第七話 スキルオーブ
薬草の間引きという名の草むしりをし始めて、五日が経った。
この薬草、丈は五十センチほどで、基本は若草色をしているのだが、時折深緑色のものや、極稀にではあるが黒っぽいものも混じっている。
まあ、葉の形は一緒なので、あまり気にせず無心でむしっていった。
初日と二日目の午前中は草むしりに精を出し、昼食の果実を腹に収めたら、午前中にむしった薬草を天日干しにしてから、陽がくれるまでスライムたちとの戯れる至福の時間を過ごす。
三日目からはスライムたちと戯れた後に、天日干しにしてカラカラに干からびた薬草を凡そ百本ほどの束に纏める作業が追加される。
何故天日干しにしたかって?
そりゃ勿論、人里に持っていくための工夫だ。
乾燥させれば多少だが嵩は減るし、水分が抜けて軽くなるので、運べる量が増える。
それに飲み薬にするなら、粉末にする必要があるので、乾燥させておいた方が何かと都合が良かろうという、素人の浅知恵でもある。
……背負子が必要だな。
流石にこの量を、何日掛かるか解らない人里まで担いで行くのはしんどい。
折を見て、作っておくか。
そして、頼むから売れてくれよ。
二束三文でもいいから売れて欲しい。
じゃないと、僕のこの涙ぐましい努力の行き場が無くなってしまう。
にしても、この放置薬草畑が広いのなんのって。
大体の広さで言うと、凡そ野球グラウンド二面分はありそうだ。
その広さに足の踏み場もないくらい、びっちりと生い茂っているもんだから、引っこ抜こうとしても、根っこが絡み合ってなかなか抜けない。
引っこ抜くにはかなりの力が必要になるんだけど、幸いステータス補整が働いているのか、それほど疲れはしない。
けど、中腰作業なもんだから腰が痛い。
そのせいでこの五日間、午前中だけとはいえ、草むしりしかしてないのに、まだ半分くらいしか終わっていない。
そして、今日も今日とて間引き作業に精を出している。
「ふぅ、今日はこんなもんかな」
乾燥した薬草を束ねて、本日の作業も一通り終わり。
最後にその薬草束をログハウスに運び込む。
リビングには、これで合計三十束ほどの干し薬草の束が転がされている。
一束凡そ百本、直径五十センチほどの円柱なので、一つ一つはそれほど大きくは無いが、流石にこの数だ、そこそこ嵩張るようになってきた。
割りと邪魔くさくなってきたし、使っていない部屋にでも移動させようか。
そう思い、リビングから繋がる僕が寝室として使わせて貰っている部屋とは反対側の部屋に向かった。
そういえば、こっちは見たことなかったな。
単なる空き部屋だといいんだけど。
ドアノブに手を掛け、ゆっくりと押し開くと、そこには息を飲むような光景が広がっていた。
既に夕暮れ時は過ぎているにも関わらず、部屋の中は辺り一面がぼんやりとではあるが、白く光っていたのだ。
蛍光灯ほどの光量は無いが、白く透明感のある光。
その無機質な光を見ていると、地球の見慣れた街灯を少し思い出す。
そんな寂寥感に浸っていると、爪先からコツンという軽い音が鳴る。
ふと、足元を見ると野球のボールくらいの大きさの白い珠が、床一面に転がっているのが見てとれた。
「ん? ……ああ、これが光を放っているのか」
呟きながら、足元にあるそれを一つ掴み上げ、その白い光を放つ珠をまじまじと観察していると、どうやら中には『万象鑑定』という文字が刻まれているようだった。
「なんて読むんだろう? ん~……まんぞう?」
『ハルトさん? ああ、こちらにお出ででしたか』
「っ!?」
突如背後から掛けられたグリンさんの言葉に、何か悪いことをしている訳でもないのに、びくっ! とイタズラが見つかった時のような反応してしまった。
「ぐ、グリンさん!? あ、いや、これは、その……」
『はい、どうかされましたか? あら、それは』
しどろもどろになっている僕を見て、グリンさんが微笑み、次いで僕が手にしている白い珠に視線が注がれる。
『子どもたちを生み出した時、稀に混じっている物ですね。確か、主は『すきるおーぶ』と呼んでおりましたね』
「スキルオーブ?」
『はい。なんでもそれに魔力を注ぎ込むと、何かしらのスキルを一つ覚えられるとか』
ほほう。
それは良いことを聞いた。
先日レベルアップさせたことでステータスの値は上げていたが、スキルに関しては不安があったのだ。
いくらステータスが強くなっても、不意打ちや毒などの状態異常には無力ではないのか? という懸念があり、これをどうにか出来ないものか、とここ数日対応策を考えていたのだ。
そんな折に現れたスキルオーブ。
この部屋を埋め尽くすほどのこれが、全てそうであるなら、僕の懸念を解消出来るスキルが有るかもしれない。
「えっと、試してみてもいいですか?」
『はい、構いませんよ。以前、私も試したことがあるのですが、主のようにスキルを得ることはありませんでした。魔物には効果が無いのかもしれません。ですので、私たちにとっては使い道がありませんの』
グリンさんの了承を得て、スキルオーブと呼ばれたそれに魔力を注ぎ込んでみる。
魔力の扱いについては、既に修得済みだ。
何故なら、ラピスを頭の上に乗せている時、たまに身体の中から何かが抜けていく感覚があった。
その時にステータスを開いて確認したところ、MPの値がほんの少し減っていたので、それが魔力であると認識出来たのだ。
ある時、ラピスがいつものようにMPを吸い取ろうとしたので、魔力で綱引きのような遊びをしていたら、やり過ぎてしまったようで、ラピスが拗ねて半日ほど口をきいてくれなくなってしまったのはご愛嬌。
そんなこともあり、魔力の扱いについては問題ない。
どれくらいのMPが必要になるのか確認したかったので、ステータス画面を開きながら、少しづつ魔力をスキルオーブに注ぎ込んでいく。
すると、MPが10ほど減った所で、スキルオーブが一際強く光り、次の瞬間にはスキルオーブが弾け、無数の光の粒子となり、それは一拍空中に留まった後、僕の胸目掛けて吸い込まれていった。
最後の一粒が吸い込まれると、僕の頭の中にポーン、と電子音のようなものが鳴り、ウィンドウがポップアップする。
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エクストラスキル【万象鑑定】を獲得しました
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おほぉぉぉ!? きたきたぁ! ひゃっほー!!
……こほん、ちょっと興奮して、我を忘れました。
深呼吸を一つ。
さて、落ち着いたところで、ステータスを確認してみよう。
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名前:ユウキ ハルト
種族:人間族
性別:♂
年齢:17
職業:魔物使い
身分:異世界人
状態:平常
BLv:55 ▲【決定】
JLv:30 ▲【決定】
HP:1503/1503 ▲【決定】
MP:543/543 ▲【決定】
筋力:199 ▲【決定】
体力:199 ▲【決定】
知力:200 ▲【決定】
敏捷:197 ▲【決定】
器用:296 ▲【決定】
保有スキル
【コモンスキル】
・両手剣術:Lv1 ▲【決定】
【ジョブスキル】
・テイミング:Lv1 ▲【決定】
・ネームド:Lv1 ▲【決定】
・魔騎士任命:Lv1 ▲【決定】(←New!)
・魔将軍任命:Lv1 ▲【決定】(←New!)
【ユニークスキル】
・異世界言語:Lv1 ▲【決定】
【エクストラスキル】
・ポイントコンバーター(EXP:30,759,532)
・万象鑑定(←New!)
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名称:万象鑑定
区分:エクストラ
取得条件:ギフト
概要:森羅万象、全ての事象を読み解くことが出来
る
対象としたものの全ての情報を取得する
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ふむ、どうやらこれは『ばんしょう』と読むらしい。
そして来ました、異世界における最大級チートスキルの一つ、『鑑定』。
説明文がかなりふわっとしているのが気にかかるが、これがあれば対峙する相手のステータスや所持スキルを視ることが出来るので、被我の戦力差を客観的に把握することが出来る!
それだけじゃなく、初見のアイテムなんかも名前や効能効果、使い方すらも見ただけで解るのだ!
……たぶん、おそらく、きっと……そうだといいなぁ。
さて、ヒートアップした頭も冷えたところで、改めて床一面に広がるスキルオーブに目を向ける。
すると、ピロリンっという軽快な音が鳴ったかと思うと、突如直接頭の中に情報が流れ込んで来た。
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名称:スキルオーブ
ランク:★★★★★★★★★★
概要:本来、訓練や経験、知識の集積が生命の鼓動
に共鳴し魂と結び付くことによって発現する
スキルを何らかの外的要因により生命の鼓動
と分離されて単独にて発現したスキルを魔力
による外殻の内側に封じ込めることで形成さ
れた宝玉
外殻魔力に対象者の魔力を流し込み、親和性
を高めることにより、外殻魔力を融解させる
ことで内包したスキルを解放することが出来
る
解放されたスキルは魔力を流し込まれた魔力
の波長を持つものを特定してその者の魂へと
定着する
定着したスキルは訓練で得られたはずの経験
や知識そのものであり、世界の規定に従い、
スキル熟練度として対象者のステータスに反
映され………………
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ぬぉぉ!?
ちょ! タンマタンマ! じょ、情報量が多すぎる!!
いきなり大量の情報が一気に頭の中に流れ込んで来たので、凄まじい頭痛に苛まれ、膝をついてしまった。
頭痛を堪えるように、頭に手をやり、慌てて情報量を制御するよう、そしてステータス同様にウィンドウによる表示となるように念じる。
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名称:スキルオーブ
ランク:★★★★★★★★★★
概要:魂と生命の研鑽により発現するスキルを魔力
による外殻の内側に封じ込めたた宝玉
効果:コモンスキル【忍び足】を獲得
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ふぅ~、あっぶね。
脳が焼ききれるかと思ったわ。
『は、ハルトさん! だ、大丈夫ですか!?』
急に膝をついたことで、随分心配させてしまったようだ。
グリンさんは物凄く狼狽えてしまっている。
「はぁ、はぁ。え、ええ、なんとか」
荒く息を吐きながら、手で制することでなんとか無事であることをアピールする。
「ちょっと、急なことで驚いてしまっただけ……」
そこまで言った所で、またもピロリンっと軽快な音が頭の中に鳴り響き、僕は目の前に現れたウィンドウを見て固まってしまった。
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名称:グリン
種族:魔物(スライム)
性別:-
年齢:753
職業:マザースライム
身分:シュウトの従魔
ランク:★★★★★★★★★
状態:狼狽
BLv:141
JLv:72
HP:186856/186856
MP:58559/58559
筋力:4475
体力:4451
知力:4480
敏捷:4483
器用:4490
保有スキル
・溶解:Lv10 (MAX)
・吸収:Lv10 (MAX)
・進化:Lv9
・分体生成:Lv9
・眷属創造:Lv8
・気配察知:Lv9
・打撃耐性:Lv8
・斬撃耐性:Lv5
・火属性耐性:Lv8
・水属性耐性:Lv7
・風属性耐性:Lv9
・酸弾:Lv6
・水魔術:Lv5 (MAX)
・水霊魔術:Lv5 (MAX)
・水精魔術:Lv3
・風魔術:Lv5 (MAX)
・風霊魔術:Lv5 (MAX)
・風精魔術:Lv5 (MAX)
・人化:Lv5 (MAX)
・礼儀作法:Lv7
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目の前に現れたのはグリンさんのステータスだった。
固まってしまった僕を見て、またも心配そうに表情を歪めているグリンさんには申し訳ないけど、今はそれどころじゃなかった。
いや、なにコレ。
強すぎぢゃね?
ここまでお読みいただきありがとうございます。
誤字・脱字・矛盾点・説明不足・わかりにくい表現等のご指摘いただければ幸いでございます。
ただ、作者ガラスのハートでございますれば、柔らかい表現でお願いいたします。
17.11.18 誤字脱字修正
17.11.19 グリンのステータス修正