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第二十三話

 さて、無事にねんがんのアイ〇ソード……じゃなかった、ギルドメンバーの証であるギルドカードを手に入れることが出来た。


 鈍い光を放つそれは銀行のキャッシュカードよりも一回り大きく、表面はつるつるとしている。


 ギルドカードの表面には何の文字も刻まれてはおらず、ひっくり返して裏面を見てみると、ギルドハウス入口に掲げられていた看板と同じ、盾と交差した二本の剣がでかでかと描かれていた。


 それを指で弾いてみると、カンカンと金属質な甲高い音を立てたが、手に持った感じではそれほど重くはない。


 材質はなんだろう?


 鉄にしては軽いし、まさかプラスチックや樹脂ってことも無いだろうし。


「ん?」


 不思議材質のギルドカードを手の中で方向を変え、いろいろな方向から観察していると、ほんの僅かにではあるが、手の平からギルドカードに魔力が吸い取られる感覚に襲われる。


 ギルドカードに触れていた指先にもざらざらとした手触りが生まれたので、改めてギルドカードの表面を見てみると、先程までは何も刻まれていなかったそこに文字が刻まれていたのだ。


 そこに刻まれていた文字は、僕の名前、種族、性別、年齢、職業、冒険者ランクの六つについてだった。


 ただ、職業についてはなにか不具合なのか、『魔物使い』とは表示されず、『※※※※』と表示されている。


 それらを見つめながら、いつの間に文字が刻まれたのかと不思議に思い、首を傾げているとアンナさんが声をかけてくる。


「今少し力が抜ける感覚がしましたか?」


「え? ああ、はい」


 反射的に返事はしたものの、意識はギルドカードに向いていたので、若干キョドってしまった。


 そんな僕の反応に初々しいものを感じたのか、アンナさんは先ほど激怒していた様子とは打って変わって、優しい笑みを浮かべている。


「ふふ、それはギルドカードの機能の一部ですのでご安心ください。魔力の操作が不得手な方も大勢いらっしゃいますので、登録直後のギルドカードには一定時間触れておりますと、僅かではありますが自動的に魔力を吸い出す機能がございます。それの機能が働いたということは、ハルトさんとギルドカードの同調が完了したということです」


 ふむ、僕はラピスとスキルオーブのおかげで魔力の扱いについては問題無いけど、確かに【魔力操作】スキルが無いと、魔力の扱いは相当難しい、というかそもそも魔力制御の訓練をしていなければ、体の中にある魔力を感じることすら難しい。


 であれば、魔力操作が出来ない冒険者がいても不思議ではない。


 実際脳筋……げふんげふん、戦士系のドガランさんは魔術系スキルはおろか、【魔力操作】スキルも持ってなかったしな。


「それではギルドカードの説明に移らせていただいても宜しいですか?」


「はい、宜しくお願いします」


 僕は姿勢を正して、アンナさんの説明を聞く体勢と意識を整える。


 先ほど簡単にギルド規定を聞いたが、規定違反時の罰則はかなりキツめのようなので、ここで『聞いていない』や『知らなかった』が通用するとは思わないほうがいいだろう。


 特にこのギルドカードはギルドメンバーの個人情報の塊のようだし、その情報の一部に触れただけで、罰則対象になるなんてことも大いにありえる。


 なので、後々のことを考えれば、ここはきちっと説明を受けた方がいい。


「畏まりました。それでは『ギルドカードオープン』と念じてみてください」


 そうして一言一句聞き逃すまい、と気合を入れつつ、アンナさんに言われるがままに『ギルドカードオープン』と念じてみると、手からギルドカードに魔力が僅かに吸われる感覚がしたと思ったら、目の前にステータス画面に似た半透明のウインドウが浮かび上がった。



―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


名前:ハルト

種族:人間族

性別:♂

年齢:17

職業:※※※※

ランク:星なし


依頼達成ポイント

・雑務:0

・採取:0

・討伐:0

・護衛:0

・特殊:0


依頼状況

・なし


BLv:55

JLv:30


保有スキル


【コモンスキル】

・両手剣術

・気配察知

・隠形

・威圧

・魔力操作

・生活魔術


【ジョブスキル】

・錬成


【ユニークスキル】

・無詠唱


討伐記録

・ホーンラビット×2


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―



 ふむ、内容としてはステータスウインドウと比べると、一番の大きな違いはステータス値が無い代わりに『依頼達成ポイント』が表示されているってことくらいか。


 あとは『ランク』、即ち冒険者ランクと『討伐記録』が追加されたところだな。


 あれ? 討伐記録に『四ツ腕狂乱熊』と『白亜之大蛇』の名前が無いなと思ったが、あれはガーネとヒスイが仕留めたんだっけか。


 それと、スキルに関してはこの街に入る前に【鑑定偽装】で細工して、対外的に知られても問題無さそうなものだけを表示するようにしてある。


 この形にするには正直少し迷った。


 ギフトスキルとも呼ばれているユニークとエクストラは当然のこと、コモンとジョブをどこまで隠すかということに頭を悩ませたのだ。


 僕の場合、コモンとジョブ両方全て隠さない場合は、二十個のスキルを持っていることになる。


 以前メリッサさんたちを鑑定した(視てみた)限りでは、両方合わせて六から八個くらいだったので、それくらいの個数に合わせればいいかと思ったが、今度は何を隠して、何を隠さないでおくかということに考えを巡らせねばならなかった。


 そこで思い出したのが、トリフィラさんのお叱りの内容だ。


 このことから、表示するスキルはトリフィラさんたちにバレているいくつかのスキルを中心にした構成にしたのだ。


 誤算としては、ワイルドローズの皆さんがそれぞれユニークスキルを持っていたので、僕も一個くらいなら平気かなーと思っていたのだが、街に入ってから通りすがりの人たちを片っ端に鑑定したところ、誰もユニークスキルなんて持っていなかったどころか、持っているスキルは平均してニ、三だったので、表示したスキルがちょっと多かったかもしれない、ということだった。


 まあそれでも、ドガランさんみたいな上級冒険者であれば不自然というほどでもなさそう――新人(ルーキー)がこれほど多くのスキルを持っているのは不自然というのは横に置いておく――なので、今はそれほど気にしていない。


「ウインドウが立ち上がりましたか? そちらが現在のハルトさんの登録情報となります」


 っと、思考が逸れたな。


 若干の間を置いて気を取り直し、アンナさんの言葉に頷いて改めて表示されたウインドウを眺める。


 なるほど、これで現在の依頼進捗状況や獲得依頼達成ポイント、魔物の討伐数等が一目で解るようになっているのか。


 しかし、依頼関係の情報はギルドで更新するのだろうけど、魔物の討伐数なんてどこでカウントしているんだろうか?


「そちらの情報は基本的にはご自身にしか認識出来ません。但し、ご自身が許可した項目は相手にも見せることが出来ますので、パーティーへ加入する際に情報提示が必要となる際にご活用ください。また依頼を受注される時と達成の報告時にはカードの提示をお願いします。また、別の町や街に移動された際は到着後、出来るだけ早めにそこのギルド支部への登録をお願いします」


 ふむふむ、これは街が魔物に襲われた際の、緊急時に対する強制依頼の為の戦力把握目的かな?


 さっきの説明にもあったが、街が魔物に襲撃された場合、街の常備戦力――騎士や兵士、警備隊――に出動命令が下されるのだが、(しがらみ)があるせいなのか如何せん動きが鈍い。


 その為、初動はどうしてもフットワークが軽い冒険者が対応することになるという。


 低ランク、三ツ星以下であれば強制依頼対象外なので、登録をしなくても特に問題にはならないが、四ツ星以上となると強制依頼の対象なので、戦力把握のためにも即時登録が望ましいと言うことだ。


「ギルドカードは身分証にもなりますので、破損、紛失には十分ご注意ください。万が一破損、紛失致しますと再発行に銀貨五枚の費用が必要になります」


 身分証。


 そうだ、これさえあれば街に入る際の面倒な手続きも簡単に済ませられる。


 ギルドカードを手にした時も思ったが、こう改めて人から説明されると、漸く僕もこの世界の一員になれた気がして、ちょっと感動してしまった。


 この世界で初めて、いや地球にいたころから含めても初めての借金しちゃったのにね。


「ギルドカードには個人認証機能がありますので、他人のカードは使用できません。もし、ダンジョン等にて他の冒険者の物と思われるギルドカードを拾った場合は出来るだけギルドへと届けていただければ助かります」


 はっ、いかんいかん。


 感動に浸ってる場合じゃなかった。


 まだアンナさんの説明の途中だった。


 というか、今さらっと出てきたけど、やっぱりあるんだ、ダンジョン。


 この世界にあるというダンジョンは、元の世界のRPGなどのゲームでお馴染み、魔物が徘徊する迷宮とのこと。


 その形態は地下へと下っていく洞窟型、上階へと登っていく塔型、果ては森そのものがダンジョン化したものなど様々なものがある。


 そんな不思議空間であるダンジョンであるが、そこは実に様々な資源が生み出される宝の山ということもあり、多数の冒険者が探索に入っていく。


 だが、魔物や罠等の侵入者を撃退する機能もあり、少なくない数の冒険者が返り討ちに合うという。


 返り討ちに合った場合、怪我をしただけで帰還出来たならば幸運な方で、最悪の場合はその場で魔物に殺されるか、罠に嵌って死んでしまうらしい。


 ダンジョンでパーティーメンバーが死亡、又は遺体を発見した際、遺体はその場に放置してギルドカードのみ持ち帰るのが暗黙の了解らしいが、それは単純に探索装備に加えて、人間一人の身体を担いで移動するのは危険過ぎるというのが理由である。


 そして、その持ち帰られたギルドカードにより、ダンジョンの危険度更新の判断材料にするらしい。


 たとえ死んだとしても、情報は残す。


 それが冒険者としての矜持の一つだという。


 まあ勿論生きて、情報を持ち帰るのが最善というのは言うまでもない事だけど。


「また、この個人認証機能を利用した金庫の管理も承っております。こちらにお預け頂いた金銭はどの街の冒険者ギルドでも引き出す事が出来ますので、是非ご利用ください」


 ほほー、銀行のようなキャッシュカードにもなるのか。


 残念ながらクレジットカードの機能は無いようだ。


 メリッサさんたちに教えてもらった限りでは、この世界には貨幣しかないので、ジャラジャラと嵩張るし、財布というか貨幣袋が重くなるのは想像に難くない。


 クレジットカードの機能があればかなり楽そうなのに残念でならない。


 また冒険者は宵越しの金は持たない主義の人が多いのか、この銀行機能はあまり活用されていないようだった。


 まあいつ死ぬかわからない職種なので、その考え方になるのも理解出来なくもない。


 が、逆にいつ動けなくなるかもわからないので、老後の貯えも必要だと思うんだ。


 なので、僕としては積極的に利用していこうと思う。


「簡単にではありますが、以上がギルドカードについてのご説明となります。それと、あら? どこにやったかしら……ああ、ありました」


 口頭での説明に一区切り着いたところで、アンナさんが受付台の下の方をガサゴソと漁り、程なく目的の物を見つけ出したようだ。


 アンナさんが取り出したのは、登録用紙にも使われていたパヒルスもどき紙を十数枚ほど紐で束ねた冊子のようなものだった。


 その冊子の表面に積もっていた埃をパンパンと手で払ってから、受付台の上に差し出してくれた。


「けほけほ……こちらをどうぞ。こちらは先ほどご説明しました冒険者ギルドの規定、その詳細やこの街近辺の狩場についてのちょっとした情報が纏めてありますので、ご活用ください」


 恐らくこれは冒険者登録したばかりの新人へと支給されるものだと思われるが……埃が被るほど、使われていなかったようである。


 まあアンナさんもさっき『この街で冒険者を始めようって人は珍しい』とか言っていたし、ハゲも『三ツ星以上の冒険者が集まる街』なんてことも言ってたくらいだし、この街で新人ってのは相当に珍しいんだろう。


 でもこの街で生まれ育った人が、冒険者になろうとはしないんだろうか?


「ああ、ごめんなさいね。ウチで登録する完全な新人さんって殆ど居ないんですよ。ルセドニ育ちの新人はみんな、ギルドに登録する前から街の外に出たりして、このあたりのことなら、下手な冒険者より詳しいもので」


 冊子を受け取った際の、もにょっとした表情を読まれたらしく、アンナさんがそんな説明を付け加えてくれた。


 そうですか、まあ僕のような存在が相当珍しいのは理解しました。


 改めて受け取った冊子をぱらぱらと流し見てみると、最初の方には冒険者ギルド創始者が掲げたという冒険者の心得や、ギルド規定の細かいことが載っていた。


 そこからページをさらに捲ると、この街の近場にある森や草原の植生や、出没する魔物なんかの情報が、ご丁寧に挿絵付きで説明されている。


 ふむふむ、なるほど。こりゃいいや。


 情報としてはそれほど厚みがあるわけでは無いが、冒険者としては新人どころか初心者といっていい僕にとっては、これが有ると無いとでは大きく違ってくる。


 これは後でじっくり読み込ませてもらおうかな。


「それと、こちらは登録料を除いた借入金、銀貨七枚になります」


 流し見しながら捲っていた冊子を閉じたところで、アンナさんのその言葉とともに、受付台の上に百円玉サイズのちょっとくすんだ銀色の硬貨が七枚積み上げられた。


 確か銀貨一枚で1000ゴルドだから、これで7000ゴルドか。


 物の相場がわからないので、はっきりとしたことは言えないが、これだけじゃ支度金としてはちょっと心許ないかも。


「以上で冒険者登録は完了となります。何かご質問はございますか?」


 街の中で生活していく上で必要になりそうなものや、冒険者として活動するために必要と思われるものへと考えを巡らせていると、アンナさんからそう告げられる。


「はい、大丈夫です」


 アンナさんの説明は丁寧で解りやすかったし、初心者用の冊子ももらったので、これといった不明点は今のところ無いし、大丈夫だろう。


「そうですか。何か不明な点がございましたら、お手元の冊子をご覧いただくか、(わたくし)どもギルド職員(スタッフ)へとご質問ください」


 アンナさんもこう言ってくれているし、なんかあったらまた聞きに来ればいいか。


 あ、そうだ、思い出した。


 これ、支度金の足しに出来ないかな?


「はい、ありがとうございました。あの、これからのことについて、いくつかお聞きしても良いですか?」


「はい、大丈夫ですよ。お答え出来ることに限りますが、何なりとご質問ください」


「ありがとうございます。ええと、今から依頼を受けることは出来ますか?」


「はい、出来ますよ。ただ、もう間も無く完全に陽が落ちてしまいますので、これからの街の外に出られるのはお薦めしません。夜に活動が活発になる魔物も居ますし、何より視界が確保しにくくなりますので」


 ちょっと心配そうに眉をひそめたアンナさんだったが、僕としても流石にガーネたちのような優秀な護衛がいない状況で、魔物が闊歩する街の外、それも陽の落ちる時間帯に出歩いても平気だなんて無謀なことは思わない。


「ああ、街の外に出るわけでは無いです。ここに来る途中で薬草を採取しましたので、それを納品出来ればと思いまして」


 そう、思い出したのはこれ。


 スライムの泉でグリンさんに頼まれて間引いた治癒草だ。


 ガーネたちとの森歩きの最中にも多種多様且つそこそこの量の薬草を採取していたが、これなら【アイテムインベントリ】に文字通り売るほどある。


 そもそも、このために治癒草の間引きをしていたといっても過言ではないのだ。


「なるほど。それでしたら常設依頼にランクフリーの依頼がございますので、現品をこちらに提出していただければ処理出来ますね」


 安心したような納得顔のアンナさんから視線は外さずに、それでいてアンナさんからは見えないように、受付台の下でひと握り、十本ほどの治癒草を【アイテムインベントリ】から取り出す。


「あ、そうでしたか。わかりました、ではこれをお願いします」


 受付台の上にその治癒草を置いたところで、何故か横から視線を感じたので、目だけをそっと視線を感じた方に向けると、呆れたような目をしているメリッサさんとジト目でこちらを見ているトリフィラさんがいた。


 アンナさんには見えないようにしていたが、メリッサさんとトリフィラさんにはバッチリ見られてしまったようだ。


 声には出していなかったが、トリフィラさんが口だけを動かして『おバカ』と言っていた。


 はい、すみません。昨晩頂いたお叱りのこと、忘れていたわけではないんですが、周囲に気を配るのを忘れておりました。


「はい、畏まりました、拝見致します……あら? これは……随分と状態が……へぇ、なるほど……んん、失礼致しました。それでは確認致しますので少々お待ちください」


 なはは、とお二人からの無言の圧力を乾いた笑いで誤魔化していると、僕が提出した治癒草を手にして繁繁と見ていたアンナさんが、何事か呟いていた。


 治癒草を一通り確認し終わったアンナさんがちょっと意味深な笑みを浮かべたかと思うと、席を立ち、裏方へと引っ込んでしまった。


 あ、なんか嫌な予感がする。


 なんとなくもやもやしたものを抱いていていると一、二分ほどでアンナさんは戻って来た。


 さきほどと同じような笑顔を浮かべて。


「確認致しました。治癒草が十束ですね。治癒草は本来一束50ゴルドとなりますが、お持ち頂いたこちらはどれも素晴らしい品質ですので、一束150ゴルドにて買い取らせて頂きたいと思います。よってお支払いは合計で1500ゴルドとなりますが、如何いたしますか?」


 まじか!?


 規定買取額の三倍ですと?!


 これ、魔力草と違って赤くないですよ?


「こちらの金額で宜しければ、ギルドカードのご提示をお願いします」


「え? あ、はい、だ、大丈夫です。お願いします」


 品質が良いということによる買取額の大幅な増加に戸惑い、ちょっとどもってしまったが、慌てて先ほど受け取ったばかりのギルドカードを受付台に差し出す。


「薬草採取は五束納品で一回の達成となります。またこちらの依頼は十回の達成で採取依頼ポイントの獲得となりますのであと八回、計四十束を後日納品して頂ければ、ポイント獲得となりますので、頑張ってくださいね」


 台の上に置かれたギルドカードを回収して、先程のカード作成時と同じように受付台の下で作業を続けながら、薬草採取依頼について教えてくれる。


 それから間もなく、チンっという甲高い音とジャラジャラという硬質な音が聞こえてきた。


「それでは報酬とギルドカードをお返しします」


 アンナさんの言葉とともに、受付台へと置かれたギルドカードと十五枚の五百円玉サイズの大銅貨。


「今回のお支払いは、持ち運びに便利な大銅貨に致しましたが、お申し付け頂ければ銅貨や銀貨へと両替することも可能ですが、如何致しますか?」


「……あ、いえ、はい、大丈夫です」


 受付台に置かれたギルドカードと十五枚の硬貨を手にして、ちょっと惚けてしまった。


 これが、僕が稼いだお金、か。


 汗水垂らしながら間引き作業をしていた時は、二束三文でもいいから売れて欲しいと思っていた。


 実際これが二束三文の価値なのかどうかは、この街の物価次第なのだが、それでも元の世界ではアルバイトもして無かった僕にとっては、初めて自分で稼いだお金だ。


 感動、歓喜、高揚、そういった感情が胸に広がり、ただただそれが嬉しかった。


 だが、ふと気付く。


 余りにも量が多かったので、正確に数えてはいなかったが、この品質の治癒草ってあほかってくらい【アイテムインベントリ】の中にあるし、この品質を超えるものも相当数ある。


 これ全部売れば億万長者……とは言えないまでも、そこそこな額になるんじゃね?


 それに気付き思わず、頬の筋肉が緩んでしまう。


 と、そこへ冷水を浴びせるかのようなアンナさんの声が降りかかる。


「ところで、大変不躾な質問なのですが、こちらの治癒草はいったいどちらで採取されたものなのでしょうか?」


 え? それっていったいどういう意味……?


「ああ、申し訳ありません。ご提出頂いたものが、(わたくし)としても今まで見たこともないほど良質なものでしたので、少々気になりまして」


 伏し目がちで、心配そうなアンナさんが向けてくる意味深な視線に頭がクリアになった。


 この向けられた視線の意味に対する解を求めるべく、普段あまり使わない脳みそをフル回転させて考える。


 確か治癒草に限らず、魔法薬に加工出来る薬草は、魔力が豊富な土壌で育つ。


 品質が良質な物であれば、それが顕著だ。


 僕の場合、【採取】スキルのカンスト特典で、採取した植物に対する品質は二段階向上するのだが、カンスト特典が知られているとかいないとか、そもそも普通はそこまでスキルレベルが上がらねぇよ、ってのは脇に置いておく。


 また、魔力が豊富な土壌というものは、魔力に親和性のある植物だけでなく、魔物が好む場所でもある。


 ということは、だ。


 これほど良質な薬草が採取出来る生息地ならば、ギルドに報告して冒険者の共通財産にしろということか?


 それとも、ギルドに登録したからには、この先そんな危険地帯に単独で勝手に出向くなという警告か?


 そんな考えを巡らせて固まっていると、アンナさんの視線が一瞬だけメリッサさんとトリフィラさんを射抜く。


 その視線を受けたトリフィラさんは肩を竦めて、メリッサさんは目を伏せて頷いている。


 あ、これは後者っぽいな。


 そんな判断を下していると、目の前のアンナさんは先程の心配そうな表情とはうって変わって穏やかな微笑みを浮かべていた。


 但し、目は笑っていない。


「申し訳ありません。差し出がましいことを申しました、先ほどの言葉はお忘れください。いくらギルド職員(スタッフ)にとはいえ、ご自身で見つけられた採取場の情報を公開するわけには参りませんよね。ご無礼お許し下さい」


 う、うーむ、間違っても他の冒険者にこんな危ない情報をひけらかすな、と釘を刺されてしまった。


 この、背後に重苦しい効果音がつきそうな笑顔は、そういうことなのだろう。


 ……ってことは、これ以上スライムの泉産治癒草をギルドに卸すのは無理っぽいな。


 不用意に纏まった数でも卸そうものなら、悪目立ちしてしょうがない。


 治癒草でそうなんだから、良癒草や快癒草、魔光草なんかはもっとアウトなんだろうな。


 なんてこった。


 当初の想定とは違った意味で売ることが出来ないなんて。


 内心でがっくりと肩を落としていると、唐突に横合いから肩を組まれた。


 服越し感じる柔らかい感触と、鼻先にふわっと香る女性特有の甘い香りにどぎまぎしてしまう。


「よーし、登録も常設依頼だけど初依頼も終わったね? んじゃ、早速パーティー申請といこーか!」


 待ってましたとばかりに嬉しそうな声でそんなことをのたまうトリフィラさんに対して、胡乱げな視線を返すアンナさん。


「あー、最後に一つ。ランクの離れた人とパーティーって組めるんでしょうか?」


 なんとも言えない空気の中、意を決してアンナさんに聞いてみた。


「んんっ。そう、ですね。結論から申しますと、可能です。が、あまりお薦めは致しません」


 咳払いを一つしてから、僕ではなく、トリフィラさんをジロっと睨みながらそう告げられる。


「お薦めしない理由としましては幾つかございますが、大きな問題としては二つ。先ず第一にランクが離れていると言うことはそもそもの実力がかけ離れているということを意味します。それは経験であったり、戦闘能力であったりと様々な面でメンバー間の行動に齟齬が生まれ、結果パーティーの決壊に繋がります」


 ですよねー。


 僕としても、パーティーに誘ってくれるのは嬉しいが、何年も冒険者をやってきた皆さんとはちょっと冒険者としての経験値の差が激しすぎて、お荷物に成りかねないという思いがある。


「第二に依頼達成ポイントの獲得条件が異なることです。あくまで(・・・・強調)例えになりますが、もし、万が一ハルトさんがワイルドローズに加入したとします。現在ハルトさんは無星、ワイルドローズのメンバーは全員が五ツ星冒険者です。この状態で四ツ星相当の依頼を受注、達成したとします。メリッサたちは五ツ星ですので、問題無く達成ポイントを獲得出来ますが、ハルトさんは無星ですので達成ポイントが獲得出来ません。ハルトさんが達成ポイントを獲得出来るのは一ツ星相当の依頼までですので。それを繰り返していれば、ハルトさんは何時まで経っても低ランクのままとなってしまいます」


 責めるような声で言うアンナさんの極寒の視線は、トリフィラさんに固定されたままだ。


 それを受けるトリフィラさんの表情は若干引きつっている。


 が、それで引き下がるトリフィラさんでもなかったようだ。


「そ、それはほら! アタイらで低ランクの依頼をこなしていけばさ!」


 アンナさんに気圧されながらも、それを埋める解決策を提示するものの……


「中位ランクの冒険者が低位ランクの仕事を奪ってどうするのよ」


 という至極最もな一言で切って捨てられた。


「そ、それは~」


 それでも諦めきれないのか、さらに言い募ろうとするトリフィラさん。


「はぁ、まったく。と言うことですので止めておいた方が宜しいかと」


 アンナさんはそこで溜息とともに漸くトリフィラさんから視線を切って、改めて視線を僕の方に戻す。


「ま、まあまあ、小難しい話は置いといて! これで坊やも晴れて冒険者になれたってことで、アタイらとパーティー組もう!」


「……トリフィラ? あんた話聞いてなかったの?」


「う、うはは、まあいいじゃん。ちゃちゃっと登録しちゃって」


 懲りないトリフィラさんに再び極寒の眼差しを向けるアンナさんと、それをどうにか押し切ろうとするトリフィラさんの攻防の最中、背中側から抑揚の少ない声が掛けられる。


「……トリ姉、トリ姉」


「ぅん? どした?」


 まとわりつくトリフィラさんと共に振り返ると、そこには青い顔をしたコーデリアさんに寄りかかられて、潰されそうになっているオーリンちゃんが必死で支えていた。


「……リア姉がそろそろ限界っぽい」


「うふ、うふふー……」


「ぬぁ?! やっば! ちょっ、コーデリア! しっかり!」


「うふふー、ちょっとダメかもしれませんー」


「ええい! すぐ宿に連れて行くから! それまで頑張んなさーい!」


 コーデリアさんの青い顔を視て慌てたトリフィラさんはすぐさま僕から離れ、コーデリアさんの元に駆け寄り、具合を確認する間もなく、コーデリアさんを担いだ。


「アンナ、この件に関してはここまでにしてあげる! 覚えてろよー!」


 という捨て台詞? を置き去りにして、女性一人を抱えているとは思えないほどの速さで出入り口へと走っていってしまった。


「はぁ、全くあの娘は相変わらず騒々しいんだから」


「はは、すまんな。さて、今日の目的も果たした。私たちも宿に向かうとするよ」


 呆れた表情と溜息を吐いたアンナさんに、苦笑を返すメリッサさん。


 そのメリッサさんの声からも隠しきれない疲労が漂っていた。


「宿は確保してあるの?」


「うむ、依頼に出る前に女将さんには部屋の確保をお願いしてあるし、あそこならハルト君一人増えても問題は無いさ」


「ああ、水瓶亭ね」


 アンナさんの問いに、何も問題ないと返すメリッサさん。


「そうだ。では私たちはこれで失礼するよ」


「ええ、オーリンちゃんもお疲れ様」


「……ん、ばいばい、アン姉」


 簡単に挨拶を交わしてから、若干重そうな足取りで、トリフィラさんの後を追ってメリッサさんとオリーンちゃんが出入り口に向かう。


 さて、僕もそろそろお暇しよう。


 メリッサさんたちに宿の心配は無用と言われているが、彼女たちを見失ってしまったら、【気配察知】を使ってそれらしき気配に片っ端から当たってみるしか無くなるので、それは避けたい。


 最後に改めて、アンナさんへと向き直り、ご挨拶をしておこう。


「今日はありがとうございました。また明日からも宜しくお願いします」


 その言葉とともに感謝の意を身体全体で表現するかの如く、深々とお辞儀をする。


 この一時間ほどで色々あったにも関わらず、嫌な顔一つせず最後まで付き合ってくれたのは感謝すべきだろう。


 まあハゲの件は僕のせいじゃないんだけど、お世話になったのは間違いない。


「ハルトさんも、お疲れ様でした。それと、改めて今後共宜しくお願いしますね」


「はい! それでは失礼します」


 最後に見惚れるほどの穏やかな微笑みを浮かべたアンナさんに後ろ髪を引かれつつ、メリッサさんたちの背中を追いかけて、ギルドハウスを後にするのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

誤字・脱字・矛盾点・説明不足・わかりにくい表現等のご指摘いただければ幸いでございます。

ただ、作者ガラスのハートでございますれば、柔らかい表現でお願いいたします。

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