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第三十二話

新年あけましておめでとうございます!

2018年一発目の更新となります。

今年の目標は更新回数増やして、もっと多くの読者様をげっとしたいです!(あくまで目標です)


今回の後半はシリアス……に感じてくれると嬉しいなあ。


それでは第三十二話、始まります。

 ゴブリン。


 それは棍棒を振り回したり、石を投擲したりといった簡単な道具を使う程度の知能こそ持っているものの、その本質は粗暴且つ愚劣でありながら脆弱。


 ゴブリンという魔物は基本的に森の中をねぐらにしているにも関わらず、腹が膨れていれば周囲の状況もお構い無しにどこであろうと眠りこけ、腹が減れば手当たり次第にその辺の物を口に入れ、辺りに食べられる物が無くなれば森の中を徘徊する。


 魔物の強さとしては、何の訓練も受けていない成人に成り立ての男性でさえ、何かしらの武器を手にしていれば討伐が出来るほどに単体の魔物としては最弱の部類に属する魔物だ。


 だが、それほど愚かで弱い魔物であるにも関わらず、ゴブリンという魔物は人類からは蛇蝎(だかつ)の如く忌み嫌われている。


 忌避されている理由には幾つか有り、その理由のひとつに、緑色の肌と大きくつり上がった目に鷲鼻、水平に尖った耳、手足は妙に細長くガリガリな癖に腹だけでっぷりとしている醜悪な見た目というものがある。


 僕も先日ワイルドローズから実地研修を受けている時に、一度だけ遠目にではあるがその姿を見かけたことがあり、そのときは三体のゴブリン相手に十代前半と思われる男三人女二人の低位冒険者パーティーの者たちが対峙していた。


 その戦いぶりは、傍から見ても明らかに(つたな)い連携であったが、それでも冒険者側が優位に立っていたことから、ゴブリンが強い魔物ではないということは明らかであったのだが、それよりも気になったのは、そのゴブリンたちを見た瞬間、妙な嫌悪感を覚え、敵愾心が異様に燃え上がる感覚に見舞われたのだ。


 僕はある程度それらの感情が膨れ上がった時点で、それ以上嫌悪感や敵愾心が膨れ上がることはなかったのだが、メリッサさんたちの方を見やると各々(おのおの)武器の柄に手をかけて臨戦態勢に入っており、今にも飛び出しそうだった。


 冒険者のマナーのひとつに『他の冒険者が魔物との戦闘に入った場合、パーティーメンバー以外の冒険者は手を出すべからず』というものがあるので、ワイルドローズの皆さんは必死にその感情を押さえつけていたようだ。


 このことから、ゴブリンという存在は存在そのものがナチュラルに人類のヘイトを集めることに長けているように思えた。


 またゴブリンが忌み嫌われている理由はその見た目だけでなく、異常な成長速度と繁殖力というものもある。


 ゴブリンの寿命は、上位種ともなれば人類と同じかそれ以上になることもあるが、基本は十年前後と短いということもあって、生まれてから十日もすれば成体にまで成長し、繁殖が可能となり、その妊娠期間はおよそ三十日ほど。


 また一度の出産で四、五体ほど産み落とし、発情期というものが無く年中繁殖が可能であることもあり、母体となる存在を確保した集団が何かしらの切っ掛けで繁殖し始めると、短期間であっという間に百体を超える集落が出来上がってしまうほど爆発的に数が増えてしまう。


 そうして出来上がった集団は、腹を満たすために森の恵みなど瞬く間に食い尽くしてしまい、ほどなく森から溢れ人里にまで押し寄せてくる事態となってしまうらしい。


 単体であれば簡単に討伐出来るゴブリンではあるが、こうなってしまうともはや脆弱な魔物とは言えなくなってしまい、人里に下りてきた奴らは農作物や家畜、果ては人間の子供や大人であっても数に任せて襲い掛かり、それらを(ことごと)く喰らい尽くしてしまう。


 これは俗に『ゴブリンハザード』と称され、これを放って置くと周囲に甚大な被害が出てしまうため、冒険者ギルドではこれが確認され次第即座に緊急依頼が発令され、周辺を治める領主貴族が有する戦力と協力して早期に収束させなければならない事態のひとつとなっている。


 だが長年の観測結果により、ゴブリンには何故だか雌個体が異常に少なく、母体となるゴブリンの絶対数は極端に少ないということがわかっており、ゴブリンハザードによって百体以上の集団となってさえも、母体となる雌ゴブリンは殆どその存在は確認出来ていないほどらしい。


 では何故雌個体が極端に少ないにも関わらず、そのような事態となるのか。


 その理由は(ひとえ)にゴブリンの雄個体が生産する種の遺伝子情報が持つ、異常なまでに高い優位性にある。


 この優位性は人類や獣、魔物に関係無く、胎生であればゴブリンの遺伝子情報が最優先で前面に出るので、種付けされた母体から生まれてくるのは全てゴブリンという恐ろしいものだった。


 そのため、ゴブリンの繁殖には必ずしもゴブリンの雌個体が必要というわけでは無いという研究結果が報告されているらしい。


 この研究結果が真実であるならば、ゴブリンはあらゆる胎生の生物と交配が可能となるはずなのだが、ゴブリンにも趣味嗜好があるのか、繁殖には人間(ヒューマン)族や森人(エルフ)族、樹人(ドルイド)族といった人類の中でも比較的魔力を多く持つ種族の女性やオーク、オーガといった二足歩行の魔物の雌個体を(さら)ってきては母体として利用する事例が非常に多く報告されている。


 現にゴブリンハザードを潰したあと、その発生点であるゴブリンの集落へ赴くと、そこには母体に利用された女性が発狂していたり、物言わぬ屍と成り果てていたりと、言葉には表せないほど凄惨な光景が広がっているという。


 それ故に、これはその名の通り大陸各地で頻繁に発生する災害のようなものであり、一時期など『女が行方不明になったら、ゴブリンハザードの前兆だ』と言われるほど頻発した時期があったため、今でも大陸中の冒険者ギルド支部や各国の支配者層の頭を悩ませる原因のひとつでもあるようだ。


 これ以外にもゴブリンが忌避される理由は幾つかあるのだが、主な理由はこの二つと聞いており、同時に見た目と成長速度についてはどうしようもないが、繁殖力においてはこのルセドニの街付近では心配無いということも聞いている。


 その理由は、このルセドニの西に位置する森の浅いエリアは、多数の低位冒険者が頻繁に魔物狩りをしていることで、ゴブリンの生息数自体が抑えられていることが挙げられた。


 また逞しすぎる街の子供たちによって森の恵みはある程度採り尽くされており、一体や二体くらいならともかく、多数のゴブリンの腹を満たせるほどには残っていない。


 腹を満たせるほどの森の恵みを求めるのであれば、ゴブリンたちは中層エリアまで足を伸ばさねばならないが、そこは魔物との戦闘経験豊富な四ツ星冒険者のパーティーが獲物とするような星二つや星三つの魔物が縄張りとしているので、当然ゴブリンのような弱い魔物が生存競争に勝てる訳もない。


 逆に街に近づこうものなら、それこそ冒険者たちの討伐ポイント源となる。


 母体となる存在についても、ここルセドニは『冒険者が集う街』。


 常に魔物の脅威に晒されている街の住民というだけあってか女子供であっても、ゴブリンの鈍足から逃げることなど造作もない。


 では他の魔物が母体となることは無いのか? と問われれば、満足に食べるものもなく弱った状態で、その上数も揃えられない環境の中で、格上の魔物を捕らえて母体として利用することなど叶うはずもないという結論だ。


 以上の事から、ここではゴブリンが繁殖出来るような土壌が無いと考えられ、それがルセドニの街の人間には常識となっている。


 それらのことを踏まえて、隣で穏やかな寝息を立てている少女を改めて観察してみよう。


 ふぅむ、見た目は完全に四、五歳の人間の女の子だな。それも元の世界でも滅多にお目に掛かれないほどのとびっきりの美幼女。


 この子を見つけた当初は草むらの中に倒れており、土塗れ草汁塗れ血塗れだったので、ヒールポーションを飲ませた後は《クリーン》でそれらの汚れ落とし、ざっと確認したところ目立った外傷は見当たら無かったが、念のためにスタミナポーションも飲ませたので、容態は安定している。


 泥や返り血に塗れて、汚れてはいても美しい少女であることはわかっていたが、いざその汚れを落としてみると、その少女の美しさは想像以上だった。


 討伐依頼書に書かれたイラストと見比べてみれば、水平に伸びた尖った耳と地人(ドワーフ)に近い低身長であることこそ共通はしているが、それ以外は似ても似つかない容姿をしている。


 イラストでは三角形に尖った頭髪の無い頭部に異様につり上がった目、潰れた鷲鼻、そして頬の半ばまで裂けたような口の中には鮫のような尖った歯がびっしりと並んでいるが、それに対してこの少女は肩甲骨辺りまで伸びた銀髪が陽の光を浴びて煌めいていた。


 目鼻立ちは幼さを残してはいるものの非常に整っており、切れ長の目にすらっと通った鼻筋は、ゴブリンという種族上これ以上成長するかどうかはわからないが、成長すれば将来は誰もが振り返るようなとんでもない美人になることは想像に難くない。


 手足も低身長なりにすらりと長く、栄養が足りていないのか幾分細めではあるが、そっと触れてみれば筋張っているということもなく、女性ならではのしなやかな筋肉がついている事がわかった。


 腹部についても、イラストのように腹だけボテっと出ているということもなく、見た目の年齢からすれば不相応にキュっと(くび)れている。


 そして肌の色は緑色ではなく黒褐色だ。


 動物か魔物かはわからないが毛皮の胸帯、腰巻きと合わさり、これがまたエキゾチックな雰囲気を醸し出していて、美しさに拍車をかけているように思えた。


 そこまで観察を終えたところで、僕はもう一度冊子を取りだし、そこに描かれているイラストと少女を見比べて見るが……うん、やっぱり極一部を除くとイラストとは似ても似つかないのである。


 三度見、四度見してもそれは変わらない。


 さてこれはどういうことなのか、仕入れていた事前情報と目の前の現実が違い過ぎるぞ。


 さりとて異世界初心者である僕には、これがどういった意味を持つのか、到底判断はつかないので、ここはやっぱり鑑定先生にお願いしたほうがいいかも。


 ということで、れっつ鑑定!



=======================


名称:ゴブリン(黒)

ランク:★

区分:素材

品質:低


概要:かつては亜人族と呼ばれた原初の魔物


   知能は高く独自の言語や風習を持ち、(いにしえ)の時

   代には大陸各地の森に集落を築いていた


   力は弱いものの魔術の扱いに長け、特に闇属

   性を筆頭にあらゆる魔術に精通しているが、

   種族としての性質は温厚で臆病。


   【幻惑】という固有スキルを持ち、これによ

   り集落付近に近づいてきた者を惑わして追い

   払うこともあるが、森で迷った旅人などがい

   れば、出口まで誘ってくれることもある


   その美しい銀髪と黒褐色の肌、整った容姿や

   小柄な体型から『森の銀妖精』とも呼ばれる


   銀の頭髪には魔力を蓄積する性質があり、ま

   たその身に宿す魔石は銀の輝きを放っている

   ため、非常に美しいことで有名


   過去に銀の頭髪と銀輝魔石を目的とした乱獲

   が行われ、その個体数が急減した


   現在、その生息数は減少の一途を辿っており

   現存する集落は極少数しか存在せず希少種と

   認定されている


   名称から多くの者が混同しているが、ゴブリ

   ン(緑)とは全くの別種族である


=======================



 ……ほっほぉう、そー来ましたか。見た目だけでなく、中身もちゃうと。似ているのは種族名称だけ、と。


 遺体の一つを鑑定してみた結果がこれだよ。


 何故にこんな勘違いするような種族名称にしたのか、これを決めた奴に小一時間ほど問い詰めたい気分であったが、今は一旦脇に置いておいてやろう。


 さーて、それはともかく、命を助けたはいいものの、これからどうすっかね。


 僕はゴブリナにポーションを飲ませた後、猟奇殺人現場の後始末を済ませた集落に視線を向けながら思考を巡らせた。


 レッドオーガが食い散らかしたゴブリン(黒)の亡骸は、全部で十七体分あったのでそれらは丁重に集めて、土魔術で浅く掘った一箇所に並べて安置してあり、レッドオーガの死体は胴から首を完全に切り離してから血抜きをして【アイテムインベントリ】に仕舞い、あちこちに出来上がっていた血溜まりは血の匂いに惹かれて他の魔物や肉食獣が集まってきても面倒なので《クリーン》を使って浄化した。


 レッドオーガの死体からは様々な素材が取れるので、血抜き以外には手を加えていない。


 素人の解体で素材をオシャカにしても勿体ないからだ。


 銀輝魔石についてはどうするか。


 ここに並べたゴブリン(黒)の十七体分の銀輝魔石は恐らくレッドオーガの腹の中だと思う。


 消化されてないのであれば、彼女へ家族の形見として渡してあげたいが……。


 まあどう判断するかは彼女に任せよう。


 これからは一人で生きていくというのであれば、ここでお別れなので、少々拙くてもレッドオーガの腹を開いて、銀輝魔石を渡すとするか。


 無意識にとはいえ、思念を飛ばして、それを僕が受け取れるくらいなので、僕との相性はいいと感じられるので、出来れば僕の従魔になって欲しい。


 いや、この状況でそれを選ばせるのは少々酷かな。


 知能は高い種族らしいが、この状況で冷静な判断が下せるとは思えない。


 であれば、多少強引にでも一時的に僕の従魔になってもらって、落ち着いてから改めて選択してもらうってのも手か。


 その間に彼女を受け入れてくれる、別の集落を探してもいい。


 そんなことを考えていると、【気配察知】に引っかかる気配がぽつぽつと現れ始めた。


 どうやら、普段はこの辺りに現れるはずのない強者であるレッドオーガの脅威が去ったことに気付いた魔物が戻って来たようである。


 だが今は、せめてこのゴブリナが目を覚ますまではここには近付いて欲しくないので、【気配察知】の範囲内に入ってきた気配へ手当たり次第に指向性を持たせた強めの【威圧】スキルをぶつけて追い払ってやった。


 ふむ、このコンボ、思っていた以上にかなり使える。


 これに【隱形】を組み合わせれば、萎縮した相手に奇襲かけ放題だし、追い込むのにも使えそうだ、戦闘経験は全く積めないけど。


 そうしている内に、空が茜色に染まり出し、あと半刻ほどで陽が落ちるというところで、横で寝ていたゴブリナが目を覚ました。


「ウ……ァ(こ……こは)?」


「ああ、目が覚めたかい?」


――おはよう?


「……ッ!!」


 ゴブリナはすぐ隣で体育座りをしている僕と、僕の頭の上から覗き込むように身体を伸ばしているラピスを見て、寝たままの姿勢で驚きに固まってしまった。


「えーと、どこから説明したらいいかな」


「……ウガ、ウラゥ(貴方は、どなたでしょうか)?」


「ああ、そうだね、そこからだよね。僕はハルト、見ての通り人間(ヒューマン)の冒険者だよ。んで、こっちのがスライムのラピス。僕たちは君の救難信号? を受けて助けに来たんだ。残念ながら君しか助けられなかったけど、ね」


 恐怖からか全身小刻みに震えているゴブリナへ、自嘲気味の乾いた笑いを浮かべるしかなかった。


 まあ目が覚めたら、すぐ隣に知らない人間の男と軟体生物が居ましたって恐怖以外の何物でもないよね。


 そんな状況にいきなり放り込まれたら【状態異常無効】のスキルを獲得する前であれば、男の僕だって悲鳴のひとつくらい挙げていると思う。


 にも関わらず、この少女は恐怖に震えながらも、理知的な瞳を見開き、こちらを警戒しつつも、必死に状況を把握しようとしている。


 そんな彼女に僕は確認のため、出来るだけ優しく尋ねてみた。


「どこまで覚えてる?」


 ゴブリナはゆっくりと身体を起こし、震えるその身体を押さえつけるようにその場で正座をした。


「ウィァ、ウクルゥ(どこまで、と言われましても)」


 俯きながら、膝の上に置いた拳を握り締め、必死に気を失う前の出来事を思い出しているようだ。


「ウェ、ウァラダ……(えっと、赤い鬼族が集落に来て……)ッ!」


 ゴブリナはそう小さく呟いたかと思うと、急にはっと顔を上げ、慌てたように立ち上がり、周囲を見渡しながら、取り乱したように声を荒げる。


「ヴヮ! ヴィ! ヴィア! ヴィニ! アグラン、ランヴィアル?! (母! 父! 兄! 弟! みんなどこ、どこにいるの?!)」


 その様子に僕は胸が締め付けられる思いだった。


 それも直ぐに見ていられなくなり、僕は十七の亡骸を安置している場所へと足を向ける。


 その僕の様子に何かを悟ったのか、ゴブリナは強ばった顔をしたまま、無言で僕の後についてきた。


 亡骸のもとへと辿り着いた僕は片膝を付き、乗せていた木の葉を払い、それをたった一人生き残ったゴブリナと対面させる。


 レッドオーガを討伐した直後は酷いものだったが、今は死に化粧とはいかないまでも、血や泥などの汚れは落として、綺麗に整えさせてもらった。


 胸の抉られた痕が無ければ、今にも動き出しそうなほどだ。


「確認してくれ」


「……ウィン、ウィナ(……そんな、なんで)」


「僕が駆けつけた時には、もう君以外は生きてはいなかった。間に合わなくて、ごめん」


「アアァァアアァァァッッッ!!」


 暫く呆然としていたゴブリナだったが、僕のその言葉を聞くと手で顔を覆い、泣き崩れてしまった。


 自分以外の家族全員を失ったのだ。


 思う存分泣かせてやりたいが、無常にももう間も無く陽は完全に落ち、夜が訪れる。


 非情と言われようとも、今後のことを早急に決断しなければならない。


「近場に他の集落があるなら、そこまで連れてってあげることは出来る……」


「ヴ、ヴヮラァヴィエッタ、ウェアゥ(は、母からは私たち以外の集落があるとは、聞いたことはありません)」


 涙に詰まりながらも力無く首を横に振り、他の集落の存在を否定するゴブリナ。


「それなら……」


 他に集落が無いというのであれば、今後は一人で生きていくか、僕が連れて行くしかない。


 しかし、今まで十八人で暮らしていたこの子に、いきなり一人で生きていけというのは無茶を通り越して無謀というものだ。


 だからといって、無理矢理連れて行くのも(はばか)ら……


「ウィ……ラァ(それ……なら)?」


「っ!」


 僕が自問自答に葛藤していると、ゴブリナがゆっくりとこちらを見返してくる。


 だが、僕はその眼を見た瞬間、戦慄を覚えた。


 ああ、この眼は駄目だ。この眼を僕は知っている。


 僕は両親を事故で亡くしている。


 その報せを聞いた時は実感が沸かなかったが、(すめらぎ)小父(おじ)さんの(つて)で葬儀を開いてから、その現実がじわじわと胸に広がり、暫くは何も手につかなかった。


 そのときに見た、鏡に映った自分の眼によく似ている。いや、その瞳に浮かんだ感情だけを言うなら、似ているどころではない。まるであの時の自分を見ているようだった。


 あの時の僕は無気力で、まるで屍のようだったけど、麗華さんに引っ張ってもらって、朱音に発破をかけられ、花凛ちゃんに包み込んでもらい、それで救われた。


 あの時僕は独りじゃない、と教えてもらったんだ。


 だったら、今度は僕の番だ。


「いや、それなら僕について来い」


 君の命は、僕が助けた命だ。


「……」


 絶望に囚われたままなんてのは、僕が許さない。


「君の家族の代わりには成れないけど、新しい家族には成れる」


 傲慢と言われようが、なんと言われようが、構わない。


「……」


 君が望もうが望むまいが、僕は君の家族に成ると決めた。


「だから、僕について来い」


 種族が違う? そんなものは僕にとっては些細な問題だ。


「……ウィ(……はい)」


 だって僕は【魔物使い】なんだから。


 僕は俯いて涙を零すゴブリナをそっと抱き締め、回路(パス)を繋ぎ、従魔契約を交わすのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

誤字・脱字・矛盾点・説明不足・わかりにくい表現等のご指摘いただければ幸いでございます。

ただ、作者ガラスのハートでございますれば、柔らかい表現でお願いいたします。

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