7.5話 仲良しこよし
「もう、遅くなったじゃない! 私、レオルに夕食与えてないのよ?」
「それは貴女が全面的に悪いとして、遅くなったのは仕方ないでしょ! 終了間際で話が盛り上がっちゃったんだから!」
ソフィリアとフラーナは、決して走らず、とはいえ急いでフラーナの部屋に向かっていた。
懇親会が始まって約2時間、まさかここまで時間を費やすとは思ってもいなかった。
事前に食事をしていたフェリエルはともかく、レオルは外出してから1度も食事を口にしていない。
だからこそソフィリアは懇親会で残った食事を包み、レオルの元へ向かっている。レオルとフェリエルを会わせることに注力しすぎていたとはいえ、とんでもない失態である。
対してフラーナは、娘の様子が気がかりで仕方がなかった。
レオルを信用して任せたものの、フェリエルが友好的な態度を示すとは限らない。下手をすれば、子ども同士の大喧嘩に発展しているかもしれない。
ソフィリアの話によれば、レオルは大人も真っ青になるほど聡明でよく出来た子どものようなので最悪の事態には陥ってはいないだろうが、心配であることには変わりない。
しばらくしてフラーナの部屋の前まで来た2人は、衛兵が扉を開けるのを待たずして自力で中へ入る。
「「レオル(フェリエル)!!」」
自分の子どもの名前を呼びながら中に入った2人だが、子どもたちの返答はなかった。
一瞬心臓が止まりそうになるほどの不安を覚えたが、ベッドの上の光景を見て、無意識に笑みが溢れていた。
「あらまあ、もう仲良しになったのね」
レオルとフェリエルは、ベッドの上で寄り添うように眠っていた。周りにはいろんな本が散らかっており、母親が帰ってくるまで仲良く過ごしていた形跡があった。
フラーナは正直驚いていた。
自分の娘の性格を考えれば、この数時間で仲良くなれるとは思っていなかった。
だから自分が間に入らなければいけないと思っていたし、今日はレオルが苦汁を飲むことになると思っていた。
それだけに目の前の光景は良い意味で予想を裏切ってくれていた。
「凄いでしょう、私の子どもは?」
呆けていたフラーナを見て、ソフィリアは嬉しそうに笑みを浮かべる。
フェリエルの心を紐解いたレオルがどれだけ立派であるかを表すかのように頬を綻ばせた。
「……何言ってるのよ」
しかしながら、フラーナも譲らない。子どもの自慢大会が開かれるというなら、万が一でも負けるわけにはいかない。
「慈愛の心を持ってレオル君を認めてあげたのよ。次期王女の心の広さに感謝してくれなきゃ」
「貴女、自分で何言ってるかよく分かってないでしょう?」
「簡単よ、フェリエルの方が立派で可愛い」
「レオルだって負けてないわ、よく見てみなさいこの寝顔を」
お互いに早口でのめり込んでいることに気付いたとき、2人は少し照れ臭そうにしてから笑った。
「まったく、王女様の部屋で眠るなんて前代未聞よ」
「本を片付けないで眠っちゃうなんて、明日はお説教ね」
わざとらしく我が子を注意するフレーズを並べた2人。その背中の上には、ぐっすりと眠るレオルとフェリエルの姿。
「フラーナ、貴女身体弱いんだし無理しちゃダメよ」
「私の部屋で眠るのを慣れさせたくないからね、必要な運動よ。貴女こそ馬車まで運ぶの大変でしょう?」
「大丈夫よ、愛さえあれば」
「それなら私だって大丈夫に決まってるでしょう」
そう言い合って、再び2人は笑い合った。
愛する我が子のために、ちょっとした力仕事に勤しむソフィリアとフラーナなのであった。