第四十四話
書き上がったのに満足して、投稿するの忘れてますたorz
こんな時間帯に投稿するのはお初になりますが、楽しんでいただければ幸いでございます。
それでは第四十四話、始まります。
「はい、それではギルドカードをお預かりしますね。処理が終わるまで十分ほどかかりますので、少々お待ちください」
アンナさんの一発で轟沈したギルドマスターをさくっと放置して、僕たちは一階の受付まで戻ってきた。
折角出張ってきたギルドマスターを放置するのもどうかとは思ったが、アンナさんは全くもって問題無しと言うし、僕としても好感度は地の底まで落ちているので、まあいいかといったところだ。
それに僕らが部屋から出て暫くしたら、黄色マーカーの奴らがギルドマスターの付近に集まっていったから、お任せしてしまっていいだろう。
さて、レッドオーガの素材の現金化もまもなく無事終わる。
レッドオーガの皮を詰め込んだ頭陀袋を抱え直して、この待ち時間で間に次に向かいべきところをどうするかと考えていると、くいっと服の裾が引っ張られる感じがしたのでそちらへ目を向けると、木箱を大事そうに抱えたステラが憂いを帯びたようにはにかみながら、僕のことを見上げていた。
「ありがと、ございます、ますたー。母、父、兄弟、皆お帰り、です」
それだけ言うと、ステラはそっと撫でてていた木箱を差し出してくる。
僕はステラのその意図が解らず、どうしたものかと悩んでいると、ステラが再び口を開く。
「皆言ってる、です。ますたーの役に立ちたい。皆ありがと、言ってます。私ますたーの傍にいる。でも母たち核だけ、なてしまた。でも何かの役に立つ、出来る、思うです」
同族のシンパシーとでも言うのか、何かを感じ取った様子で、ステラは木箱を、その中にある姿を変えてしまった家族へと目を向けていた。
「わかった。そういうことなら、彼らは僕の方で預かっておくよ」
そう言って受け取とったはいいものの、はてさてどうしよう?
正直手持ちの魔石は唸るほどある。これらの使い道も、今のところポーション作成しかないこともあって、毎晩ポーションを作っているにも関わらず、減っていく量としては在庫の総数からすると、本当に微々たるもの。
【アイテムインベントリ】の数枠を占拠しているこれらは、大きさのこともあり、レッドオーガの魔石(中)の買取価格の事を考えると、あまり目立ちたくない僕としては、売却することもちょっと躊躇してしまう状況でもあった。
それに加えて、こちらは出処の問題を孕んでいる。
魔石(中)を持っていたレッドオーガ一体であれだけ大騒ぎしたのだ。
数個であっても、安易に市場に流してしまうと、『これは何の魔物の魔石で、何処に生息していたのか』という突っ込みが入ってくることは想像に難くない。
それに対して、この銀輝魔石の大きさ自体はピンポン玉サイズの(小)と親指の爪くらいの大きさである(極小)であり、出処もその入手経緯もギルドマスターとアンナさん、解体部の人たちは知っているはずなので、誤魔化す必要はない。
とは言っても大きさだけで判断するならば、普通のレートでは、一個あたり数千から数万ゴルドにしかならない。
まあ銀輝魔石目当てで乱獲されていた時代もあったようだし、現代ではその数も減っているようなので、通常の魔石と同じレートであるとは思えないが、それでも大きさが大きさなので、それほど買取価格が目が飛び出るほどの桁違いになることはないだろう。
冒険者ギルドが提示してくる買取価格に不満があるなら、どこかの商会にでも持ち込めば、珍しさもあって、それよりも高く買い取ってくれるかもしれないが、まあ売却するというその選択自体がありえないよね。
ステラはこの世界では天涯孤独である僕と、家族になることを受け入れてくれた。
既に魔石のみと変わり果ててしまったとはいえ、そのステラの家族だ。
僕にとっても家族同然の存在。それを金銭欲しさに売るなど、言語道断である。
しかし、役に立ちたい、か。
ふーむ、そう言われても、この銀輝魔石を消耗品でしかないポーションの触媒なんかに使うわけにもいかないし、どうしたものか。
改めて考えてみると、今の僕の魔石自体の使い道は、ポーションの触媒にすることぐらいしか無いことに気付いた。
いやまあ、魔石の用途自体は多岐に渡るのだが、今の根草無しの状態では、ポーションの触媒以外に手を出すのは少々難しいのが現状だ。
銀輝魔石となってしまった彼女らを、どのように扱うのがいいのか、少し真剣に考えてみるとしよう。
そう結論付けて、一旦銀輝魔石の入った木箱を【アイテムインベントリ】に仕舞い込み、ステラの頭を撫でていると、少し遠くのほうか、呼びかける声が聞こえてくる。
声がした方、ギルドに併設された酒場というか飲食スペースへと視線を向けると、パーティー単位で集まれるようにという配慮だろう、六人掛けのテーブルに着いていたトリフィラさんが振り返るようにして小ぶりの樽ジョッキを掲げて、手招きしているのが見えた。
同じテーブルに着いているのは、当然メリッサさん、コーデリアさん、オーリンちゃんだ。
その三人も、トリフィラさんと同じく、小ぶりの樽ジョッキを静かに傾けているようだった。
今朝はステラのひと騒動があったため、時間がずれてしまったこともあって、水瓶亭ではステラのことを相談出来る時間がなかったので、ちょうどいいかな。
そう思い、ステラの手を引いて、トリフィラさんたちが待つテーブルへと足を向け、そこへと近づくにつれ、さっぱりとした柑橘系の香りが漂ってくる。
その香りに、ギルドマスターとのやり取りでささくれ立った感情が、徐々に落ち着きを取り戻すかのように心地良い気分になってから、樽ジョッキを傾けるワイルドローズの面々に挨拶をする。
「おはようございます。いい匂いですね。皆さん、何を飲まれているんですか?」
「はい、おはようさん。これ? これはオレンリアっていう果実の搾り汁よ」
「オレンリア、ですか?」
ちょっと聞き覚えがないその果実の名前に僕が首を傾げていると、再び樽ジョッキに口をつけたトリフィラさんが、幸せそうな可愛らしい笑顔を浮かべて言う。
「そ。甘酸っぱくてさっぱりしてて、美味しいわよ? この時期になると、南の方から回ってくるのよ。坊やたちも試してみたら?」
「へえ、そんなのがあるんですか。いいですね、僕たちも飲んでみようか?」
そんなやり取りをしている間も、トリフィラさんたちが傾ける樽ジョッキに興味津々なステラへと視線を向けると、少し驚いた顔で見返してきた。
頭の上でおとなしくしていたラピスまでもが、自己主張するかのように、ぷるぷると小刻みにその身体を揺らしている。
「んじゃ、取り敢えずそこ座んなさいな」
「はい、失礼します」
一言断ってから、トリフィラさんに進められるがまま、同じテーブルにつくと、折りよく近くを通りかかったギルド職員の制服の上からピナフォア――胸当てが付いて、肩紐に大きなフリルの付いたメイド風のエプロン――を着けたウェイトレスさんらしき女性へオレンリアの果実の搾り汁とやらを三つほど注文する。
数分もしないうちに、先程のウェイトレスさんが戻ってきて、テーブルの上に樽ジョッキが置かれると、支払いを済ませる間も無く、ラピスがいちはやくひとつの樽ジョッキへと突撃していった。
その光景に呆気にとられ、ウェイトレスさん共々苦笑しながら支払いを済ませてから、その中に注がれている果汁を見やると、果汁の色合いはオレンジ色、香りも柑橘系で甘酸っぱい香りが鼻腔を擽ってくる。
ラピスが覆い被さっているものはそっとしておいて、残る二つの内、ひとつをステラの前へと置いてあげると、再びステラがこちらを見上げてきたので、頷きながら頭を撫でてあげた。
ステラは少しくすぐったそうに目を細めていたが、僕が頭から手を離すと、樽ジョッキへと向き直り、恐る恐るといったふうにそれを手に取り、鼻をくんくんと鳴らして匂いを確認してから、そっと口をつける。
ステラは一口、果汁を嚥下して、樽ジョッキから口を離すと、ほぅっと艶やかなため息をひとつ漏らす。
「美味しい、です」
「そ? 口に合ったようで、よかったわ」
ほわほわとした幸せそうな表情をしたステラを見て、トリフィラさんは優しげに微笑み、その向かいに座っているメリッサさんも慈愛に満ちた表情を浮かべていた。
一方で、メリッサさんの隣で樽ジョッキを両手で包み込むように持っているオーリンちゃんの視線は、その仕草が珍しいのか、ラピスに釘付けになっている。
ステラの向かいに座っているコーデリアさんの、ちょっとだらしないというか、ある意味ドン引きな表情は見なかったことにして、僕もオレンリアの果実の搾り汁を口に含んだ。
果汁を口腔に含んだ瞬間、柑橘系の爽やかな香りが鼻腔を吹き抜け、それと同時に舌の上には若干強い酸味を感じ、次いで柔らかな甘味が広がっていく。
うん、美味い。ちょっと酸味が強い気がしないでもないが、これは色、味ともに果汁100パーセントのオレンジジュースだな。
名前自体は聞いたこともなかったけど、よくよく考えてみると、語呂も似てるし、【異世界言語】では変換されなかったことから、この世界特有のオレンジによく似た果実なのだろう。
ラピスは飲み口に覆い被さって夢中でちゅるちゅると取り込んでいるようだし、ステラもにっこりと笑顔でこくこくと飲んでいるので、二人ともこのオレンリアの果汁を気に入ったようだ。
約一名を除き、ほっこりとした空気が漂う中、メリッサさんが居住まいを正すように咳払いをひとつたてる。
「さて、一先ずお疲れさま、と言ったところか。聞いたぞ? 今回の件、ギルマスが出張って来たらしいな?」
「あはは。ええ、まあ……」
その件に関しては、もう僕には乾いた笑いしか出てこない。
まあギルドマスターについては正直どうでもいいんだ。好感度はマイナスゲージ振り切ってるし、アンナさんにシバキ倒されたこともあって、多少は溜飲が下がっている。
今後無理難題を言ってくるかもしれないけど、そのときはアンナさんを盾にして防波堤にする予定だ。
それが突破されてしまうと、少々面倒臭いことになってしまうが、しかし今現在はそれよりも、もっと問題視すべきことがあった。
それは特殊隠密部隊なる存在だ。
彼女らは、正直言って得体が知れない。レベル自体はメリッサさんたち以上、ドガランさん以下、というなんとなく中途半端な感じが漂うものであったが、【職業】がなぁ。
実際に鑑定で確認出来たのはリコリスという少女一人だけだったが、周囲に潜んでいた他の七人も同じ【職業】だとすると、ちょっと厄介かもしれない。
荒事の経験値という部分で僕は彼女たちには確実に劣ってはいるだろうけど、それはこれでもかというほど積んだちーと級スキルでひっくり返せるとは言わないまでも、均衡するぐらいまでは持っていけるだろう。
ラピスについてはステータスの時点でもう既にお察し状態だし、【打撃耐性】スキルと【斬撃耐性】スキルを積んでいるということもあって、ラピスに対してまともなダメージソースと成り得るのは魔術くらいなのだが、それも阿呆みたいに高いステータス値でゴリ押しが出来てしまうので、ラピスについても心配はいらない。
懸念点としては、毒等の状態異常系の攻撃なのだが、そもそも魔法生物であるこの子に、そういったものが効くのか?
魔力酔いの状態異常になることはあの泉で確認したけど、毒とかはなぁ……普通に取り込んで、そっち系の特性を獲得しちゃうんじゃないのかなぁ? と思ってしまう。これは限りなく確信に近い直感がそう言っている。
そうなると、問題はステラについてだ。
ステラも名持ちとなったことと、【ポイントコンバーター】の恩恵を受けたことで、本人に自覚はないかもしれないが、そこらの冒険者程度には負けないステータスを手に入れている。
だが、リコリスという少女のステータスと比較してしまうと、ゴブリンメイジへと進化したことで、最大MPや知力といった魔術に関する部分では優っているものの、全体的には若干負けてしまっている。
また魔術に関するステータスで優っているとは言っても、魔術系のスキルは【闇魔術】という、どちらかといえば搦手に属する魔術スキルしか獲得していない。
恐らくジョブレベルを上げるか、星三つへと進化することで、他の魔術系のスキルも獲得出来るとは思われる。
ジョブレベルを上げることは問題無い。【ポイントコンバーター】内に格納されているEXPもまだ余裕がある。
なので、ジョブレベルを上げることで、新たなスキルを獲得出来るのであれば――恐らく問題無く獲得出来るだろうとは思う――問題無い。
だが、それで万が一、新たなスキルを獲得出来なかった場合、次のスキル獲得手段が星三つへと進化すること、になってしまう。
だが、僕としては出来れば、今この手段を取ることは避けたいと思っている。
何故かと言うと、それは進化という現象がその肉体に与える影響が、あまりにも大きいと考えたためだ。
初めてラピスを進化させた時は、本人? が望んだこともあって、僕は特に何も気にすることなく、連続で二回も進化させてしまっていた。
その翌朝、ラピスはいつもよりちょっとだけ寝起きが悪い、といった感じでしかなく、すぐに元の調子を取り戻していたので、特に気に掛けることもなかったが、今思うと、あれは急速な進化の影響だったのではなかろうか?
スライムの身体は、弾力性のある水飴のようなものであるため、進化という現象がその身体に及ぼす影響は少なかったのだろう。
だが、人間とほぼ同じ構造をしていると思われるゴブリンはどうなのだろうか?
その答えは既に出ていた。身体の急激な成長という形で。
昨晩、寝る前までは僕の腰くらいまでの身長しかなかったのに、進化を果たして、ひと晩明けたらその身長は僕の胸元あたりまで伸びていて、ぺったんこだった胸も、ふっくらと自己主張するくらいには育っており、全体的にも女性特有の丸みを帯びていた。
その急激な成長による痛みなんかは無かったみたいだが、それでも連続で行っていいものではないことは一目瞭然の変化である。
このようなことを目の当たりしてしまっては、次の進化まで十日、いや出来ればひと月は様子を見たいところだ。
そう考えると、ステラの即時戦力強化は少々難しい。
まあ、幸いと言っちゃぁなんだけど、件の特殊隠密部隊の方々は今のところ、監視警戒以上の行動に出る様子は無いので、一先ずはラピスをステラと一緒に行動させておけば、大丈夫そうだ。
だが状況が変わることもあるだろうから、こちらも警戒するに越したことはない。
もし、その過程で彼女ら特殊隠密部隊が謂なき襲撃してくるようなことがあったのならば、僕は僕自身と家族の生命を守るため、全力で撃退することになるだろう。
が、出来れば騒ぎはあまり起こしたくはない。それで当初の目的、元の世界に帰る方法の調査に支障を来すのも馬鹿らしいという話である。
「それで、話は上手く纏まったのか?」
メリッサさんの気遣うような言葉で、明後日に飛んでいた意識を引き戻し、少し考えるように腕を組む。
上手くいったか、いかなかったかって問われると、どうなんだろ?
後半はアンナさんがギルドマスターから交渉役を物理的に取り返していたので、レッドオーガの素材の取引については問題無かったとは思う。
けど、その前を考えると……イロイロと微妙なところだよなぁ。
「うーん、そうですねぇ……素材の売却についてはどうにか纏まった、ってトコロですかねぇ」
ここまでお読みいただきありがとうございます。
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ただ、作者ガラスのハートでございますれば、柔らかい表現でお願いいたします。




