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18話 Aクラスの方々

「四名か、随分多いな」


長机の前で向かい合って座る生徒たちを見て、口ずさむローリエ。Bクラスの生徒数のことを言っているのであろう。


「ホントにもう、自主的な生徒が多くて助かる助かる」


リエリィーの物言いに、誰のせいだとツッコミを入れたい気持ちを抑えるBクラス一同。レインからすれば、先ほど抱いていた罪悪感は完全に吹き飛んでいる。大きく溜め息をつきたいところだが、この場ではなんとか抑えることにした。


「今から紅茶と菓子の準備をする。お前たちは客だ、待機していていい」


そう言うと、ローリエが各々の目の前にあるカップに紅茶を注ぎ、リエリィーがケーキを準備し始めた。


それと同時に、一番入口側に近い場所に座っていたグレイが、カップを持って立ち上がった。


「グレイ・ミラエル、何をしている」


「あそこだと疎外感を感じるからね。Bクラス側の席に座らせてもらうよ」


「事前に言ってから動け。振り回される周りのみにもなれ」


「この程度のことで振り回される人間なんて、教諭だろうが不要だよ」


氷のような冷たい視線を送るローリエに対しても、グレイは通常営業だった。自分を崩すことなく応対し、アリシエールの右隣に座る。


注意がグレイへと逸れてくれたかと思いきや、目の前の男子生徒と右前の女子生徒の視線は絶えずレインへと注がれているのであった。


「全員分行き渡ったな。では、早速始める」


紅茶とケーキがそれぞれの前に置かれ、ローリエが再び司会を務める。二つの視線がようやく止み、レインはようやく胸をなで下ろすことができた。


「今日はよく集まってくれた。それぞれ自己紹介が終えたら、好きに話してくれ。私は介入しない。ギルティア・ロストロス、お前から始めろ」


「はい」


そう言って立ち上がったのは、入学式に新入生の代表としてスピーチをした男子生徒。新緑の髪を揺らしながら、右手を胸に当てた。


「ぼくの名前はギルティア・ロストロス、Aクラス一位だ。『二卿三旗(にけいさんき)』に属してはいるけど、ぼく自身が偉いわけじゃないから気軽に接してほしい。以上だ」


笑顔を浮かべたまま自己紹介を済ませたギルティアは、それ以上は話さず椅子に座る。そして、隣でケーキに夢中になっている女子生徒の肩を叩いた。


「イリーナ君、君の番だ」


「リナ? えー、今いいところなのに」


口元に生クリームをつけながら立ち上がったのは、空色の髪が特徴的な小柄な女子生徒。とろんとした瞳で周りを見渡してから、面倒くさそうに話し始める。


「イリーナ・ドルファリエだよ。ケーキいらない人がいたらリナにちょうだいねー」


頬の生クリームを舐め取りながら椅子に座ると、残っているケーキにありつくイリーナ。ギルティアからケーキをもらえたようで、幸せそうな笑みを浮かべていた。


――その笑みとは対照的に、荒々しく立ち上がったのはレインの目の前の男子生徒。


「ジワード・エルフィンだ。言っとくが、テメエらBクラスと仲良くする気なんかさらさらねえ。強制だから参加したまでだ、浮かれてんじゃねえぞ」


Bクラスの面々を順に睨むと、ジワードは豪快に椅子へと腰を下ろした。右隣のアリシエールが身を震わせるのを見て、レインは周りに見えないようアリシエールの背もたれを二回叩いた。


気付いたかどうか分からないが、一人でここに来ているわけではないことさえ頭に入れてくれればそれでいい。


「ウル・コトロスよ。Aクラス四位、嫌いなものは嘘と記憶喪失。以上」


次いで自己紹介をした金髪生徒は、レインから目を逸らすことなく、変なピックアップをしてから椅子に座った。彼女の隣の女子生徒は、笑いを堪えるように口元を押えている。


「ちょっとミレット、何笑ってるのよ」


「だってウルちゃん、すっごい露骨なんだもん」


「っ!」


ミレットの指摘で顔を紅潮させてしまうウル。左隣から小声で「可愛い」と聞こえてきたが、もちろん無視である。


「ごめんなさい進行止めちゃって。ミレット・メドラエルです。えっと、その、」


自己紹介の途中、一旦そっとレインに目を移すミレットだったが、


「いえ! なんでもありません、これからよろしくお願いします」


何かを飲み込んで、簡潔に自己紹介を終えるのであった。


「よし、Aクラスの自己紹介は終わりでいいか?」


「リエリィー教諭、僕がまだ残ってるんだが」


切り良く介入したリエリィーだったが、同じ列にいるグレイを見落としていたようだった。


だが――


「いいよお前は、お前のこと知らないやついないし」


「成る程、僕の知名度も捨てたものではないな」


「どっちのクラスでも自己紹介してるって意味な、分かってて言ってるだろ」


どうやらグレイの自己紹介は省かれるようだった。確かに、どちらのクラスにも属していた彼を知らない人間はいないだろう。


「気を取り直して。レイン、何か質問とかないのか?」


「……なんで俺なんですか?」


「訊かないとお前何も言わなさそうだもん、何でも良いからしゃべろ」


好かれているのか嫌われているのか分からない不意打ちを受け、辟易としてしまうレイン。そもそもこの自己紹介に個人の趣味嗜好が分かる要素などほとんどないのに、何を尋ねればいいというのか。強いて言えば――


「質問というか感想ですけど、二卿三旗がここまで集まるなんて珍しいんじゃないんですか?」


「ですね、錚々たる顔ぶれですよこれ」


レインの言葉に同調したのはテータ。彼もAクラス上位の身分的驚異に驚きを隠せないのだろう。


二卿三旗とは、王族の次に身分が高いとされる貴族のことであり、二卿は『ロードファリア家』、『ロストロス家』を指し、三旗は『エルフィン家』、『コトロス家』、『メドラエル家』を指す。身分だけでなくセカンドスクエアも優秀とされ、学内の成績は目の前の通りとなっている。


そして現在、この狭い室内に二卿三旗の四つの家が存在しているのだ、身分に重きを置く者なら驚いてもしょうがないだろう。


「ザストは? 何かあるか?」


「俺ですか? まあ思い切り気になる点が一つあるので訊いちゃいますけど」


そう言うと、レインは目の前で眠りこける女子生徒――――イリーナを指差した。


「彼女、学年二位なんですよね? この中で唯一二卿三旗じゃないみたいですけど」


「イリーナ君は今も残り続ける剣術の家系なんだ」


「剣術って、セカンドスクエアの台頭と同時に廃れていったんじゃ」


「廃れずにセカンドスクエアと組み合わせることで名を馳せたのが、ドルファリエ家ってことになる」


スヤスヤと眠るイリーナの代わりに、文句一つ言うことなく答えるギルティア。イリーナの天真爛漫さには既に慣れているのだろう。


よく見ると、イリーナの後ろの壁に刀らしきものが立てかけられていた。セカンドスクエアでの立ち会いが蔓延るこの世の中、接近戦はどうしても不利になってしまう。剣術もそれによって廃れてしまったが、彼女は今アークストレア学院の二位にまで上り詰めている。方法は一つしかないが、それを上手にやってのけるであろうセンスは、見る前から評価できるものだとレインは思う。


……だが、交流会で眠ってしまうのはいかがなものだろうかと、さすがにレインも思ってしまう。Aクラスの生徒が特に指摘しないのも、授業ではないからだと信じたい。


「テータは今のところはないって認識でいいか?」


「はい、後で出ればその時に」


「ならアリシエール、何かあるか?」


「はい、えっと」


自分にもくると想定していたのだろう、いつも程慌てることなくアリシエールは前を見た。


「皆さんが今日ここに来られた目的って何ですか?」


一瞬、Aクラスの面々が固まったように見えた。そして、ジワードが嘲笑うようにアリシエールを見やる。


「なあ、俺がさっき言ったと思うけど、俺たちは強制で参加させられてんの。本来必要ない時間なわけ、目的なんてあるわけねえだろ」


凄んで威圧するジワードの影響か、室内の空気が重くなるのを感じるレイン。



――だがアリシエールは、意外にも怯える様子は見せず不思議そうに問いを投げかけた。



「強制だと、目的ってないんですか?」



Aクラスだけでなく、Bクラスの生徒までもが意表を突かれたように目を見張る。ただ、グレイ・ミラエルだけが第三者のようにこの光景を楽しんでいた。


「私はその、自分で上手に決められなくて、言われた通りにやることが多かったですけど、何も考えずにやってたことはありません。皆さんもそうであると思っていたんですが……」


「確かに、迂闊な発言だったなジワード君」


アリシエールの疑問に真っ先に反応したのはギルティア、納得したように笑みを浮かべる。


「告白しよう、ぼくは正直任意で参加を選べた君たちを下に見ていた。目的などなく、Aクラスの代表として君たちと接すればいいと。だがそれも改めなくてはならない、こんな心構えではいつ君たちに追い抜かれるか分かったものではないからね」


自身の弱みを隠すことなく公表するギルティア。そして、今後油断はしないよう意志を固めた。


「目的は『目的を作ること』だと思ってくれ、これではまずい返答か?」


「い、いえ! ありがとうございます!」


アリシエールのお礼に掻き消されるように聞こえたジワードの舌打ち。面白くなさそうに頬杖をついてギルティアから目を逸らす。


ただの質疑に対し、圧倒的な存在感を示していたのは皆が感じるところだった。嘘もなく、取り繕うこともなく、自身の成長の為に一切の躊躇もない。



実力だけの話だけではなく、ギルティア・ロストロスが頂点に立つ理由が分かるレインだった。

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