第二十七話 冒険者のお仕事って大変そうだ
さてさて、再びやって来ました、冒険者ギルドのギルドハウス本館。
昨日ビックスさんに教えてもらった、新人や四ツ星未満の下位ランク向けの派出所というのも気にはなったが、昨日の様子だとそっちに行くと多分というか確実に、後でアンナさんにすげー嫌味を言われそうなので、おとなしくこっちに足を運んだという次第だ。
決して横紙破りによって強面の冒険者を怒らせるよりも、アンナさんを怒らせるのが怖いというわけでは、無いということをここに明記しておく。
ん? 朝食の時に何かイベントがあったんじゃないかって?
そんなものはございません。極々普通の朝食風景でございましたとも。
僕が、これ石なんじゃねえの? ってくらいガッチガチでくっそ硬い黒パンと、細切れの燻製肉と大豆みたいな豆が煮込まれた塩スープだけという朝食を、この世界に召喚された初日に食べた野営食を思い出しながら腹に収めていると、僕の顔を見つけるなりにやにやと笑い出すメリッサさんと、薄ら頬を赤く染めたコーデリアさんが現れて、その二人の後ろから、二日酔いなのか青褪めた顔のトリフィラさんと、歩きながらも器用に船を漕いでいるオーリンちゃんが食堂に入ってきて、その寝ぼけたオーリンちゃんが僕の膝の上に座ってきたりしたけど、それ以外は取り立てて変わったことはなかったさ。
しかし、あんな悪戯を仕掛けてくるのはてっきりトリフィラさんが担当だと思っていたから、随分と騙された気分だ。
コーデリアさんも、もっと鷹揚に構えたヒトかと思っていたけど、意外と可愛らしい一面があって、それを見れたのはちょっと得した気分でもあった。
まあ、あの場面を誰かに見られたり聞かれたりしていなかったようだし、食堂にも僕ら以外には三人の女性しかいなかったから、朝っぱらから昨晩のように厳つい風貌の男性陣からヘイトを稼ぐことも無かったのは幸いだったと思う。
……ん? ちょっと待てよ? あの宿の食堂って朝の時間帯は宿泊客以外には開いていないらしかった。
あの時間帯に居たのは、先ほど裏庭で会ったプラチナブロンドの女性――確かライラさん、だったっけか――と、艶やかな黒髪の隙間から生やした真っ白いウサ耳と腰のちょっと上あたりにポンポンのようなこれまた真っ白い尻尾を携えた獣人と思われる女性――ドガランさんのような動物要素が強い外見では無く、トリフィラさんのような人間ベースにケモ耳、ケモ尻尾が生えているタイプ――と、食事をしながら手帳に何やら書き込んでいる小麦色の肌をした学者風の女性の三人だけ。
そしてあの宿屋は、それぞれの部屋はそれほど広くはないが二階全体が宿泊施設になっていて、二〇一号室から二〇四号室の四部屋が一人部屋で、二〇五号室から二〇七号室の三部屋が二人部屋となっている。
僕が利用しているのは二〇四号室で、メリッサさんたちが泊まっているのは二人部屋である二〇五号室と二〇六号室。
残った二人部屋の二〇七号室は空室だった。
ということは、必然的にあの場に居た三人はそれぞれ一人部屋に宿泊しているということになる。
あれ? 宿泊客で男って僕だけじゃん。それってただの偶然? それとも本当は女性専用だけど、メリッサさんたちの紹介だから断られなかっただけ?
物凄く今更だけど、それって大丈夫なんか? 主に見知らぬヤロウどもからのヘイト管理的な意味で。
先に食堂に居た三人の女性は、食堂に現れた僕に一瞥くれただけで、反応らしい反応は何も無かったので、大丈夫だとは思う。
また、女性専用の宿屋ということなら、宿泊している女性の安全を考えれば、一階の食堂にあれほど大勢の男性客が入れるわけがない。
けど、何かしらの理由で宿泊客の安全が確保されていると考えれば?
……いや、これ以上このことを考えるのは止めておこう。
偶々男性客が居ない、そういう時期だったんだ。そうだ、そうに違いない。
閑話休題。
さーて、やって来ました冒険者ギルド、ギルドハウス本館(二回目)!
朝食を取ってから大分時間が経っており、細かい時刻は時計が無いのでわからないが、もう間も無く四ノ鐘が鳴る頃合いだろう。
「どうした、ハルト君? 入らないのか?」
「あー、いえ、そうですね」
訝し気なメリッサさんに促され、余り気は進まないが、昨日のこともあるので【気配察知】スキルを起動させてから、意を決してギルドハウスの扉に手を掛ける。
まあ実際問題、こうして入口の前に立ち尽くしていても仕方無いし、時折道行く人から奇異の視線が注がれてもいたので、若干居心地の悪さを感じていた。
けど、此処には四ツ星以上の冒険者しか居ないと聞かされたいま、新人の僕としては、どうしても尻込みしてしまう。
とは言っても、此処まで来た以上、いまさら回れ右して派出所とやらに向かうという選択肢は無い。
そんなことをして、態々アンナさんを般若の如く怒らせる訳にもいかない。
……あ、うそ、違う、いまの無し。
こほん、態々アンナさんに可愛らしく拗ねられても堪らない。
そんな訳で、チリンチリンというベルの音を聞きながら、リラックスモードの服装から冒険者スタイルへと着替えたワイルドローズの四人と共にギルドハウスの敷居を跨ぐ。
ギルドハウスに一歩足を踏み入れると、そこは表通りの賑やかになりつつある空気とは明らかに雰囲気が違っていた。
昨日訪れた時は、何とも緩い感じの空気であったのに、今のそれは真剣での立ち合いに似た、凄まじいほどに張り詰めた雰囲気と熱気が感じられる。
その空気に若干気圧されながらも奥へ進むと、依頼が張り出された掲示板の前には、革や鉄の鎧を纏い、腰や背中に剣や斧、メイスのような鈍器を携えた百人近い男女が四から六人で固まり、二十ほどのグループを作っていた。
その中には、ローブを羽織った人や、鎧を着けず身軽な格好の人もいたが、恐らくあれ全部が四ツ星以上の冒険者なのだろう。
その誰もが真剣な目付きで掲示板を睨み付け、幾人かが隣り合った人へと耳打ちしている。
その凄まじい熱気と、剣呑とも言える雰囲気、そして水を打ったかのような静けさに、なんとも言いようのない不安を僅かに覚えた。
昨日、冒険者というのは三ノ鐘が鳴る前には動き出すと聞いていたので、この時間帯にこれだけの冒険者が、まだ街の中に、それもギルドハウスに留まっているというのは、ちょっと話と違う。
もしかして、昨日ドガランさんは四ノ鐘でも随分早いとか零してたし、中位ランク以上の冒険者はそれに当てはまらない?
それとも何かしらの異常事態が起こっていて、ギルド側からの指示で、彼らは依頼を受けれないでいるのだろうか?
頭の中でいくつかの疑問が浮かび上がり、ふと依頼受付カウンターの方に視線を向けてみると、そこには待機している受付嬢の半分が頬を赤らめながらワイルドローズにキラキラとした視線を送っていて、もう半分は集まっている冒険者たちをうんざりとした表情で見ながら退屈そうにしていた。
ふむ、受付嬢の皆さんの顔からすると、受けれないでいるという線は無さそうだ。
どちらかというと、冒険者側が受け渋っているという様子だな。
さてこれは一体どういう状況なのかと思い、隣に立つメリッサさんに横目で視線を向けると、半数の受付嬢と同様にメリッサさんたちまでもが眉を潜めていた。
「あにこれ?」
「わからん。しかし何故こんな遅い時間帯に、これ程残っているんだ?」
「それに随分物々しい雰囲気ね」
「…………くぅ」
この異常な雰囲気を放つ光景を目の当たりにしたトリフィラさん、メリッサさん、コーデリアさんが口々に訝しむ声を挙げている。
オーリンちゃんは、うん、涎拭こっか。
しかし、やっぱりメリッサさんたちのような中位ランクの冒険者基準でも四ノ鐘の頃は遅い時間帯なんだ。
この状況を見た限りでは、中位ランク以上の冒険者というのは下位ランクの冒険者や普通の生活を営む人々より動き出すのが遅いのかとも思ったが、どうやらそんな事は無いようだった。
さて、そうであればこれは本当に一体どういう状況なのだろうか?
わからないのであれば、誰かに聞くしかないのだが、生憎僕がそんなことを聞ける相手はワイルドローズの皆さんか、アンナさんぐらいしかいない。
その聞ける相手の片方であるワイルドローズの皆さんもこの状況は理解出来ていないみたいだし、もう片方であるアンナさんが居るであろう一番奥の受付カウンターは人集で見えなかった。
まあ、あの中にワイルドローズの皆さんと顔見知りの冒険者が居れば、そちらに聞いてもらうという手もあるのだが……
「ふむ、どうにもよくわからんな。取り敢えず私たちは私たちの仕事を果たそう。それに、アンナなら何か知っているかもな」
見知った顔は居なかったようである。
ということで、アンナさんがいつも陣取っているという一番奥の、掲示板に最も近い場所のカウンターを目指すことにしたようだ。
しかし、流石にこの武装して密集する集団の中を掻き分けていくというのも少々危険なので、比較的歩く空間がある受付カウンター沿いに奥へと進むワイルドローズの皆さんの後についていくことにする。
その道すがら、数十という刺すような視線がワイルドローズの皆さんと、何故か僕に向かって注がれたが、幸い誰かに突っ掛かられることも無く――物凄く居た堪れない感じはしたが――カウンターに肘をついて寄りかかるドガランさんと、頬杖をついて世間話に興じているアンナさんの姿が見えるところまで辿り着いた。
先頭を歩くメリッサさんにいち早く気づいたアンナさんが、頬杖をついたままこちらに顔だけを向ける。
「あ、やっと来た」
「おはようございます、ドガラン殿」
「おぅ、待ってたぜ」
気怠げそうなアンナさんの言葉には取り合わず、ドガランさんとの挨拶を交わすメリッサさん。
そのドガランさんは、迫力のある強面に笑みを浮かべて鷹揚に頷いていたが、メリッサさんの後ろで青褪めた顔で今にも吐きそうな様子のトリフィラさんを見て、眉を顰めた。
「おいおい、なんだお嬢、そのザマは?」
「ぅっさいわね、アタイだって飲まなきゃやってらんない時ってのがあんのよ……ぅっぷ」
「なんだそりゃ? ったく、そんなんで本当に大丈夫なんか?」
「まあ大丈夫でしょう。基本的には私が報告しますので」
口を押さえて、ナニかを堪えるように肩を震わせるトリフィラさんを見て、呆れているドガランさんに、同じように呆れた視線を送るメリッサさんがそう答える。
てか、トリフィラさん? キラキラ処理なんか出来ないんですから、ソレ絶対飲み込んでくださいよ? 間違っても女性が衆人環視の中でぶちまけちゃダメなヤツですからね?
「それより、アンナ。この状況はいったい何なんだ?」
女性というか人としての尊厳が割と崖っぷちな状況のトリフィラさんをあっさりと見限ったメリッサさんがアンナさんへと視線を移して、先程から異常な雰囲気に包まれているこの状況について訪ねる。
すると、アンナさんは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて、若干言い難そうに口をもごもごとさせていたが、観念したかのようにひとつ溜め息を吐いた。
「あー、まあ、そうね。簡単に言ってしまうと貴女たちが原因ね」
「んむ? 私たちが?」
「そ。ここに残ってるのは灰の森を主な狩場にしてる連中って言えばわかるかしら? そこ以外を主な狩場している人たちはいつも通りだけどね」
アンナさんのその言葉を聞いた瞬間、訳がわからないといった風のメリッサさんとコーデリアさんの顔が強ばった。
「いや、だが、しかし、それは問題無いと……」
「誰かに報告した?」
「…………して無い、な」
「そ。私は貴女から直接聞いたし、信用もしてる。付き合いも長いしね。だけどここに屯っている連中はそうじゃない。何より貴女たちほどの実力を持っている冒険者が、明らかに疲弊して帰ってきた。そのうえ回復役であるコーデリアさんが倒れそうになるほどに。それなのに貴女たちはギルドへ詳細な報告はしていない」
そこまで一気に言い切ったアンナさんは、頬杖をついたまま器用に肩を竦めた。
「ま、それ自体はいいのよ。六ツ星間近と言われている貴女たちが緊急性を感じていない以上、帰還当日に報告しなくてもね。現に前回の灰の森深層部に関する調査依頼を受けたドガラン氏のパーティーだって報告は帰還した翌日だった訳だし。前々回もそうだったし、それ以前も同じだったから」
と、そこでアンナさんはついていた頬杖を外し、僕に視線を投げかけると、苦笑した。
「けど、今回は前回までと違って、調査に出向いた貴女たちが疲弊した状態で帰還したってのが、タイミング悪く大勢の冒険者に見られてたからね」
あー、もしかして僕のせい?
確かにワイルドローズの帰還に気づいていたのは受付嬢の皆さんと、酒場の方から送られてくるいくつかの視線だけだった。
今のように数十の視線に注目されるようになったのは……獲物を突きつけられたハゲが喚き散らしたあたりだったかな。
そこからドガランさんが登場したあたりで、ギルドハウスにいた殆どの人から視線を頂いた気がする。
あの一幕のせいで、無駄に注目を集めちゃったか。
そのことに思い至り、僕が渋い顔をしていると、アンナさんは視線を掲示板前に集まって剣呑な雰囲気を発しながらも、こちらに注意を向けている冒険者たちに戻し、纏っていた気怠げそうな雰囲気を一変させ、なんとも冷めた目で見やる。
「まあ確かに、情報が足りていない状況で、危険が増大したかもしれない場所で狩りをしたくないってのはわかるけど、ね」
「それがこの状況か」
「そ。だからとっととギルドマスターに報告して、この緊張状態を解いてもらうように進言してきて頂戴な」
神妙な面持ちをしているメリッサさんに、アンナさんは先程とは打って変わって軽く笑い飛ばすかのように手をひらひらと振って締め括ろうとしたが、そこへドスの効いた声でドガランさんが被せてくる。
「オレとしてもコイツらの気持ちもわからんでもないが、登録したての新米じゃあるまいし、仮にも表向きにゃ一人前って認められてるような冒険者だったら、ちったぁ冒険してこいって言いてぇがなぁ」
「ちょっとドガランさん? 冒険者たちに消耗を強いるその発言はちょっと問題ですよ? 私としても! それには全くもって! 同意見ですけど!!」
ヲイヲイ。アンナさんの方がよっぽど煽ってんじゃん。
そんなことを周りに聞こえるように大声で言っちゃぁヘイトをあつめ……あれ? 心持ちこっちに向けられる視線が減ったよーな?
それに合わせて、掲示板の前に向かうグループがいくつかある。
これはドガランさんとアンナさんに尻を叩かれた、ということなのかな?
「がはは、そいつぁすまねぇな。そういやぁ登録したての新米がここにも一人居るんだったか。確かに新米に聞かせる話じゃ無かったなぁ」
ちょっ! ドガランさんの『新米が居る』という言葉に反応したのか、突き刺さる視線がさっき減った以上に増えたぞ?!
視線って物理的に刺さるもんだったっけ? なんか全身が妙にチクチクするんですけど。
「まったくもう、発言には気をつけてくださいよ? それじゃリコリスちゃん、ご案内してあげて」
「ひゃ、ひゃい!」
アンナさんはあからさまに演技とわかる表情で一言注意を放ったあと、後方で待機しているギルド職員の制服に身を包んだ、栗色の髪の十代半ばと思われる少女に声を掛けた。
そのリコリスと呼ばれた少女はカチンコチンに緊張した様子で、カウンターの跳ね上げ天板を上げて、ワイルドローズの前に進み出る。
「しょ、しょれでは、ごごご、ご案内いたしましゅ!」
「ああ、宜しく頼む。ではハルト君、行ってくる」
「はい、いってらっしゃい」
噛み噛みで先導するリコリス嬢に苦笑しつつ、手を振るメリッサさんの後に、青い顔のトリフィラさん、コーデリアさんに手を引かれるオーリンちゃんが続く。
「くははっ!!」
メリッサさんたちを見送っていると、横合いからなんとも愉快そうな声が挙がり、そちらを見てみると、大口を開けて笑っているドガランさんがいた。
ひとしきり笑ったあと、ドガランさんはメリッサさんたちの後ろ姿と僕の顔を交互に見て、とんでもないセリフをぶっ込んできた。
「くっくっく、いや悪ぃ悪ぃ。なんとなくお前さんらが、仕事に向かう亭主と帰りを待つ妻の構図に見えてな。まあ男女は逆みてぇだが」
それホントやめてもらえます? 昨日の食堂でも感じたことだけど、メリッサさんたちはやたら人気があるのだ。
まあ綺麗どころが揃っているし、ステータスを見ても実力は確かなので、ファンが出来るのはわかる。
実際昨日今日で確認出来ただけでも、受付嬢の半数以上と昨晩食堂に来ていた大多数がワイルドローズの誰かしらのファンであることは予想がついた。
だが、そのせいで一緒に行動しているだけでも、そういった連中からのヘイトは稼ぎ放題なのだ。
なのに、そんな話が広まったら、一人じゃ街中すら歩けなくなっちゃうじゃないか。
「そーかそーか。メリッサ嬢にもようやく春が来たか」
だからやめぃっての! 水瓶亭の女将さんもそうだったけど、なんでそうもくっつけたがるかな?!
まだ出会って数日だぞ? 僕としてももっと親しくなりたいのは確かだが、外野が……って言ってるそばから【気配察知】の白色と黄色のマーカーのいくつかが赤色に染まってんですけどぉ!?
「くくくっ。そんじゃま、ちょいとお嬢ちゃんら借りてくぜぃ」
「え?! ……あ、はい」
含み笑いを続けていたドガランさんに一拍遅れて返事をするが、その時には既にドガランさんは掲示板の前を突っ切っていってしまっていた。
まあ、いいか。僕も正直それどころじゃないしね。
さーて、保護者的な人たち+アルファが居なくなって、完全にアウェーになってしまったな。
どーすっかなー? 差し当たっては、ゆっくり近づいてくる六個ほどの赤マーカーをどーにかせんとあかんなぁ。
とは言っても、僕も昨日付で冒険者になった以上、ここで絡まれてもギルドは昨日のように関与はしてくれないだろうし。
街の法律があるし、ギルド職員や他の冒険者の目もあるので、ここで刃物を取り出すお馬鹿さんはいない……と思いたい。
いやしかし、ホントどーしよ? この赤色マーカー六人の要件は、横紙破りの方かな? それともワイルドローズ関連の方かな? どっちにしても面倒だなあ、もういっそ【隠形】で逃げるか? と考えていると、カタンッという軽い音が聞こえてくる。
その音が鳴った方に顔を向けると、受付カウンターから出てきたアンナさんが腰を伸ばしていた。
「んぁ~。やっぱ長時間座ってると腰のあたりが固くなっちゃいますね……ん、ん、ふぅ」
やたら色っぽい声を挙げているが、その顔は本当に気持ちよさそうにしている。
その声と表情にドギマギしていると、腰の筋肉を解し終わったアンナさんが姿勢を正して、柔らかい微笑みを湛えていた。
「ハルトさんはこれからどうされますか? 何か依頼を受けていかれますか?」
「あ、いえ、そのですね、メリッサさんから報告が終わったあと、少し話があると言われてまして」
「あら、そうなんですか。んー、それだと今から依頼を受けられるというのも難しそうですね」
「はい。ですので、今日はメリッサさんたちを待っている間は、昨日頂いた冊子を読んでいようかと思いまして……」
「わかりました! そういうことであれば、専任担当として、私が依頼について解説致しましょう!」
えーっと、すいません、話聞いてました? まあアンナさんが『専任担当』と言ったところで、赤色マーカーの進行が止まり、ついでにあちらこちらから『狼狽』しているような気配が感じ取れた。
その証拠とい訳でもないが、さっきまで静まり返っていた広場が俄かに騒々しくなる。
ふむ、さっきの視線が突き刺さる感覚といい、今のといい、この【気配察知】スキルはレベルをMAXにしたことが関係しているのか、色々な状態の気配が読み取れるようだ。
もしかして他のスキルについても、慣れればもっと色々なことが出来のかな?
「それではハルトさん、こちらへどうぞ」
スキルについての考察をしていると、掲示板の前でアンナさんがにこやかな笑顔を浮かべながら手招きしていた。
あ、これ断ったらあとが怖いヤツだ。
ギラついた目をしている百人余りの中位冒険者たちの前からは、一刻も早く退散したいんだけど、これは逃げ切れないかぁ。
仕方なく、肩身の狭い思いをしながら、アンナさんの側に寄って行くと、アンナさんは嬉々とした様子で、掲示板の下の方に貼り付けてあるパピルス擬きの依頼書を一枚剥がして、手に持っていた。
ここまで来てしまったなら、もう外野の視線は気にしないことにして、今朝方メリッサさんからも説明をしっかり受けておいたほうがいいと言われたこともあって、半ば開き直りの精神で、僕はありがたくアンナさんの提案を受けることにする。
「えー、こほん。それでは改めまして、ハルトさんの専任担当職員となりました、アンナと申します。以後宜しくお願いしますね」
「あ、はい。こちらこそ宜しくお願いします」
「はい。あ、ただ、私は野薔薇と駆ける旋風の専任担当でもありますので、その点はご了承ください」
ほうほう、それは僕にとっては好都合かな。
いざという時はアンナさんを仲介して、メリッサさんたちやドガランさんたちに連絡が取れるかも。
いや、僕も冒険者になったんだ。そんな甘い考えは通じないか。
それでもまあ、高位に近い冒険者の人たちとの繋がりがあるってのは大きいし、そこは上手く立ち回るとしよう。
「それでは、依頼についてご説明しますね。まず昨日も少しお話しましたが、新規の依頼は三ノ鐘が鳴ったら張り出されます。が、その日限りで完遂出来るような依頼や、割りの良い依頼は直ぐに受注されてしまいますので、お早めにいらしていただくことをお勧めします。中には三ノ鐘が鳴る前にこちらへいらしている方もございますので」
昨日もちょっと聞いたけど、それってまじなんだ。三ノ鐘って元の世界基準で六時だろ? それより前ってことは五時、下手したら夜も明けない四時くらいから動き出してるってことだろ?
その人たちって朝飯はどうしてんだ? 以来受注してから一旦宿に戻ってんのかな? 僕の場合、水瓶亭に逗留し続けるなら、そうするしかないが……。
「次に依頼の形体についてですが、これは大きく別けて二形式あります。一つは先日ハルトさんが受けられたようなギルドから出され、常に受け付けております常設依頼。もう一つは個人又は団体から当ギルドを介して出される個別依頼です。そこから更に細分化され、雑務、採取、討伐、護衛、特殊という形式の五種類があります。雑務は街中の簡単なお手伝い等がそれとなります。採取は昨日ハルトさんが納品されたような植物系の素材が対象となっています。討伐に関しては、二ツ星から受注が解禁され、魔物の駆除や増えすぎた野性動物の間引きなどがそれにあたります。護衛については四ツ星からとなり、商隊が街から街へと移動する際に募集されることが多いですね。他にも要人の警護等もありますが、これは余程の実力が無ければ受注はお薦めしません。最後に特殊ですが、これは六ツ星から発生する指名依頼になります。指名依頼はギルド職員又はギルドマスターから直接提示されますので依頼板に載ることはありません。ここまでは宜しいですか?」
一旦区切られたことで、僕は頭の中で整理するが……うん、それほど難しい事は言ってない、大丈夫だ。
「はい、大丈夫です」
「では続けますね。依頼が五種類に別れているのには理由があります。依頼にはそれぞれの種類に合わせて達成ポイントが設定されています。常設依頼は十回同一依頼を完遂する毎に1ポイントですが、個別依頼では依頼主が満足される仕事内容と判断された場合は2ポイント獲得となります。ああ、ご安心ください。例え依頼主が満足したと判断されなくても、しっかり依頼内容を完遂すれば1ポイントは獲得出来ますので。満足度の判断基準は依頼主次第ですが、依頼書に完了印を押してもらえていればギルド側としては完遂と判断しております。話が逸れてしまいましたが、この達成ポイントは冒険者ランクの評価に利用されます。例えば、現在無星のハルトさんが一ツ星にランクアップするには雑務10ポイント以上、採取10ポイント以上、且つ合計30ポイントの達成ポイントが必要となります」
ふむ、ということは、昨日の時点では採取のポイントはまだ獲得出来ていないから、採取系統の常設依頼をあと九回こなせば1ポイント獲得出来るとして、それ以外に残りは最低採取9ポイント、雑務10ポイントと、更に採取、雑務合わせて10ポイントが必要ということか。
これは思ったより地道な作業だな。
ゲームであればホイホイとこなせるんだろうが、現実だと時間と体力という制限があるので、そうもいかない。
まあでも、冒険者としては右も左もわからない新人に任せられる仕事なんて、高が知れているだろうから、そうしたちまちまとした仕事で、体力の向上やペース配分を学んでいくんだろうな。
「それでは、実際に依頼書の方を見ていきましょう」
そう言い、アンナさんが手にしたパピルス擬き紙の依頼書と、掲示板の下の方に張り出されいている十数枚の依頼書を指し示した。
「このエリアに掲示されている物は全て常設依頼となっております」
どれどれ?
星無しから受けられるのは『治癒草の採取』や『活力草の採取』といった採取系の依頼や『街中の清掃』や『水路の清掃』といった雑務系の依頼だった。
また二ツ星から解禁されるという討伐系の依頼では『ホーンラビットの討伐』や『ゴブリンの討伐』などがあった。
それ以外にも討伐系では無いが、二ツ星以上を対象とした『ホーンラビットの肉の納品』や三ツ星以上推奨とされている『オークの討伐』などが目に付く。
だが、三ツ星推奨とされているもの以外は、何時でも、どれだけでも受け付けているせいか、どれも報酬は50から500ゴルド程度と安いものばかりだ。
まあ、本格的に個別依頼を受けるようになれば、常設依頼の報酬なんて、個別依頼の帰りについでとばかりにちょこっと回収しての小遣い稼ぎにしかならんのだろうから仕方ないっちゃ仕方ないのかも。
「この常設依頼は採取や納品系であれば現物を、討伐系であれば討伐証明部位を窓口に提出していただければ処理致しますので、今は説明のため剥がしてしまいましたけど、通常この依頼書は剥がさないで下さいね」
しかし、ゴブリンやらオークなんてのを見聞きすると、ここが本当にファンタジー世界なのだと実感する。
しかもゴブリン討伐の依頼書には駆け出し冒険者向けと思われる挿し絵まで書かれており、その姿は定番の如く、鷲鼻に水平に尖った耳、妙に細長い手足とガリガリな癖に腹だけでっぷりとしている姿だった。
オーク討伐の依頼書にも挿し絵が書かれており、こっちは二足歩行する豚の姿である。
これらは新人用に配られている冊子にも書かれているのだが、こうして依頼書にまで書かれているということは、冊子に目を通さない輩が多いんだろうな、と推察出来るというものだ。
「そちらは討伐系の依頼ですね。ホーンラビットやゴブリンであれば、武器を持ってさえいれば、新人の冒険者の方でも狩ることは出来ますが、ハルトさんはまだ昨日冒険者登録したばかりですので、無茶はダメですからね?」
まじまじと討伐系の依頼書を見ていたせいか、やんわりと釘を刺されてしまった。
やっぱり冒険者といったら討伐依頼が華でしょう! という意気込みが漏れてしまったのかな。
「討伐依頼の受注が二ツ星からというのにも理由があります。新人の冒険者の方は殆どが身一つで登録される方ばかりです。そこから装備を整え、レベルを上げていき、討伐に足る知識が揃う目安が二ツ星なのです。ですから常設依頼だからといって、一ツ星以下の方が討伐系の依頼を受けることは出来ません。腕に覚えがあるからといって、無茶をすれば怪我だけでは済まない場合もあります。ですので、討伐依頼に関しては、万全の状態を持って当たってください」
「はい、肝に命じておきます」
「ご理解頂いて、ありがとうございます。それと魔物についての注意点になりますが、一口にホーンラビット、ゴブリンと言いましても様々な種類が居ます」
「えっと、上位種と言うやつでしょうか?」
「そうですが……まさか、ハルトさん?」
「いいいい、いえいえ、偶々、そう偶々見かけたことがあるだけです! 見た目はほとんど同じなのに気配が濃密といいますか、そんな感じの個体をです!」
怖っ! アンナさんのすっと細められた目に見据えられて、【状態異常無効】があるのに、思わずキョドってしまった。
やっぱり怒らせたらアカンな、この人は。
「そうですか。それと上位種で無くても、ゴブリンは好戦的なうえ繁殖力も高く、気が付いたら百体単位でコロニーを作っていることもざらにありますので、中、高位冒険者の方を対象に見かけ次第討伐を推奨しております」
言外に下位の冒険者は数が多いゴブリンを見かけたら、手出しせずにギルドに報告を入れろということを示唆しているのかな。
「また先程申されました上位種についても見かけたとしても、絶対に手出ししないでください。上位種がいる近辺には必ずと言っていいほどに大規模なコロニーがありますので、見かけたら必ずギルドに報告をお願いします」
ゴブリンの上位種の見分けについては結構簡単らしい。
通常のゴブリンは大体七十センチくらいの背丈に対して、上位種は百センチを越えるので、この背丈で判別すると言う。
またそれ以外にも、通常個体は素手か持っていても棍棒位だが、上位種にもなると冒険者から奪った物らしき剣や槍、魔術を使える個体は杖などを持っていると言う。
まあ、武器云々はともかく、ラピスが進化していく過程のステータスを知っている身としては、確かに進化した上位種を二ツ星程度のレベルの冒険者が相手をするのは無理を通り越して無茶である事は理解出来る。
討伐系依頼についてあれこれ説明を聞いている最中、ふと掲示板の一番端にある依頼書が目に留まった。
それは『魔石の納品(極小)』『魔石の納品(小)』という二つの依頼書だ。
常設依頼の中でもこれだけは報酬がずば抜けて高く、魔石(極小)で1000から3000ゴルド、魔石(小)で10000ゴルド以上となっていた。
「そちらは中、高位冒険者の雑務ポイント稼ぎ用の常設依頼ですね。魔石は色々と利用価値が高いので、こちらだけは報酬金の設定は高めになっています」
魔石とは魔物の体内で魔力が結晶化したものである。
この魔石というのは様々な利用方法があるようで、僕もシュウトさんの遺品以外には、まだあまり目にしていないが、魔道具――剣や杖といった既存の道具に魔方陣を刻んで魔術が使えない者でも魔術が使えるようにしたもの――の魔力供給源に使われている。
また魔石自体がルビーのような赤い輝きを放っていて、宝飾品としての価値もあるらしく、ペンダントやイヤリングの装飾品として扱われることもあると言う。
しかし、極小と小かぁ~。
あかんですやん。
僕の【アイテムインベントリ】にある魔石は殆どが拳大の中サイズだ。
魔石(小)は極僅かしかない。
それに加えて魔石(小)であっても、星無しの今の僕が納品すれば、まず間違いなくアンナさんからのお説教が待ち受けているだろう。
ダメだ。詰んだ。
仕方ない、これはポーション作成用と割り切るか。
まあいつになるかわからないが、ランクを上げていけば納品しても問題無くなるはずだ。
それに魔石は使い道が多い素材だし、他の使い道が見つかるかも知れない。
それまで大事に取っておくとしよう。
「それでは、次に個別依頼の方を見ていきましょう」
内心でがっくりと項垂れてはいたが、アンナさんに促され、常設依頼が張り出されているところから一段上の部分に目を向ける。
そこには常設依頼とほとんど変わらない報酬額で『ロダン商会:荷下ろし(十日間契約)』といったものや『街壁補修手伝い(五日間契約)』といったものがあった。
これらは日当こそ常設依頼とほとんど変わらないが、十日間や五日間の連続契約となるので、一度受注してしまえば、契約期間の間は毎日仕事と報酬を受け取れるというものである。
他にも討伐系の依頼がいくつかあったが、これらは灰の森に生息していて、時折街付近にまで現れて田畑を荒らす魔物の討伐依頼であったり、この近隣では灰の森にしか生息していない魔物の毛皮や牙、肉といった素材の調達依頼があるようだ。
今は灰の森関連の依頼が多く残っているが、普段は新規依頼が張り出されるとこの部分だけで、凡そ二百種類くらいになり、多いときは三百種類を越えると言う。
これが本館だけでなく、規模はもう少し小さいが、いくつかある派出所でもほぼ同様の様子であるとのこと。
よくもまあそんなに依頼があるものだと少し感心してしまう。
だが、この街に常駐している冒険者は凡そ千人、二百パーティーほど。
この本館には中位冒険者以上しかいないので、依頼が受けれなければ食うに困るということは無い――依頼が受けれなければ、単純に魔物を狩って素材をギルドに売ればいい――ので、依頼の取り合いにはなりにくいが、派出所の方では、そのほとんどが下位の冒険者なので、依頼の量、種類によっては奪い合いになるという。
派出所の方では、冒険者同士の取っ組み合いが毎日数件は発生しており、その当事者たちは、どこからともなく現れる屈強なギルド職員に、ギルドハウスの裏手まで引きずられながら連れて行かれてしまうらしい。
その冒険者がいつ解放されるのかは定かではないとも。
閑話休題。
街の手伝い系統の依頼は、単純に街の住人の手が足りないので猫の手も借りたいという状態のため、出される場合が多い。
これらの雑用系依頼に関しては、街の住人に対するご機嫌取りという側面もあるので、残ってしまうのはあまり宜しくないのだが、まだ出遅れた冒険者がいる場合もあるので、昼くらいまではこのまま、それでも受け手がいない場合は、街中で完結する依頼に限り、冒険者資格を持ったギルド職員が依頼をこなすと言う。
次に討伐系の依頼だが、これはやはり、怪我や命を落とす危険性があるためか、雑用や採取系の依頼よりも圧倒的に報酬は高い。
この討伐依頼だが、注意しなくてはならないのが、討伐対象の地域が指定されていて、そこ以外で討伐されたものは対象外となっている。
まあ畑や森が荒らされて困っているのに、別の地域で討伐されても、依頼主にはなんのメリットもないし。
それ故、完了報告については、ギルド側からも、依頼主側からも厳しく精査される。
そんなわけで、この討伐依頼に関してはちょっと注意が必要だ。
実際には依頼主に会って、何処で、どんな魔物に、何をされて、困っているのか、詳しい事情を聞くことが推奨されている。
だが魔物を討伐したあとの肉や皮、骨などの素材は依頼を受けた冒険者の所有物として認められていることもあり、受け手は比較的多い。
魔物の素材は武器や防具、薬や生活雑貨に利用出来る物が多く、肉が食える魔物も居るので、多くの討伐系依頼というのは冒険者に人気の依頼である。
猪ぐらいの大きさの魔物を一人で仕留められれば、その素材の売却額だけで、四~五日は冒険者業をしなくても暮らしていける金額になるのだ。
まあ基本はパーティー単位で狩ることになるので、頭割りすればそこまでの金額にはならないのだが、それでも、大金には違いない。
「ハルトさん? ダメですからね」
アッハイ。
食い入るように、討伐系の依頼書を見ていたら、またも釘を刺されてしまった。
こうした現実的な理由とは別に、やはり冒険者としては魔物の一体でも討伐出来なければ、真の冒険者ではない、冒険者としてはモグリだ、と言われるので、二ツ星に昇格した直後、真っ先に討伐系の依頼を受けると言う。
だが、そうした者たちは、討伐のイロハも、魔物のなんたるかも知らない、駆け出しを抜けたばかりの若者であるため、その結果、半数近くが怪我を負ってしまうらしい。
中には大怪我をしたり、再起不能どころか死亡してしまう者も居る。
これに対処するために、ギルド側としては定期的に、中、高位冒険者へ下位冒険者への指導依頼を出しているのだが、これが中々受注されず、目下の悩み事らしい。
そんな風に依頼についての説明を一通り受けていると、二階へと続く中央階段からメリッサさんたちが降りてくるのが見えた。
どうやら相当な時間、アンナさんを独り占めしていたようだ。
アンナさんが専任担当といっても、当然それ以外にもお仕事はあるはずなので、流石にこれ以上アンナさんを業務から引き離しているのも不味かろう。
ここらが潮時だな、と思っているとアンナさんもメリッサさんたちに気付いたようで、中央階段の方を見ていた。
「あら? どうやらあっちも終わったみたいですね」
「そうみたいですね。アンナさん、ありがとうございました。お陰で色々とわかりましたので、助かりました」
「いえいえ、これもギルド職員としての業務ですので、お気になさらず。またわからないことがありましたら何時でもお気軽にご質問ください」
そんなことを言うアンナさんだったが、流石に新人冒険者如きにここまで懇切丁寧に説明はしないだろうと思う。
ワイルドローズの肝いり? ということでの特別扱いしてくれたのかな。
ああ、ドガランさんの推薦ってのもあったっけか。
それとも危なっかしくて放っておけなかったのか。
理由としてはそっちの方が強そうだ。
改めてお礼を言うと、アンナさんは受付窓口の方に戻っていった。
さて、依頼については大体理解出来た。
アンナさんに説明して貰った三種類以外にもまだ護衛系と特殊系の依頼があるけど、これらについてはまだ先の事なので、今はいいだろう。
僕の目的は元の世界への帰還方法を探すことなので、無理して冒険者ランクを上げることに固執はしなくてもいい。
というか、上げすぎると緊急招集はともかく、指命依頼やら面倒なことが多そうだ。
なので、当面は討伐依頼が受注可能となる、二ツ星か三ツ星位まで上げれば十分だろう。
それ以降は……状況と要相談だな。
目下の問題としては、在庫過多気味の治癒草が納品出来ないこと、スライムの泉でもらった魔石も納品出来ないこと。
それに付随してお金を稼ぐ手段がギルドの依頼をこなすこと以外に無いことだな。
雑用については、素直に街のお手伝い等をこなすしかない。
討伐については、今の僕のステータスであれば、装備をそこそこ整えれば、森の浅いところや草原に出てくるような魔物であれば問題無いはずだ。
まあ問題が有れば、また【ポイントコンバーター】のお世話になればある程度は解決するだろう。
森でガーネたちが狩った魔物が二体ほど、丸ごと【アイテムインベントリ】にあるんだけど、これはどうしようか?
……あ、ダメだ。これは多分メリッサさんたちに襲いかかったと思われる奴だった。
これを放出すれば、当面はお金には困らないと思われるが、流石に目立つどころの話じゃ済まない気がする。
【アイテムインベントリ】内にあるかぎり、時間は止まっているから腐らないし、劣化も無いから放っといてもいいっちゃいいんだけど、放っといたら放っといたで、なんか問題になる気がするんだが、気のせいだろうか?
ま、いっか。そんときゃそんときだ。
半ば思考放棄する形でそう結論づけた僕は、メリッサさんたちと合流するべく依頼掲示板の前から辞するのであった。
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