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第三十一話

申し訳ありません、遅刻しました!


それでは第三十一話、始まります。

 ガンテツさんから黒魔鋼鉄のクレイモアを譲り受けてから三日経った昼下がり、僕はいまラピスと共に街の西側に広がる森の浅層と中層の境目あたりのエリアへと訪れ、そこに自生している薬草の採取に精を出していた。


 この森には狼型や猪型、蛇型の魔物や昆虫型の魔物が数多く生息しているが、そのどれもが低ランクで、ある程度の戦闘経験があれば難なく討伐出来る魔物であるため、浅層から中層にかけては二ツ星または三ツ星の冒険者たちに主な狩場とされているらしい。


 中心部に近い深層エリアになると、また勝手が違ってくるのだろうが、話を聞く限りではこの辺りは魔物との戦闘経験を積むには適した良い狩場のようである。


 その証拠に多くの冒険者が通ったと思われる獣道のような踏み固められた道や、森に潜む魔物を誘き寄せて迎え撃つためと思われる半径十メートルほどの不自然にぽっかりと空いた空間をいくつか見かけた。


 だが、それ以外の場所については殆どが手付かずのままのようで、獣道からほんの少し外れるだけで膝上から腰の高さくらいの草木が割と深い茂みを作っており、原生林もかくやというほど雑多な様相を示している。


 辺りを見回してみると、この森は灰の森よりも木々の密度が高く視界の確保が難しくはあるが、木々は成長限界までは至っていないようで、昼間であればいたるところに木漏れ日が降り注いでおり、明るさだけは申し分ない。


 それ故にこれだけの明るさとちょっとした薬草の知識、そしてほんの少しの観察眼があれば、茂みの中には治癒草や活力草といった様々な薬草が自生しているのが見て取れるので、数人で魔物からの奇襲に対する備えさえしていれば、薬草の類は採取し放題なのだが、獣道の脇に分けいってみても、薬草や木の実といった森の恵みについては魔物や獣が食したであろう痕跡がほんの少しあっただけで、人が採取したような形跡は殆ど見受けられなかった。


 ギルド職員(スタッフ)であるアンナさんに聞いても、先輩冒険者であるワイルドローズの皆さんに聞いても『度を過ぎなければ、森での採取は禁じられていない』ということを言っていたので、恐らくこの森を狩場にしているレベル帯の冒険者では森に潜む魔物や獣を相手にするので手一杯で、そちらにまでは手が回らないのであろう。


 僕としては【気配察知】のスキルがあるので魔物の奇襲についても対応出来るし、魔物と接敵してもレベルだけ見れば問題無く対処出来る、と思う。


 加えて【万象鑑定】のスキルを駆使すれば、薬草と雑草の判別も容易なので、この茂みがほとんど手付かずで薬草類が豊富に残っているのは非常にありがたかった。


 そもそも何故僕がこんなところで薬草採取にせっせと取り組んでいるのかというと、それはもう全くもって、ただただひたすらに、どこまでもいってもお金が無いのが悪い。


 クレイモアを譲り受けたあの後、脂汗をだらだらと流していたガンテツさんがクォルさんの顔を見ないように視線を天井に固定しながら迂回するように店の奥に引っ込んでしまったので、口の端しをひくつかせながらもとってもいい笑顔をしていたクォルさんに聞いたところ、やはりこのクレイモアは素材からして高価なもので、素材だけの代金でも余裕で八桁に届くらしく、そこに作業費や諸経費を含めると、利益無しの原価だったとしても、軽く5000万ゴルドを超えるとのこと。


 ため息混じりのクォルさんの口から告げられたその金額に、僕だけでなくその後ろで事の成り行きを見守っていたワイルドローズの四人までも盛大に顔を引きつらせてしまっていた。


 いくら満足に扱える者が居ないからといって、漸く扱えそうな奴が現れたからといって、原価で5000万ゴルドを下らないものを碌な対価を求めずにポンっと渡すとは、剛毅という言葉を些か超えているのではなかろうか。


 まあガンテツさんに気に入ってもらえた以上に、期待されていると思う事にしよう。


 とはいえ、流石にこれほどのものを無償でというわけにもいかないので、クォルさんには『何年掛かるかわからないが必ずお支払いする』という旨を告げると、『あの人の素っ頓狂は今に始まった事じゃないし、気長に待ってるよ』と笑っていた。


 しかし、高位冒険者まであと一歩、と言われているワイルドローズの四人でさえ戦慄させるような金額を返済出来るのは、本当にいつのことになるやら。


 そのような思いを抱きつつもその後、メリッサさんとトリフィラさんは既にガンテツさんとの打ち合わせも終わっていたので、その場でクォルさんにお礼と別れを告げて店を辞すると、トリフィラさんの提案により行きつけの革製品を加工しているという工房にも寄らせてもらったのだが、そこでも先ほどの大剣のセール品以上の絶望を叩きつけられることになる。


 この世界の冒険者が身に付ける革鎧の中でも、極々一般的な『暴れ(ランページ)大牛(バッファロー)』という一ツ星の魔物の皮をなめした胸当てですら大銀貨五枚という価格を聞いた僕には項垂れるしか(すべ)はなかった。


 くっそぅ。このままでは、竜なくえすとや最後のふぁんたじーでも初期装備以外では雀の涙ほどの金額で売却することしか出番のない『ぬののふく』から脱することが出来ないではないか。


 今の僕には()に出せなさそうな素材なら幾つもあるのだが、()に出せそうな資産となるとほとんど無いに等しく、それこそ今着ているこの服くらいだ。


 この世界では服というものはそれなりに貴重品らしく、一般庶民であれば基本は古着で、新品の服となるとお貴族様か裕福な商人くらいしか購入出来ないほど高級品らしく、スライムの泉で拝借したこの服は僕が定期的に《クリーン》を使っているためか、新品同様に清潔で(ほつ)れなんかもないので、このなんの変哲もない麻の服ですらそこそこの価値があるっぽいが、これを質に入れることを考えてはいけない。


 これ以外の着替えがボロボロのワイシャツとブレザーズボンしかないといことだけでなく、残念ながらこの世界はゲームではなく現実なので、防具の購入資金を捻出するために、ゲームのように『ぬののふく』を売って防具を購入するまで真っ裸でいることは許されないのだ。


 そんなことをすれば、即お縄となってしまう。ストリーキングに僕はなれない。


 さて、それではどうしたものかと今後の活動資金の確保について色々と考えていると、昼間メリッサさんたちと色々街を見て回ったこともあってあっという間に夕刻となってしまったので、南の街門へと向かい、正規の身分証登録を済ませることにした。


 その時は何気なく街門へと向かったのだが、身分証登録を終えて詰所から街門前の広場に出ると、鉄や革で出来た装備を身に纏ったまま大声で笑い合う、多数の依頼帰りの冒険者と思われる人たちが目に入る。


 その光景を目の当たりにして、やはりここは暫く堅実に冒険者業で生計を立てていくしかないのか、と思われた。


 ただそれにしても問題は山積みである。


 冒険者業で一番金銭効率がいいのは言うまでもなく、魔物の討伐依頼だ。


 上手く魔物を討伐出来れば、依頼報酬だけでなく、魔石とその魔物の素材も買い取ってくれる。


 例えば、其の辺の成人男性でも狩れるホーンラビットですら、討伐報酬とその特徴的な角、肉、毛皮を合わせれば状態にもよるが、5000から6000ゴルドにはなるのだ。


 だが、その効率がいいとされる討伐依頼を受注出来るのは二ツ星から。


 それまでに星なしスタートの僕は一ツ星、二ツ星とランクを上げていかなくてはならない。


 そこで更に問題が浮かび上がる。


 ランクを上げていくには、項目別に依頼をこなし、達成ポイントを稼いでいかなければならないのだ。


 その中でも『雑務』に関しては街中の仕事で、所謂(いわゆる)お手伝い系の仕事なので命の危険は皆無なのでいいとして、『採取』に関しては街の外に出て行かなくてはならないので、万が一ということがある。


 そうなると、武器だけでなく革の胸当て程度の防具でもいいので、何かしら身に付けるものが欲しいところ。


 だが、それを買えるような資金は今の僕にはない。


 安全を第一にするのであれば、街中で出来る雑務系でお金を貯めてから、となるのだがその雑務系の仕事を数多くこなしたところで、一部のものを除いて、所詮はお手伝いの域を出ないので報酬は微々たるものであり、これをいくら繰り返したところで、防具を買えるような金額が貯まるのは、少なくとも一ヶ月やそこらでは難しいだろう。


 ではもっと効率良く稼ぐには? となると、その答えは討伐依頼という答えが既に出ているので、堂々巡りになってしまっている。


 はてさて、本当にどうしたものかと悩みながら水瓶亭へと戻り、食堂に向かうとそこにはメリッサさんたちがいつもの席に陣取って、既に酒盛りを始めている姿があった。


 それを見て、ちょっと早いがやっぱりこれしかない、と思い至る。


 一人で街の外に出るのは万が一の危険があるのであれば、守ってくれる人と一緒に行けばいいんじゃね? という必殺他力本願というものだ。


 本来ならば、ギルドハウスで同じランクか一つ上もしくは下のランクの冒険者で臨時パーティーでも組めればいいのだが、生憎本館に三ツ星以下の冒険者はいないのでそれが出来ない。


 ならば派出所に行けばいいと思うのだが、それをするとアンナさんが……拗ねるんだよね。


 うん、やっぱりコッチに頼ろうか。


 幸いワイルドローズへの治療の対価は金銭以外の報酬として、冒険者の基礎を教授して欲しいというお願いを承諾してくれているので、本当であれば次の調査依頼が終わってからと思っていたのだが、割と宿代以外が切迫していることに気づいたため、明日からどうにかお願い出来ないか、と相談したみた。


 すると、メリッサさんたちは出発までの準備以外は暇らしいというのと、メリッサさんもトリフィラさんも代替の長剣と短剣をガンテツさんのところから借りているので、そちらも心配ないということもあり、翌日と翌々日の午後であれば、ということで快く引き受けてくれたのだ。


 とまあそんなこともあり、昨日と一昨日は朝いちにクレイモアの感触を確かめるために裏庭で軽く素振りをしてから朝食を取り、午前中は雑務系の依頼をひとつふたつこなし、午後からワイルドローズの皆さんに西の森のごく浅い部分に連れてきてもらい、そこで簡単にではあるが、薬草類の採取の仕方や茂みの多い森の歩き方、他の冒険者と遭遇した時の対応の仕方――街の外で会ったならば、旧知の仲であっても基本はパーティーメンバー以外信用してはならないなど――といったことを学ばせてもらった。


 しかし、折角豪華な護衛付きで採取に来たものの、他の低ランク冒険者や冒険者登録をしていない逞しすぎる街の子供たちの考えることは同じなのか、森といえどごく浅い部分となると、薬草類といった金になりそうなものは殆ど採り尽くされているようで、結構広い範囲を歩き回ったにも関わらず、二日間で八十束ほどの治癒草と五束ほどの活力草、食用のキノコが三十個ちょっとしか見つけられなかったのは悔しい。


 それでも半日二回分の採取量としてはかなりの収穫高だとメリッサさんたちは驚いていたが、鑑定持ちなのにこれだけしか採れなかったのは、正直物足らないし、ランクを上げるための採取ポイントが全然足らないのだ。


 ということで、森の浅い部分が採り尽くされているのであれば、もっと深いところはどうだろう? と思い、ワイルドローズは今日の午後、ガンテツさんのところに新しい武器を引き取りに行っているので、ラピスと二人で森の奥に入るのは少々不安であったが、この二日間魔物に襲われるどころか、警戒を示す黄色マーカーすら殆ど見かけることもなかったので、思いきってここまで来たところ、案の定このあたりの森の恵みは豊富に残っていたので、せっせと採取に勤しんでいる次第である。


 しかし、ひとつ気になるのは、この辺りは下位冒険者の主な狩場となっているはずなのに、妙に気配の数が少ない。


 まあ採取に集中できるから、好都合っちゃ好都合なんだけど、ちょっと気になるな。


 採取に集中して一時間ほど経ち、数にして五十束ほどの治癒草を採取したところで、屈めていた上体を起こして、一息入れた。


 うー、いてて。しっかし、長時間の中腰作業は流石に腰にクるなあ。泉での間引き作業を思い出すわ。


――……けて


 ぅん? なんか今聞こえたような? ラピス、いまなんか言った?


 固まった腰を伸ばしていたら、何かが聞こえたような気がして、辺りを見回してみたが、見通しが悪いこともあって何も見当たらなかった。


 薬草の採取は中腰作業だったので、ラピスにはいつもの定位置から降りてもらって、近くで遊んでもらっていたので、そちらに視線を向けてみると、見事なミステリーサークルが出来上がっていて、その中心でラピスがドヤ顔をしている。


 うん、まあそれはいいんだけど、ね。


――だ……か…………お……い、た……てっ


 まただ。また聞こえた。けど、これは聞こえるっていうか、ラピスみたいに直接頭の中に思念を飛ばしてきている感覚に似ているが、若干違う気もする。


――あるじ、あっちだよ。たすけてっていってる。らぴす、たすけてあげたい


 今までに感じたことのない感覚を不思議に思っていると、ラピスが何かを感じ取ったようで、今いる場所よりも更に西の方、森の奥を見つめていた。


 ラピスに言われた通りの方向に意識を向けてみると、不意に妙な反応が返ってきたので、【気配察知】の展開範囲を一段引き上げてみる。


 すると、その展開範囲ギリギリのところ、今いる場所から二百メートルほど離れたところにラピスよりちょっと大きめの気配を見つけた。


 これかな? と思ったが、その気配には何やら嫌な予感がしたので、ラピスを拾い上げていつもの定位置である頭の上に乗せてから、【隱形】を発動させて、僕とラピスの気配を包み隠す。


 何もないならそれでいいのだが、万が一のことを考えての処置だ。


「そっか。よし、んじゃ行ってみよう」


 【隱形】スキルはまだ慣れていないので、全力疾走したら効果が切れてしまうので、僕は早足くらいの速度でそのマーカーに向かって歩き出す。


 三十メートルくらい進んだとき、件のマーカーの奥にもう一つ、小さく弱々しいマーカーを見つけた。


 んー、もしかしてあの声の正体はこっちのほうかな? 声も弱々しかったし。


 だとすると、大きい方のマーカーはなんなんだろう?


 足音を極力殺しながらも出来るだけ素早く、それに近づいていく。


 だが、それに合わせて何故だか嫌な予感が大きくなっていくように感じる。


 その嫌な予感を怪訝に思いつつ、やがてマーカーとの相対距離があと三十メートルとなったところで一旦足を止めて、念のため木の幹に身体を隠しながら目標の様子を伺うことにした。


 そこは冒険者たちが魔物を誘い込むために切り開いた広場に似ていたが、木の枝と草で拵えた簡素な小屋とも言えないような粗末な住居と思われる建物がいくつかあるので、恐らくここは魔物の集落だったのではないだろうか。


 その広場の中心には、一体の人型をした魔物がこちらに背を向けて胡座をかいて座っているのが見えた。


 その魔物は赤銅色の肌をしており、背中越しなのでよく見えないが頭部には二本の角がちらちらと見え隠れしている。


 そして全身が盛り上がった筋肉で包まれており、座った状態ですらその魔物の頭が僕の首元あたりまでの高さにあるので、立ち上がれば二メートルは優に超えるだろう。


 それは間違ってもその広場にある住居に入れるような体格ではない。


 そしてその後ろ姿を一目見た時から僕の魔物使いとしての勘が告げている。


 スライムたちやディラマとは違って、コイツとは絶対に相容れない、と。


 さらに言うなれば、コイツは敵だ、とも。



―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


名称:レッドオーガ

種族:魔物(オーガ)

性別:♂

年齢:8

職業:レッドオーガ

身分:-

ランク:★★★★


状態:微興奮


BLv:25

JLv:22


HP:2273/2273

MP:257/257


筋力:506

体力:303

知力:43

敏捷:195

器用:83


保有スキル(4/20)

・剛力:Lv5

・進化:Lv4

・ハードヒット:Lv3

・火属性耐性:Lv3


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―



 ったく、冗談じゃないっての。なんでこんなところにこんな奴がいるんだよ。


 筋力だけに限って言えば、ドガランさんとほぼ同じ値じゃねーか。


 【万象鑑定】に映されたステータスを視て、僕は溜息とともにラピスが落ない程度に天を仰いだ。


 星四つの魔物。


 それはワイルドローズが全滅しかけた星五つの魔物、四ツ腕(ミュータント)狂乱熊(マッドグリズリー)よりも一つだけランクが下の魔物。


 ステータスはザ・脳筋といっていいほど腕力の値が突出していて、非常にバランスが悪いステータスではあるが、それでも二ツ星や三ツ星の冒険者がたとえ逆立ちしても討伐なんて出来るような相手では無い。


 コイツはワイルドローズのような中位もしくは上位の冒険者パーティーでなければ太刀打ち出来ないだろう。


 そんな魔物がなぜこんなところにいるのか、疑問は尽きないが、今それは横に置いておく。


 問題は、引くか進むか、だ。


 【隱形】の効果も効いているのだろうが、レッドオーガは何かを咀嚼するのに夢中のようで、くちゃくちゃと音を響かせていて、こちらには全く気づいていない様子だ。


 引くのであれば、このまま気配を殺しながら安全圏まで退避すればいい。


 さっきの薬草採取していた場所まで戻れば、一先ずは安全圏と言えるだろう。


 そこまで下がれば、あとは一目散に街に戻って、このことをギルドに報告すれば僕の役目は終わりとなる。


 そのあとは、中位か上位の冒険者が出動、奴を討伐して一件落着だ。


 まあアンナさんやワイルドローズの四人からは、何故一人でそんな森の奥深くまで行ったのかと、お叱りは受けるだろうが、これが一番安牌だろう。


 しかし、僕は何故ここまで来た? マーカーがラピスより大きかったので、僕ら一人一人より強いのはわかっていたことだ。


 けど、ラピスは助けてあげたいと言った。僕もそれに頷いた。だがあのレッドオーガが助けを求めているとは思えない。


 そしてあのレッドオーガよりも奥にいる小さな気配が助けを求めているというのであれば、あれを倒すしかない。


 だったら、進むしかないだろう。


 ということで、腹は決まった。奴は敵だ。そして倒す。問題はどうやって討伐するかだが。


 全体的なステータスだけで言えば、僕もラピスもあのレッドオーガには敵わない。


 けどこちらは二人だ。一体一では無く、二対一ならどうにか出来るか?


 はあ、初めての戦闘が、こんなゴッツイ奴だなんて、ツイてない。


 もうちょっと手頃な相手を用意して欲しいもんです。


――あるじ、らぴすがいく


 初めて戦うことを決意した相手が、格上の相手であることに嘆いていると、ラピスが器用に僕の頭の上から、肩、そして腕を伝い、手の平の中に転がり込んでくる。


 ……え? 投げろってこと?!


――ん、びゅーんって


 え、いや、でも、それは流石に、さ?


――だいじょうぶ。らぴす、がんばる


 いや、がんばるって言われてもなー。


 手の中のラピスを見ると、お目目がキラキラしてて、物凄く期待されてる。


 うー、あー、もー! わかった。ただ、ちょっとだけ待って。


 ラピスにそう告げると、僕は【ポイントコンバーター】を起動させて、ラピスのステータス画面を呼び出す。


 今のままでは地力で負けているので、出来るだけその差を埋めておかないと。


 先ずはベースレベルを上げて、ジョブレベルと【進化】のスキルレベルを上げてしまうと、ラピスが発光して【隱形】が解けてしまうかもしれないので、代わりに【打撃耐性】のスキルレベルをMAXまで引き上げる。



―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


名称:ラピス

種族:魔物(スライム)

性別:-

年齢:0(221日)

職業:スライム

身分:ハルトの従魔(眷属)

ランク:★★


状態:平常


BLv:30 △【決定】

JLv:3  ▲【決定】


HP:2604/2604 ▲【決定】

MP:1148/1148 ▲【決定】


筋力:350 +350+350+350 ▲【決定】

体力:368 +368+368+368 ▲【決定】

知力:363              ▲【決定】

敏捷:810              ▲【決定】

器用:511              ▲【決定】


保有スキル(6/20)

・溶解:Lv1    ▲【決定】

・吸収:Lv2    ▲【決定】

・進化:Lv2    ▲【決定】

・打撃耐性:Lv10 △【決定】

・斬撃耐性:Lv1  ▲【決定】

・酸弾:Lv1    ▲【決定】


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


 さらに保険として、【強化魔術】で僕の筋力と敏捷を、ラピスの筋力と体力をそれぞれ三段階ブーストさせた。


 僕の筋力値上昇で投げる時の力を底上げして、ラピスの筋力値上昇で攻撃力が、体力値上昇で防御力が上がるので、【打撃耐性】のスキルレベルMAXと合わせれば、奴相手ならば鉄壁と言って差し支えないかも。


 うっし、これならラピスを突撃させても、僕が追いつくまで奴と対等に戦える、というか一体一(サシ)でも倒せるかもね。


 それでも【強化魔術】は時間制限があるから、油断をしてはいけない。確実に二対一で倒す。


(それじゃ、いくよ。)


 小声でラピスにそう告げると、ラピスはこくんとひとつ頷いたので、僕は野球選手のピッチャーのようにゆっくりと振りかぶる。


 ピッチャー、だいいっきゅうぅぅぅ…………投げましたぁぁぁーー!!


「そぉい!!」


――らぴす、いっきまーす!!


 ラピスの掛け声にずっこけそうになったがなんとか踏み止まり、僕もすかさずその勢いを利用して飛び出……


ドゴンッッッッッ!!!!!!!


 ……すと、前方で凄まじい衝突音が聞こえてきた。


 レッドオーガはラピスが出撃したと同時にこちらの気配に感づいたようで、振り向いたようであったが、運悪くというか運良くというか、ラピスはその顔面に真正面から突撃したようである。


 そんな衝撃もなんのその、レッドオーガの顔面に張り付いていたラピスがぴょんっとそこから離れると、レッドオーガはまるでスローモーションのように倒れ、その場で大の字になってしまった。


 つんのめった状態でその光景に唖然としてしまったが、恐る恐るレッドオーガに近づいてみると、鼻は潰れ、どす黒く汚れた口元を見ると前歯と牙が砕け散っており、その顔は中央で陥没していたが、四肢がぴくぴくと動いているので、かろうじてだがまだ息はあるようだ。


 レッドオーガの横でぴょんぴょんと嬉しそうに飛び跳ねているラピスに何とも言えない視線を送ると、一際大きく跳ねて、その勢いで定位置に着地した。


――やっつけた! らぴす、つおい? あるじ、すごい?!


 うーん、すごいっちゃすごいんだろうけど……いいのか、これで?


 まあラピスは嬉しそうだし、いっか。


 とりあえず、トドメは刺しておこう。瀕死の状態ではあるんだろうけど、起き上がってきたら面倒だし。


 そう思い、僕は【アイテムインベントリ】から右手に黒魔鋼鉄のクレイモアを召喚して、それを振りかぶると、レッドオーガの喉元目掛けて思いっきり振り下ろした。


「ぃよっと!!」


「グゲェ!!」


 分厚い筋肉に覆われていたので、流石に切断まではいかなかったが、ガキンッという硬質な音が響いたので首の骨までは到達したっぽい。


 なので、流石にこれで致命傷は間違いないはずだし、刃が入ったところから勢いよく血が噴き出しているので、コイツももう間もなく絶命することだろう。


 改めて思う。今回は人型の魔物の命を絶ったというのに、以前ホーンラビットを狩ったときと同じように、なんの感慨も浮かばなかった。


 【状態異常無効】のスキルが凄いなと思う気持ちと、人として何か大事なものが欠落してしまったのではないかという気持ち……いや、止めよう。


 これはこの世界では必要なことなんだ。いつまでも元の世界の常識を引きずっていたら、自分の生命すら守れないかもしれないのだ。


 小さく頭を振って、そんな考えを思考に片隅に追いやり、気持ちを切り替える。


 そうしてから辺りを見回してみると、これがまあ酷い。


 至るところに赤黒い血が撒き散らされており、その血だまりの中には十数体の黒褐色の肌と血と泥で汚れてしまっているが恐らく美しい銀色だったと思われる髪をもった遺体が無造作に転がっており、まるで猟奇殺人現場のような有様だった。


 それらの遺体は頭が無かったり、腕や足がもげているものがあったが、ひとつ共通していることがある。


 それは胸の中央よりやや左、心臓付近が抉り取られていたのだ。


 何故そんなところを? と思ったが、不意に助けを求めてきたと思われるその気配が、段々と小さくなって来たので考察を中断して、急いでそちらへと向かうことに。


 茂みをかき分け、その気配の元に辿り着くと、そこにはさきほど見た遺体と同じく、銀髪と特徴的な横に尖った耳、そして黒褐色の肌をした身長百センチメートルほどの少女が呼吸を荒げて横たわっているのを見つけた。


 少女の横に跪いて様子を見てみるが、目立った外傷は無いようだったので、【アイテムインベントリ】から取り出した、魔改造ヒールポーションをゆっくりと飲ませてみると、荒かった呼吸が落ち着いたので、とりあえずは一安心かな。


 症状は落ち着いたみたいだけど、状態異常になっていないか確認するため、この少女を鑑定したところ、僕は愕然としてしまった。


 えっと、聞いてた見た目と全然違うんですけど……どゆこと?



―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


名称:ゴブリナ

種族:魔物(ゴブリン)

性別:♀

年齢:0

職業:ゴブリナ

身分:-

ランク:★


状態:気絶


BLv:3

JLv:1


HP:234/234

MP:114/114


筋力:17

体力:31

知力:60

敏捷:32

器用:48


保有スキル(3/20)

・幻惑:Lv1

・闇魔術:Lv1

・進化:Lv1


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―

お待たせしました、漸くハルトの従魔その2が登場となりました。

これで大分舞台の方は整ったのかな? といったところです。

来年では物語をどんどん加速していければと思っておりますので、お付き合いいただければ幸いにございます。


また今年最後の更新だというのに遅刻して大変申し訳ありませんでした。

来年は遅刻の無いよう頑張って参りますので、ブックマークはそのままで、そのままでお願いいたしまするぅ!

何卒! なにとぞぉお慈悲をっ


こほん。えー、それでは最後に恒例の定型文にて締めさせていただきたいと思います。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

誤字・脱字・矛盾点・説明不足・わかりにくい表現等のご指摘いただければ幸いでございます。

ただ、作者ガラスのハートでございますれば、柔らかい表現でお願いいたします。

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