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弱くてニューライフ~逆転のサードスクエア~  作者: 梨本 和広
3章 3つの絶望、1つの希望
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8話 自信なさげなメイドさん

初めてフェリエルと会った日以来、レオルは週に1回ミストレス城へ行くようになっていた。


大きな理由はソフィリアから聞いたフェリエルの伝言だった。


『暇だったら相手してあげてもいいけど?』


最初はどういう意味かよく分かっていなかったレオルだったが、ソフィリアから『遊びに来て欲しい』ということだと言われ、とても嬉しかったのを覚えている。


初めは月に1回訪れていたレオルだったが、なかなか素直にならないお姫様のご要望により、現在のペースでミストレス城に通っている。



「……敬語はやめて」



4度目に一緒に遊んだとき、ふと思い立ったようにフェリエルに言われた言葉である。


「あなたが仲良くするって言ったのよ、敬語じゃ全然仲良くないじゃない」


フェリエルの言うことは理解出来るが、理屈ではないのである。


相手はこの国で1番偉い人物。例え仲良くなるという名目があっても、そう簡単に実行できるようなことではない。


申し訳ないと思いながらもレオルはフェリエルの申し出を断り続けていた。


しかしながら……



「……嘘つき……仲良くしたいって……言ったくせに……」



泣かれてしまってはレオルもただ秩序的に断ることはできない。仲良くしたいのはレオルも一緒なのだから。


だからレオルは、2人きりのとき限定で敬語をなくすとフェリエルと約束した。逆に言えば、これ以上の譲歩はレオルもできなかった。



「……しょうがない、それで許してあげる」



ふてくされたように視線を外したかと思ったが、レオルはフェリエルの口元が緩んでいることに気付いた。


それを見てレオルはホッとする。この笑顔が見られるのであれば、例え間違っていても、後から怒られることになっても、後悔することはないとそう思えた。



―*―



「……」


「……」


「……?」


レオルは1度、フェリエルと会うときに妹たちを連れてきたことがあった。


年齢も近いし、性別も一緒。自分より話が合うかもしれないとフェリエルに提案したところ、彼女もまんざらではなかったため連れてきたのだが、2人はレオルの手を握って離れようとしなかった。


挨拶も何もされず、フェリエルは首を傾げてしまっている。


「2人とも、姫様にご挨拶は?」


「……シストリアです」


「……エストリアです」


シストリアは鋭く睨むように、エストリアは不安に怯えるようにフェリエルを見る。


2人は外出が初めてであり、同世代の女の子に会うのも初めて。緊張しているのかと思ったが、いくらレオルが声をかけても緩和される様子がなかった。


「成る程ね」


2人の姿を見て、フェリエルは納得したように軽く口を開いた。


「心配しなくてもあなたたちの兄は取らないわよ」


そう言われて、レオルもようやく合点がいった。


最近ミストレス城へ行くことが多くなり、妹たちの相手をする機会が必然的に減っていた。エストリアもシストリアも、そのことを面白く思っていなかった節がある。


言うなれば2人は、フェリエルにレオルを取られると思ったのだろう。だから今回、フェリエルと会うためにここに来たのではなく、レオルをフェリエルに渡さない意思表示をしに来たのである。


レオルはフェリエルに敬意を表した。自分より先に妹たちの気持ちを理解し、安心させる言葉を紡いだことに。これならばエストリアもシストリアも心入れ替えフェリエルと仲良くなれると思っていたのだが……



「でも、あなたたちのお兄様はどうかしら? あたしに会いたくて何度もここに来ると思うわよ?」



――――フェリエルが挑発するように笑うものだから、事態は収拾しなくなった。


心を開きかけていた妹たちから伝わる力が急激に増す。


「ほらレオル、答えなさい。あなたは来週もあたしに会いに来るのよね?」


「お兄さまは行きません!! 絶対行かせません!!」


「兄さまはあたしたちと遊ぶ!」


「仲良く! 仲良くしようみんな!!?」


必死に訴えかけるレオルだったが、残念ながら声は空しく響くだけ。この日以降、エストリアとシストリアはフェリエルに会うためにミストレス城へ向かうことはなかったのである。



―*―



フェリエルと妹たちが仲良くなれるよう画策しながらも結局うまくいかず、その間にレオルは7歳になった。


昨年までと大きく変わったことは2つ。


1つはフェリエルがレオルの誕生日を祝ってくれたこと。正確に言えば誕生日のプレゼントをもらっただけだが、真っ赤な顔でフェリエルがお祝いをしてくれたときはレオルも頬の緩みが止まらなかったものである。


もらったのはシンプルな本の栞。レオルの本好きを理解している素敵な贈り物だった。



そして2つ目は――――



「お屋敷、若い方が増えましたね」



一緒に廊下を歩いていたリゲルがすれ違うメイドを見てそう言った。


「母様の方針だからね、リゲル以降は可能な限り若い人を雇用するようにしているみたいだよ」


「成る程、得心しました」


リゲルが指摘したように、ロードファリアの屋敷には若い執事やメイドが雇用され始めていた。


ソフィリアが門戸を広げ、希望者をできるだけ雇える体制を整えたからである。


だが、そう踏み切れたのは1番最初に雇用したリゲルが信頼足る人物と判断できたからである。そうでなければ、熟練度の低い若者ばかりを採用するという認識は弱まっていたかもしれない。


そのため、ロードファリア家には若い人間が少しずつ増えてきていた。


「でも、僕やエストたちに仕えるというより、全般的に仕事を覚えて動いているみたいだね。リゲルが珍しいタイプのようだよ」


「慣れるにはまず現場に入ることが1番ですからね、直接レオルさまたちと接することができずとも勉強にはなりますよ」


「おお、2年近く働いているリゲルが言うと説得力が違うね」


「恐縮です」


「あらレオル、リゲルと一緒にいたのね」


もうすぐレオルの自室へ着くというタイミングで、ソフィリアから声を掛けられた。


「いいの、リゲルも居て頂戴」


2人の会話を邪魔しないよう距離を取ろうとしたリゲルだったが、ソフィリアから一緒にいるよう言われた。つまり、レオルとリゲルの両方に用があるということである。


「母様、どうかされましたか?」


「実は今、新しく雇用する予定のメイドが来ているのだけど、レオルの身の回りの世話をしてもらおうと思ってるの」


少しだけ、リゲルの表情が強張ったのをレオルは感じた。


「安心して、貴方にレオルの担当を外れてほしいということではないから」


レオル同様リゲルの表情の変化に気付いたソフィリアが、安心させるように笑みを浮かべる。


「申し訳ありません、子どもでしたね私」


「何言ってるの、私からすれば当然子どもよ。心配になるのも無理ないわ」


「ご配慮ありがとうございます。でしたら私はその者と一緒にレオルさまの担当をすればよろしいですか?」


「そうね、後は先輩として指導して欲しいというのもあるの。ある程度年齢の近い人から言われた方が刺激になるでしょう?」


「承知いたしました。そういうことでしたら、できる範囲の指導をさせていただきたく思います」


「ありがとう。貴方がいてくれれば心配ないわ」


そうリゲルに伝えた後、ソフィリアの視線がレオルに飛ぶ。


「レオル、早速だけど着いてきてくれるかしら。貴方にはもう紹介しておきたくて」


「分かりました」


「リゲル、貴方には別で紹介するからそのときはよろしくね?」


「かしこまりました」


「それじゃあリゲル、また後でね」


リゲルと別れてソフィリアの後に着いていくレオル。突然のことだったが、リゲルが来たとき同様心が躍っていた。


新しい使用人が入ってくる。それも自分の担当として入ってくる。レオルにとってこれほど嬉しいことはない。


一体どんな人なのか。ソフィリアがメイドと言っていたので女性だと言うことは分かる。ではどんな女性のなのか。そんな想像を膨らませながら、ついにソフィリアの部屋までやってきた。


ソフィリアに着いて中に入ると、メイド服に身を包みながらもじもじと身を震わせた一つの影があった。


レオルたちが入ってきたことに大袈裟に反応し、すぐさま深くお辞儀をする。


「落ち着いて頂戴、まだ何もする前でしょう?」


「いえ、2人にご無礼があっては申し訳が立たないので……!」


「それもそうね。じゃあレオルに自己紹介してもらえる?」


「は、はい!」


声を詰まらせながら瞳を揺らす目の前の女性。肩ほどまでありそうな瑠璃色の髪を軽くまとめたその女性は、自信なさげにレオルと目を合わせる。



「きょ、今日からここで働かせてもらうマリンと申します。未熟者ですが、よ、よろしくお願いします!」



再度大きく頭を下げ、自己紹介を済ませるマリンという名の少女。身体が小刻みに震えており、緊張しているのが容易に判断できる。



「うん! これからよろしくねマリン!」



だが、その不安げな様子とは対照的に、レオルは新たな家族の誕生を祝うように笑顔を向けるのであった。

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