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第五十四話

かなり短め&内容うっすいです。申し訳ありません。


それでは第五十四話、始まります。

 間も無く四ノ鐘が鳴ろうというころ、冒険者区を抜けて商業区へと向かい、中央にほど近い場所に建ち並ぶ大きな商館へと僕らはやってきた。


 ここが本日の仕事の依頼元であるロダン商会、その本館だ。


 ロダン商会の歴史は古く、それこそこのルセドニが『街』としての形が整う前から続いている。


 立ち上げ当時は需要に合わせ、食料や武器防具そして魔物の素材を扱う小さな商会であったが、今となってはそれらに加え生活雑貨や調度品なども扱う総合商社のような、ルセドニの街でも一、二を争う大商会。


 またロダン商会はディアモント帝国帝都だけでなく、帝国国内の大抵の主要な都市や街に支店を出しており、その名はこの大陸で商いを行うものであれば、少なくとも一度は耳にしたことがある、というほど。


 そういったこともあって、この商会と取引出来るのはその道でも信用と実績を積み重ねてきた商人たちであり、入口から建物の中を覗き込めば、衝立で幾つもに遮られて設けられた商談スペースと思われる場所で、身形のいい商人たちが静かな腹の探り合いやら舌戦やらを繰り広げていた。


 また、そんな一流どころの商人たちを相手にしている大商会からの仕事ともなれば、例え冒険者たちに向けて出された荷運びなどの単純な力仕事であっても、信用と信頼そして品格が必要なのである。


 だからといって、そこの男性職員さん、そんな不審人物を見るような目を向けてくるのは止めて欲しいところなのです。


 そりゃ確かに、ステラはともかく僕が着ているのは清潔ではあるものの、ただの『ぬののふく』と何の変哲もない革の肩掛けカバンを引っ掛けているだけであって、ここの仕事を請けられるような品のいい服装に身を包んでいるワケではないのは百も承知だ。


 だがしかし! 依頼書にゃ四ノ鐘が鳴るまでにココに来いって書いてあるんですよねぇ。


 それもこれも、僕の立場がかなりイレギュラーなことが起因しているので、あまり強く文句も言えない。


 とはいえ、ここで男性職員さんと無言で見つめ合ってても埒があかないし、そんな趣味も当然無いので、取次を願うとしよう。


「あー、坊主? ここはオメェさんみてぇなのが来るトコじゃねぇんだが」


 と、思ってたら出鼻を挫かれました。


 えっと、どうしよう? この数日間で何度かここの仕事を請けたことはあったが、その時は毎回正面奥の受付に座っているお姉さんに取次をお願いしていたので、こんな箒と塵取を手にしてあからさまに『オレはこんなことしにココに入ったんじゃねぇ』とでも言いたげな不満顔をした人に絡まれることは無かった。


 さりとてここでこのニィちゃんを無視するわけにもいかず、どうしたものかと逡巡していると、(まなじり)を吊り上げたニィちゃんの後ろにぬぅっと人影が現れる。


「おい、聞いてんのか? ここはろ……ぶぁんぶふっ!!」


 その人影はニィちゃんが何かを言い切る前に、振り上げていた手を振り抜き、ぱしーん! という小気味いい破裂音が辺りに響き渡った。


 後頭部を(したた)かに引っぱたかれたニィちゃんが、箒と塵取を取り落とし、頭を抱えながら蹲る。


 それを見ていたステラが舌を突き出し、痛そうに顔を(しか)めていた。


 あれ、思いっきり舌噛んだな。ちょー痛そう。


「あにしやぎゃ……あ、あにぇしゃん! にゃんじぇ!?」


「あに言ってんのか、わっかんないわよ。つーか、アンタ何サボってんの? アタシは表の掃除してこいって言ったわよね?」


 後頭部を抱えながら怒りの表情を顕に勢い良く後ろを振り返ったニィちゃんだったが、そこに居たのはいつも受付に座ってにこやかに対応してくれていた、妙齢の女性職員さんだった。


 この女性職員さんのほうが立場が上なのか、不満顔のニィちゃんの勢いが急速に萎んでいく。が、若干顔が赤いの何故なんだろうか?


「そ、そりは、このガキぎゃ……」


「あーハイハイ。こっちはいいから、とっとと行ってきなさい」


 と、女性職員さんが溜息とともに、まるで犬を追い払うようかのように手を振る。


「…………ぅす」


 それを受けたニィちゃんは憮然としながらも、箒と塵取を拾って、何故か一度僕のことを睨みつけてから、立ち去った。


 ふむ。なんだろう、この言いようのないもやもやした感じは。絶対何か勘違いされた気がするのは、気のせいだろーか?


 そんなことを考えていると、女性職員さんが姿勢を整え、折り目正しく一礼。


 そして顔を上げると、そこには見慣れた微笑みを浮かべていた。


「商会の者が大変失礼いたしました。改めまして、本日のご要件をお伺いしても宜しいでしょうか?」


「あ、はい。えっと、仕事の依頼を請けて参りました。これが依頼書です」


 女性職員さんの変わり身の速さに若干戸惑いつつも、革カバンから依頼書を取り出して、手渡す。


「はい、承りました。依頼を請けていただき、ありがとうございます。それではご案内しますので、こちらへどうぞ」


 そう言って女性職員は僕たちを先導するように、商館の中へと入っていき、僕らもそれに続いて行く。


 階段を昇り、一番手前の応接室らしき部屋へと招かれ、ちょっと固めの長ソファーへ僕らが腰を下ろすと、目の前のローテーブルへお茶を三つ置いた女性職員さんが、再び折り目正しく一礼。


「では取締役を呼んでまいりますので、こちらで少々お待ちください」


 その言葉を残し退室する女性職員さんの後ろ姿を眺めながら、無星冒険者にしか過ぎない僕に対して、この丁寧過ぎる対応について考察してみた。


 まず、そもそもな話、ロダン商会ほどの大商会が出す仕事の依頼が請けられるのは、最低でも二ツ星で、多いのは三ツ星である。


 そのように雑用依頼であるにも関わらず、受注資格が定められている最たる理由は多数の品目や希少かつ高価な商品を扱うことがあるため、信用するに十分な人物、信頼に足る人物である、ということが重要視されるためだ。


 そして、冒険者ランクとは腕っ節の強さといった戦力の指標であると同時に、依頼成功率などに起因した、冒険者個人またはパーティーに対する信頼と信用を表すバロメーターでもある。


 そういったこともあり、本来であれば無星冒険者である僕には、ここの仕事を請ける資格は無い。


 だがそこは蛇の道は蛇とでも言うのだろうか。アンナさんが裏から手を回したようで、ギルド本館で受注手続きをすれば雑用依頼に限り、信用と信頼の面については冒険者ギルドが保証してくれる、らしい。


 まあ、それもこれもワイルドローズの皆さんの窮地を救い、アンナさんと引き合わせてくれたというコネであり、また依頼に失敗すれば彼女らに迷惑が掛かると思えば、気合も入るというものだ。


 そして、ロダン商会の仕事は、仕事内容の割には報酬が良い――本来は二ツ星、三ツ星冒険者が請ける依頼であるので、無星の僕が請けられる依頼からすれば当然ではある――ので、僕も何度かお世話になっている。


 だが、以前は受付で依頼書を見せたあとは『どこそこに行って、詳しい仕事内容は現場監督している者にお尋ねください』で終わっていたのだが、この数日は今日のように態々応接室まで通した上に、商会の偉い人が確認しにくるのだ。


 この変化が現れた切っ掛けは恐らくレッドーガの討伐。


 その前後で明らかに対応が変わっていたので、まず間違いないだろう。


 そしてここでも恐らくアンナさんが関わっていると思われた。


 まあワイルドローズの皆さんでも手古摺るような魔物を単独撃破、しかも素材の全てを完品で持ち帰ることが出来る。


 信用と信頼の面をギルドという組織が保証していて、実力も示した冒険者を囲う、まではいかなくとも懇意にはしておきたいと考えたのだろう。


 そう評価してもらえるのは悪い気はしないが、過度な期待はしないでもらいたいものだ。


 僕自身はそんなに強くはない。


 確かに【ポイントコンバーター】なんてチートスキルや、多くのスキルを持ってはいるが、如何せん実戦経験は少ないのだ。


 それはラピスやステラにも同じ事が言える。


 いくらレベルやステータスが高くても、経験に裏打ちされた強さにはどう逆立ちしても勝てないのだ。


 それは一昨日の一件で身に染みていた。


 ヌルさんはスキル構成からして正面からまともに()り合うタイプでは無さそうであったが、もし戦闘になったならば良くて相討ち、左右に隠れていた二人が参戦してきたら、まず勝ち目は無かったであろう。


 あの時は、後ろに結界が張ってあり、万が一の時は結界内に逃げ込むつもりで、呼び出しからの待ち伏せという状況であったので、虚勢を張っていたに過ぎないのである。


 レッドオーガの時は不意打ちとゴリ押しでどうにかなったが、次も同じように上手くいくとは考えないほうがいいだろう。


 メリッサさんたちが帰ってきたら、実戦形式の稽古もつけて貰いたいものです。


 そんなことを考えながらお茶を啜っていると、軽いノックの音が鳴り、一拍遅れて扉が開かれた。


「すみませんね、お待たせしてしまいましたか?」


 そう言って入ってきたのは、気品があり質の良さを伺わせる服装に身を包んだ三十代半ばくらいの、ナイスミドルな男性。


「いえいえ、こちらこそいつもお世話になってます」


 この男性こそが女性職員が言った、ロダン商会の取締役にして次期会長と目されているケヴィン・ロダンさんであった。

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