第五十六話
かなり短め。ご容赦を……。
それでは第五十六話、始まります。
五ノ鐘が辺りに鳴り響いてから体感で一時間ほど経った頃、割り当てられた作業をサクッと終わらせた僕は、汗水滴ながらひーこら言っている先輩たちを尻目に、依頼完了のサインをいただいて商館へと戻ってきた。
商館内で行われる主だった商談は午前中がメインということもあって、昼下がりとなった今時分では館内の熱気も下火となっており、目につく人の姿は疎らである。
だがそれでも幾つかのブースでは、にこやかな笑顔を貼り付けた商人たちが穏やかな声音で商談を続けているようで、時折含みのある小さい笑い声が聞こえてきていた。
商談が思いのほか長丁場となってしまった疲れからか、売り手と買い手の条件が纏まらないせいなのかはわからないが、遠くからでもわかるくらい薄ら寒い空気を垂れ流してくるのはカンベンしてもらいたい所だ。
まあ、ここに来れるような人たちは何らかの立場がある人たちが殆どらしいので、声を荒げるようなこともなく基本的に皆御行儀は良いし、この街一番の大商会の本拠地ということもあって、警備もしっかりしている。
故に安全ではあるのだが、ああいった黒いオーラについては対象外らしく、警備の人も時折様子を伺っては辟易したような顔をしていた。
まあ、少しでも有利な取引にしたいと思うのは商人の性であるとはいえ、流石にもうちょっと周りを慮っては頂けないだろーか。
ここではそんなことは日常茶飯事なのだろうけど、ウチの娘っ子たちがこの階に居たとすると、情操教育に宜しくない。とっとと回収しなくては。
ということで、ウチの娘っ子たちは何処に居るのかなっと。
商談中ともなれば、あからさまに覗き込むのは失礼に当たるので、それぞれのブースをちらりと視界の端で確認する程度に留めながら、館内を練り歩いていく。
半分程度確認し終わったところで、ふと視線を前方へと向けると、受付に座るお姉さんと目が合い、ちょいちょいと手招きされたのでそちらへと向かった。
「どうされましたか?」
「あーっと、その、割り当てられた仕事が終わりましたので、ウチの子たちを回収しに来たんですけど」
そう言いながら、僕は完了サインが認められた依頼書を掲げる。
今日のお仕事の内容は、集積倉庫へと納品された商品をカテゴリ別の倉庫へと振り分けることだった。
それに加えて、今日は作業員の人数がいつもより多かったせいなのか、僕に対する監督役のおっちゃんの監視の目がゆるゆるだったこともあって【アイテムインベントリ】が大活躍。
【アイテムインベントリ】のスペックを十全に活かせば、一度の往復で事足りてしまうのだけれども、流石にそれをしてしまうと作業内容に対して掛かる時間が短すぎて不審がられてしまうので、適度に往復していた。
ポーションのことといい、先日の森でのことといい、既にボロが出始めている感は拭えないものの、生活基盤はまだまだ安定していないし、元の世界への帰還方法の調査も手を付けられていない状況で、行動の制限がされるのは避けたいということもあって、出来ればまだ目立つことは控えておきたい。
とはいえ、道場で鍛錬をしなくなってから三年も経つと、基礎体力はガタ落ちしているうえに、ぶっちゃけ何十往復もするのはメンドくさいし疲れる。
【強化魔術】でドーピングすることも考えたが、商品は1メートル四方の木箱に詰められているものが主なので、積み重ねても持てることは持てるが、視界が確保出来無くなるので、一度に持てる数はあまり変わらない。
だが【アイテムインベントリ】ならば、収納時と排出時に監督役の目を誤魔化さなければならない、という条件はあるものの、今日のような仕事内容ならば制限はあって無いようなもの。
故に下級冒険者向けの仕事――安全な街中での力仕事で基礎体力の向上を促したり、真面目に働いている姿を街の人たちに見てもらって信用を得るなど――としては少々反則じみてはいるが、スキルのスペックを把握するという建前で自身を正当化して、楽させてもらってますです、はい。
あ、もちろん木箱そのままに中身だけを拝借なんて不正は一切しておりませんので、安心してください。
まあ結論としては、幾らか制限を設けたとしても【アイテムインベントリ】って荷運び系のお仕事に関しちゃ最強だよねってことです。
「なるほど、流石ですね。この短時間で彼のサインを貰ってくるとは」
依頼書の完了サインを見てうんうんと頷く受付のお姉さま。
冒険者ギルドもそうなのだが、受付に立つのはその組織の顔となるので、容姿の整った女性が多い。
その美人さんに手放しで褒めてもらえるのは嬉しいが、ちょっとズルをしている自覚もあって、僕としては少々気まずいものがある。
なので、流れを断ち切るべく、早々にラピスたちの居場所を教えてもらうことにしよう、そうしよう。
「あはは、ありがとうございます。ところでウチの子たちがどちらに居るのかご存知でしょうか?」
「え? ああ、はい。確かスライムと銀妖精の女の子ですよね。その子たちでしたらお嬢様と一緒に二階の第三応接室にいらっしゃると思いますよ」
そのまま上がっていいとのことなので、受付のお姉さまにお礼を言って、僕は二階へと上がっていく。
幾つかの部屋の前を通り過ぎて、目的の第三応接室と書かれたプレートが掛かっている扉の前へと辿り着いたので、控えめにノックをすると嗄れた声が返ってきた。
「誰じゃ?」
「えと、冒険者のハルトです」
「おお、ハルト殿か。入ってきて良いぞ」
「失礼します」
入室の許可が出たので、出来るだけ音を立てずにそっと扉を開ける。
僕の予想が正しければ、この時間は……っと、ああやっぱりね。
室内に入ると、そこには大きめのソファーの上で肩を寄せ合って、幸せそうな顔でお昼寝しているミィナちゃんとステラが居た。
その天使たちの寝顔を見てほっこりしていると、ローテーブルの上でふるふる踊っていたラピスが、結構な勢いをつけて僕の胸元へと飛び込んで来たので、がっちりとキャッチ。
――おかえり、あるじ
「はい、ただいま」
――らぴすねー、きょうもちゃんとごえーできたよ! えっへん!!
「うんうん、そっかそっか、ちゃんと出来たか。偉いぞー」
与えられた任務を完遂出来たと胸? を張って報告してくるラピスへのご褒美として僕は両手に魔力を薄らと纏わせる。
――んんーーー!!
すると間髪入れずにその魔力を取り込んだラピスが歓喜にその身を捩らせた。
ふふ、愛い奴め。
「ほっほ、使い魔たちとの関係は変わらず良好のようじゃの、結構結構」
ラピスの反応の良さに再びほっこりとしていると、二人の天使たちの斜め前のソファーに座っていたお爺さんが品のいい笑い声を挙げる。
「あ、すみません会長さん。お世話になってます」
「ほっほ、よいよい。こっちこそ孫が世話になっているでの」
ラピスの突撃で挨拶が遅れてしまったにも関わらず、特に気にした様子のないご老人。
今はお孫さんであるミィナちゃんが目の前にいるので、好々爺然としているが、その実態はここロダン商会の現主、バダム・ロダン商会長なのである。
このご老人、現在は一線を退いて実務の大半をケヴィンさんに任せてはいるが、未だにこの人が取り仕切らないと纏まらない大商いがあったり、支配階級とも太いパイプを持っていたりと、このディアモント帝国で生きていくのであれば、絶対敵に回してはいけない一人だそうな。
……ん? 自分で言っててなんだけど、つい最近どっかで聞いたことがある名前のよーな? どこでだったっけか…………ぅーん、思い出せん。
週一投稿なのにチキンレース状態が解除されない(泣)。
文章が浮かばないってのもあるけど、しっかり書き上げる時間を確保せねば。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
誤字・脱字・矛盾点・説明不足・わかりにくい表現等のご指摘いただければ幸いでございます。
ただ、作者ガラスのハートでございますれば、柔らかい表現でお願いいたします。




