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第六十六話

遅ればせながら、明けましておめでとうございます。

ここ暫くリアルが立て込んでいたため、投稿が途絶えておりましたが生きてはいます。

また今年も細々とではありますが、この物語を紡いでいきたいと思いますので、お付き合いいただければ幸いでございます。


それでは第六十六話、始まります。

 翌朝、若干の気怠さを残しつつも、いつもの日課と朝食を済ませ部屋へと戻った僕は、ラピスとステラが舟を漕ぐ傍ら、赤大鬼の革鎧を装備していた。


 今朝はヌルさんから昨日の件で呼び出しからの事情聴取、と予定を押さえられている。


 なので、街の外に出ることは無いし、本来であればこんなものを身に付ける必要は無いのだが……まあ、何があるかわからないので、備えておくことに越したことはないだろう。


 決して冒険者ギルドを信用していない、という訳ではない。


 ヌルさんとその部隊の人らからの監視の目は、先日の宣言通り気にならない程度に落ち着いているので、ヌルさんらのことは今のところ信じてもいいと思っている。


 ただ、上に報告云々言っていたので、その報告に対する上層部の反応次第なところはあるけどね。


 それはそれとして、今のところ僕が警戒しているのはあのジジイの方だ。


 仮にも支部のトップであるギルドマスターが無星の冒険者の事情聴取ごときに同席するとは思えないが、あのジジイのことだ。


 しれっとその場に同席していても不思議では無い。


 真正面から何か仕掛けてくるほどアホでは無いと思いたいが、初対面が初対面だったからなぁ。


 それに、あの後アンナさんにこってりと〆られたみたいなので、その件で逆恨みされていないとも限らない。


 うん、やっぱり警戒してし過ぎるということはないな。


 そんな鬱々とした思考を巡らせていると革鎧の装備も完了してしまい、あとはクレイモアを担ぐだけ、となった段階で扉がノックされた。


「はーい、どなたですか?」


『あ、えと、エイミーです。あ、あの、お兄さんにお客さんで、冒険者ギルドの職員の方だそうです』


 うそぉん、確かに迎えを寄越すとは言われたし、既に完全装備でスタンバってる僕が言えたことではないと思うけど、ちょっと早過ぎない?


 三ノ鐘が鳴ってから体感でまだ三十分くらいしか経ってないと思うんですけど。


 いやまあ、こちとら呼び出される側なんで、時間指定出来るわけが無いのは百も承知なんですけどね。


 それに僕は下っ端も下っ端なもんで、本部所属のお偉いさんに出頭せぇと言われれば、行かないって選択肢が無いってのもわかっちゃいるんだけど、なんぼなんでも早過ぎでないかい?


 こんな時間に行ったら依頼争奪戦の真っ只中を突っ切ることになるやん。


 それむっちゃ目立つやつやん。


 ただでさえ、レッドオーガだ銀妖精だで目立ってんのに、その上今は保護者(ワイルドローズ)がおらんねんで同業者のヘイト集めまくってるんやで?


 なんで火中の栗を拾いに行くような真似せなあかんねん。阿呆か? 阿呆なんか?


 ああ、いやいや落ち着け、僕。エセ関西弁で突っ込んでる場合じゃない。


 ……ふむ、人が溢れかえる時間帯に赴く理由。あ、なるほど、逆か? この時間帯であれば殆どの冒険者たちの目は掲示板に釘付けだ。


 オープンになっている酒場エリアで事情聴取、とはならないだろうから、恐らく個室、そうでなくとも目隠しされ周囲からは隔離された場所に通されるだろう。


 となれば、個室があるのは三階だから、資料室のある二階に向かったと見せかければ、この時間に出向いても分不相応な依頼を請けに来たイキがってる新人と見られることもない。


 個室でなく目隠しされた場所の場合、そもそも目に付かなければ、気にする人もいないだろう。


 うん、きっとそうだ。そうに違いない。


『あ、あの、お兄さん?』


 おっと、いかんいかん。そういえばエイミーちゃんが呼びに来てくれていたんだった。


 正直に言えば、言葉を並べてて自分を納得させたところで、こんなもん現実逃避だってのは理解している。


 はぁ、行きたくねぇなぁ。


 けど、既に返事をしてしまっているし、今更居留守も出来ん。


 ここはいっちょ覚悟を決めますか。


「はーい、いまイキマース」


 そう思いつつも、心無しか返事が棒読みになってしまったのは、致し方のないことだと思う。


 まあ覚悟を決めたのなら、あとはとっとと行動するに限る。


 未だ夢見心地のラピスとステラの目をしっかりと覚まさせ、部屋を出て階段を降りると、そこにはきっちりとしたギルド職員(スタッフ)の制服に身を包んだ、栗色の髪の小柄な少女がガチガチに身を強ばらせながら待ち受けていた。


「……あー、おはようございます」


「お、お早うございましゅ! わ、私、冒険者ギルドルセドニ支部の受付見習いをしておりましゅ、りこりしゅ、はぅっ……リコリスと申します! お、お迎えに上がりましゅた! よ、よろしくお願い致しましゅっ!」


「……」


 うん、まあ、その、なんだ。僕からは何も言うまい。


 深々と頭を下げているのでその表情は見えないが、髪の隙間から見え隠れしている耳が真っ赤に染まっているし、その身体は小刻みにぷるぷる震えているので、ここに僕が何かを言えば泣いてしまうかもしれん。


 ちょっと突っついてみたくなるが、本当に泣かれたら修羅場突入は待った無しなので、ここは自重したほうが無難だろう。


「あー、ご存知とは思いますが、無星冒険者のハルトです。宜しくお願いします」


「……ぁぃ、じょんじておりまじゅ」


 頭を上げ姿勢を正したリコリスちゃんは、しかし俯きがちにきゅっと口を結んで涙を必死に堪えている。


 なんか物凄く居た堪れないんですけどっ! いや、可愛いけどねっ! でもやめてっ!! 女将さんがものすっごく蔑むような目で見てるから!? 僕がいぢめてるわけじゃないんですぅ!!


 今にも涙を零しそうなリコリスちゃんを前に、内心あたふたしてしまうが、その間中にも僕の背中には女将さんの突き刺さるような視線がグサグサと刺さる。


「えっと、その……い、行きましょうか」


 その視線に耐えつつも、半泣き状態のリコリスちゃんにそう促してみるが……


「ぇぐ……ひぐ……ぁぃ」


 あぁん、もうっ! なんか本当に僕がいぢめてるみたいじゃんかぁ!! 僕、何もしてないってばぁ!?


 そんな一幕がありつつも、女将さんの視線から逃げるように、リコリスちゃんとともに僕らは足早に水瓶亭を出る。


 あーもー、気が重いなぁ。帰ったら絶対女将さんからなんか言われんだろーなー。


 進むも地獄退くも地獄、前門の虎後門の狼とはこのことかっ。


 はぁ、しっかし、未だに信じられんわ。


 人前に出慣れてないのか、カミカミで羞恥に悶え泣きそうになってるこの子が、メリッサさんより20弱もレベルが上の猛者とは。


 先日の森では、隠密系スキルを持っていないながらも気配の消し方は中々のものだったし、この後ろ姿や歩き方を見る限りそれはしっかりと訓練された者だというのは一目瞭然だ。


 先日の森でのことや、この足運びだけを見ていれば、それも頷けるんだけど……どっちがこの子の本当の姿なんだろうね?


 そうこうしているうちに、冒険者ギルドのギルドハウスが見えてきた。


 建物の外にまで聞こえてくる喧騒は、扉を開け中へと足を踏み入れると、まるで質量を持ったかのようなものへと変わる。


 いやはや、やっぱりこの時間帯は賑わってますねぇ。思った通り、皆さん掲示板に釘付けのご様子。


 仕事熱心なのは良きことです。やはり働かざる者食うべからず、他人のことよりも自分の食い扶持稼ぐほうが大事ですよね。


 その様子を尻目に、僕はささっとリコリスちゃんの案内のもと、二階への階段へと向かっていく。


 途中『ワイルドローズを手篭めにした奴だ』だとか『アンナさんを独り占めしやがってぇ』だとか『あの野郎、リコリスちゃんまで泣かせてるぞ』だなんて怨嗟の声が聞こえてきた気がするが、そんなのは気のせいなのである。


 気のせいったら気のせいなのだ。


 僕的には三つとも断固抗議したいところではあるが、あれらは幻聴なので僕に成す術はない。


 唯一の対抗手段としては『アーアーキコエナーイ』と顔文字チックに耳を塞ぐくらいだろうか。


 はてさて、そんなむさくるしい男ども――一部女性を含む――の嫉妬は横に置いといて、僕らは三階まで上がり、とある一室の前にまでやってきた。


 うーん、なんか見たことある扉と部屋番号だなぁ、なんて思っていたら、扉の向こうには僕と同じくらいのと倍くらい大きい黄色(警戒)が其々ひとつに緑色(友好)がひとつ、合計三つのマーカー。


 おーいぇー、あははは、この配置は全くもって嫌な予感しかしないなっ。


 予想される中でも、一番メンドくさい状況になりつつあって、半ば諦めの境地の中、僕は半眼で天を仰いだ。


 後ろから付いていっているので仕方の無いことだとは思うが、悲しいことにそんな僕の心中などお構い無しに、背筋をピンっと伸ばしたリコリスちゃんが扉をノックしていた。


「リコリスです。冒険者、ハルト様とその使い魔さんたちをお連れしました」


 お、今回は噛まずに言えたみたいだ。


 さっきはいきなり泣かれて戸惑ってしまったものの、噛み噛みでぷるぷる震えているリコリスちゃんはちょっと不謹慎で可哀想ではあるが、まるで小動物を見ているようで意外とほっこりするんだよな。


 現実逃避するにはもってこいだ。


『うむ、入ってもらってくれ』


 ぅん? 扉越しに聞こえるこのハスキーな感じの声は……あー、ヌルさんか。


 確かにこの気配には覚えがあるなー。


 リコリスちゃんの羞恥に染まった顔を思い出して、この現実から目を背けたかったが、そう上手くはいかないようだ。


 改めて現実に目を向けるとしよう。


 このギルドハウスに用があって緑色(友好)マーカーを示してくれるのは、ギルド関係者、そして全ての冒険者を含めても、今この街にはお一人しかいないので、これは確定。


 んで、小さい方の黄色(警戒)マーカーがヌルさんだとすると、大きい方の黄色(警戒)マーカーは……あーうー、まーじーかー。


 初めて気配を捉えた時は、本部とやらのヌルさんの上役(うわやく)さんでも出張って来たか? とも思ったんだけど、こっちも見知った気配だったわ。


 はい、嫌な予感の中でも一番メンドくさいパターンが的中でございます。


 さーて、どーすっかなー。取り敢えず、革鎧とクレイモアを装備してきた僕、ぐっじょぶ。と褒めておこう。


 あとは、向こうの出方次第かなー。


 出来れば、乱闘沙汰にはならないことを祈るっ。


 流石にそうなってしまっては、言い訳出来ないからなぁ、色々と。


 それでは、改めて覚悟を決めて参りましょうか。


「失礼します」


――しっつれーしまー


「しつれい、しまぅ?」


「…………失礼します」


 改めて覚悟を決め、いざ足を踏み出そうとしたところで、リコリスちゃんに続いて聞こえてきた、ラピスとステラのちょっと気の抜けた挨拶に、僕は毒気を抜かれてしまった。


 色々と考え事してたせいで、最後尾になった僕が悪かったとはいえ、まさか身内に出鼻を(くじ)かれるとは思わなかったよっ!

ここまでお読みいただきありがとうございます。

誤字・脱字・矛盾点・説明不足・わかりにくい表現等のご指摘いただければ幸いでございます。

ただ、作者ガラスのハートでございますれば、柔らかい表現でお願いいたします。

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