第三十話
「ちょいとアンタ! いつまで寝てんだい?! お客が来てんだから、とっとと起きる!」
「わぁーってるよ。だから、そう耳元で喚くなって」
クォルさんがここの工房の親方でもある旦那さんを呼びに行ってから数分後、工房に繋がっていると思われる店の奥の方から、クォルさんの大きな声とそれとは別にやたらと野太い声が聞こえて来る。
それから何度か二つの声が行ったり来たりしていたので、更に数分ほど待っているとクォルさんが少し疲れた顔をしながら店の奥から出て来た。
「まったく、お酒を飲むのは構いやしないんだけど、いつまで寝てんだか。五ノ鐘もとっくに過ぎたってのに。……ああ、ごめんなさいね、あの人ももうすぐ来るから」
工房の親方が今の今まで寝ていたと聞いてメリッサさんも苦笑気味だ。
しかし、ここの親方が地人であると聞き、工房兼店舗の品揃えからもしかしてと思ったが、案の定地人という種族は酒と鍛冶をこよなく愛する種族のようだ。
良かった良かった、どうやらこっちのテンプレは守られたようだ。
あとは見た目だな。創作物の定番だと、短身、筋肉質、髭もじゃってところか。
女性地人の見た目は人間の子供とさして変わりないようだけど、男性地人はどうであろう。
もう裏切られるのはポーションだけで十分なんですけどねえ。
などと益体もないことを考えていると、ドスドスという重低音の足音をゆっくりと響かせながら、その御仁が店の奥から姿を現す。
その御仁は全身が筋肉の塊のようにムッキムキで、彫りの深い顔に口髭と顎鬚をたっぷりと蓄えた、身長百五十センチメートルほどの小男という僕の予想を裏切らない姿だった。
特に剥き出しの手足は競輪選手の太腿のようにぶっとく、手なんかは牛床革手袋をつけたままなんじゃないか? というくらいデカい。
ただ、背は小さくても、その御仁がそこに居るだけで発する存在感は思わず背筋を伸ばしてしまうほどに凄まじかった。
「すまねぇな。待たせちまったか?」
「ガンテツ殿、ご無沙汰してます。こちらこそ突然お伺いして申し訳ありません」
「おやっさん、おひさ~」
「おぅ、二十日ぶりくれぇか。ぁん? 誰だ、そいつぁ? 新しい客か?」
メリッサさんが折り目正しくお辞儀をしている隣で、トリフィラさんが軽い調子で手をひらひらと振っている。
ガンテツと呼ばれた地人の男性は、その二人の様子を口の端を僅かに上げて薄く笑いながら応えていたが、メリッサさんの後ろに立っている僕の姿を見つけると、眠たそうだった目元を瞬時に鋭いものに変え、僕の頭のてっぺんから足の爪先まで品定めするかのように視線を這わせてきた。
「そう、ですね。彼には先日危ないところを助けられまして、この街も初めて訪れたらしいので、私たちが案内しているところなんです」
「はい! 先日冒険者になりました、ハルトと言います! 宜しくお願いします!!」
突然変わった地人の男性の雰囲気に若干戸惑いはしたが、メリッサさんのフォローの甲斐もあってか、頭の上にいたラピスを小脇に抱えてから、背筋を伸ばしてしっかりと相手の目を見据え、言い終わりと共にほぼ九十度の角度でお辞儀をする。
若干体育会系のノリではあったが、雰囲気に飲まれずにきちんと挨拶が出来た……と思う。
こういう職人気質の人って、はっきりしない人間を一番嫌うからな。
まあ職人気質の人相手でなくても、挨拶とは人間関係を築くうえで基本中の基本だ。
その挨拶すらロクに出来ない人間と付き合ってくれるような奇特な人なんて、いないだろう。
特に冒険者となった以上、武器防具職人の機嫌を損ねたり、そっぽを向かれたりしたら、冒険者稼業にも行き詰まってしまいかねない。
「ほーぉ、嬢ちゃんたちをねぇ。……まぁそれはどうでもいいか。俺はガンテツ、この工房のを取り仕切ってる者だ。ひよっこにゃウチの物はまだ早ぇとは思うが、気に入ったのがありゃ買ってってくれや」
「はい、ありがとうございます」
それっきり僕に興味を失ったのだろう、既にガンテツさんの視線をメリッサさんたちに戻っていた。
そのおかげで、僕に向けられた強烈な圧迫感も緩み、緊張から解放される。
ふぅ。とりあえず掴みは可もなく不可もなくってとこか。
メリッサさんたちの馴染みの職人さんという人が、これほど凄絶な人だとは思わなかった。
言っちゃぁ何だが、僕の見た目は、まあ、その、ぶっちゃけ細い。この世界の人と比べたらだけど。
僕の個人的なイメージでしかないんだけど、こんな大通りから外れた場所に店を構えていて、流行ってなさそうなのに、一流と言える冒険者が馴染みにしている。
その上、これほどまでに濃い存在感を放つ御仁が親方を務めている工房。
それらを考え、ガンテツさんに視線を向けられたとき、この人は相当気難しい職人なのかもと思った。
だから最悪『そんな細腕でウチの武器が扱えると思うな』的なことを言われ、追い出される可能性が頭を過ぎったのだが、門前払いされることもなく『気に入ったのがあれば買っていけ』とまで言ってもらえたので、一応は客として認めてもらえたのかな。
「んで、今日はどうした? カミさんから今使ってるヤツが壊れたから、武器を新調してえって話は聞いたが、ちょっと前にメンテナンスしたばっかだろ」
「ええ、そうなんですが」
「なんだ、要領を得ねぇなぁ。まあいい、とりあえず見せてみな」
僕がほっと胸を撫で下ろしていると、ガンテツさんに促されたメリッサさんが背中に担いでいた長剣を鞘ごとカウンターの上に置く。
ガンテツさんはそれを手にしたかと思ったら、一息に鞘から抜き、長剣を水平にして刀身の状態を確かめていた。
「ふーむ……こりゃ芯が折れてるな。オメェさん、何を切りやがったんだ?」
ひと目で長剣の状態を見抜いたガンテツさんが眉間に皺を寄せて、難しい顔をしている。
「こいつの素材にゃオメェさんのウデに合わせて、それなりのモンを使ってんだ。そこいらの魔物を百やそこら斬ったところで、こんなにはならねぇはずなんだがなぁ」
パッと見は普通の鋼の剣にしか見えないけど、ガンテツさんの口振りからすると、相当な代物のようだ。
どれ、いっちょ【万象鑑定】先生で覗き見をば。
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名称:芯の折れた魔鉄のロングソード
ランク:★★★
区分:片手剣
品質:低
攻撃力:20
属性:無属性
概要:魔鉄を使用した片手剣
使い手の要望により、刀身が片手で扱える限
界まで長く造られている
刀身の芯が折れているため、強めの衝撃が与
えられると真っ二つに折れてしまうので注意
が必要
製作者:ガンテツ
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ほほう、『魔鉄』ときましたか。これまたミスリルに続いてファンタジーな金属のお出ましだ。
この『魔鉄』という金属は、実物がメリッサさんの長剣しかないので、詳しくはわからなかったが、どうやら鉄や鋼鉄といった金属よりも上位の金属らしい。
インゴットでもあれば詳細が解るのだが、生憎ここは工房といっても完成品しか置いていない店舗部分なので、そんなものは見当たらなかった。
加えて言うと、辺りを見回してもここに並べられている武器防具の中に『魔鉄』を使用した物は一点も無かったので、素材としても珍しい類のものなのだろう。
「それが、ですね……先日の依頼で四ツ腕狂乱熊と一戦交えまして……えと、恐らく、その時に……」
なんとも言い難そうにメリッサさんがそう告げると、ガンテツさんは対照的に目を見開いて驚いていた。
「おいおい、そりゃ本当か? あの化物熊と殺りあってこの程度で済んだってのか?!」
「え、ええ。ですが、不甲斐なく思います。折角ガンテツ殿に拵えて頂いたものなのに……」
……さってと、メリッサさんもガンテツさんとのお話に夢中のようだし、いつまでもここに突っ立ってても仕方ないので、ここに連れてきてもらった目的を果たすとしますかね。
断じて聞き覚えのある固有名詞が出てきたから、逃げるのではない。僕はここに武器や防具の相場を調べるために来たのだ。その目的を忘れてはいけない、うん。
その場から静かに一歩後ろに下がってから回れ右して後ろを振り向くと、コーデリアさんとオーリンちゃんが彫金師であるクォルさんに各々の杖の彫刻についての話に花を咲かせているようだったので、僕はラピスを頭の上に乗せ直してから、ウインドウショッピングと洒落込むことにした。
店内を見て回ってみるとそこには本当に様々な武器が陳列されている。
オーソドックスな形状の物は勿論、刃の部分が波打っている片手剣のフランベルジュや、槍と斧が一体化したポールアックスというちょっと特殊な形状のものや、先端から中程まで二股になっているソードブレイカーと呼ばれるものまであった。
ここに並んでいるものは、現代のスーパーマーケットのように値札がついてはいないので金額から判断することは出来ないが、素人目に見ても中々の逸品揃いだというのがわかる。
どれもこれも高そうだ。
そんな中、とある一画にワイン樽のようなものに大小何本もの剣が無造作に突っ込まれているのを見つけた。
その樽の傍にはでかでかとした立て看板が立てかけてある。
その立て看板に書かれている内容を読んだときは、これならちょっと頑張って稼げば買えるかも? と思ったが、そこに書かれている金額を目にしたところで、その希望は打ち砕かれてしまった。
『お買い得品!! 在庫処分セール 全品一本50万ゴルド』
くっ、宿代の銀貨三枚にも苦労しそうなのに、金貨五枚も払えるようになるのは、一体いつになるのだろう。
当分は無理そうだなぁ。暫くはミスリルの匕首にお世話になるしかないのか。
まあでも折角だし、ちょっと見せてもらおうかな。
樽の中から、両手剣っぽい大きめの一本を引っ掴んで、それを鞘から引き抜く。
刀身を起てて造りを眺めてみると、鉄色の刀身はギラリと鈍い光放っており、壁に飾られているものよりは二、三段は劣るものの外見には目立った粗もなく、中々悪くないと思う。
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名称:鋼鉄のツーハンドソード
ランク:★★
区分:両手剣
品質:やや低
攻撃力:40
属性:無属性
概要:鋼鉄を使用した両手用の大剣
刀身の鍛錬が若干甘いため、耐久度はあまり
高くない
製作者:ライソン
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ふむ、外からは判りにくかったが、やっぱりセール品だけあって『耐久度が高くない』というデメリットがあるようだ。
まあこの程度なら不良品とまでは言えないが、セール品に回される要因にはなるのだろう。
それはともかく、この両手剣には『製作者』という初めて見る項目がある。
ミスリルの匕首を鑑定した時には無かったと思うんだけど、どういう仕組みなのだろうか?
不思議に思い『製作者』の部分を見つめていると、そこへ注釈の文章がポップアップされた。
『武器防具に製作者の銘が入れられた場合に表示される。ダンジョンでドロップした装備や銘を入れなかった装備には表示されない』
なるほど。ということは、あのミスリルの匕首はダンジョン産もしくは敢えて銘を入れなかった、ということか。
いや、魔晶石というのは何かしらの方法で加工されたものであるから、それが組み込まれているということを考えると、ダンジョン産って線は薄いな。
であれば、何故銘を入れなかったのか? という疑問が出てくるが……まあ今それを考えても仕方ない、か。
それよりも、今はこのツーハンドソードについてだ。
耐久度はあまり高くないらしいけど、それってもうちょっと詳しく教えてくれませんか、鑑定先生?
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名称:鋼鉄のツーハンドソード
ランク:★★
区分:両手剣
品質:やや低
攻撃力:40
耐久度:29/30
属性:無属性
概要:鋼鉄を使用した両手用の大剣
刀身の鍛錬が若干甘いため、耐久度はあまり
高くない
製作者:ライソン
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おお、出た。
鑑定結果を閉じずに見ていたら、新たに『耐久度』という項目が出現した。
この項目は読んで字のごとく、そのアイテムが損壊するまでの限界値を数値で表したものらしい。
この数値がゼロになれば、そのアイテムは破壊され、一部を除き修復不可能となるようだ。
保存状態にも影響を受けるようで、このツーハンドソードは保存状態が良くなかったせいか、既に耐久度が減ってしまっていた。
まあどうせ今の僕には買えないので、それ自体は僕にとっては些細なことだ。
「んだとぉ! もっぺん言ってみやがれ、ポンコツ娘が!!」
「だ、だからぁ、ぶっ刺したら抜けなくなっちゃっったんだって!」
「半人前が一丁前に口答えすんじゃねぇ!!」
鑑定結果を繁繁と眺めていると、なにやらカウンターの方から物凄い理不尽な罵声が挙がっているようだけど、僕は気にせずツーハンドソードの握りを確かめるように正眼に構えてみた。
刀身の長さはおよそ四尺、柄の部分がおよそ一尺ほどなので、名前の通り両手で扱うことを前提とした大剣だ。
これを構えてみた途端、全身から力が湧き上がり、これが【両手剣術】スキルの補正を受けているということなのだと、はっきりわかった。
何故なら、僕が元の世界で習っていたのは、『斬る』ことを前提とした片刃の大太刀の扱い方であって、『圧潰す』という使い方を前提とした両刃の西洋剣では無い。
だが、いま手にしているこのツーハンドソードであっても、元の世界にいた頃手にしていた大太刀よりも巧みにこの大剣を扱える、という感覚を覚えたのだ。
その感覚に従い、一回、二回、三回と素振りをしてみると、その感覚が間違いではなかったと証明された。
何も手に持っていない時よりも、身体のキレがいい。こりゃいいや。
それにこのツーハンドソード、振ってみたらわかったが、刀身のバランスは僕好みだし、握りも割としっくりくる。
耐久度の問題が無ければ、十分に業物と言ってもいい逸品だな。
ただ惜しいのは、こんだけでかいのに、何故か若干軽く感じるんだよなあ。
まあこうして間近でよく見てみると、刃が思ったより研ぎ澄まされているので、大太刀のように『斬る』といった使い方も出来そうなのが、更に先の二つの欠点を浮き彫りにしてしまっている。
ま、買えないから惜しいもクソも無いんだけどね。
「オイ小僧」
どぉぅわっ! びっくりしたぁ。
ツーハンドソードを手にしてあれこれ考えていたら、いつの間にかガンテツさんが僕の後ろで腕を組みながら、厳つい表情を浮かべて立っていた。
「は、はい、なんでしょう?」
やっぱり店の中で勝手に商品であるツーハンドソードを抜き身で振り回したのはマズかったかなぁと、今更ながらに後悔していると、ガンテツさんは表情を変えずに、静かではあるがドスの効いた声で尋ねてくる。
「オメェ、名は?」
あれ? さっき僕名乗ったよね?
ああ、細かいことには頓着しない御人なんですね。わかりました。わかりましたから、その睨み殺すような視線をやめてください。
耐性スキルがあってもちびりそうなんで。
「は、ハルトです」
「そうか。で、小僧、そいつの具合はどうだ?」
名乗った意味無くね? ああ、ごめんなさいごめんなさい、使用感ですね。
「えっと、握りは割としっくり来ます。刀身のバランスも悪くないですし、刃もしっかり研がれているようなので、大剣にありがちな『圧し潰す』というのではなく、『斬る』という使い方が出来そうですね。ただ……」
「ただ、なんだ?」
一瞬鋭い刃のように光ったガンテツさんの眼光に、若干引きながら正直に言っていいものか思案するが、もうどうにでもなれと開き直ることにした。
「あー、その、ですね……ちょっと僕には軽いかなっと感じました。それと刀身の鍛錬が若干甘いみたいですので、耐久力に難が有りそうなので、正直業物とは言えないってとこですかね」
「……」
「あ、でも、難が有ると言っても、そこらの数打ち品とか鋳造品よりは全然いい物ですし、業物まであと一歩だと思います!」
日和ったと笑わば笑え! 耐性スキルがあったって、怖いもんは怖いんだよ!!
「……」
お願いだから無言止めて?! 何か言って!!
「んじゃあ、そっちのはどうだ?」
へ? そっちってどれよ?
「それだ。そこの壁に掛けてあるヤツだ」
呆けた顔でガンテツさんが示しているのはどれかとキョロキョロしていると、ガンテツさんはそう言って、刀身が横になるように掛けられている高額品と思われるエリア、その中央にある一本を顎で指し示した。
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名称:鋼鉄のツヴァイハンダー
ランク:★★
区分:両手剣
品質:やや高
攻撃力:65
耐久度:70/70
属性:無属性
概要:鋼鉄を使用した両手用の大剣
刀身は長大で重量があるため、振り回せば高
い破壊力を発揮する
製作者:ゼンテツ
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ああ、これね。え、でもこれって触っていいもんなのか?
ちょうど目線に付くような高さの壁に掛けてあるくらいだから、この店でもイチオシの一本なのだろう。
その証拠にこの大剣から感じる威圧感は他のものより一段上に感じられた。
「手に持たなきゃ、善し悪しなんてわかんねぇだろうが。それともなんだ? オメェは視るだけで善し悪しがわかるっていうんか? あぁ?」
本当に手にしていいものかどうかと、その大剣を前にしてまごついていると背中からやたらとドスの効いた声が投げつけられた。
ああ、もうっ! わかりました、わかりましたよ! やりゃいいんでしょ、やりゃ!!
うう、でも出来れば触りたくない。だってこのツヴァイハンダーって絶対さっきのツーハンドソードの価格よりゼロが一個は確実に多いと思う。
どっかにぶつけでもして傷付いたから買い取れなんて言われても、そんなお値段の剣なんて、今の僕にはどう足掻いても買い取れません。
それでなくても、今は金策計画が暗礁に乗り上げてるってのに。
「いいから、さっさとやれ」
わかりましたよ! やります! やりますから、そんなに急かさないでくださいっ!!
僕は恐る恐る両手で剣を捧げるかのように、そのツーハンドソードを掛け台から取り外して、先ほどと同じように柄を握り、三回ほど素振りをしてみた。
ふむ、悪くない。というか、さっきのセール品よりかなり良い。
握りは手に吸い付くようだし、刀身のバランスも整っているし、何よりさっきのツーハンドソードとは違い、フレーバーテキストには『刀身の鍛錬が若干甘い』という記述もなく、鑑定結果の耐久度も倍以上となっているので、刀身の鋼が均一に鍛えられているということだろう。
セール品同様、僕にはちょっと軽く感じはするものの、これは文句無しに業物と言っていい逸品である。
「どうだ?」
「あ、はい。これは素晴らしいですね。先ほどのものより握りはしっかりしてると思います。刀身のバランスも整っていますし、何より耐久度が高そうなので、しっかり手入れをすれば長く使えそうですね」
「……………………そうか。ちょっと待ってろ」
やたら長い沈黙のあとにガンテツさんがそう呟くと、無言で再び店の奥へと行ってしまった。
えーと、何が起きているんでしょうか?
なんとなく不安な面持ちでその後ろ姿を見送ってから数分後、シンプルな十字の形をした柄の剣を担いだガンテツさんが戻って来た。
「小僧、今度はこれを振ってみろ」
「え? あ、は、はい」
ガンテツさんはそう言って、肩に担いでいたそれを片手で持って突き出してきたので、受け取ったのだが……重っ!
先ほどのツーハンドソードやツヴァイハンダーよりも刀身が短かった――それでも三尺三寸はある――のでそれよりも軽いのかと思い、何気なく受け取ったら、想像以上に重かった。
この剣は恐らくさっきの二本の大剣の1.5倍くらいの重さがあるようだ。
ここでまごつくと、またさっきのように怒られてしまうので、躊躇わずに剣を鞘から一息に引き抜く。
するとそこに現れたのは、シンプルな造りであるが故に力強く、艶のある漆黒の刀身だった。
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名称:黒魔鋼鉄のクレイモア
ランク:★★★★★
区分:両手剣
品質:高
攻撃力:105
耐久度:200/200
属性:無属性
概要:魔鋼鉄を使用した両手用の剣
他の大剣に比べると、若干刀身が短い
造りはシンプルであるが、その分頑丈に出来
ており、一撃の威力は非常に大きい
硬さと柔軟性を併せ持つ黒魔鋼鉄を素材にし
ているため、耐久度に特化している
製作者:ガンテツ
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先ほどの二本の大剣の攻撃力や耐久度を遥かに上回る性能も素晴らしいのだが、それ以上に研ぎ澄まされた美しさと力強さを感じる刀身に思わず魅入ってしまった。
「そいつは今俺が手に入れられる最高の素材の、黒魔鋼鉄ってのを使った一本だ。振ってみろ」
ガンテツさんの言葉に従い、放心していた気を取り直して、三度正眼に構えてそれを振る。
これは凄い。握りはまるで手に吸い付くかのようにフィットする。重心も鍔元にあり、扱い易い。重量も程よくずっしりとしていて、重心と合わせて凄く振り易い。
「どうだ?」
素振りの手を止めたところで、ガンテツさんに問われたが、あまりの感動にすぐには答えられなかった。
「……どう、と言われても、これは凄いとしか言い様がないです。すごく振り易くてクセが無いと言いますか、とにかく扱い易いです」
「はんっ、そいつを扱い易いと言うか」
僕の思ったままの感想を聞いたガンテツさんは呆れるように鼻を鳴らして笑う。
「だったら、そいつを持っていけ」
なん……ですと? いやくれるっていうならもちろん嬉しいのだが、流石にこれは高過ぎるだろう!
正確な値段はわからないが、先の二本とは素材からして違うし、何より性能が違い過ぎる。
値段にすればウン千万でも利かないかもしれないもの、はいそうですか、とはいかないよ。
「そ、そんな、貰えませんよ、こんな高そうなの!!」
「ごちゃごちゃ抜かすな、黙って持ってけ!!」
えー、ここ僕が怒られるところですか?
「まあぶっちゃけ、そいつは造ったはいいが、振れるやつすらロクに居ねえんだよ。売れる当てもねぇし、倉庫で腐らせておくのも不憫でよ、扱える奴がいるなら使って欲しいんだよ。見たところ小僧はそれなり以上に心得があるみてぇだしな」
あーこれは客としてではなく、武器を扱うに足る人間として認められたってことなのかな。
店に並べられていたものの中にはガンテツさんの銘が入ったものは無かったし、多分ここに並べられているのはお弟子さんの作品で、ガンテツさんの作品は自身が認めた人にしか渡さない主義なのかもしれない。
作品への愛を拗らせた結果なのかもしれないが。
ただ、そうは言っても代金は払った方がいいよなぁ。
だってガンテツさんの後ろで、クォルさんが笑顔で額に青筋浮かべてるし。
「いいなーいいなー。おやっさん、アタイのはー?」
「うるせぇ、黙ってろポンコツ娘が! 三日後の五ノ鐘が鳴った頃にまた来やがれ! それまでにゃ仕上げといてやる」
トリフィラさんから背中に言葉を投げかけられても、頑なに振り返ろうとしない様子のガンテツさんの顔には大量の汗が浮かんでいた。
これ、絶対気付いてるでしょ。
ガンテツさんの青褪めた様子には申し訳なく思いつつ、本来の目標と一緒で何年掛かるかわからないが、しっかり稼いで返済していこうと思う。
目標が一つ増えてしまったな。
しかし、聞くのが怖いほどの額の借金が増えたというのに、悪い気がしないのは不思議なものだ。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
誤字・脱字・矛盾点・説明不足・わかりにくい表現等のご指摘いただければ幸いでございます。
ただ、作者ガラスのハートでございますれば、柔らかい表現でお願いいたします。




