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弱くてニューライフ~逆転のサードスクエア~  作者: 梨本 和広
2章 七貴舞踊会のフィナーレ
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6話 セカンドスクエアの学習

「お二人さん、おはおっはー」


朝の食堂、陽気なテンションでレインとテータの前に現れたのはザストとグレイ。いつもの光景である。


「ザスト君、今日はいつもよりご機嫌だね」


「あっ、分かっちゃう? そうなんだよ~、俺っちいつもの百倍元気なんだよね~」


「……逆にグレイ君は体調が悪そうだけど」


「彼の浮かれ話に付き合わされてね、僕としたことが不覚だよ」


しかしながら、緩みに緩んでいるザストとは対照的に、グレイは疲労があからさまに表情に出ていた。どうやら遅い時間までザストの話に付き合わされたらしい。


「で、何があったわけ?」


「訊いちゃう? 訊きたくなっちゃう? そりゃもう教えてあげるしかないよね~」


「……」


『あっこれ面倒くさいやつだ』と思ったときには時既に遅し。テータは何気なく質問したことを激しく後悔した。


そこからザストは教室で一人待たされた寂しさから、レインのコールがあってウルとミレットと食事、さらにコードの交換をしたところまでを雄弁に語った。


「なっ、すごいでしょ? テンション上がっちゃうでしょ?」


「確かに、二卿三旗である二人とそこまで近付けるなんてなかなかないよ」


「いやいや、そういうお家がどうとかみたいなのはどうでもいいから。俺は普通に仲良くできればそれでいいの」


そう言って、ザストはファーストスクエアを展開した。


「せっかく交換したんだしこっちからメッセージを送ろうかな、でも二人から何かくるまでは待ってたいんだよなぁ。あれ、もしかしてこれ駆け引き? 今俺は、駆け引きを楽しんでいる!?」


「……向こうはそんなこと考えてない気がするけど」


ザストとテータの会話を聞きながら、冷や汗を搔かぬよう食事に勤しむレイン。ご機嫌を全身で表現するザストに、間違ってもウルとミレットからメッセージがきたことを知られるわけにはいかない。


「あっ、でも文章だけは先に考えとこ。いつでも送れるようにしとかないとな、うしし」


幸せそうな笑みを浮かべるザストを見ながら、レインは昨日の夜のやり取りは一生自分の胸にしまうことを決意した。



―*―



「おはよう諸君、前回までの授業と違い、今日と次回に関しては座学を行いたいと思う」


朝一番のゴルタの授業、普段は別室に分かれての実技鍛錬だったが、今日はどうやら教室内で行うようだ。


「今日まで君たちにはセカンドスクエアの火力や使用限界、正確性等を確認させてもらったが、それを踏まえて改めて一から学習する必要があると感じた。基本から全てだ」


そう前置きしてから、ゴルタは黒板に板書を始めた。


「君たちが最初に覚えるであろう基本五称、何の陣かも含めてテータ、答えてみろ」


「はい。炎の陣フィア、風の陣ウィグ、水の陣オルテ、土の陣グラド、雷の陣サンガです」


「うむ、今テータが告げたのがバニスの基本五称だ。基本的に、この中で得意なバニスを鍛錬で使用し続けているのが現状だろう。ならテータ、基本五称を二つに分けるとしたら、どう区別する?」


「フィア、ウィグ、オルテで一つ、グラドとサンガで一つです」


「正解だ。よく学習しているな」


無表情ながらも真っ直ぐ褒めるゴルタに、周りから感嘆な声が漏れた。一瞬面を食らったテータだったが、ゴルタの優しい声かけに照れくさくなってしまう。


「ちなみにだが、この二つに分けた理由は何だ?」


「使用者の差です。前者は一定数いますが、後者は主として使用する者が少ない」


「ほぼ正解だが、付け加えると後者はそもそもセレクティア自体が前者より少ない。そうなれば当然、適性を抜きにしても後者の方が使用人数が少ないのは必然だ」


黒板に一つ一つ丁寧に板書を書き足しながら、ゆっくりと解説をするゴルタ。彼の座学は初めてだが、リエリィーとは別の視点で分かりやすい授業である。


「では何故使用人数が少ないのかだが、これは後者が単独では扱いにくいバニスだからだ。グラドは応用力に関してオルテと同等だが、円陣の形成から発動までに時間がかかる。サンガは基本五称最速のバニスだが、範囲が狭く応用もしづらい。前者と組み合わせて使用する分には本来の強さを発揮するが、先に述べたよう、単独での扱いにくさが使用者を減らしているものだと思われる」


「先生、質問いいっすか?」


キリの良いタイミングを見計らってゴルタに声をかけたのは、ザストだった。


「どうした?」


「理屈は分かるんですけど、その、いないんですかね? グラドやサンガをメインで扱って強い人って」


「勿論いる。隙が大きくなるため単独使用は難しいが、それはあくまでセカンドスクエアのみを使用する場合だ。詳しくは次回の講義で話す予定だから、今回は割愛する。これで問題ないか?」


「あっ、はい。今度話すならそれで問題ないです」


「うむ。言い忘れていたが、ザストのように質疑がある者は都度声をかけるように。授業の進行を止めるとか、そういうことは考えなくていいからな」


穏やかな口調でワンクッション置くと、ゴルタは一度生徒を見回す。何も質疑がないことを確認してから、講義を再開する。


「次は基本五称の他の、有名なバニス三種を整理していこうと思う」


そう言いながら、ゴルタは黒板に三つの単語を並べた。記されていたのは、『ナロン』『アニマ』『フォスト』という名のバニス。


「知らない者はいないと思うが念の為確認だ。ザスト、私が書いた三つのバニスの効果を答えろ」


「えっと、ナロンは回復ですよね、怪我を活性化させて治すやつです。アニマは動物を召喚するバニスで、フォストは確か手に持ってるものとかにバニスを付与させる効果だったような」


「正解、さすがにこの程度はスラスラ出てくるな」


「あれ、テータとリアクション違くない?」


納得がいかず訝しげに腕を組むザストを華麗にスルーして板書を続けるゴルタ。先ほどの質問と比べて、難易度は決して高くないようだ。


「ナロンはバニスの中でも別格、適性のある者はほとんどおらず、適性者は確実に重宝される。七貴隊の中でも、入隊後すぐに重要な立ち位置を任されることが多い。それほど、回復という効果は重要なんだ」


その説明に、生徒の多くが息を呑む。ナロンのセレクティアを読んだことのない者にとっては、夢が溢れる話であろう。


「アニマは動物を召喚し、思うまま操ることができるバニスだ。動物は、バニス習得に必要な過程である、セレクティア焼却時に思い浮かべた動物を召喚できる。だが、動物を操っている間、他のバニスを使えない上に、制御にかなりの集中力を必要とするため、実践での利用率はそれほど高くない。適性者もなかなか出ないしな」


基礎的なことであるはずだが、取り憑かれたように板書を確認する生徒たち。バニスとして名称は知っていても、詳細までは掘り下げないため、新鮮な気持ちで講義に臨んでいることだろう。


そういう意味ではゴルタも、リエリィーと同じで楽しさや発見に重きを置いているのかもしれない。


「最後にフォストだが、これは適性以上に使用者がほとんどいないバニスになる。第一にフォストを使いこなすには、基本五称を習得する必要がある。手に持っている武器などに付加させるのに必要だからだ。二種を両立して使用するというのは、なかなか難しいものだ。その上、セカンドスクエアを扱う以上、右手は塞がってしまい、左手で武器を使用しなくてはいけない縛りが出てしまう。武器に炎や風の効果が付くのは新しい戦術として有効だが、扱いづらさが群を抜いている、これがフォストの印象だろう」


「ゴルタ先生、それではどうしてフォストは基本五称と同等に知られているのでしょうか? 汎用性的にも広まる要素は多くないように思われるのですが」


テータの問いに対して、ゴルタは一瞬何かを言おうとして止めた。そしてしばらく無言で考えをまとめると、目線をレインへと向け始めた。


「レイン、テータの質疑に対してどう思う?」


訊かれた瞬間、分からないふりをしてとぼけようと考えたレインだったが、昨日のリエリィーの言葉が頭を過ぎった。



『ゴルタ先生、上に結構叱られてたぞ。なんであんなルール通したんだって』



この人の実直さや誠実さは、今日の講義を体験していれば充分に感じることができる。例え目立った発言や行いをしたくないとはいえ、分かることを分からないとはぐらかすような真似を、レインはしたくなかった。


「フォストが有名なのは、上手く扱える人間は例外なく歴史に名を連ねているからです」


そう言うと、表情に乏しいゴルタの顔が、少し穏やかに変化した。ともすれば見落としかねない表情の変化は、次の瞬間すでになくなっていた。


「その通り。扱いは難しいが、巧みに使用できれば底なしの強さを発揮できるのがフォストだ。その強さを以て、国や地方を治めた人間は少なくない。だからこそ、現代的には廃れていても、フォストは広く浸透しているのだと思う」


ゴルタの説明を聞きながら、レインはある女生徒のことを思い出していた。


いつも眠たそうにしており、食い意地は張っているが基本的にはやる気がない。そんな女生徒が、二卿三旗の上に立っている現状。


刀を携帯しているときから察してはいたが、ゴルタの講義を整理して改めて認識する。



1年Aクラス学年二位――――イリーナ・ドルファリエは間違いなくフォスト使いである。


廃れてしまった剣術を、フォストと組み合わせることで強化し、学年最高クラスまで上り詰めたのが彼女。単純な成績ならばグレイより上というのが、さらに彼女の強さを物語っているようである。


フォストの恐ろしさを自身で体験したことのあるレインにとっては、決して侮ってはいけない相手。



そして、できることなら、これから深く関わらないことを期待するレインなのであった。


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