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第六話 この世界で生き抜くために

 翌日、目が覚めると窓から見える太陽は既に中天に差し掛かろうとしていた。


 心身共に大分疲れていたようだ。


 まああんなことがあれば疲れない方がおかしい。


 ベッドから起き上がり、寝室からリビングに出るとグリンさんとラピスが出迎えてくれた。


『おはようございます。昨晩は良くお休みになれましたか?』


「おはようございます、グリンさん。お陰さまで疲れも取れて大変助かりました」


『そうですか。それはよぅございました』


 微笑むグリンさんはなんだか見惚れてしまいそうな柔らかく優しい雰囲気をしている。


「ラピスもおはよう」


 ぷるぷると揺れているラピスを撫でる。


 うん、すべすべして柔らかくて気持ちいいな。


 ラピスを愛でていると、グリンさんがどこからともなく大きな葉っぱを取りだし、その上に木の実や果実をどさどさと積み上げる。


『このような物しかなくて申し訳ありませんが、朝食にと思い、お持ちしました。どうぞお召し上がりください』


「あ、はい。何から何までありがとうございます」


『それでは私はこれで失礼致します。何かあればお呼びつけください』


 そう言い、グリンさんはするするとリビングから退出していく。


 しかし、なんでグリンさんはこんなに良くしてくれるのだろう?


 不思議ではあるが、まあ今はその好意に甘えるとしよう。


 ……しかしこれ、食いきれるかな?


 確実に余るだろうという量がテーブルの上に積み上げられている。


 が、とにもかくにも、腹が減ったのでいただくとしますか。


 見た目も香りも地球のリンゴ、オレンジ、モモ、イチゴとほぼ同じだし、それぞれ一口齧ってから暫くしても大丈夫そうだったので、美味しく頂いた。


 ラピスと二人で腹一杯になるまで食べたけど、やっぱり半分近く余ってしまった。


 まあ直ぐに腐るわけでもないだろうから、おやつ時にでも摘まめばいいか。


 さて、腹も膨れた事だし現状を整理しよう。


 昨日は訳のわからないまま城から追い出され、挙げ句チンピラに殺されそうになったけど逃げ回り、大河に阻まれ、決死の覚悟で飛び込んだけど足が吊り、溺れてしまった。


 運良く一命を取り留め、ズタボロになりつつも流れ着いた先はスライムたちの楽園。


 親切? なスライム、ラピスたちが僕の怪我を見て、これを食べれば治ると言わんばかりに果物を持ってきてくれて、事実それを食べたところ、痛みは引き、傷も跡形もなくなっていた。


 そして、ラピスに案内されてスライムの泉で管理者のグリンさんと出合い、一晩お世話になったおかげで体力気力を取り戻すことが出来た。


 ラピスとグリンさんには感謝してもしきれないな。


 では、そんな僕は今後どうするべきなのだろう。


 保護しておきながら勝手な都合で追い出したルーベリア皇国に怒りは感じる。


 けど同時にこんなもんかとも思う。


 そこら辺の村人Aにすら劣るステータスの僕に構ってはいられないということなのだろう。


 とは言え、チンピラを使ってでも殺そうとしたことは許すつもりはない。


 一国相手に復讐するには、僕は『まだ』ちっぽけな存在なので、これは一先ず保留にしておこう。


 けど、必ず報いは受けてもらう。


 やられっ放しってのは性に合わない、覚悟しておくといい。


 さて気を取り直して、次に考えることはこれからの僕のスタンスをどうするかだ。


 単純に元の世界に帰ることが出来るのかどうかである。


 けれど不思議なことに、存外この世界の空気が心地いいと感じる自分がいる。


 帰れるなら帰りたいが、帰れないならそれでもいいか、とも思う。


 ということで取り敢えずは元の世界に帰る方法を探そう。


 『帰れない』と『帰れるけど帰らない』では意味合いが大きく違うから。


 あとはまあ、せっかく異世界に来たのだからいろんなところを観光してみるってのもいいかもね。


 とはいえ、この世界は街の外は魔物が闊歩しているようだし、盗賊もいるらしいし、おまけに封建社会制度の国が多いので、貴族やらなんやらに絡まれても面倒くさい。


 魔物や盗賊を跳ね除ける程度の力は必要だけど、目立つことは極力避けよう。


 こんなもんかな。


 さて、これで基本スタンスは決まった。


 なら次はどうやって生きていくかだ。


 この世界は街の外は魔物が闊歩していたり、盗賊がいたり奴隷がいたりとどうにも命の価値は羽のように軽いようだ。


 先日チンピラ擬きに殺されかけたこともあり、ある程度の自衛手段が無いと生きていくことすら難しいと思われる。


 だけど、自衛手段を手に入れることはそう難しいことじゃない。


 この世界にはレベルという概念があり、ステータスという数字化された強さの指標がある。


 レベルを上げればステータスの値も上がり、自分がどの程度の強さなのかがはっきりわかる。


 ステータスの値が全てというわけでは無いが、ある程度相手より上回っていれば力ずくでねじ伏せることも可能だ。


 けれど、この世界はバリバリの封建社会。


 創作物ではありきたりな、強くなりすぎて目立ってしまったがために貴族やらなんやらに目をつけられ絡まれ厄介事に巻き込まれるのだけは御免だ。


 ということで、自衛出来かつ目立たない程度の適度な強さが欲しい。


 普通の人なら魔物を倒したり、訓練をすることで経験値を入手するなどの、長い時間を掛けてレベルを上げるのだけれど、僕の場合はあるスキルのせいでそれが出来ない。


 そのスキルがこれだ。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


名称:ポイントコンバーター

区分:エクストラ

取得条件:ギフト


概要:獲得したベース経験値を格納する

   またベース経験値獲得時、自動レベルアップ

   しない


   格納した経験値を使用して、自身もしくは指

   定した対象者の任意のステータス項目を上昇

   させることが出来る


   獲得ベース経験値+300%

   獲得ジョブ経験値-100%

   獲得スキル熟練度-100%


格納EXP:31,009,146


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 このスキルのせいで僕は通常の方法では強くなれないっぽい。


 そして、追い出されたのも恐らくこのスキルのせい。


 まあ、過ぎたことだし、今はそれはどうでもいい。


 このスキルは説明文を見た限りではデメリットもあるが、かなり強力なスキルだと思う。


 僕はこの【ポイントコンバーター】のせいで普通のレベル上げは出来ないが、普通ではないレベル上げが出来る。



―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・


名前:ユウキ ハルト

種族:人間族

性別:♂

年齢:17

職業:魔物使い

身分:異世界人


状態:平常


BLv:1 ▲【決定】

JLv:1 ▲【決定】


HP:78/78 ▲【決定】

MP:35/35 ▲【決定】


筋力:12 ▲【決定】

体力:8  ▲【決定】

知力:15 ▲【決定】

敏捷:8  ▲【決定】

器用:20 ▲【決定】


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・



 【ポイントコンバーター】の効果なのであろう、ステータスの数字の横に『▲』マークと『【決定】』ボタンが表示されている。


 僕はレベルの横にあるマークを視線でワンクリックして【決定】ボタンを更にクリックすると



#######################


経験値を10消費してレベルアップします。

実行しますか?


【はい】【いいえ】


#######################



 というウィンドウがポップアップしたので、【はい】のボタンをクリックする。



―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・


名前:ユウキ ハルト

種族:人間族

性別:♂

年齢:17

職業:魔物使い

身分:異世界人


状態:平常


BLv:2 ▲【決定】

JLv:1 ▲【決定】


HP:93/93 ▲【決定】

MP:41/41 ▲【決定】


筋力:15 ▲【決定】

体力:11 ▲【決定】

知力:18 ▲【決定】

敏捷:12 ▲【決定】

器用:24 ▲【決定】


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・



 よっしゃぁ! 予想したとおりにレベルが上がった。


 これで大体このスキルの扱い方はわかったぞ。


 このスキルは経験値を獲得した場合、ベースレベルを自動的にレベルアップさせる代わりにこのスキルにポイントとして格納して、そのポイントを使って自分のステータス画面に『▲』マークのある項目を自由に上昇させることが出来るのだろう。


 HPや筋力の数値の隣にも『▲』マークがあるということは各々のステータスを個別に強化も出来るんだろう。


 レベル以外のステータス値1ポイント上げるのに経験値をどのくらい使用するのかについても検証する必要があるけど、その辺りはまだ手を着けなくてもいいかな。


 レベルをある程度上げたところで、極端に低い値を補完するか、何かに特化させるかはじっくり考える必要がある。


 それ以外ではスキルに対してもピンポイントでレベル上げが出来るはずだ。


 スキルというのは技術であるため長期間の訓練や実践、試行錯誤を経て徐々にレベルが上がるものなので、いきなり高レベルにすると身体や経験がスキルレベルに追いついていかない等の不安要素は有るものの、現地人に対してかなりのアドバンテージが得られると思う。 


 が、今は取り敢えずベースのレベルを上げることが最優先だ。


 経験値はたっぷりある。


 とはいえ、どこまで上げるかな?


 確か一般の成人した男性はレベル5くらいで、兵士とかの訓練を積んだ人は20前後、騎士に採用されるには最低40以上は必要らしい。


 んで麗華さんたちはレベル90前後だったな。


 なら……騎士団の平均値と思われる50~60の間くらいでいいか。


 ついでにジョブレベルも30くらいまで上げておく。



―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・


名前:ユウキ ハルト

種族:人間族

性別:♂

年齢:17

職業:魔物使い

身分:異世界人


状態:平常


BLv:55  ▲【決定】

JLv:30  ▲【決定】


HP:1503/1503 ▲【決定】

MP:543/543   ▲【決定】


筋力:199  ▲【決定】

体力:199  ▲【決定】

知力:200  ▲【決定】

敏捷:197  ▲【決定】

器用:296  ▲【決定】


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・



 麗華さんたちと比べると全体的にステータス値が低い気がするが、これならステータス面ではあの自称冒険者どもにも負けることはないだろう……たぶん。


 しかし、レベルに対して中身が伴っているかどうかは微妙なラインなので、早々に両手剣――出来れば大太刀あたりが望ましい――を入手して、錆び付いた勘と身体を鍛え直さにゃいかんなぁ。


 さて、緊急案件だった脱レベル1も、無事に果たすことが出来た。


 ふと窓の外を見てみると、太陽はとっくに真上を通り過ぎ、既におやつ時を迎える頃合だった。


 思っていたより随分と長い時間、耽っていたようだ。


「ぅん~~~……、っふぅ」


 僕は軽く伸びをして、首をコキコキと鳴らし、強張っていた全身のコリを解したところで気分転換にログハウスの外へと足を向ける。


 外に出てみると、陽の柔らかい光が気持ちよく、頬を撫でるそよ風がとても心地よく感じた。


 また、目の前に広がった草原のあちらこちらに大勢のカラフルなスライムたちが、跳ね回ったり、アメリカンクラッカーのようにぶつかり合ったりして遊んでいる。


 その長閑な光景に強張っていた心も解されていくようだった。


 そんなふうに、ぼーっと景色を眺めていると、数体のスライムたちが僕の足元までやってきて、しきりに跳ね回る。


 僕はその内の一体を掬い上げ、左右にびよーんと引っ張ってみた。


 おお、よく伸びる。おもしれぇ。


 こうしてスライムの身体? の触感を確かめている感じでは、どうやらゼリーというよりも弾力性のある水飴みたいな感触だ。


 僕の肩幅くらいまで伸びたスライムを元に戻して、エキスパンダーのように数回ほど伸び縮みさせていると、足元にいた他のスライムたちが『ぼくも! ぼくにもやって!』とせがんでくるので、同じようにして遊んであげる。


 エキスパンダーごっこも落ち着いて、地面に腰を下ろしていると、今度はスライムたちが僕の膝の上に乗ったり降りたりと、僕の身体を障害物に見立てて追いかけっこをし始めた。


 そうしてスライムたちと戯れながら、周りの草原を見渡してみると、植生がやたらと綺麗に揃っていることに気付いた。


 この草原は七割ほどが緑色の植物で、その合間合間にぽつぽつと、赤い色をした一角があり、その赤い植物を取り囲むようにして青い植物が生えている。


 人の手が入っていない草原ならば、その植生はもっとばらばらになるはずだ。


 なのに、この草原は管理されているかのごとく、きっちりと植物同士の住み分けがなされているように感じた。


 これほど揃っているとなると、誰かが手入れをしているのか?


 そのことに首を傾げていると、するっとグリンさんが姿を現した。


『あら? ふふ、子どもたちと遊んで頂いていたのですね。ありがとうございます』


「ああ、いえ。とっても可愛らしくて、楽しませてもらってます」


『この子たちは外からいらしたお客様というのは初めての経験ですので、少々興奮しているようです』


 そう言い、柔らかに微笑むグリンさんは正しく母親の顔をしていた。


 その優しい表情に、もう会うことも叶わない母さんの姿を何故だか重ねてしまい、一瞬惚けてしまった。


 刹那の後、ハッと我に返り、何を考えているんだか、と頭を振って気を取り直す。


「そうだ、グリンさん。ちょっとお聞きしたいのですけど」


『はい、なんでしょう?』


「ここの草原のことなんですけど、どなたかが管理されているのでしょうか?」


『草原ですか? そうですね、管理しているといえば管理しておりますし、していないといえばしておりませんね』


 ん? どういうことだ?


『元々はこちらの住まいの裏手で、主が傷に良く効く『治癒草』という薬草を栽培しておりました。ですが、ここの土はこの薬草を育てるには良すぎたみたいでして、栽培を始めてから、数日で爆発的に増殖してしまったのです。当時の主も、全てを管理するのを早々に諦め、せめて区画だけでも、ということで赤い薬草、『魔光草』というのですが、それを植えたのです』


 なんだそのバイオハザードは。


 っていうか、諦めんなよ。


 諦めたらそこで試合終了だぞ。


 いや試合ではないのだろうけど。


『ですが』


 え? まだ続きがあんの?


『暫くすると、魔光草を囲うようにあの青い草、確か主は『魔枯草』と申しておりました、薬草が生えるようになってしまい、私どもの手に負えなくなって、現在のような形になっているのです』


 なるほどね。


 話を聞く限り、スライムは魔法生物であり、魔力がないと生きていけない。


 HPが0になるのは当然のこと、MPが0になっても死んでしまうという。


 そして、魔枯草には魔力を散らしたり、枯渇させる作用があるため、スライムは触れられないので、手出しができない状態にある、と。


 だが、この魔枯草、魔法生物には害にしかならないが、人間が煎じて飲めば、ある特定の病気に対しての特効薬になるらしい。


 まぁ、その特定の病気とやらも相当珍しい類のものらしいが。


『ですので、出来ればで構いません。あの青い草を多めに、それ以外の薬草についても、間引いて頂ければ助かります』


 ふむ、要するにこの草原は、管理しきれなかった薬草がバイオハザードを起こして出来た群生地と考えればいいのか。


 しかし、これは考えようによっては、幸運なことではなかろうか。


 人里に出れば、どうしても金が必要になる。


 城から追い出された時に、路銀として金貨を渡されたことからも、それは明白だ。


 であれば、どのようにして金を稼ぐかという問題に当たる。


 だが、それも間引いたここの薬草を換金出来れば、グリンさんのお願いも果たせるし、僕も通貨を入手できるかも知れない。


 まさに一石二鳥。


 問題は本当にこの薬草が人里で換金出来るのか? ということと、換金出来たとして、どの程度の価値があるのか? ということだ。


 まあ、それは人里に出たときに確認するしかないか。


 先ずはグリンさんのお願いである薬草の間引きから始めますか。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

誤字・脱字・矛盾点・説明不足・わかりにくい表現等のご指摘いただければ幸いでございます。

ただ、作者ガラスのハートでございますれば、柔らかい表現でお願いいたします。


17.11.18 誤字脱字修正

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