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21話 模擬戦

「おっすレイン、余裕そうだな」


翌朝、いつものように起床してテータと食堂へ向かうと、グレイを連れたザストが第一に声をかけてきた。


「おはようカスティール君、余裕ではないけどいつも通りだ」


「それを余裕だって言うんだよ。Aクラスの化け物と戦うんだぞ、もうちょっと大変そうにしててもいいだろうに」


「いや、模擬戦が始まるの、授業が終わってからだし」


「……もういい、お前にこの話題振った俺が馬鹿だった」


一人で納得して話を終えたかと思いきや、ザストは急に声のボリュームを上げた。


「違う違う! そんなことはどうでもいいんだった。昨日レインたちのせいであの後すぐに解散だったんだぞ、せっかく女子たちと仲良く話せる会だったのにさ!」


そういえば、模擬戦のことで頭がいっぱいになっていたレインはお茶会がどうなったのかを気にしていなかった。ザストの口振りだとすぐに終わったようだが、それにしては解せない物言いをしていた気がするが……


「昨日のを仲良くと言うなら、君はよっぽど貶されて喜ぶ体質なんだろうね」


レインの疑問を解消するかのごとく割って入るグレイ。汚いものを見るような視線に、ザストはすぐさま反論した。


「違うよ! あそこから一気に仲良くなる予定だったの! お願いだからそんな目で見ないでくれます?」


「はあ、Aクラスとの交流でもその調子、僕は呆れてものも言えないよ」


「嘘つけ。散々俺のことなじってるじゃねえか」


何はともあれ、普段と変わらない朝に安堵するレイン。自分に気遣って変な遠慮が出てしまうよりはよっぽど過ごしやすかった。



「あ、あの、クレストさん!」



すると、普段食堂では聞き慣れない声がレインの元へ届いた。


そこには、顔を真っ赤にして佇むアリシエールの姿があった。隣にいるテータやザストを見て、不安な表情を浮かべるが、最後には決心したようにレインへ顔を向ける。


「その、模擬戦、頑張ってください! 私なんかが言っても変わらないですけど、いっぱい応援します!」


そう言って、アリシエールは逃げるように食堂から出て行った。


呆然と座り込んだままのレインへ、茶化すように声をかけたのはザスト。


「これはこれは、無様に負けられないぞレイン君や」


嫉妬するような物言いでなかったのは、アリシエールの頑張りを否定したくなかったからだろう。ザストはザストらしく、レインの鼓舞をする。


「せめて格好良く負けないとな」


「結局負けるのか俺は」


「だって勝ったらレインはAクラス行くんだろ、それは嫌だし上手く負けてくれていいよ」


嘘偽りのないザストの言葉だからこそ、レインは少し気持ちが軽くなった。条件付きの戦いでなければ、負けを選んだ可能性まであったかもしれない。


「確かに、レイン君にはまだBクラスに居て欲しいな」


「何を言ってるんだ二人とも、いけるならAクラスに行った方がいいに決まってるじゃないか。だから勝て、全力を出し切って」


「レインの全力見たいだけだろそれ」


アリシエールの登場もあった非日常は、いつもの日常に中へゆっくり溶けていくのであった。



―*―



「よーし、じゃあ今日は解散。知ってると思うが今日はこれからレインの模擬戦がある。相手はエルフィン家という完全な負け戦だが、しっかり応援してやってくれ!」


リエリィーの掛け声でレインの元へ視線が向くーーなんてことはなかった。


何故なら、掲示板に今日の模擬戦について書かれた紙が貼ってあり、朝のうちに聞くことは聞かれているからである。説明が面倒なのでジワードに稽古をつけてもらうような感じだと都度告げているが、どこまでの人が信じているかは微妙なところではある。


リエリィーが両手を鳴らしてすぐ、テータが立ち上がり教室を出る。教室を出る前に目が合ったが、どうやら首尾は上々らしい。


そうであるなら後はレインが失敗しないよう進めていくだけ。相手はエルフィン家のAクラス三位、ちょっとのミスが命取りになるのは言うまでもない。


「じゃあレイン、俺たちは俺たちで向かうぞ。大闘技場の控え室にな」


リエリィーに声をかけられてから、レインはザストとアリシエールに目をやった。ザストはすぐさま親指を立ててニッコリ笑い、アリシエールは少しあたふたしてから、恥ずかしそうに両手でガッツポーズをした。


ここまで元気をもらって、易々と負けるわけにはいかない。レインは、改めて負けないことを心に刻んだ。



―*―



現在レインが待機しているのは、大闘技場の一階にある控え室。客席は二階から入るが、闘技場に出るには一階から入る必要がある。レインは闘技場の入り口両端にある控え室にいた。おそらく、もう一方の控え室にはジワードがいることだろう。


「緊張は、してねえか。ホントどういう神経してんだろうねお前は」


「どうも何も普通ですよ、ただ戦うだけなんですから」


呆れながら笑うリエリィーに、淡々と返すレイン。緊張を解すためにいるセコンドが、必要になっていないのだから笑い話である。


「まあいいや、もう時間だしさっさとやられて帰ってこい。骨は拾ってやる」


「もう少しまともな言葉がかけられると思うんですけど」


「お前がまともだったらな。ほら、さっさと行け」


リエリィーに追い出されるように控え室を出ると、同じタイミングでジワードも外へと出ていた。


ジワードは簡単にレインに目を向けると、すぐに視線を開口された入り口へと向ける。レインも同様に入り口を見た。


「時間だ。入れ」


――そして、ゴルタの合図と共にレインとジワードはゆっくり闘技場へと出るのであった。



―*―



外に出ると、真っ先に目に付いたのは人。観覧席には、たくさんの生徒が座っていた。新入生だけでなく、二年や三年生もこの場に来ているのが分かる人数だ。


「レインくーん!」


声のした方向を見ると、テータがレインに向けて手を振っていた。その隣にはザストとアリシエール、周りには他のBクラスのメンバーもいるようだった。


だが、見たくない人物も同じ方向に居て、レインは思わず視線を泳がせゴルタの方へ戻す。不意打ちがあったが、テータの声かけで第一関門はクリアすることができた。後は、自分がこの試練を突破するだけである。


「再度、ルールを説明する。勝利条件だが、相手の持っているバッジを消すことができたら勝ちだ。バッジは、まともにバニスを当てれば消える。要はお前たちの攻撃をバッジに当てれば良い。そういう趣旨だ」


「――おいお前、バッジはどこだ?」


ゴルタの説明に区切りが着いたタイミングで、胸元にバッジを付けるジワードはレインを睨んだ。それもそのはず、レインの胸元にはバッジは存在していない。


一瞬身体が動いてしまったレインだが、取り繕いジワードへ向き直る。


「バッジを胸元に付けるなんてルールはないはずだ」


「はあ、Bクラスのゴミとはいえそんな誇りの欠片もないこと言われてもなあ」


そう溜め息をついたかと思うと、ジワードはニヤリと笑みを浮かべた。


「お前の左ポケット、焼け焦げねえといいけどな」


レインは顔には出さなかったが、ジワードは確信を持って言っているのであろう。バッジを訊かれたときにレインの左手が動きかけたのを見てそう判断したのなら、大した洞察力である。


「また、お前たちの敗北条件として、この闘技場の外へ出てしまった場合は負けとなる。いや、正確に言えば違うか、勝敗はこの闘技場内のバッジの反応が一つになった時に決まるということだ」


レインは、グルリと見える範囲で闘技場を見渡す。自身の身長の倍以上はある囲いの外へ抜け出せるとは思えないが、わざわざ指摘するということはそういう事態も過去にあったということだろう。


「ちなみに今回は乱撃戦だ。セカンドスクエア以外を使った場合も敗北になる、肝に銘じておけ。最後に、模擬戦は怪我して当然の世界だ、治療できる者は控えさせているが限度は考えろ。勝てないと思ったら負けを認めることも勇気だ。質問あるか?」


ゴルタの最後の問いかけに答えれば、模擬戦は始まる。緊張感が一番高まるその瞬間は――――


「大丈夫です」


「俺もだ」


――二人の即答により、あっさりと過ぎ去ってしまった。


「では、距離を取れ」


目の前で向かい合っていた二人が、少しずつ距離を取り始める。それを見て、騒がしかった場内が静かになり始めた。


一定の距離を取り、レインとジワードが足を止めた瞬間、地鳴りのようなゴルタの声が響き――――



「ただいまより、一年Aクラスジワード・エルフィンと一年Bクラスレイン・クレストの模擬戦を執り行う! それでは、始め!!」



いざ、戦いの火蓋が切って落とされた。


「お手並み拝見といこうぜ!」


先に動いたのはジワード。その場ですぐ右手をスライドさせると、躊躇うことなくセカンドスクエアの一番上のバニスを選択する。


円陣から現れたのは、全てを焼き尽くす炎の陣、フィア。基本五称の中でも一番オールラウンドで優れているバニス。それが、凄まじい早さでレインの方向へ突き進む。


レインの元へ到達した瞬間、軽い衝撃音と砂埃が舞い上がり、周りからレインの姿が見えなくなってしまう。


「おいおい、これで終わりってんじゃないだろうな」


呆れたように呟くジワードは、腕を組んだまま砂煙が解けるのを待った。そして、陰ながらその佇まいを確認して、いやらしく笑みを零す。


「まあ、雑魚でもそう簡単には終わらねえわな」


砂煙が解けた場所には、制服と頬に焼けた跡のあるレインの姿があった。口に入った土を吐き出しながら、頬を拭うレイン。


「ストフォードさんクラスの火力か、これはまずいな」


口ではそう言いながらも、致命傷は一切受けていないレイン。表情にも、焦りの色は見られない。


「さーて、今のをどう止めたのか、分析させてもらうぜ!」


再度、慣れた手付きでフィアを放つジワード。



そこでようやく、レインの立ち位置に違和感を覚えた。真っ直ぐレインを狙っているはずのフィアが、レインから逸れて放たれる。


レインはフィアが接近するまで手を動かさない。ジワードの方から見れば、何もせずにレインが炎に呑まれているように見えるだろう。


――――だが、



「やば、一歩間違えたらアウトだこれは」



レインは細かい傷を増やしながらも、悠然と佇むのであった。


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