12話 秘密のプレゼント
エストリアの要望はある意味当然で、ある意味レオルにとっては不思議だった。
エストリアとシストリアの誕生日プレゼント、レオルは今までずっと2人に同じものをあげてきた。
それは2つプレゼントを考えるのが面倒だからではなく、2人の好みがまるっきり一緒だからである。好きな食べ物や色、衣服など異なっていることがなく、エストリアが好きなものはシストリアも例外なく好む。1度おやつの時間に別々のデザートを与えたらしいメイド曰く、2度とそんな過ちを犯さないようにすると心に誓ったとか。
そういうこともあり、レオルは2人に同じものをあげ続けてきた。誕生日という祝いの席を決して血生臭いものにしないように。
「うーん、どうしようか」
顎に手を当てながら、どうしてエストリアが妹を避けてレオルへお願いしたのか理解する。基本的に、与えられた物や迎えた状況に対してもの申すのはシストリアであり、エストリアは堪えてることが多い。
つまるところ、こんなお願いをしていることをシストリアにバレれば、姉に噛みつくか兄に泣きつくかした後、同じ物をレオルへ望むことになるだろう。それが嫌だから、自分だけの贈り物が欲しいから、エストリアはこうして一対一でお願いしているのである。
「でもエスト、それだと大々的に物はあげられないよ?」
しかしながら、シストリアに知らせずに別のプレゼントをあげるとするなら、目立たないものにもしなければならない。目立つようなものであれば、シストリアに指摘され、結局同じものをシストリアにも贈る結末になるかもしれない。
そうなれば、すぐに消費できる食べ物か、小物をあげるのが無難に思えるが、それでエストリアが満足するかどうか。
「大丈夫、兄さまがくれるものなら何でも嬉しい」
だが、レオルの不安を吹き飛ばすようにフォローを入れてくれるエストリア。普段見せない照れたような笑みを見せるものだから、レオルはますます嬉しくなった。
「分かったよ、何か考えてみるね」
こうまで言ってくれる妹に無理だと言ってしまう兄ではあってはならない。
レオルは、エストリアにあげるものを考えながら、シストリアとどう折り合いをつけようか思案するのであった。
―*―
「お兄さまからいただけるものなら何でも嬉しいです!」
「……だよね」
あの姉あってこの妹あり。
ちょっと前にどこかで聞いたような言葉を別に人間から聞くレオル。
エストリアの部屋を出た後、すぐにシストリアの部屋に向かったレオルは、誕生日プレゼントに何が欲しいかを部屋の主に聞いてみた。
しかし返答は想像通り、それはもう嬉しそうに語るシストリアを見てプレゼントのハードルが上がったような気がしていた。
「あっ、でも1つだけ……」
「ん? 何か欲しいもの思いついた?」
ふと何か思案するシストリアを見てすぐさま食いつくレオル。エストリアのお願いを聞く以上シストリアの要望も叶えたいと思っていたのだが、
「もうちょっと、お兄さまと一緒に過ごしたいです」
少しだけ遠慮するように口にしたのはプレゼントとは別の何気ない事柄だった。
「お兄さま、最近お忙しいのでご無理は言えないのですが、時間を見つけて私たちとも一緒に居て欲しくて……」
両手をもじもじさせながら、時折上目遣いでレオル見るシストリアは、この上なく可愛らしく愛らしかった。
レオルはシストリアを優しく抱きしめた。
「お、お兄さま?」
少々困惑気味のシストリアの頭を撫でるレオル。当人は一瞬目を見開くと、頰を緩めながら目を細めた。
「シスト、これから一緒にご本読もうか?」
「いいのですか!?」
「うん、シストが喜んでくれるなら」
「すっごく嬉しいです! お姉さま呼んできますね!」
歓喜の笑みを浮かべたシストリアは、姉を呼ぶため慌てて自室から飛び出していく。
そんな姿を見て、レオルも釣られるように表情が綻んだ。
こんな些細な妹のお願いなど、いくらでも叶えてあげよう。隠し事で後ろめたい気持ちが吹き飛ぶくらい構ってあげよう。これで2人の妹が喜んでくれるなら。
そんなことを考えながら、レオルは妹たちに読んであげる本を物色するのであった。
―*―
「エスト、シスト、誕生日おめでとう」
遂に迎えたエストリアとシストリアの誕生日。執事もメイドも招いた大きなパーティが開催され、多くの方々が2人の主役をお祝いする。
レオルは、煌びやかなドレスには身を包んだ妹たちに色鮮やかな包装紙に包まれたプレゼントを手渡しする。
「お兄さま、ありがとうございます!」
周りから大きな拍手を浴びながら、シストリアはプレゼントを抱きしめた。
「開けてよろしいでしょうか?」
「もちろん」
レオルの合図で、丁寧に包みを解いていくシストリア。純白の箱から蓋を取り去ると、シストリアは「わあ」と感嘆の声を漏らした。
「これって……!」
「カチューシャだよ、2人に似合うと思って」
レオルが贈ったのは、桃色のカチューシャだった。
マリンからエストリアとシストリアの見分けがつくようにしたいという要望があったため、常時身に付けるものを贈りたいと考えていた。
そしてその狙いに則るがごとく、シストリアは早速カチューシャを身に付けた。
「どうですか!?」
「すごく似合ってる、とっても可愛い」
「えへへぇ、ありがとうございます!」
両手を頭に乗せながら、シストリアは太陽のように笑った。
「……私たちのプレゼントより喜んでないかしら?」
「仕方ない、2人はレオルが大好きだからな」
両親の悲しい呟きが聞こえたような気がしたが、レオルは聞こえなかったことにする。
「お姉さまは開けないのですか?」
「うん、あたしは後でいい」
プレゼントを大事に持ちながら、微かに頰を緩ませるエストリア。それを見てレオルは安心する。
エストリアもシストリアも喜んでくれている。それがレオルにとって第一であり、それを表情から感じることができてホッとした。
そして何より、2人が無事歳を重ねることができて、嬉しく思うのであった。
―*―
「エスト、改めてだけどお誕生日おめでとう」
妹たちの誕生日パーティを開催した2日後、レオルはエストリアの部屋に来ていた。
エストリアが要望していた、誕生日プレゼントを渡すために。
「ありがとう、兄さま」
先日渡したものより小さな小包を、エストリアは何よりも嬉しそうに受け取った。
本当はエストリアにあげたプレゼントが1個増えるため、先にあげたカチューシャは回収しようと思ったのだが、シストリアに何か言われたときにすぐに出せないと不自然になるため、普段使用しないことを条件にエストリアに渡しておくことにした。
だが、そんなレオルの心配などどこ吹く風と言わんばかりにエストリアは小包を開けるのに夢中になっていた。
「あっ……」
小包から出てきたのは、プリーバードの形をした装飾のついたリングだった。
リングと装飾部はちいさな糸で繋がっており、一体となっている。リングは針金を円の形に2周させたもので、バッグにつけるアクセサリーのようになっていた。
「エスト、プリーバードが好きだったからね。これだったら小さいし机でもカバンの中でも入れておけば……」
全てを言い終える前に、エストリアがレオルに抱きついた。照れ屋で引っ込み思案な彼女には珍しい行動であり、それだけレオルの気持ちが嬉しかったのだと思うことができた。
「……兄さま。あたしこれ、ずっと大切にする。何があってもずっと持ってるから」
「ありがとう、そう言ってくれるなら僕も贈った甲斐があったよ」
レオルから離れると、エストリアは早速そのアクセサリーを自分のカバンの内側に装着した。しばらくは家の中でも持ち歩き兼ねない勢いである。
兄冥利につきる喜びようで、レオルも嬉しくなってきた。
「よし、じゃあシストも呼んでみんなで遊ぼうか!」
「うん!」
そう言って、エストリアは笑顔を浮かべながらシストリアの部屋へ向かって進んでいく。
案の定、見栄えは変わらないカバンをその身に携えながら。




