第二十六話 ラピス、つよくなるっ
後半、微えろ地帯です。
苦手な方はご注意ください。
あと、ストックが完全に無くなりました。
今後もこの文量はちょっと難しくなるかもしれませんが、更新は滞らずに頑張っていきたいと思いますので、宜しくお願いいたします!
それでは第二十六話、始まります。
宿屋の二階に上がったところでワイルドローズの四人とは就寝の挨拶を交わし、各々の部屋へと戻った。
扉を閉じたら廊下に備え付けられた燭台の明かりも入って来なくなり、表通りの街灯らしき明かりも既に消えているようで、部屋の中は真っ暗になってしまっている。
僕はちょっと考えたいことがあったので、親指大の大きさの《イルミネイト》の光球を発生させ、備え付けのテーブルの上空へと飛ばす。
それに合わせて僕はイスへ腰を下ろし、一息吐いた。
さて、無用なヘイトを稼いでしまった気はするが、あの食堂には僕ら以外の宿泊客はいなかったようだし、そこまで気にしなくてもいいと思う。
美味いメシで腹も膨れたし暴露合戦のおかけで、いい感じに気分も解れたので、あとはもう寝るだけなのだが、その前にひとつ気掛かりなことがあった。
それはラピスに関することだ。
入街の際、ビックスさんにスライムについて教えてもらったのは『兵士が数人束になっても敵わない』ということと『下位の冒険者パーティーであれば、遭遇した場合は即時撤退を選択する』というものだった。
これだけの情報であっても、スライムという存在は人間の生活圏で遭遇した場合、それなりに脅威となる存在であると考えられる。
だが、スライムの泉ではその辺の子供でも倒せるような弱い個体もいた。
しかし、そのスライムたちはグリンさんのテリトリーである泉の周辺から外に出ることは決して無かったと思う。
そこから外に出ていたのは、グリンさんの庇護が必要無くなる、少なくともテリトリーの外に闊歩する他の魔物を危なげなく退けられる強さを得たと判断した者たちだけだった。
この外に出られる子たちは、数体で徒党を組めば魔石(中)を体内に内包する魔物を倒せるだけの強さを持っている。
まあ『魔石(中)を体内に内包する魔物』というのが、どれほどの強さなのかはわからないが、戦闘訓練をしていない成人男性より弱いってことはないだろう。
だが冒険者のように、戦闘訓練とは言わないまでも実戦経験がある人間と比べるとどうなのだろうか。
冒険者ギルドで絡んできたハゲはラピスを見るなり『弱っちい』なんて吐かしやがった!
……おっと、失礼。
まあ実際、ラピスは本来であればまだまだグリンさんの庇護の下にいるべき子なのだ。
そう言われても仕方がない面もあるのは確かである。
スライムの泉を出た直ぐの森はガーネ、ヒスイ、トリンの三体よりは弱いものの、それなりの強さを持つ魔物しかいなかったために、ラピスの育成をすることは出来ず、駆け抜けることしか出来なかったのだ。
しかし、僕の見てきたことと、後付けではあるがビックスさんからの情報もあって、外界に住むスライムというのはそれなりの強者であり、相手取るにはその特性のこともあって非常に厄介な存在である、という認識だったため、実態はどうであれ、スライムであるラピスに手を出してくる者はヒト、魔物ともに皆無とは言わないまでも殆どいないだろう思っていた。
だからこそ、ラピスにはこれから僕が傍で見守りながらゆっくり強くなってもらう予定だったのだ。
だが、ハゲのあの言葉で僕のその認識と育成方針が揺らぐことになってしまった。
ラピスは僕の従魔――ここでの一般的な呼称は使い魔――だ。
まだ使い魔証はもらってないけど、アンナさんも叫んでいたが使い魔は財産――この言い方はあまり好きではないのだが――なので、主人である僕と一緒にいれば無闇矢鱈とちょっかいをかけてくる阿呆な輩は居ないと思いたいが、ラピスを見ただけで野生のスライムが街に侵入してきたなんて勘違いする間抜けが居ないとも限らない。
もしそんな間抜けに襲われてしまえば、今のラピスでは何も出来ずに殺されてしまうだろう。
あのハゲの言うことが正しいのだとすれば、スライムはハゲ程度の強さがあれば討伐は容易である、ということだ。
であれば、ここはラピスの安全を第一に考える事にしよう。
ラピスはまだ赤ん坊といってもいいほどなので、暫くは伸び伸び育って欲しかったんだけどなあ。
「ラピス、ちょっとこっちにおいで」
部屋に入るなり、僕の頭の上から飛び降りて、ベッドの藁の上でぽんぼん跳ねて遊んでいたラピスを呼び寄せ、掌で掬い上げる。
「ステータス見せてね」
ラピスを掌に乗せたまま、備え付けの椅子に腰掛けてから、ラピスのステータスを確認してみた。
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名称:ラピス
種族:魔物(スライム)
性別:-
年齢:0(218日)
職業:ベビースライム
身分:ハルトの従魔(眷属)
ランク:-
状態:平常
BLv:5 ▲【決定】
JLv:3 ▲【決定】
HP:180/180 ▲【決定】
MP:86/86 ▲【決定】
筋力:32 ▲【決定】
体力:28 ▲【決定】
知力:30 ▲【決定】
敏捷:76 ▲【決定】
器用:51 ▲【決定】
保有スキル
・溶解:Lv1 ▲【決定】
・吸収:Lv2 ▲【決定】
・進化:Lv1 ▲【決定】
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あれ? なんかレベル上がってる? 初めて出会ったときはレベル1じゃなかったけ?
何かしたっけ?
ラピスとは初めて出会った時から、それこそ寝ている時以外は常に一緒にいた。
その寝ている時であっても、たまに抱き枕にしていたくらいだ。
ラピスの普段の行動は、僕の頭の上にいるか、そこから降りても僕の目の届くところで転がったり飛び跳ねたりして遊んでいるだけ。
それ以外だと……定期的に僕のMPをご飯にしてたくらいか?
ラピスの今までの行動から、レベルが上がっている原因としては、ベースレベル以外に【吸収】のスキルレベルも上がっているので、MPを吸収したことによるものと考えられる。
ふむ、であればちょっと検証してみようか。
「ラピス、ご飯食べる?」
――たべる~♪
食事前の作業でMPがかなり減っていたので、ゆっくりと掌に魔力を集めると、ラピスはそれを容赦無くぎゅんぎゅんと吸い取っていく。
あまつさえ、掌に集めた魔力だけでなく、僕の体の中に残っている魔力まで吸い上げていってしまう。
ちょ、まっ!?
食事を取ったことで多少は回復していたが、それを超える量のMPをラピスに吸われてしまった。
咄嗟に開いた僕のステータスウインドウを確認してみると、残MPが三割を切ったことで魔力枯渇状態に陥ってしまったようだ。
急激に体内魔力が失われたことで、大きな脱力感に襲われ、辛うじてラピスを落っことすことはしなかったが、テーブルに頭を打ち付けてしまい、ゴンッという鈍い音が部屋の中に響き渡る。
そこからさらにMPを吸われ二割を下回ったところで、開いたままであったラピスのステータスウインドウからピロリンという軽快な音が鳴り響いた。
テーブルに突っ伏してしまった状態からふらつく頭をなんとか擡げ、ラピスのステータスウインドウを確認してみると……
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名称:ラピス
種族:魔物(スライム)
性別:-
年齢:0(218日)
職業:ベビースライム
身分:ハルトの従魔(眷属)
ランク:-
状態:平常
BLv:6 ▲【決定】
JLv:3 ▲【決定】
HP:221/221 ▲【決定】
MP:104/104 ▲【決定】
筋力:37 ▲【決定】
体力:33 ▲【決定】
知力:36 ▲【決定】
敏捷:89 ▲【決定】
器用:59 ▲【決定】
保有スキル(3/20)
・溶解:Lv1 ▲【決定】
・吸収:Lv2 ▲【決定】
・進化:Lv1 ▲【決定】
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ああ、レベルが一個上がったな。
けど、あかん。これはあかんやつや。
気を抜くと手放しそうになる意識を必死に繋ぎ止め、そっとラピスをテーブルの上に置いて直ぐ様【アイテムインベントリ】からマナポーションの入った木のお椀を取り出す。
震える手でなんとかそれをぐびっと一息に半分ほど飲み干すと、どうにか魔力枯渇状態から脱することが出来、朦朧としていた意識もはっきりとしてくる。
あ、あっぶね~。意識ふっ飛ぶかと思ったわ。
ミスリルの匕首に嵌め込まれた魔晶石に魔力を吸われた時以上の喪失感に若干冷や汗をかいたが、テーブルの上で不思議そうにしているラピスを見ると、思わず苦笑してしまう。
ラピスの盛大な食欲には驚いたが、それはMPが全快の状態であったなら問題無かったのだ。
けど今日はちょっとMPを使う作業をしていたのでかなり減っていたにも関わらず、それをろくに回復もしていない状態で、さらにMPを減らすことをしてしまったことによって引き起こされた事故である。
これはラピスというよりも、僕の危機管理意識の低さが招いてしまったことなので、ラピスは責められない。
僕のリスクマネジメントに関しては、今後の課題にするとして、今はラピスのことに集中するとしよう。
先ほどの検証によって、ラピスのレベルが上がっていた事の原因は解った。
どうやら、ラピスは僕の魔力を度々吸い取っていたことでレベルアップをしていたようである。
だが不思議なのは、あの泉のスライムたちは地面から滲み出してくる魔力を吸収して生活していたので、魔力を吸収することによってレベルアップするのならば、出会った当初にレベル1だったことに説明が付かない。
これは推測でしかないが、恐らく『自然に放出されている魔力』を吸収したのでは経験値が得られず『他者が内包している魔力』を吸収すれば経験値が得られるのではないかと思う。
この推測が正しければ、スライムはなんでも体内に取り入れ、その物質に宿る魔力と経験値を常に得ているということもあり、討伐されず数年も放置されれば、他の魔物よりレベルは高くなりやすいため、ビックスさんの言っていた通り、スライムは厄介な魔物という認識には頷ける。
またラピスもこのまま僕と一緒に居れば、数年後にはかなり高レベルになることが確定しているが、現状そこまで悠長にはしていられなさそうだ。
成長を見守れないことを残念に思いつつ、未だ不思議そうな顔をしているラピスを改めて掌の上に掬い上げて、ステータスウインドウに目を向ける。
この世界で簡単に強くなるにはレベルを上げるのが一番だ。
勿論強さと一言に言っても実戦経験の有無や相手との相性なんかもあるので、レベルだけが全てなわけじゃないが、指標としてわかり易いのがレベルであることは間違いない。
ということで、ここはチートスキルと名高い【ポイントコンバーター】先生の出番である。
先生、お願いします!
なんて冗談は置いといて、ラピスのステータスウインドウの『BLv』の横にある『▲』を視線でクリックすると、数字が6から太文字の7へと変化する。
よしよし、僕のレベルを上げた時と同じ反応だな、と満足していたら、レベルを10にした所で『▲』が『△』に変わってしまい、それ以上レベルを上げられなくなってしまった。
えーと、まじで?
ラピスのレベル上限って10なの?
でも、確かガーネたちはもっとレベル高かったはずなんだけど……。
個体差が関係しているのか?
若干焦りながら、あれこれ考えているとふとスキル欄にある【進化】スキルが目に付いた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
名称:進化
区分:魔物専用(パッシブ)
取得条件:無し
概要:魔物専用の特殊スキル
現ランクでのベース及びジョブレベルが上限
に達したとき、ひとつ上の上位種へと進化が
可能
但し上位種への進化は当スキルのレベルと同
じランクまで
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
ああ、なるほど。そういうことか。
ランク毎にレベルキャップされている、ということらしい。
であれば、ラピスが次の段階に上がるには、ベースレベルだけじゃなくてジョブレベルも一緒に上げなくてはならないようだ。
粗方仕組みが理解出来たので、ここでラピスへの説明責任を果たしてから、ラピスの意思を確認してみよう。
「ラピス、ちょっと今から大事なお話をするよ」
――なーに?
小首を傾げるようにぷるんと揺れるラピス。
くっ、可愛いなぁ。
「こほん、これから僕たちは二人っきりだ。周りにはガーネたちのようなお兄さんお姉さんは居ない。だから僕たちは自分の身を守るために強くならなきゃいけない」
しかしこれからは可愛いだけじゃ駄目だ。
街の外に一歩でも出れば、そこは魔物が潜んでいてもおかしくない。
今のラピスのままじゃ、ちょっと強い魔物に撫でられただけで死んでしまう可能性がある。
街の外だけじゃない。
悲しい事だけど、従魔であっても魔物であるラピスにとっては、街中であっても安全とは限らない。
だから、ある程度は強くなって、最低でも一撃は耐えられる強さを身に付けて欲しいと思う。
初撃さえ耐えて逃げられれば、僕が直ぐ様駆けつけられる。
僕にとってはこの世界で初めて手を差しのべてくれた、大切な家族だ。
そのラピスが誰かに殺されてしまうなんて、とてもじゃないが、許容できる事ではない。
欲を言えば、襲撃者を返り討ちに出来れば文句ないのだが、街の中でそれをやってしまうと、たとえ正当防衛だったとしてもラピスが罪に問われかねないので、街の中限定ではあるが、ここは専守防衛に努めてもらうしかない。
街の外だったなら知らん。遠慮無く返り討ちにしてしまえばいいと思う。
「ラピスは強くなりたいかい?」
――つよく? らぴすつよくなったら、あるじうれしい?
「そうだね、ラピスが強くなって、自分で自分を守れるようになってくれると、凄く嬉しいよ。それで、僕の事を助けてくれるともっと嬉しいかな」
――じゃあ、つよくなる。つよく、なりたい
「ありがとう、ラピス。本当はゆっくり経験を積んで強くなっていって欲しかったけど、そうも言っていられないみたいだから、ちょっと特別な方法でラピスには強くなってもらおうと思うんだ。いいかな?」
――うん、ばっちこい
……どこで覚えてきたんだよ、そんな言葉。
まあそれは置いといて、ラピスの了承も得られたので【ポイントコンバーター】を媒介にして、格納されていた僕の経験値をラピスへと流していく。
続いて、ラピスのステータスウインドウのベースレベルを現在の限界値である10まで上げていき【決定】をクリックすると例の如くアナウンス画面がポップアップした。
#######################
経験値を176消費してレベルアップします。
実行しますか?
【はい】【いいえ】
#######################
それに僕は意を決して、更に【はい】をクリック。
続いて、ジョブレベルについても同じように上げていくと、ベースレベルと同様、10に達した時点で『▲』が『△』に変わったので【決定】と【はい】を続けてクリックすると、無事ラピスのレベルアップが果たされた。
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名称:ラピス
種族:魔物(スライム)
性別:-
年齢:0(218日)
職業:ベビースライム
身分:ハルトの従魔(眷属)
ランク:-
状態:平常
BLv:10 △【決定】
JLv:10 △【決定】
HP:391/391 ▲【決定】
MP:175/175 ▲【決定】
筋力:62 ▲【決定】
体力:64 ▲【決定】
知力:60 ▲【決定】
敏捷:143 ▲【決定】
器用:92 ▲【決定】
保有スキル(3/20)
・溶解:Lv1 ▲【決定】
・吸収:Lv2 ▲【決定】
・進化:Lv1 ▲【決定】
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まあレベルアップしたといっても、レベル10という平均的な成人男性よりは高いステータスではあるが、まだまだ心許ないと感じてしまう。
だが、ここからは【進化】スキルの効果によって次なる段階へと進むことになるのだが……この先はどうすればいいんだ?
ラピスを進化させるにはどうすればいいのか首を傾げていると、ポーンという軽快な音共に、初めて見るアナウンス画面がポップアップした。
#######################
個体名:ラピスは進化の条件を満たしています。
進化を実行しますか?
【はい】【いいえ】
#######################
ふむ、これも選択形式か。
ならば、一応本人? 本スライム? に確認してみるのが筋というものだ。
「えーと、ラピスは進化したい?」
――しんか? おっきくなる!
うーん、なんかちょっとズレてるような?
まあ進化という言葉を聞いてちょっと興奮してるようであるし、またそれが何であるかは本能で理解しているっぽい。
であればまあいいか、と軽く頷いて【はい】のボタンをポチっとな。
なんとなく気軽に押して、どんな変化が起こるのか若干わくわくしながら、一秒、二秒、三秒と待ってみたが、予想に反して何も起きなかった。
あるぇ? と不思議に思いつつも、じっとラピスを眺めていると、唐突にラピスの身体が、ぴかっと《イルミネイト》の光なんか目じゃないくらい眩い真っ白な光に包まれた。
ふぉぉぉぉぉ!! 目がっ! 目がァァァッ!?
あまりにも不意打ち過ぎて、まるで太陽の光を直視してしまったかのように、目を焼かれてしまった。
辛うじてラピスを放り投げる事態にはならなかったが、床に転んで悶える事ぐらいは許して欲しい。
幸い、光は十秒ほどで収まったが、暫くは目の奥が痛くて、まともに視界が確保出来なかったよ。
……ふぅ、改めて、ラピスのステータスを確認してみよう。
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名称:ラピス
種族:魔物(スライム)
性別:-
年齢:0(218日)
職業:ジュニアスライム
身分:ハルトの従魔(眷属)
ランク:★
状態:微興奮
BLv:1 ▲【決定】
JLv:1 ▲【決定】
HP:414/414 ▲【決定】
MP:194/194 ▲【決定】
筋力:71 ▲【決定】
体力:74 ▲【決定】
知力:69 ▲【決定】
敏捷:166 ▲【決定】
器用:106 ▲【決定】
保有スキル(4/20)
・溶解:Lv1 ▲【決定】
・吸収:Lv2 ▲【決定】
・進化:Lv1 ▲【決定】
・打撃耐性:Lv1 ▲【決定】
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ふむ、ランクに『★』がひとつ付いて、ステータスがベース、ジョブ共にレベル1に戻ってるな。
んー、けど他の数値は星無しの時のレベル1の時より高くなっている。
ということは、進化してランク上げる毎にレベルは1に戻るけど、ステータス数値としての強さは継承されるってことか?
――あるじ、ぴかぴか! たのしい、もういっかい、もういっかいして?
ラピスのステータスを眺めつつ思考を走らせていると、掌の上で器用にぴょんぴょん跳ねているラピスがお強請りしてくる。
こ、この子、完全に僕の目を殺しに来ているな! ラピス、恐ろしい子!
冗談はさておき、確かにランクアップしたとは言っても、まだまだレベルは上げておくべきだろう。
あまり上げ過ぎると、今度は逆に危険視されてしまう可能性があるので、もう一回か二回くらい進化させておくのが、現時点では適切なレベルだと思えたので、ラピスのリクエストにも応えてる形で、もう一度レベルを上げていくと、今度はベース、ジョブ共に20となった時点で『▲』が『△』に変わった。
しかし、今回は【決定】をクリックしてレベルアップが果たされてから暫く待っていても、進化可否を求める脳内アナウンスが流れて来なかった。
はて? 何かが足りない?
ああ、もしかして【進化】スキルか?
そうアタリを付けて、【進化】スキルのレベルを一つ上げると、先程と同じように進化可否のを求めるアナウンスが頭の中に流れてくる。
想定通りの反応にひとつ頷くと、僕は【はい】をクリックする前に、ラピスをそっと床の上に降ろして、背を向けた。
ふふん、同じ過ちは犯さんのだよ。
そうして準備が整ったところで【はい】をクリックしてから急いで目を瞑る。
だが、五秒くらい待ってみても辺りに光が満たされる感じがしなかった。
……あれ? なんか手順でも間違ったかな?
不審に思いつつも、振り返ったのが間違いだった!
なんと僕が振り返った、そのタイミング、ドンピシャでラピスの身体が凄まじく光輝く。
ぬぐぅぉおおぉぉおぉ!! 目がっ! 目がァァァッ!?
警戒が弛んだその瞬間を狙っていたとしか思えないタイミングで目潰しを喰らって、床を盛大に転がりながら悶える僕を尻目に、きゃっきゃっとはしゃぐラピス。
……これがラピスのイタズラでは無いと信じたい。
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名称:ラピス
種族:魔物(スライム)
性別:-
年齢:0(218日)
職業:スライム
身分:ハルトの従魔(眷属)
ランク:★★
状態:興奮
BLv:1 ▲【決定】
JLv:1 ▲【決定】
HP:1262/1262 ▲【決定】
MP:575/575 ▲【決定】
筋力:179 ▲【決定】
体力:184 ▲【決定】
知力:182 ▲【決定】
敏捷:414 ▲【決定】
器用:267 ▲【決定】
保有スキル(6/20)
・溶解:Lv1 ▲【決定】
・吸収:Lv2 ▲【決定】
・進化:Lv2 ▲【決定】
・打撃耐性:Lv1 ▲【決定】
・斬撃耐性:Lv1 ▲【決定】
・酸弾:Lv1 ▲【決定】
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再び視力が回復するのを待ち、涙目で歪む視界の中、目頭を揉みながらラピスのステータスを確認する。
うん、これなら問題無いでしょう。
何気に新しいスキルもいくつか獲得したようだし、ステータス的にも僕のと比べても遜色無い、というか敏捷に至っては僕の倍以上ある。
懸念事項としては、ラピスがまだ幼いことと、それゆえに経験が全くと言っていいほど無いことだ。
場当たり的に【ポイントコンバーター】に頼ってしまったが、本当にこれで良かったのか、今更ながら他に手段があったのでは? と悩んでいると、一回り大きくなったラピスが目の前でぽんぽん嬉しそうに跳ね回っているのが目に入った。
ま、嬉しそうだからいっか。
経験はこれから積んでいけばいいんだし。
それに危険だというのがわかっていて、付いてくるのを許したのは僕だ。
ラピスが一人前になるまで、時には手助けして、時には見守り、そして支えていくのが僕の責任というものだろう。
差し当たっては、興奮して跳ね回っているラピスを鎮めることから始めようか。
ラピスの当分は収まりそうにない興奮具合に苦笑しながら、部屋を縦横無尽に飛び跳ねているところをどうにかとっ捕まえて、そのまま抱き抱える。
「さ、もう寝るよ」
――ぴかぴか~。ぴかぴかっ!
僕の腕の中に抱えられても、はしゃぎ続けるラピスとともに、半ば無理矢理に藁敷のベッドに潜り込んだのだが……藁がチクチク刺さって痛い!
それでも雨ざらしの野宿よりはマシではあるので、《イルミネイト》に含まれていた魔力霧散させ、柔らかなシーツの感触を恋しく思いながら、ゆっくりと眠りに落ちていった。
―★―★―★―★―★―
ゴーン、ゴーン、ゴーン
「……ん……む」
昨日も耳にしたことのある、腹の底に響くような鐘の音で目を覚ます。
上半身を起こし、欠伸を交えつつ、ちくちくと刺さる藁を払い除けてから、木戸に閉められた窓を開け放つ。
そこから入り込んでくる、少し湿り気を帯びた冷たい空気が頬を撫でる。
窓から見える街の景色は、夜が開けて間もないのにも関わらず、まばらではあるが既に人通りが見えていた。
――ん~、おはよう、あるじ
ぼーっとした頭で街を眺めていると、ベッドの方でもぞもぞと動く気配がしたのでそちらへ戻ると、ラピスが寝ぼけ眼でふらふらとしていた。
「はい、おはよう」
スライムってそんなに睡眠を必要としないんじゃなかったか? という疑問が浮かびかけるが、ラピスはまだ生まれて一年経っていないみたいだし、寝る子は育つとも言うし、気にしても仕方ないか。
案外僕の生活サイクルに合わせてくれているのかも?
そんな益体もないことを考えつつラピスを掬い上げ、定位置の頭の上に鎮座させてから、顔を洗うべく部屋を出ることにした。
欠伸を噛み殺しながら一階に降りると、ちょうど女将さんが受付カウンターの横にある食堂とを繋ぐドアから出てきたところに出会す。
「あ、女将さん。おはようございます」
「はい、おはようさん。昨日はよく眠れたかい?」
女将さんのにやけ顔、それが意味するところには物申したいが、藪蛇になりそうな感じがひしひしとするので、ここはあえてスルーすることにする。
「あはは、ええ、まあグッスリデスヨ? あっと、そうだ、顔を洗いたいんですけど、井戸とかってありますか?」
顔を洗うだけなら《スプリングウォーター》で作り出した宙に浮かぶ水球でまるっと洗ってしまえばいいのだが、部屋でそれをやってしまうと、部屋には水回りの設備がないので、排水に困ってしまう。
井戸がなければ、最悪裏庭で魔術の水球で行水――桶や盥は使わないけど――するしかないかな。
ああ、一応トイレらしきものは裏庭の片隅にあるが、水洗なんて立派な代物では無い。
有り体に言ってしまえば、所謂ボットンだ。
それも穴を開けた地面に大きな瓶を嵌め込んで、その中に排泄するという何とも旧時代然としたものだった。
まあ元の世界の時代と照らし合わせると、トイレらしきものがあるだけこちらの世界の方が進んでいると言えなくもないが、現代日本人の感覚からしてみると何とも言えないものがある。
余談だが、夜中に用を足そうとしたとき、匂い漏れ防止に蓋がしてあるにも関わらず近寄っただけで凄まじい悪臭がしたので、思わず《クリーン》を使ってしまったのはナイショだ。
「はあ、それなら裏手に水瓶があるから、その水を使っておくれ」
何故そこでがっかりした表情をするのか、小一時間ほど問い詰めたいところだが、そこはグっと堪えつつ一言お礼を言ってから、宿の裏手に回る。
昨晩は暗がりだったのでわからなかったが、そこはちょっとした広場になっていて、槍を振り回すのには少々厳しいが、剣を振るくらいのスペースはありそうだ。
トイレもどきとは反対側の奥の方には、肩くらいまでの高さの衝立で仕切られているシャワー室のようなスペースがあり、その横にはドラム缶サイズの水瓶と幾つかの木桶がおいてあった。
この宿は完全紹介制とはいえ、その利用者の多くは冒険者らしいので、恐らく身体を動かした後はここで汗を流すことが出来るように、との配慮なのだろう。
そんなことを考えながら、水瓶の側に転がっている木桶を使って水を掬い上げる。
まだ陽が登り始めた時間帯なので、水は程よく冷えており、目を覚ますにはもってこいの冷たさだ。
ラピスを一旦地面に降ろしてから、バシャバシャと桶に張った水で顔を洗い、【アイテムインベントリ】から取り出した布で水気を拭き取る。
「ふぅ、さっぱりした。冷たくて気持ちいいな」
さて、使った水はどうすればいいのかな、広場に撒いちゃマズイか?
と考えつつ、ふと視線を衝立スペースに向けると、そこにはウェーブのかかったプラチナブロンドを湿らせ、こちらを不思議そうに見ていた伏し目がちな美女と目が合う。
「ん?」
「え?」
衝立の上から覗く白い肌と鎖骨、そこに雫が流れ、太陽の光がキラキラと反射する様がなんとも幻想的な雰囲気を醸し出していた。
一瞬、その光景に見とれてしまう。
いやいや、そうじゃねぇ。なにガン見してんだ、僕は!
「うわぁ! ご、ごめんなさい! っていうか、なんで裸!?」
僕は首が捻れるのもいとわず、光の速度を超える勢いで後ろを向いた。
やっべぇ! なんでこんな公共の場に真っ裸の女の人がいるんだよ!
街に着いて二日目にして、覗きで訴えられるとかシャレにならんぞ!
などと混乱している僕を尻目に、真っ裸の美女は何事もなかったかのように、衝立の向こうから出てくるような気配がした。
「ん。裸じゃない、ちゃんと帯はしてる。それと余った水は広場に撒いちゃダメ。撒くならそっちの草むらに」
半裸? の美女はそれだけ言うと、スタスタと宿の中に向かって歩いていく。
その後ろ姿を見た限りでは、サラシのような胸帯と褌のような下帯を身に付けているようで、確かに裸ではなかった。
バクバクと煩く鳴る心臓の音と共に、僕はその後ろ姿が見えなくなるまで呆然と立ち尽くす。
歩く度にかすかに揺れる臀部、朝日を受けてキラキラと光るその背中姿が幻想的なまでに美しく、見とれてしまった。
「あ、ハルトさん! おはようございます!」
「む、ハルト君か。……おはよう」
水の入った桶片手に惚けていたそこへ、現実に引き戻すかのように二つの声が横合いから掛けられる。
声がした方を見やると、にこにこした笑顔でちょっとはしゃいだ様子のコーデリアさんと少し険しいというより疲れが抜け切らないような表情のメリッサさんが手拭いを持って立っていた。
「おはようございます、コーデリアさん、メリッサさん」
明後日の方向に飛んでいた意識を戻し、挨拶を返すと、不意にコーデリアさんが駆け寄って来る。
「ハルトさん! これ見てください! これ!!」
そう言うや否や、コーデリアさんは勢い良く、着ていた服を下乳が見えるくらいにはだけて見せた。
その突然の行動に一体何事かと驚いたが、コーデリアさんが指し示したのは昨日まで包帯を巻いていた腹部である。
そこは一昨日、傷の治療をした後に傷痕が残らなければいいな、と思いヒールポーションを含ませた布を当てていたのだ。
腰を屈めて改めてその傷があった部分を見てみると、傷痕は完全に消えていて、コーデリアさん本来の白くきめ細かい肌が眩しく輝いているようだった。
ほう、こりゃすげえ。ヒールポーションってのは傷口の治療だけじゃなくて、傷痕を消すことまで出来るのか。
ヒールポーションの効果を確認するように、まじまじとコーデリアさんのお腹を観察してから、確かこの辺だったな、と傷があったと思われる部分へ無意識にそっと指を這わせてしまった。
「ひゃぅん!!」
その途端なんとも可愛らしい奇声があがり、即座にやっちまった! と思ったのも後の祭り。
恐る恐る視線をその奇声の発生源へと向けると……服をたくし上げたまま目を見開き、固まっているコーデリアさんの真っ赤な顔があった。
「んんっ、コーデリア? いくらなんでもちょっとはしたないんじゃないか?」
「ふゎっ! ……お、御見苦しいものを御見せしました……はぅぅ」
メリッサさんの一声で再起動を果たしたコーデリアさんは真っ赤なお顔のまま、消え入りそうな声と共に、そそくさとメリッサさんの背中に隠れてしまった。
「まったく、仕方のない奴だな」
ため息混じりのメリッサさんの言葉に、さらに小さくなるコーデリアさんだった。
爽やかな朝の空気だったのに、一気に気不味い空気になっちゃったよ。
そんなコーデリアさんを僕も直視出来ず、僕の顔も赤くなっているんだろうなぁと思いつつ、火照った顔で明後日の方向を向いたまま、話題を変える。
「そ、そういえば、トリフィラさんとオーリンちゃんが見えませんけど」
「ああ、あの二人はまだ夢の中さ。オーリンは元々朝はそんなに強くないし、トリフィラはただ単純に飲み過ぎなだけだ」
メリッサさんは肩を竦めながらも、僕の露骨な話題転換に乗ってくれた。
「先ほど三ノ鐘が鳴ったばかりだしな。ゆっくりしていられるのも長期依頼明けの今のうちだけだから、もう暫くは寝かせといてやるさ」
うーん、メリッサさんの年齢はこの四人の中で二番目なのだが、パーティーリーダーということもあって、なんというか、これぞ姉御といった感じだ。
この世界では、正確な時間が測れる時計というものがそれほど普及していない。
あるところにはあるのだろうけど、よほど高級品なのか、今のところ僕はこの世界に召喚されてからは目にしたことが無かった。
それゆえかこの世界の人々は、日の出日の入りといった自然のサイクルや、街中から響いてくる鐘の音を基準にして生活している。
冒険者といえどもそれは例外では無く、連続して依頼や長期間に渡る依頼を受けた後の休日以外は、場合によっては街の住民より早い時間帯から活動を開始することも屡々。
というのも、冒険者ギルドのギルドハウスに、新規の依頼が張り出されるのは三ノ鐘が鳴った直ぐ後というのだから、さもありなん。
よって割のいい仕事を確実にゲットするのであれば、この時間帯ですら遅いということだ。
「ところで、ハルト君」
「はい、なんでしょう?」
「今日はどうするつもりなんだ?」
メリッサさんにそう問われ、僕は少し考える。
僕の手元に残されているお金は、冒険者ギルドから借り受けた銀貨七枚のみ。
この街に来るまで期待していた、治癒草の卸売りという道が閉ざされたいま、僕には収入の宛てが無かった。
何とかしてお金を稼がないと、宿代どころかまともな食事にありつけることすら難しい。
そうなってしまえば、元の世界に戻るための手段についての情報収集すら危ぶまれてしまう。
明後日以降は安宿に移るとして、今日は荷下ろしでもなんでもいいので、お金を少しでも稼いでおきたい。
「そう、ですね。僕にも出来そうな仕事があれば、それを受けたいと思っています。なんと言ってもギルドに借金しちゃいましたし。その分を除けば、僕って無一文ですから」
若干引き攣り気味の、乾いた笑いを浮かべていると、今度はメリッサさんが顎を手で擦り、何やら思案気な表情になった。
「ふむ、であれば、すまないがそれは昼以降にしてもらえないだろうか?」
昼以降? 僕としてはこの時間にここにいる以上、割のいい仕事はもう無いだろうから、依頼を受けるのが昼以降になっても、それほど依頼の内容に変わりがあるとは思えないので問題無いのだが、それでも短時間で終えられる仕事しか受けれなくなってしまうな。
「それは構いませんけど、何か理由でも?」
「ああ、昨日も聞いていたと思うが、私たちは四ノ鐘がなる頃には、先日の依頼の完了報告をしなくてはならない。だがそれは一刻も掛からないと思うので、その間待っていて欲しいんだ」
メリッサさんはそこで一旦言葉を切ると、苦々しい表情を浮かべる。
「それに、ハルト君にはアンナが専任担当についたのだろう? であれば待っていてもらう間にもう少し詳しく依頼について聞いておくといい。正直自分で言うのもなんだが、この冒険者という職はとてもじゃないが堅気とは言い難いのでな、思わぬところに落とし穴があったりするんだよ」
その表情から察するに、過去に依頼の内容か報告か報酬関係かはわからないが、なんかしらのトラブルがあったことは容易に想像出来た。
「依頼内容については、基本ギルドの方で精査するんだがな、あの時は……っと、すまない、話がずれたな。それでだ、報告が終われば私たちは装備の修理やら新調やら消耗品の補充なんかをしなくてはならないのだが、その前に例のことについては話を着けておきたくてな」
例のことって……あー、もしかしなくてもポーションのことかな?
僕としてはあれは既に終わったことになっているので、ちょくちょく頭の中から抜けてしまうな。
「あー、わかりました。そういう事でしたら、依頼はまた今度にします」
「そうか、すまんな」
「いえ、確かに宙ぶらりんなままだと、落ち着きませんからね」
とは言ったものの、これはいい機会なのではなかろうか。
ここで僕の特製ポーションの値段が、大体でも判れば、昨晩考えついた治癒草の換金の代替案である、ポーションの卸売りについても目処が立つかもしれない。
そうなれば、態々冒険者ギルドで小金を稼ぐといった金策方法よりも楽に稼げるようになるかも。
それにメリッサさんたちはその話が終わった後は、装備の点検や買い出しに行くらしいので、お邪魔でなければ、それについて行かせてもらうのもいいな。
この街には昨日着いたばかりなので、街の中のことはまだ何にも知らないのだ。
新人冒険者向けの仕事、そのほとんどは手紙の配達や荷下ろし、街壁の補修といった、街中向けの仕事がほとんどである。
これらの依頼をこなすにしても、ある程度街並みを知っていたほうがいいだろう。
「……時にハルト君」
思考に沈んでいたところへ、メリッサさんからお声が掛かけられる。
「ふぇ?」
「んんっ、私たちはこれから汗を流すんだが」
思考に耽っていた間、地面に落としていた視線を上げてみると、そこには腰に手を当てて、にやりと悪戯っぽい笑顔を浮かべたメリッサさんがいた。
あ、これ、次の言葉聞きたくないんですけど。
と思いはしたものの、この世は無情なりけり。
そんな僕の思惑は蹴っ飛ばされて、メリッサさんは豪速球をぶっ込んでくる。
「別に覗いていってもらっても構わないが、私はライラほど腰が細くないから、女としての魅力には欠けると思うぞ? 胸帯をしていない分、ライラに見せてもらえなかった部分は見れると思うが」
「んなぁっ!?」
『あーあの金髪美人さんとはお知り合いでしたかー』とか『あの女性はライラさんっていうのかー』とか『何時から見てました?』とか、言いたいことは多々あったが、メリッサさんの言葉の後半部分を想像してしまい、それらの言葉が全てが吹っ飛んだ。
急速にある一部分へと血が集まるのが感じ取れてしまったので、必死にその想像を振り払っていたのだが、残念ながらメリッサさんのターンはまだ終わっていなかった!!
「ああ、コーデリアは私らの中では一番乳が大きいから、見応えはあると思うぞ?」
「めめめめめ、めりっさちゃん?!」
先ほどの羞恥から若干回復したところのコーデリアさんへと、肩越しにちらりと視線を送るメリッサさんのその笑顔はとても活き活きとしていた。
不意に、メリッサさんの言葉に狼狽してその背中から顔を覗かせたコーデリアさんと目が合ってしまい、コーデリアさんはぼんっと音が聞こえそうなほど急激に顔を真っ赤に染めてしまった。
その姿に先ほどの一幕も手伝ってか、よりリアルな映像が頭の中に広がっていく。
ぬおぉぉおおぉぉお! 想像するな!! 想像しちゃイカンって!?
確かに一度は見た! が、あれは医療行為であって、しかも全部は見ていない!!
ヤラしい想像を一瞬でもしてしまったことに対して、言い訳がましい――事実である! ――言葉を並べ立てて、その想像を振り払うべく誤魔化していると、震えるようなか細い声が微かに聞こえてくる。
(み、見られちゃうんですか? 私の全部を? は、ハルトさんに? でもでもまだ恋人でもないのに……けど、ハルトさんなら……)
やめてぇーーー! 必死に想像しないように頑張ってるところに、そんな変化球放り込むのはやめてください!!
コーデリアさんの危ない発言を、明らかに聞いたであろうメリッサさんは、にやにやが止まらず、今にも吹き出しそうな様子で更に追い打ちを掛けて来る。
「で? どうする?」
「どどどどど、どう、とは?」
僕が精一杯の虚勢を張っているのが解っているのだろう、メリッサさんはここで止めとばかりにど真ん中の直球をぶっ込んできた。
「それはもちろん、覗いていくかい?」
「覗いていきません! しょしょしょ食堂でお待ちしてましゅ!!」
メリッサさんの言葉に食い気味に被せ、隣の敷地との目隠しになっている壁際でカマドウマっぽい昆虫と睨めっこをしていたラピスを素早く回収して、ダッシュで宿へと戻った。
その際、僕の背中へとカラカラとした笑い声と共に『随分と初心だなー』とか『そこまで遠慮しなくてもいいのに』とか聞こえてきた気がするが、無視だ無視。
宿の中に駆け込むと、一旦気持ちを落ち着けるため、前屈みになりつつも早足で部屋まで戻ることにした。
はあー、顔があっつい。
もぅね、ほんと朝っぱらから勘弁してくださいよぉ。
こんなんじゃ、食堂になんか行けやしない。
こんな赤い顔、女将さんやエイミーちゃん、他の宿の従業員に見られでもしたら、何言われるかわかったもんじゃない。
メリッサさんにからかわれてるってのは途中からわかったけど、コーデリアさんのあれはちょっと本気くさかったな……。
だぁーもう! ヤメヤメ! まだ出会って数日の相手に僕は何を期待してんだ。
何はともあれ、僕は顔の火照りと集まった血が治まるのを待つしか無く、食堂に向かえたのは、それから三十分ほど経ってからであった。
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