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第四十七話

「ぃいらっしゃいませだにゃあ!」


 うぉっ! びっくりしたぁ。


 トリフィラさんとオーリンちゃんに続いて工房の表玄関の敷居を跨いだ途端、大音量の出迎えに僕とステラは揃って一瞬びくっってなってしまった。


 先日この工房に訪れたときは、僕ら以外のお客が居らず静まり返った店内に、猫耳を生やした二十歳くらいの青年がカウンターに頬杖をつきながらぶすっとした表情で店番をしていたので、油断していたよ。


 店内は明り取り用の窓がいくつかあるが、まだ日が高いためか備え付けられている明かりの魔道具は起動しておらず、奥に設置されているカウンターまでは光が届いていないようだった。


 少し薄暗いと感じる店内、その奥にあるカウンターからひとつの人影が身を乗り出すようにしてこちらを注視しているのが覗える。


 トリフィラさんはお構いなしにずんずんと普段通りに店内に足を踏み入れていたが、店の奥に見える人影、その頭があると思われる空間に爛々と輝いている二つの瞳だけが浮かび上がっていて、ちょっと怖い。


 だが、ここで立ち止まっていても仕方がないし、後ろもつっかえていることもあって、僕は少し怯みながらも、意を決して歩を進める。


 二歩、三歩と店内へと足を踏み入れていくと、カウンターに乗り出していた人影の輪郭がはっきりとしてきた。


 向こう側は扉に付けられたベルの音と先ほどの大音量の出迎えの声からして、こちらの存在は既に確認出来ているはずなのだが、まるで獲物が罠にかかるのをじっと待つ狩人の如く、最後尾にいたコーデリアさんが店内に入ってくるまで、その人影は微動だにせず、口を(つぐ)んでいる。


 そして最後尾のコーデリアさんが店内に入り、扉が閉まると、それはもう待ってましたと言わんばかりに食いついてきた。


「テレサ革加工工房へようこそ、なんだにゃ! お探しのものは何ですかにゃ? 普段使いの鞄ですかにゃ? ちょっとオシャレなお財布ですかにゃ?素材も一般的なヌウの皮やちょっとお高めのジャラの皮なんかも取り扱ってますにゃ! 冒険者の方でしたら革鎧なんてのは如何ですかにゃ? 今なら暴れ(ランページ)大牛(バッファロー)の革鎧がオススメですにゃ! それ以外ににゃりますと今はちょっと在庫がにゃいので持ち込みさえして頂け、れ、ば……ってなんにゃ、トリフィラとこないだの金無しコゾーじゃにゃいか。張り切って口上挙げて損したにゃ」


 が、僕たちの姿がはっきりと確認出来る位置まで来ると、あからさまにがっかりした様子でカウンターに突っ伏してしまった猫耳と尻尾を生やした女の子。


「ちょっとぉ、随分なご挨拶じゃない、テレサ? それが折角新規客引っ張ってきてあげた常連に対する態度なのかしらぁ?」


「しんききゃくぅ?」


 トリフィラさんの言葉を聞いた猫耳少女? がその猫耳をぴくぴくと動かし、のっそりと顔だけを上げ、胡乱げな視線をトリフィラさんへと向け、次いでその視線が僕へと向けられる。


「新規客ってのはそっちのコゾーのことかにゃ? はん! その格好からしてどーせ登録したてのぺーぺー冒険者にゃ。こないだも暴れ(ランページ)大牛(バッファロー)の革鎧見て目ん玉飛び出してたにゃろ。そんなコゾーがウチの新規客ぅ? 寝言は夢の中でほざくといいにゃ。というか、こんなコゾーをまた連れてくるあたり、トリフィラもとうとうヤキが回ったかにゃ?」


 随分辛辣な評価を頂いたようです。つか見てたのね。いやはやお恥ずかしい。あの時は人里でびゅーしたてで、手持ちが無かっただけだっつの。


 というか、にゃーにゃーにゃーにゃー喧しいお嬢ちゃんだな。


 その耳と尻尾、蕩けて身動き出来なくなるまで撫で回したろか。


「へ、へぇ、随分とまぁ好き勝手言ってくれるじゃないの」


 あ、マズイ。トリフィラさん口元がひくひくしてる上に、額に何本か青筋が浮かんでる。


 獅子の尻尾、その先端にだけある毛がぼわっと膨らんでることからも、猫耳少女の言葉に相当ご立腹なのは間違いない。


 その気当たりを受けてか、猫耳少女は引き()った顔を浮かべて、がばっと起き上がる。


「にゃにゃ! ほ、ホントのことだにゃ! ウチだってこの工房を継ぐために半分引退してるようにゃもんだけど、四ツ星までいった冒険者にゃ。駆け出しのぺーぺー冒険者の稼ぎがその日暮しに毛が生えたようなもんだってのも身に染みてるにゃ」


 ほほう、お嬢ちゃんその(ナリ)で四ツ星冒険者の方でしたか。


 どれどれ? ちょいと拝見致しますよ。



―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


名前:テレサ

種族:獣人族(猫獣人)

性別:♀

年齢:23

職業:探索者(シーカー)

身分:革加工職人、冒険者(四ツ星)


状態:平常


BLv:42

JLv:18


HP:905/905

MP:261/261


筋力:73

体力:117

知力:104

敏捷:202

器用:155



保有スキル


【コモンスキル】(4/10)

・革加工:Lv5

・解体:Lv3

・気配察知:Lv4

・短剣術:Lv3


【ジョブスキル】(2/10)

・罠感知:Lv2

・罠解除:Lv1


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―



 な、ん‥…だと?


 いつ頃半引退状態になったかは不明だが、ステータスだけ見れば、どこぞのハゲよりは余程優秀な部類なのだろう。


 【革加工】のスキルについても、この年齢でレベル5に達しているということは、幼い頃からの下積みと家業を継ぐことになってからかなりの努力をしたであろうことが覗える。


 だが、しかし、しかしだ。


 身を乗り出していたとはいえカウンター越しであったし、店内は光量不足で暗がりということもあって、背格好は僕より頭ひとつくらい低く、全体的なシルエットは細っそりしているな、ぐらいしかわからなかった。


 それ故見た感じではまだ十代前半くらいかな、と思っていたのだが……特にある一部分なんかはトリフィラさんと比べると、とても慎ましやかで……


「なんにゃ? いま凄く馬鹿にされた気分にゃ」


 うひぃ! 流石に勘が鋭い。いかんいかん、ちょっと視線が露骨になってしまっていたようだ。


 気を付けねば。男のチラ見は女性には100%バレているとも言うし……ん? ちょっと待てよ、それだと今までメリッサさんたちやアンナさん、もっと遡って言えば麗華さん、朱音、花凛ちゃんたちをチラチラ見てたのもバレバレだったってこと?


 うわっ、うわぁぁぁ、もしかして、あの時折向けてくる生暖かい視線って! そういうことですかあ!!


「ともかく、だにゃ。駆け出しの冒険者にゃウチの商品はまだ早いんじゃにゃいか? ってことにゃ。ウチだって生活掛かってるんにゃから、ビタ1ゴルドだってまけられにゃいし、そもそも一ツ星にも(にゃ)れてにゃいんじゃ、街中の雑用仕事でいっぱいいっぱいで革鎧にゃんか必要にゃいんじゃにゃいのか?」


 僕が過去に向けられていた生暖かい視線の意味に気付いて、内心でテンパっているのを他所に、テレサさんがトリフィラさんへと熱弁を振るっていた。


 テレサさんの話を聞くと、トリフィラさんは先ほどとは打って変わって、腕を組みながらうんうんと頷いている。


 トリフィラさんも中々ご立派なものをお持ちなので、そんな見せつけるような格好されると、柔らかそうな双丘が強調されて……あぁ、ほらテレサさんが親の敵を見るような目で睨んでますって。


「ま、そうね。テレサの言い分も確かなんだけど、この坊やはついさっきギルドから四ツ星の内定が出たから、ちょっと急ぎで必要になったのよ。費用についても問題無いはずよ。ね、坊や?」


「ふぇ? ああ、はい、そうですね。ただ、手持ちが心許ないので、ギルド口座からの引き落としにして頂ければありがたいんですが」


 腕組みを外し振り返った途端、たゆんと揺れるトリフィラさんのそこに視線が吸い寄せられていたが、手をぎゅっと握られた拍子に我に返ったため、反応が少し遅れてしまった。


 僕の意識を戻してくれたステラはというと、トリフィラさんと僕の顔を交互に見て、次いで自身の胸の部分をぺたぺたと触ったかと思ったら何故かぷくぅっと頬を膨らませている。


 そんなに焦ることもないんじゃないかな? ゴブリンの成長は早いとは言うけれど、ステラはまだ生まれてから一年も経ってないのだし。


 それに、ささやかなのはささやかなりの良さってものが……いや、僕はロリじゃないですよ? 違いますからね? 僕は、こう、手の平に収まりきらない大きさのが……ってなに言わせんのさ! 僕の性的嗜好はどうでもいいの!! 今は僕の手持ちの素材で革鎧を拵える交渉中なの! はい、続きをどうぞ!!


「にゃ? 四ツ星に内定(にゃいてい)? そこのコゾーが? どういうことにゃ??」


「あー、まあそのへんは話すと長くなるから、また今度ね。ほら坊や、彼女がこの工房を取り仕切ってるテレサよ。んでテレサ、この坊やはアタイらの恩人でつい最近冒険者になったハルトよ」


「えっと、ご紹介に預かりました無星冒険者のハルトです。よろしくお願いします」


 僕の後ろに回ったトリフィラさんに両肩を押され、テレサさんへと挨拶すると、やはりというか何というか、さきほどよりも一層胡乱げな視線が突き刺さる。


「無星ぃ? なんにゃ、やっぱり駆け出しも駆け出しののぺーぺーじゃにゃいか。本当にこんなコゾーに必要にゃんか? ……はぁ、よくわからないことばっかにゃけど、まあいいにゃ。トリフィラの紹介だし、一応相談くらいは乗ってやるにゃ。改めて、このテレサ革加工工房の親方張ってるテレサだにゃ。まぁ、短い付き合いで終わらないことを祈ってるにゃ」


 大きなため息を吐き、カウンターに頬杖をついて気怠げにそう言ったテレサさんは、僕には微塵も興味は無さそうだ。


 流石にこの物言いにはちょっとイラっとくるぞ。午前中のギルドマスターといい、このぺたんこにゃんこといい、どうしてこう……あ、ちょっと待って、ラピス、ステラ、落ち着きなさい、どうどう。確かに僕もちょっとムカついたけど、キミらまでそんな物騒な雰囲気出さなくていいから、ね? ほらテレサさんもヤバイ雰囲気察してか、顔引き攣らせてるから。


 などと僕が必死に二人を宥めているとトリフィラさんが――恐らく、いや額に汗が浮かんでいるので確実に意図的に――その空気をガン無視して、軽い雰囲気を振りまくように、大仰に両手を広げる。


「ふ、ふっふーん、そんなこと言ってられるの今のうちよ、テレサ。これを見たらそぉんなこと言ってられないから。さぁ坊や、やぁっておしまい!」


 はいなぁ。あらほらさっさー……って何やらせるんですか。いやまあ出しますけどね。


 ってかトリフィラさん、その台詞だと本当にラピスとステラが飛び出しそうなんで、()めてもらえませんかねぇ。


 ラピスとステラを宥めつつ、担いだ頭陀袋をよっこいせとばかりにカウンター台へと載せる。


「な、なんにゃ? 何をする気だにゃ?」


 戸惑いを隠せないテレサさんは一先ず置いといて、その頭陀袋の口を開き、僕がその中身をズルリと一気に引き出すと、顔を引き攣らせていたテレサさんの表情は一転して、大きな口開けたまま時間が止まったように固まってしまった。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

誤字・脱字・矛盾点・説明不足・わかりにくい表現等のご指摘いただければ幸いでございます。

ただ、作者ガラスのハートでございますれば、柔らかい表現でお願いいたします。

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