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弱くてニューライフ~逆転のサードスクエア~  作者: 梨本 和広
2章 七貴舞踊会のフィナーレ
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2話 教師の苦悩

「やあレイン、こんなところで会うなんて奇遇だね」


教員室の入り口で偶然遭遇したレインとAクラス上位組。真っ先にレインに声をかけたのはレインの友人であるグレイ・ミラエルだ。


「まさか君もここに呼ばれたのかい? 参加資格はAクラスだけと聞いたはずだが」


「参加資格?」


その言葉にいち早く反応したのは、金髪のロングヘアーを携えた女生徒、ウル・コトロスだ。


「そうなの!? だったらまだ今年でもチャンスは――」


「何を言っている、『七貴舞踊会』の参加はAクラスのみと言っているだろう。レイン・クレストは関係ない」


縋るように声を上げたウルを遮ったのは、ローリエの無情な言葉。それを聞いて、ウルは寂しそうに口を噤んだ。


「さっさと入れ、ただでさえ新入生への説明が遅れているんだ。これ以上遅れるようだと」


「――ローリエ先生、彼も一緒に聞いてもらうというのはどうでしょうか?」


時間がないと急かすローリエに対し、割って入ったのは一年の成績トップであるギルティア・ロストロスだった。


「……ギルティア・ロストロス、私の話を聞いていなかったのか?」


「参加資格と説明を聞く資格は別ですからね。Bクラスへのメッセンジャー役として聞いてもらった方が良いかと思います」


「そんなことはリエリィーにさせればいい。どうしてレイン・クレストに任せる必要がある?」


先ほどレインも受けた氷のように冷たい視線を、まるで意に介せずギルティアは返答した。


「彼である必要はないです。ただ、正式な学院行事の説明をAクラスの一部にしか聞かせないというのはおかしいと思いまして。ぼく個人としては、学年全体に聞かせる話かと思いますが」


「……っち」


吐き捨てるような舌打ちが響き、レインはすぐさま嫌な予感を感じ取った。学年全員を集めて説明機会を作るくらいなら、ここにいるBクラスの生徒に聞かせた方が手間がないと、ローリエが考え始めている気がした。


「なら俺はいらないですね、学年全員を集める時にまた」


ギルティアの言葉に便乗し逃走を図ろうとしたレイン。


だが、教員室の外に出る前に、制服の裾を引っ張られて身体が引き留められた。


「……」


振り返れば、腕を伸ばしたウルが上目遣いでこちらを見つめていた。目が合うとウルの頬の赤みが増していくが、特に何かを言うわけでもない。お茶会時にレインへ質問していた時とはまるで違っており、レインも対応に困っていた。


「……っ、さっさと終わらせろよ説明会なんか」


この状況を打破したのは、ジワード・エルフィン。わざとらしくレインとウルの間を通過して二人を引き剥がすと、先ほどレインがいた交流スペースへと消えていった。


「レイン君、一緒に聞くくらいダメかな? ウルちゃんもそうしてほしいみたいだし、私もそうしてほしい」


ウルを後ろから抱きしめると、ミレット・メドラエルがレインを逃がさないようにダメ押しをする。


聞く必要はないと思いながらも、ここで断って教員室を出るのは非常に後味が悪い。


そう思ってしまった時点で、レインはどうしなければいけないのか瞬時に悟る。


「過半数だな、メッセンジャーとは言わないがレインも聞いておいて損はないだろう」


グレイの決定打を受けて、レインは読書の先送りを余儀なくされるのであった。



―*―



「それでは七貴舞踊会の説明を始める」


長方形の机を取り囲むように椅子に座るローリエとその生徒6名。レインも椅子には腰をかけていたが、机が小さいため一歩引いた場所から話を聞いていた。


「七貴舞踊会の開催自体は150年近く前から始まっている。戦闘手段であるセカンドスクエアを見世物として披露することで、ミストレス王国の平穏を祈願するというのが目的だ」


ローリエは一呼吸置いてから、再度説明を続けた。


「名前の通り参加者は七貴隊に所属していることが条件だ。だが、年少者の関心を集めるには若い世代にも参加させた方がいいのでは、という話になり、7年前からアークストレア学院の生徒の参加が許可されている。他の学院の参加も検討しているようだが、今はウチだけのようだ」


「先生、前談はいいので内容を話してください」


そう切り出したのは、ローリエの正面に座るジワード。剣呑した雰囲気が漂い始めるが、「それもそうだな」と呟くと、ローリエは早速話を切り替えた。


「舞踊会の演舞時間は各々3分、一年の代表は三名で、演舞補助と代役で二名の計五名が必要となる。代表者はどういう演出をするか決め、その内容を演舞補助役と打ち合わせて形にする。本番前に学院の教員の前でリハーサルをしてから当日という流れだ」


ローリエの説明が終わると同時に、先ほど口を挟んだジワードが不服げな表情で再度声をかけた、


「五名が必要とのことですが、何故俺が呼ばれたんでしょうか? 成績上位五名で充分かと思いますが」


「七貴舞踊会は名誉のことだが、参加したくないという人間もいるからな。その場合はお前に入ってもらわなければならない」


間髪入れずにローリエが返答すると、今度はノロノロと腕をジグザグさせながら上げる女生徒が一人。


「リナは参加しないよ、ぜーんぜん興味ないし。勝手にやっててね」


机に頬を擦りつけたままそう告げたのは、刀を常に所持している女生徒、イリーナ・ドルファリエだ。


前もってジワードを代役と告げていたものの、学年二位の生徒にこんなにもあっさり抜けられる訳にはいかず、ローリエがすぐさま割って入った。


「イリーナ・ドルファリエ、お前のバニスはこういう時にこそ輝くはずだ。多くの貴族や七貴隊から脚光を浴びたくないのか」


「ごめんね先生、リナそういうの分かんない。名誉なんて美味しくないもの、リナには必要ないもん」


自分に似つかわしくないと思いながらも下手に出たローリエだったが、イリーナは容赦なく一蹴してしまう。取り入りやすそうな幼めの容姿とは裏腹に、全てを吸い込んでしまいそうな瞳に気圧され、ローリエはそれ以上の追及を止めた。


「申し訳ないですが俺も遠慮します。俺が出るにはまだまだふさわしくありませんし」


「何?」


そのタイミングで、ジワードまでもが七貴舞踊会の参加を断ってしまう。


ここでローリエの表情に影が差し始める。参加辞退者が一人ならジワードを含めて五人で問題なかったが、そのジワードが参加したくないと言ってしまっていては話にならない。ジワードは間違いなく参加する側だと思っていただけに尚更だ。


その原因は分かりきっているが、()()を目の前にして指摘するのはさすがに憚れてしまう。思った以上に厳しい現状に、ローリエは無意識に頬をしかめていた。


「ローリエ教諭、ここで言うのは泣きっ面に蜂というものだが、僕も正直参加したくない。公の前でバニスを使用することにメリットを感じないからね。しかしそれだと三人しかいなくなってしまうのが現状、だったら他のAクラスの生徒にも声をかけるべきではないだろうか」


続けざまの不参加宣言をするAクラスメンバーだが、その中でもグレイは状況を打破すべく代案をローリエに提案した。


「そうだねー、リナたちの代わりはそこで探そうよ」


不参加をまったく取り消す気のないイリーナは、名案と言わんばかりにグレイの意見に乗っかった。あまりに緊張感が欠けた物言いに、ローリエは困惑してしまう。


一年の代表者を取り纏める以上、下手な選出は当然できない。一年代表が見るに堪えない演舞をしてしまえば、その責任はローリエに降りかかるからである。


だからこそAクラス上位の三人には再度考え直してほしいのだが、三人の性格を知っている以上それが難しいことも当然理解している。だからこそローリエは困惑しているのだ。


「三人とも、答えを出すのが早いのは立派だが結論を急ぐ必要はない。ファーストスクエアで過去の七貴舞踊会を視聴してからでも遅くはない」


再度考えの余地を持たせるべく、ローリエは答えの引き延ばしを図ろうとしたが……


「見るまでもないよ。どうせ眠くなる」


「俺も考えは変わりません」


「ローリエ教諭、時間がないと言っていたんだし僕らにそこまで裂く余裕はないのでは? 代役を選出した方が早いと思うね」


案の定、自分を曲げて聞き入れる生徒は誰も居なかった。自分の意志を強く持ち続けていることは評価できるが、この場面ではまったく不要なものである。


ローリエは思考した。癪だが、グレイが言うように他のAクラスの生徒から代役を募るのが一番である。だが、今年の生徒の豊作振りを考えると、ローリエは素直にその選択に踏み切れずに居た。


二卿三旗が四名、そしてその中に食い込むことが出来る逸材が二名。願うならば、この中の五人で七貴舞踊会の臨みたい。


何か案はないのか。そうやって必死に考えを巡らせている時にこそ――――面倒な邪魔は入ってしまうというものだ。



「Aクラスだけとは言わないでさ、Bクラスも混ぜて考えようぜ、残りのメンバー」



突如レインの両肩を後ろから叩いたのは、どこかで話を聞いていたらしい一年Bクラス担任のリエリィーだった。




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