第四十八話
言い訳はしないっ
ただ単純に時間通りに書き上がらなかっただけである!
……アッハイごめんなさい。
定刻に投稿出来るようガンバリマスです。
それでは第四十八話、始まります。
レッドオーガの皮がカウンターの上に広がると、革加工工房の親方であり店主でもある年若の猫獣人、テレサさんの刻が止まった。
ザ・ワー○ド! ……ちゃ、ちゃうねん。ちょっと言ってみたかっただけやねん。そんな冷たい目で見んといてや。
なんてお巫山戯は置いといて、おーい、もしもーし? 瞬きはともかく、息くらいはしてくださいよー。
トリフィラさんもいつまでもドヤ顔なんてしてないで、何とかしてくださいってば。
ってか、何でトリフィラさんがドヤ顔してんですか。
ちょっとメリッサさん、助けてくだ……ああ駄目だ、既にこちらへの興味を失って、コーデリアさんオーリンちゃんと一緒に小物入れなんかを物色してる。
はてさて、困りましたぞ。
このあともちょっとした道具を揃えたいので、どうにかして早々にテレサさんには復活してもらいたいのだけども。
援軍にはまったくもって期待出来ない中、そんなことを考えていると、目をカッと見開いたテレサさんの瞳孔がリアルにゃんこのように縦長いものへときゅうっと細まる。
「え? は? ちょ、ちょっと待つにゃ! これはもしかして……」
おぉ、漸くテレサさんが再起動してくれた。
再起動した直後は多少戸惑っていたものの、それからすぐさま立ち直ると慣れた手つきで目の前に広げられた赤銅色の皮を手に取り、その状態を確かめている。
「にゃ、大鬼の皮によく似てるけど色合いが……それに適度に柔軟性があるけど、堅さは大鬼のとは比較ににゃらないほど堅いにゃ」
真剣な目付きをしたテレサさんがレッドオーガの皮の表面を撫でたり、引っ張ったりしながら何やら小さな声でぶつぶつと呟いていた。
先ほどのやる気が微塵も感じられない態度からすると、ちょっと信じられないくらい真面目な表情ではあるのだが、まるで何かに取り憑かれたようである。
えーと、これ大丈夫なんかな?
出来るだけ表情に出さないように気を配りながら、内心でそんな心配をしていると、そっと身を寄せてきたトリフィラさんが小声で囁く。
「あー、まあ放っといても大丈夫よ。この子、口も態度も悪いし、お子様に間違えられるほどひんそーな身体つきしてるけど、斥候役の能力と職人としての腕だけは確かだからね…………ふぅ」
あふん、やめて、耳に息吹きかけないでくださぃ! ぞくぞくしちゃいますですよぉ!
などとドヤ顔に飽きたトリフィラさんに遊ばれていると、レッドオーガの皮を検証しながら、形のいい猫耳をぴくぴくと動かしていたテレサさんがギロリと僕たちを睨みつけていた。
「トリフィラ、全部聞こえてるにゃ。斥候役は身軽なのが一番の武器なのにゃ。尻と胸にそんな脂肪の塊付けてちゃ邪魔なだけなのにゃ。細工するときも、胸にそんな下膨れがあったら手元が見えなくて困るのにゃ」
「そうねぇ。まあ確かに、重くて邪魔に感じる時はあるし、手元足元が見えないことで困ったことも多いわね。それに男どもの視線は本当に鬱陶しいわ。けど、やっぱり女としては身体のラインにメリハリは必要よね?」
とか言いつつ、肩を組みながら押し付けて来ないでください。僕的にはご褒美ですけど、ステラが頬を膨らましてぷんすこ怒ってますので。
てか、やっぱりバレテーラ。そんなに露骨にしてた覚えは無いんだけど、気付かれてるもんだなーとしみじみ。
しかーし、トリフィラさんはああ言ったが、ここで僕は敢えて苦言を呈しますぞ! 全ての男がそればかり見ているワケではないということをっ(キリッ
ふにょん。
ぉっほぅ、ノーガード戦法の こうか は ばつぐんだ!
「ふん、そんなもの、ウチには必要にゃいにゃ。それに未だに生娘のままのトリフィラが言ったって説得力にゃいにゃん」
「ちょぉ! あ、アンタ何てこと言ってくれてんのよ!!」
その一言を切っ掛けにして、カウンターを挟んでは掴み掛らんばかりの勢いでお互いに身を乗り出し、罵詈雑言が飛び交うにゃんこ大戦争が勃発。いやまあ片方は獅子だけど、同じ猫科だしね。
とは言ってもお互い口だけで、手を出すような雰囲気ではないのが救いかな?
まあトリフィラさんもステラさんも、かなりの高レベルであり、大人なのでそこは自重しているようで安心した。
しかし、ここ数日行動を共にしていたことで、トリフィラさんが歯に衣着せぬ物言いをするのは知っていたけど、ここまでじゃ無かったと思うんだが……というか、もう既に悪口の言い合いになってしまっている。
あれかな、同じ猫科の獣人同士ってことで、遠慮が無いのかね?
さて、こっから先は聞かなくてもいいかなー。ステラもお耳塞いで待ってましょうーね。
僕? 僕は無心ですよ、無心。女性の言い争いに男が首を突っ込んでもいいことなんかありゃしない、あるわけがない。あっはっは。
最早揚げ足取りでしかない罵詈雑言が飛び交う中で無我の境地に居座ること数分、目の前のにゃんこ二匹、ともに文言が尽きてきたかなと思ったところで、そろそろ脱線から軌道修正がしたい。
「がるるっ!」
「ふしゃーっ!」
と思っていたら、既にお互い言葉は尽きていたようで、威嚇合戦に移り変わっていたようだ。
完全に悟りの域に入っていたので、気付かなかったよ。
「あのー」
「あによ!」「なんにゃ!」
僕が間に入るように声をかけると、すかさず四つの眼が二対の鋭い視線となって、僕へと突き刺さる。
その瞬間、コンマ数秒だけ威圧感を感じたのだが、すぐさま以前にも一度だけ感じたことがあった、何かを弾き返す感覚が僕の中に走った。
どうやらお二人の高ぶった感情のまま向けられた意識に対して【状態異常無効】先生がお仕事だと判断して対応したようだ。
んー、何故ここで【状態異常無効】先生がお仕事を? いやまあこんなピリピリした空気をぶつけられれば、下手したらちびってしまう自信はあるけど、何故いまなのだろう?
出来ればアンナさんとか、アンナさんとか、アンナさんが怒っている時にお仕事して欲しいと思うのは、僕の身勝手なのだろうか?
閑話休題。
ここいらで話を進めてもらわないと、僕としても困ってしまうのでにゃんこ大戦争には無理矢理にでも終結してもらわねば。
視界の端に見える、メリッサさんたちも遠巻きに静観しつつも辟易した顔していますし。
「えっと、そろそろ元の話に戻ってもらってもよろしいでしょうか?」
「…………ちょっと待つにゃ」
テレサさんは僕の言葉を受け、カウンターに広げたままのレッドオーガの皮へと視線を落とすと、ちょっとバツが悪そうに眉間に皺を寄せながらそう呟くと、カウンターへと乗り出していた身をストンと下ろす。
瞑目し、大きくひとつ息を吐いてから、再び目を開くと、テレサさんの顔は一瞬で職人の鋭いそれへと戻っていた。
「……ふぅ、申し訳にゃい、待たせたにゃ。ところでコゾー、いやハルトと言ったかにゃ? 先に言っておくけど、ウチは素材の出処を詮索するつもりはにゃい。ウチは工房だから素材が持ち込まれれば、客の要望に沿った物を仕立てるだけにゃ。けどひとつだけ確認させてもらうにゃ。この皮は赤大鬼の皮で間違いにゃいか?」
この道何年かは知らないが、流石はステータスの身分に革加工職人と表示されるだけはある、見事な観察眼。
僕がその通りですと答えると、テレサさんは難しい顔をしながら、しかし興奮しているのか猫耳をぴくぴく動かしながら、腕組みをする。
「にゃるほどにゃ。それで? この皮でウチに何を造って欲しいんだにゃ?」
と、テレサさんから問われ、暫し考え込む。
ふむ、そうだな。まずは当初の予定通り、上半身を保護するための革鎧。これは動きやすさを優先して、急所である胸と腹部を重点的に守れればいいだろう。
肩当はあってもいいが、大剣を振り回すときに邪魔にならないようにして欲しい。
あとは肘当と腕当だな。それと手甲まで付けると手首の可動域が狭まりそうなので、大剣を握った時の滑り止めとして、みんな大好き指抜き手袋! これは外せない!!
……こほん。下半身はどうしようか?
草摺(鎧の胴の裾に垂れている大腿部を守るため付属具)は止めておくか。あれがあるば防御力は上がるには上がるとは思うけど、動くときに音が鳴って喧しいというのと、若干走りにくいのだ。
まああとは素直に膝当、脛当、踝のちょっと上まで覆う形の長靴で十分といったところか。
それと、さっき買ってしまったが、ステラのジャケットもこの際だから、拵えておこうかな。ステラは革鎧は必要無いと言っていたけれど、コーデリアさんたちが選んだジャケットが素直に着ていたので、ここで作ってもらえば、レッドオーガの素材は珍しいらしいので、僕とお揃いと言えなくもない。
古着屋で買ったやつは予備として【アイテムインベントリ】にでも突っ込んでおけば荷物にはならないし。
「ふむふむ、にゃるほどにゃるほど。まあ一般的な動きやすさと防御力を両立させたタイプの冒険者によく見られるスタイルだにゃ。そっちのちびっこのジャケットも了解だにゃ」
僕の要望をひと通り聞きながらテレサさんは頷いていたが、僕の説明が終わるとその動きを止めて、首を傾げる。
「それで終わりかにゃ? でもそれだと、随分素材が余るにゃ。余った分はどうするつもりかにゃ?」
その言葉とともにテレサさんの目の奥が光った。
言いたいことは分かる。だが、それは既にアンナさんと約束してあるので、諦めてもらうしかない。
「あー、その、余った分は冒険者ギルドに引き取ってもらうので、申し訳ありませんが……」
「にゃ! そうにゃのか!! でも切れ端くらいにゃら……」
アンナさんも言っていたけど、切れ端大人気だな。素人の僕にはちょっと使い道が想像出来ないのだけれど、切れ端にどんな使い道があるというのだろう?
まあちっぽけな切れ端にも、素人にはわからない、玄人なりの使い道や価値があるのかね。
それはともかく、アンナさんとの約束を反故にするわけにもいかない。
そんなことをしたらと思うと……おおぅ、背筋が!
はっ! 誰も居るはずがないと分かっていても、思わず咄嗟に後ろを振り向いてしまう。
が、そこにある工房の出入り口は閉まっていて、人影は見当たら無い。ほっ、そ、そうだよね、居るわけがないよね。
【気配察知】にだって反応は無かったし、あの様子じゃ誰のとは言わないがまだまだ色んな後始末が残ってるっぽかったし、いくら問題児の素質有りとはいえ、アンナさんほどの立場となれば、無星の冒険者ひとりに掛かりっきりというわけにはいかないだろう。
そんなことを考えながら、安堵しつつテレサさんへと向き直る。
「すみません。それについてはアンナさんと約束してしまっているので」
「にゃんと! アンナとかにゃ!! くぅ、流石冒険者ギルドの裏番と名高い女にゃ。目敏いにゃ」
裏番て……いや、うん、まあ、あの女傑はサブマスターって役職らしいし、今までに見せられた姿を考えると納得出来ることは多々あるが……深くは考えないでおこう。そうしよう。
「はぁ、そういうことにゃら仕方にゃいにゃ」
僕の口からアンナさんの名前が出たことで、どうやっても余った素材の引き取りが不可能だと知ると、項垂れてがっくりと肩を落とすテレサさん。
「えーと、その、なんです、アンナさんには僕の方から口添えくらいはしておきますよ」
その姿にちょっと罪悪感を感じて、ついそんな言葉が口をついて出てしまった。
何の力も後ろ盾も無い無星の僕が何かを言ったところで、それがどれほど効果があるのかは不明である。
だが、あの計算高いアンナさんのことだ。
専属担当をしている冒険者であり、尚且つ素材提供者でもある僕からの口添えであれば、まあ多少は聞く耳を持ってくれるのでは無かろうか。
最悪でも取り付く島が無いほどってことは無いだろう……無いといいなー。
と、遠い目をしながらそんなことを考えていると、目を見開き、再びカウンターから身を乗り出したテレサさんが目の前に居た。
「それは本当かにゃ?!」
「え、ええ、まあ、はい」
その勢いに若干押され気味に僕が頷くと、最初に見せた営業スマイルとは違い、花が咲いたような満面の笑みを浮かべるテレサさん。
「そーかそーか! 最初見たときは貧弱で頼りなさそーで直ぐにでも魔物のエサになるんじゃにゃいかと思ったけど、中々見所がある奴だにゃ、おまいは」
その体勢から小柄なその身体のどこにそんな力があるのだろうと思えるほど強い力で、バシバシと肩を叩かれる。
うーん、最初の態度からすると、なんともまあ気持ちのいいほど手のひらを返したような評価を頂いた。あと結構痛いのでそれ、止めてください。
僕の祈りが届いたのか、テレサさんはご機嫌な様子で、元の位置へと戻ると、再びレッドオーガの皮を手に取りうっとりとした表情で手元を見つめている。
「しっかし、見れば見るほどいい状態だにゃぁ。解体した職人の腕もいいんにゃろうけど、それよりも皮本体に傷が少ないのがいいにゃ」
それについての予想はまあそんなに難しくはない。
そもそもレッドオーガの進化前の下位種であるオーガですら、あの場所よりもっと奥地が生息域だという。
であれば、オーガの生息域より随分と浅いあの場所では、レッドオーガに傷を付けられるような相手は皆無だった、と考えられるからだ。
ステータスも一部はレベル90台のドガランさんに匹敵するほどだったし、さもありなん。
「ふんふん、『割り』はしてあるから問題にゃいにゃ。あとは『鞣し』と『漉き』で厚さを整えれば、直ぐにでも取り掛かれるにゃ」
そうこうしている内に、テレサさんの検分が粗方終わったようで、いそいそとレッドオーガの皮を纏めて、小脇に抱えて、とことことカウンターの奥へと向かっていた。
そのテレサさんが奥に続く扉の前で一旦立ち止まると、こちらへと振り返り、手招きされる。
「ほれハルト、そんなとこでぼさっとしてにゃいで、こっちに来るにゃ」
「ほへ?」
「にゃに間抜け面さらしてるにゃ。フルオーダーなんにゃから、隅から隅まで計って、おまいを丸裸にしてやるにゃあ!」
あーはい、お手柔らかにお願いしまーす。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
誤字・脱字・矛盾点・説明不足・わかりにくい表現等のご指摘いただければ幸いでございます。
ただ、作者ガラスのハートでございますれば、柔らかい表現でお願いいたします。




