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弱くてニューライフ~逆転のサードスクエア~  作者: 梨本 和広
3章 3つの絶望、1つの希望
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1話 レオルとリゲル

レオル・ロードファリアは、父ディアロットと母ソフィリアの嫡男としてこの世に生を受けた。


父は優秀であったが上位の貴族ではなかったため、周囲の過剰な不安の中生まれてきたレオル。


しかしながら、すでにロードファリア家の次期当主の姿を想起させるがごとく、レオルは聡明で物分かりが良かった。


両親の教えは確実に守り、失礼な態度は取らない。家の世話をする執事やメイドに対しても、横暴になることなく主人として接する。現状で満足することなく、常により良くならないかを考え行動に移す。


とても齢5歳の子どもの立ち振る舞いとは思えない程に成長していたレオルは、セカンドスクエアを覚える前からその将来を嘱望されていた。



「母様、何のご用でしょうか?」



朝食の際、母の自室に来るよう言われたレオルは、食事を済ませて真っ直ぐ母の部屋へと向かった。


少し高い位置にあるドアノブを回すと、そこには椅子に座る母とその側に立つ父の姿があった。


「大したことではないのだけれど念のため伝えておこうと思ってね」


長く美しい白髪に触れながら、穏やかな笑みを浮かべるソフィリア。学生時代からその容姿に惹かれる者は後を絶たなかったが、子どもを授かった後も美貌は健在である。


「試験的にはなるけれど、若い執事やメイドを屋敷に採用していきたいと思うの。子どもたちがしっかり成長するには学院だけじゃままらないと思って」


「成る程、すごくいい案だと思います!」


レオルは表情を輝かせながら母の意見に同意した。


貴族にセカンドスクエアを学ぶ学院があるように、平民の中には貴族の身の回りの世話を学ぶ学院が存在する。


執事やメイドとしてその責務を負うために学院で学んでいるのだが、どうやら実際の経験の場が少なすぎて、現場に立ってからボロが出てしまうことが多いようだ。


そこでロードファリア家は、先陣を切って若い人間を雇うことにより、できるだけ早く経験値を積ませようと考えたのである。


「とは言っても一気に多くを雇うことはできないからまずは1人雇おうと思って。レオルを呼んだのはその子をあなたに付けたいと思ってるからなのだけど」


「承知しました、僕は問題ありません!」


「あなたならそう言ってくれると思ったわ、レオル」


そう言って立ち上がると、ソフィリアはレオルの前でしゃがんでその頭を撫でた。

嬉しくて顔を緩ませていると、母はさらにその小さな身体を抱きしめる。


「私たちの可愛いレオル、あなたが少しずつ立派になっていくのを母様も父様も楽しみにしてる」


そう言って、ソフィリアは軽く後ろを振り返ってディアロットへ目を向ける。

その視線に誘われるように2人へ近付くディアロットは、ソフィリア同様しゃがみ込むとソフィリアの肩とレオルの頭へ手を置いた。


「そうは言っても頑張りすぎないようにな。目の前の課題を1つ1つ、父さんと一緒にこなしていこう」


「はい! 一生懸命頑張ります!」


「いや、父さんの話を聞いてたか?」


「ふふ」


両親との会話を弾ませ、再度笑みを浮かべるレオル。


そしてレオルは、新たにロードファリア家の一員となる使用人がどんな人なのか、楽しみにしているのであった。



―*―



「お兄さま!!」


母の部屋から出ると、ソフィリアと同様の美しい白髪の少女が勢いよくレオルへ抱きついてきた。


「おっと、はしたないよシスト」


「えへへへ」


シストと呼ばれた少女は、レオルを抱きしめたまま嬉しそうに笑う。


そして遅れて、レオルは左手首を軽く掴まれる感触を覚えた。


「兄さま、お勉強教えて欲しい」


少し照れくさそうにお願いするのは、シストと容姿がそっくりな少女。髪型も一緒で服装も似ているため、見慣れていなければ判断がつかないかもしれない。


「お姉さまずるい! 私が言おうと思ったのに!」


「どっちが言っても一緒でしょ、シストがもたもたしてるのが悪い」


「こらこら、ケンカしちゃダメだぞ」


そう言ってレオルは、2人の少女の頭を撫でた。



エストリア・ロードファリアとシストリア・ロードファリア。双子の姉妹であり、レオルとは1つ年齢が離れた妹たちになる。


見た目こそ一緒だが、姉のエストリアが物静かで淡々と話すのに対し、妹のエストリアは喜怒哀楽が激しくいつも元気である。レオルとの出会い頭の行動が彼女たちの性格を物語っていた。


「それにしても勉強? ロロットはどうしたんだ?」


ロロットとは、エストリアとシストリアに勉学を教えている家庭教師である。豊かな経験と柔らかい物腰で文字の勉強や簡単なパズルなどを中心に教えているはずだが、2人の表情はあまり芳しくない。


「……兄さまに教えてもらいたい」


「私も、お兄さまに教えてもらいたいです」


どうやら2人は、ロロットが嫌なわけではなく、ただ純粋にレオルから教わりたいようだった。


気持ちはすごく嬉しいが、正直対応に困ってしまうレオル。自分が教えられることなどたかがしれており、言うまでもなくロロットから教わった方が2人の頭には定着するだろう。


だが、2人の眼差しは真っ直ぐレオルを捉えている。どこか期待に満ちた瞳を汚すような真似をレオルはできなかった。


「……分かった。だけど今日の分はちゃんと明日以降ロロットから教わること。それでいい?」


「「はい!」」


元気に揃った姉妹の声を聞いて、表情を綻ばせるレオル。効率の良さはともかく、可愛い妹たちが自分を頼ってくれているのが素直に嬉しかった。こうなった以上、できるだけのことは2人へ教えていきたいと思う。


その前に、ロロットへの謝罪を先に済ませなければと思うレオルだった。



―*―



母から使用人が来るという話を聞いてから1週間後、レオルは胸を躍らせながら自室で待機していた。


待ちに待った、若い使用人がロードファリア家へやってくる日である。


事前の話に寄れば、レオルより9つ年上の男性で、その父親が以前ロードファリア家でお世話になっていたらしい。その縁もあって、今日からロードファリア家に来ることになったようだ。


レオルは部屋の中を行ったり来たりと落ち着かない様子である。使用人がいつの間にか増えていることは今までもあったが、こうして最初から紹介されるのは初めて、浮き足だってしまうのも無理はない。


そこで、コンコンとドアが鳴る音がした。


「どうぞ」と声を掛けると、ゆっくりとドアが開き、まず母が笑顔を浮かべて入ってきた。



――――――そして、それに続いてロードファリア家の執事服に身を包んだ少年が姿を現した。



菫色の短髪が清潔感を醸し出す、容姿端麗な少年。一本芯が入ったかのような立ち振る舞いからは、緊張というものがまるで見られなかった。


「じゃあ、自己紹介してもらっていいかしら?」


「はい」


ソフィリアに軽く頭を下げると、少年は少しずつレオルの方へ歩み寄り、眼の先に来たところで、レオルと目を合わせるように床に膝をついた。



「今日よりこちらでお世話になります、リゲルと申します。レオルさまの身の回りのお世話をさせていただくこと、心より嬉しく思います」



胸に右手を当て、はにかみながら話すその凜々しい姿に、レオルはぱあっと花が開くように歓喜を示した。



これが、レオル・ロードファリアとリゲルの初めての出会いだった。

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