてから、リエリィーは空気を変えるために明るく声を発した。


「まあこんな説教をした後で何だが、朗報を持ってきた。アークストレア学院の参加8回目にして、初めてBクラスの参加資格をもぎ取ってきた」


「……えっ?」


レインを除いたBクラスの生徒の目が点になる。レイン自身、昨日話を聞かされていなければ同じような反応をしていたことだろう。


「じゃあ僕らも、七貴舞踊会に参加できるってことですか?」


「ああ、もちろん全員は無理だがな」


テータの確認とリエリィーの同意で、教室が一気に騒がしくなった。どうやら、七貴舞踊会への参加というのはそれほど嬉しい出来事のようだ。


「おーい静かにしろ。参加資格をもぎ取ってきたとは言ったが条件はあるぞ、それ次第では例年通り参加者はAクラスだけだ」


リエリィーがそう言うと、今度は別の意味で教室が騒がしくなった。ぬか喜びさせられたと怒りを露わにする生徒もいるが、そもそも初めから全員が参加できない旨はリエリィーから伝えられている。リエリィーの伝え方も決して良くはないが、生徒も生徒で勝手な連中だとレインは周り見ながらそう思った。


「先生、条件とは何でしょうか?」


「そうだな。逆に質問だが、なんで七貴舞踊会の参加者はAクラスの生徒だけなんだと思う?」


一瞬答えるのに躊躇したテータだが、今更現実から目を逸らしても意味などない。堂々と自身の胸に手を当てて主張する。


「それは、BクラスよりAクラスの生徒の方がセカンドスクエアの実力で秀でているからです」


「だな。座学の成績も考慮しているが、主となるのは実技だ。AクラスとBクラスはそういう風に分けられている。問題は、そんな理由だけでお前たちが納得するかってことだが」


「納得はできません」


一も二もなく答えたのは、先ほどからリエリィーと話を進めてくれているテータ。その目からは、一切の迷いが消失していた。


「七貴舞踊会ではセカンドスクエアだけでなくサードスクエアが必須となります。七貴舞踊会も決して戦闘ではない。見せ方次第では、僕らでも充分輝けると思います」


「成る程な、ちなみにサードスクエアってまだお前らに名前しか教えてないはずなんだけど」


「あっ、いやえーと」


からかうような物言いをするリエリィーに本気で困惑するテータだったが、リエリィーはテータの回答に満足したのか嬉しそうにテータの頭を撫でた。


「ははは! 気にすんな気にすんな、どうせすぐ習うことだし、お前らの何人かは既に実践してることだろうしな。それよりBクラスの主席から格好良い言葉を聞けて助かった、これで心置きなく条件を言えるってもんだ」


そう言ってから、リエリィーはわざとらしく大きく呼吸を整えてからその事実を伝えた。


「条件は一つ、俺たちの準備する対戦訓練の中で、Aクラスを負かすこと。チャンスは三回、その三回はそれぞれのクラス成績上位三名がリーダーとして受け持つこと」


「えっ?」


そこで初めて、あまり関心がなさそうだったザストが分かりやすく声を漏らした。


「上位三名ってことは、俺も入るってこと?」


「そうだ。Bクラスなら、テータ、ソアラ、ザストの三名がリーダーになるってことだな」


「いや、そのリーダーってのがよく分からないんだけど」


「ああ、その説明をしないといけないな」


そしてリエリィーは、今回行うであろう対戦訓練のメンバーについて生徒たちへ伝播した。


「今回の訓練は、模擬戦のような一対一ではない。リーダーを含めたチームメンバーによる三対三だ。リーダーには、残り二人のメンバーを決める役割を与える」


その言葉を聞いて、リーダーという言葉の意味を理解し始めたBクラス一同。


今回の対戦訓練は、成績上位のリーダーを中心とした三名で協力してAクラスへ挑むというもの。そしてそのメンバーは、リーダーの采配で決めてしまってよいということ。



――――にやついた表情のリエリィーとレインの目が合ったのも偶然ではないだろう。



「……やられた」



リエリィーに対して力強く否定の意を示していたレインだったが、今回の訓練に関しては、既に避けられないであろうことを予感しているのであった。


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