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23話 決着

「使用限度を狙う……」


「うん、それがレイン君の考えた作戦だ」


模擬戦が十分近く経過した頃、ザストはテータにレインが勝てる見込みがあるのか聞いていた。隣に座るアリシエールも心配のようで、テータへ視線を送っている。


テータが今日の朝レインから聞いた作戦内容を説明すると、二人は納得したように息を漏らした。


「成る程な、あいつのウィグを見たときには負けのビジョンしか浮かばなかったけど、そんなやりようがあるのか」


「言うほど簡単じゃないよ。ジワード君の右手が動く瞬間を見計らっての回避行動やバニス発動時を狙ったウィグの使い方、どちらも一朝一夕で会得したものとは思えないし」


「確かに、そもそもセカンドスクエアを知り尽くしてなきゃ会得すらできない内容だわな」


「うん、恐らくかなり勉強したんだと思う。火力が足りてなかったからこそ、自分のやり方をどこまでも追求していったんじゃないかな」


「そっか」


テータの言葉を聞きながら、ザストは遠くを見るような目でレインを見ていた。そこにどんな気持ちが生まれているのかは、周りにいるテータもアリシエールも知る由はない。


「あ、あの」


ザストとの会話が終わったとみて、アリシエールがテータへ声をかける。


「クレストさん、傷がどんどん増えているように見えるんですけど、本当に勝てるんでしょうか」


「このままなら大丈夫だと思うよ。フィアの二連撃すら上手に捌いていたからね」


「そ、そうなんですね!」


「でも、もちろん条件はある」


嬉しそうに微笑むアリシエールに、水を差すようにテータは告げた。



「レイン君の狙いが、ジワード君にバレていなければだけど」



―*―



レインは両腕の痛みを堪えながら、ジワードの動向を観察していた。


唐突にきたフィアの二連撃はなんとかやり過ごすことはできたが、これを続けられるようであればかなり厳しい展開となってしまう。


だが、二連撃は確実に続けてくるだろう。致命傷ではないものの、一番レインが傷を負った攻撃である。


しかし、二連撃は通常の一発ずつより疲労度が高いため、ジワードの限界を早めることになり、レインとしても望むところではあった。


いずれにせよレインから仕掛けることはできない。ジワードがどういう選択肢を取るか、レインは神経を張りつめたまま構えを続けた。



「喜べよレイン・クレスト、初お披露目だ」



レインの耳には届かない呟き後、ジワードは大きく右手をスライドさせる。発動させたのは、先ほどからレインを困らせている炎の陣フィア。


ルーティンのように五歩身体をずらし、迎え撃つ準備をするレイン。先ほどとは違い、連撃の警戒も怠らない。


レインが右手をスライドさせてウィグを放った瞬間、ジワードが再度右手をスライドさせる。


一発目のフィアの中心を避けるように移動、連撃が分かっていたからこその素早い対応であったが――刹那、違和感を覚える。


連撃を読んで移動したとはいえ、三歩も移動して未だフィアが放たれていない。右手のスライドを確認しているし、使用限度が来るにはさすがに早いはず。


思わず視線をジワードに向けた時、レインはその違和感の正体を理解した。



――――そして、事態の深刻さに脳をフル回転させる。



「これで、どうだああああ!」



ジワードの目の前に展開していたのはフィアを展開させていた陣より一回り大きい陣。レインが目を向けた瞬間に完成し、その禍々しい炎が正体を現した。


『ジオス・フィア』、フィアの威力と範囲を増大させたフィアのレベル2である。セレクティアを二度理解しなくては到達できない領域に、ジワードは達していた。


観覧席から一部悲鳴が上がる。それほどまでに驚異的なバニスが、たった一人の生徒目掛けて突き進む。


レインはすぐさまセカンドスクエアを展開し、ウィグを発動させて自身の身長の倍以上あるジオス・フィアに向けて放った。


「そんな火力でこれが止まるかああ!」


ジワードの言う通り、レインのウィグは少しもジオス・フィアに通用しなかった。それどころか、ジオス・フィアと一体となって戻ってくるではないか。


数歩移動しようが変わらない威力と範囲、ジオス・フィアは生身のレインに容赦なく到達する。



そして、その勢いのままドームの壁まで到達するのであった。



―*―



舞い上がった砂煙が、レインの安否を隠す。皆が皆、彼の状態に注目していた。


しかしながら、無事であると思っている人間は一人もいないだろう。レインの勝利を期待していた者でさえ、現状に目を逸らすしかなかった。


無理もない。ジオス・フィアの炎に包まれただけでなく、後方に飛ばされ壁に衝突しているのだ。見るも無残な状態になっていてもおかしくはない。


観覧席のどよめきが止まないまま、砂煙がゆっくり晴れていく。それと同時に、観覧席から悲鳴がいくつか飛び交った。


「まあ、これが現実だわな」


レインを確認したジワードが、納得したように呟いた。


レインは、上体が壁にもたれかかるように仰向けに倒れていた。意識がないのか首は前に垂れており、火傷は全身に夥しく広がっている。制服もところどころ破れて肌が露出していた。


「褒めてやるよ、俺にジオスを使わせたこと。お前の作戦に焦らなかったら、使うことなんて想定していなかったからな。ギルティアに見られたのは癪だが、それはいい」


そう言いながら、ジワードは審判であるゴルタへと近付いていく。


「先生、俺の勝ちで終わりでしょ」


気分良くゴルタへ声をかけるジワードだったが、ゴルタは表情を変えないまま首を左右に振る。


「言ったはずだ。バッジの反応が一つになるまで勝敗は決まらないと」


「……何?」


思わずレインの方へ視線を向けると、左手が制服のポケットの中へ入っていることにジワードは気付いた。


「成る程ね、最後の最後で頑張ったわけだ」


そう言って、ジワードはゆっくりレインへと近付いていく。


「あのな、こういうのは往生際が悪いって言うんだよ。戦えもしねえくせにそれだけ守ってどうすんだよ」


レインの側まで足を運んで、ジワードは罰が悪そうに呻く。


「うわ、我がバニスながらとんでもない傷だな。今終わらせてやるからさっさと治してもらうこった」


そう呟いてから、ジワードはレインの足元にしゃがみ込み、レインの左腕を掴んだ。


「盗人でも見つけたらこんな風に対応することになるのかねぇ、七貴隊に入ってまでそんな小せえ仕事したくないけど」


リズミカルに鼻を鳴らしながら、ジワードはレインの左腕をポケットから引っ張り出す。


強く握られた左手を強引に解いた瞬間、ジワードの鼻唄が突如止まる。



「バッジが、ない……?」



思いも寄らない事態にジワードは困惑する。開かせた左手の周辺を探しても、バッジはどこにも見当たらない。


念のため左のポケットを探るが、バッジの厚みは感じられない。


「もしかしてこっちなのか」


そう言いながら、上体を右ポケットの方へ向けたとき、左側から発光する何かをジワードは感じ取った。



――――バッジが見つかったのだと、ジワードは思った。



右手付近に光るそれを見て、こちらの手に握られているのだと呑気にも考えてしまった。



――――模擬戦は、まだ終わっていないというのに。



「……はっ?」



右手から光る円から、弱々しい風が吹くと同時に、何かがピキッと割れる音が響いた。


それはあまりに唐突で、一瞬ジワードは何が起きたか理解できなかった。


呆然としながら、ジワードはゆっくりと自分の胸元へ目線を下ろす。



そこにあったはずのバッジが、姿を消していた。消されることなどないと堂々と身につけていたそれが、一瞬のうちに消されたのだ。



――――レインの、弱すぎるウィグによって。



「……覚えて、おくといい。ウィグの一節目は短いため、放つだけならスクエアを手のひら程度にはできる」


「な、なんで、お前……!?」


重々しく身体を動かしながら、気絶していたはずのレインはそうジワードに伝えた。


アリシエールに教えたセカンドスクエアを小さくして使う技術、それを自ら活用して、レインはジワードのバッジを消すことに成功した。



「バッジの消失を確認! 今回の模擬戦、レイン・クレストの勝利とする!」



そして、審判ゴルタによってレインの勝利が大闘技場内に響き渡った。



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