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第二十二話 僕、冒険者です!

うー、思うように展開が進まない。

もっとスピーディーに回したいのに。

ぐぬぬ……


それでは第二十二話、始まります。

 アンナさんが怒号を放ってから直ぐに駆けつけた、元冒険者だという三人の警備の人が、腰を抜かしていたおっさん(マヌツラ)をあっという間に引っ立てていった。


 ハゲ頭(マヌツラ)が僕たちに声を掛けてきてから、反対側の酒場のカウンターでバーテンダーらしき人がグラスを磨くキュッキュッという音すら聞こえてくるほど静まり返るギルドハウス内に、必死に怒りを鎮めようとしているアンナさんの荒々しい吐息の音が響き渡る。


 アンナさんが落ち着きを取り戻そうと必死になっているその横で、メリッサさんは長剣を背中の剣帯に括りつけ直し、トリフィラさんは短剣を腰に戻していた。


 そして狼男さんは手にした土瓶を傾け、ガフガフと景気良くその中身を飲み下し、酒臭い息を吐いている。


 それにしても、酔っぱらいハゲ(マヌツラ)がラピスへと手を伸ばして来た時の、お二人の動きは惚れ惚れするほど鮮やかで、見事だった。


 咄嗟の反応であるにも関わらず、この二人はしっかりと自らの獲物を剣帯から鞘ごと外してから、相手に突き付けていたのだ。


 街の外であれば、あのような場合は抜き身でも全く問題無い。


 むしろ抜き身の刃でなければ、戦意のない威嚇行為と見なされて、逆に舐められてしまうだろう。


 だが、街の中ともなれば、そういうわけにもいかない。


 街の中であれば、僕が元いた世界の日本とは比べるべくもないが、それでも法に守られた壁の内側なのだ。


 数少ない独立ギルドである冒険者ギルド、そのギルドハウスは一種の治外法権の場ではあるのだが、だからといっておいそれと抜き身の刃を晒していいわけではない。


 単純所持でもしょっぴかれる銃刀法違反なんて明確な法律は無いんだろうけど、荒事に縁の無い一般人も暮らす街中で、そう気軽にぽんぽん刃物を持ち出されてはたまったもんじゃない。


 閑話休題(それはさておき)


 ところで妙に上機嫌な様子で酒を掻っ食らっている、狼の風貌をしたこの御仁は誰なのだろうか?


 ギルドハウスに併設された酒場でお酒を嗜んでいたことと、この場にいるということから鑑みるに、この人も冒険者であることは間違いない。


 また先ほどのトリフィラさんやメリッサさんの反応からして、ワイルドローズの皆さんともそれなりに親しい間柄であるということも伺えた。


 加えて、つるっ禿げ(マヌツラ)の怯えた様子からすると、この界隈ではそれなりに名の通った、少なくとも四ツ星冒険者クラスでは太刀打ち出来ないような強さを有した御仁であると推察出来る。


 何より、この人から放たれる威圧感が半端無かった。


 ラピスなんかは、それまではのほほんと僕の頭の上に鎮座していたのだが、この狼男さんが視認出来るところまで来ると急に怯えだし、アンナさんに沙汰を問い質すときに狼男さんが視線を外したその一瞬の間に、しゅぱっと僕の服の中に潜り込んで来て、未だにふるふると震えている。


 そのラピスを服の上から撫でてあやしつつ、ドガ? バクフノドガラン? と呼ばれた偉丈夫の佇まいをこっそりと観察してみた。


 狼男さんの服から出ているところは毛で覆われているため、また顔の造りは狼そのものなので、その表情は読み取り難い。


 また手にしている酒瓶の中身のアルコール度数がどれくらくらいなのかは不明だが、お酒を飲んでいるので多少は酔っていると思われるのに、その立ち姿からは隙などというものは一切見当たらなかった。


 恐らくこの人のレベルは僕より高い。


 だがそんなことよりも、この人が纏う雰囲気からは数々の実戦をくぐり抜けた経験に裏打ちされた、確かな実力が垣間見えた気がする。


 まあ、先ほどの悶着でも不意をつかれたとはいえ、メリッサさんたちを見ているだけしか出来ないほどに鈍っている僕の主観からそう見えるってだけなので、あまり当てにはならないかもしれないが。


 それにしても、森で走っていた時も感じたが、ちょっと鈍り過ぎだ。


 それほど機敏ではないスキンヘッド(マヌツラ)の行動には反応出来なかったし、街に入った時から【気配察知】はオフにしていたので、狼男さんの存在にはその姿が視界に入るまで気付かなかったし、散々だったな。


 いや、これも油断……か。


 人の生活圏内に入れたことで気を抜きすぎたみたいだ。


 はぁ、こりゃ一度本気で鍛え直さないとダメかも……。


 でもそうすると簡単に体を動かすならともかく、本格的に鍛錬するには獲物が欲しいなあ。


 使い慣れた太刀っぽいのが見つかればいいんだけど、最悪木刀でも拵えるか?


 木刀くらいならちょっと街の外に出て、その辺の手頃な太さの木の枝を拝借して、削り出せばいいんだけど、真剣となると一体いくらするのやら。


 確か元の世界でも一本数百万はするって道場の師範代たちは言っていたけど、こっちのせかいだといくらくらいなんだろうか。


 こっちでもそれくらいの値段となると、正直直ぐに手に入れるのは難しいかも。


 まあ何にしても手元に有る匕首一本じゃ不安だし、鍛え直さなきゃだし、早々に武器を手に入れなきゃだよな。


 などと割と真面目にヘコんでいると、ギルドハウス入口の扉に付けられたドアベルがチリンチリンと甲高い音を奏でた。


 ふとそちらに意識をやると、そこには依頼を終えたばかりの冒険者と思われる五人組が入口を潜った途端中腰になり、その腰に履いた剣の柄へと手を添え、小刻みに顔を左右に振りながらギルドハウス内へと警戒を飛ばしている。


 恐らく、彼らはアンナさんはともかく、ワイルドローズの皆さんの怒気と狼男さんから放たれる圧迫感を感じ取り、何か変事が起きていると勘違いしたのだろう。


 しかし、この距離からでもそれを感じ取れるとは、やなりこの街に集まる冒険者は、優秀な人が多いのだろうか。


 そんなことを考えていると、剣帯に鉄剣を括りつけ終わったメリッサさんが、ギロリという効果音が聞こえそうなほど鋭い視線のまま横目で狼男さんを静かに睨めつける。


「ドガラン殿、始末をつけてくれたことには感謝するが、いい加減その闘気を収めてはもらえないか? 貴方のそれは街中で出していいものでは無いだろう」


「ん? おお、そいつは済まなかったなぁ。しっかし、お前さんらも人のこと言えねぇんじゃねーのかぃ?」


「む……」


 がはは、と笑い再び酒瓶を煽りながらちらりと若干頬が引きつっている僕の顔に視線を投げかける狼男さんの返事に釣られて視線を僕に移したメリッサさんたちは、ちょっと唇を尖らせて小さく呻くと、深呼吸を一つ二つ吐くと落ち着きを取り戻し、その身から放たれていた怒気が霧散した。


「……ふぅ。これでいいか?」


 再びがはは、と笑いながらそれを見ていた狼男さんから放たれる威圧感も、同時に消え去る。


 意図的に威圧感をその身体の中に引っ込めた狼男さんだったが、そんなものが無くても、その佇まいからはこの人が纏う雰囲気は歴戦の猛者であることが伝わって来た。


「それにしても災難だったな、坊主」


 むぅ、また坊主って言われた。


 これで三人目だ。


 そんなに幼く見えるのかなぁ?


 東洋人は西洋人に比べて幼く見えるって言うけど、この世界でも幼く見えてしまうのか?


 そんなことを考えながら渋い顔をしていると、狼男さんがその雰囲気を漂わせたまま、僕の方に改めて向き直り、続けて覗き込むように腰をかがめながら、僕の顔を凝視して来る。


「ふぅむ、しかしなんだな。オレの姿を目にしてもちっとも怯まねぇって奴ってのは、久々だな」


 姿見ても怯まないって、自分の見た目が強面だってこと気にしてんのかな?


 つーかそれよりも、メリッサさんたちのは単なる怒りの感情の発露だったけど、あんたスキル飛ばしてたろ!


「え、えーと」


 こんにゃろぅと思いつつ、返す言葉を探していると、姿勢を直し破顔する狼男さん。


「オレは七ツ星冒険者で、見ての通り狼獣人族のドガラン。駆ける旋風(シュートゲイル)のパーティーでリーダー張ってる(もん)だ。ここで会ったのも何かの縁だ、ヨロシクなぁ」


「ちょっとぉ、ドガぁ! その坊やはアタイらが先に目ぇ付けたの! 横入りすんじゃないわよ!」


 まだちょっと気が立っているように、そのドガランさんの挨拶に間髪入れずに牽制するトリフィラさんだったが、その言葉を聴いて、目を細めながら、値踏みするように改めて、僕の目を覗き込んで来る。


「んんー? なぁるほどぉ、確かに『優秀』だぁ」


 顎をさすりながらそう言うドガランさんに、ちょっと警戒しながらも笑顔を作り、お辞儀をしながら、自己紹介をした。


「え、えーと、人間族のハルトと申します。これから冒険者に登録する若輩者ですが、よろしくお願いします!」


 しかし、この人本当に強さそうだな。


 ちょいと拝見してみますか。



―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


名前:ドガラン

種族:獣人族(狼獣人)

性別:♂

年齢:39

職業:重戦士

身分:冒険者(七ツ星)


状態:微酔


BLv:98

JLv:48


HP:6894/6894

MP:664/664


筋力:660

体力:650

知力:191

敏捷:499

器用:332



保有スキル


【コモンスキル】(5/10)

・知覚:Lv5

・威圧:Lv6

・両手剣術:Lv2

・斧術:Lv6

・戦鎚術:Lv3


【ジョブスキル】(5/10)

・強撃:Lv4

・堅守:Lv2

・ステップイン:Lv3

・パワースラッシュ:Lv4

・ハードビート:Lv1


【ユニークスキル】(2/10)

・獣化:Lv6

・嗅覚強化:Lv5


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―



 おお! すげぇ!!


 ステータス値も、レベルも麗華さんたちとほぼ同じくらいに高い。


 スキルもちょっと脳筋チックだけど豊富だ。


 って、ほらぁ! やっぱ持ってたよ! 【威圧】スキルぅ!!


 しかもレベル6ってこの世界基準だとけっこう高い方だしっ!


 さっきレジスト(弾き返す感覚)したの絶対コレぢゃんか!


 初対面の相手になにしてくれちゃってんの、このおっちゃん!!


 あれ? でもメリッサさんたちはなんとも無かったよな。


 レジストする感覚がした僕はともかく、傍目から見て怯えていたのはラピスとマヌ……なんだっけ? もうハゲでいっか。ハゲだけだった。


 でもこのスキルは『使用者よりレベルが下の対象を萎縮状態にする』効果だから、本来なら、この場にいる全員がそうなるはずだと僕は知っている。


 そうならなかったってことは……もしかしてこのスキル、指向性を持たせられるってことか?


 そうであるなら、今後僕がこのスキルを使う場合があったとしたら、無駄に全方位へとプレッシャーをばらまかなくても済むってことになる。


 ふむ、要練習だな。


 まあそれはともかく、ドガランさんのコモン枠戦闘系スキルは、その中でも【斧術】が一番スキルレベルが高いから、メインウェポンは斧系なのかな。


 ああ、だからハゲはドガランさんの名前の前に《爆斧(ばくふ)》とか付けて言ってたのか。


 二つ名……だよね、これ。


 これは厨二心を擽るものがあるけど、実際そう呼ばれると思うと……だめだ、恥ずかしすぐる。


 ステータス画面には載らないけど、街中でそんなふう呼ばれたら恥ずかしさのあまり悶死する自信がありますっ!


 はあー、しっかしなるほどねえ。


 スキルレベルはともかく、麗華さんたちは召喚されて直ぐにこのレベルだったってわけだ。


 召喚して直ぐにドガランさんのような屈強な戦士が二十年以上掛けて鍛えたレベルとステータスを持った上に、年齢としてはまだまだ伸び代ががある麗華さんたち四人がいれば、僕みたいな赤ん坊並みに手間と金が掛かる絞りカスには用無しって判断されるのはなんか納得だ。


 ……それでも絶っっっ対許さんけどなっ!


 と内心黒いものを纏わせつつ意気込んでいると、目の前のドガランさんは自身の頭の後ろを撫でつつ、こちらへと眼を細めて若干剣呑な視線を送って来ていた。


「お? ふむぅ、なるほどねぇ。こりゃ『有能』だぁ」


 ん? 有能? さっきとなんかニュアンスが違ってるよーな?


「しかし、流石だな。ちっと予定してた時間より遅いが、ほぼ予定通りに帰ってきた……な?」


 その視線にちょっとした違和感を感じて首を傾げていた僕だったが、ドガランさんはそれに構うことなく、ワイルドローズの皆さんに視線を移し、アンナさん同様それがコーデリアさんのところまで来ると、さらに剣呑な目付きに変わった。


「オイ、何があった?」


「む、まあちょっとしたイレギュラーが、な」


 その視線を受け、ちょっとバツが悪そうに鼻の頭を掻くメリッサさん。


「それに関しては、明日ギルドマスターに報告するつもりだ。問題は無い……と思う」


「そうかい……それにゃぁ、オレも同席させてもらえんかねぇか?」


「ん? まあ元々は貴方たちが引き受ける予定だったものだ。構わないんじゃないか? なあ、アンナ?」


 平静を取り戻したメリッサさんが、未だ受付台に叩きつけたままの姿勢で荒い息をしているアンナさんに問いかける。


「……ちょっと待って」


 それに対して、俯いたままのアンナさんから、ドガランさん以上にドスの効いた声で返事が返って来た。


「もう、アンナちゃんってば、仕方ないなぁ」


 それを見かねたコーデリアさんが一歩アンナさんに近付くと、目を閉じて、口の中でなにやら呪文らしきものを呟いた。


「――――、――――、《カーム》」


 コーデリアさんとは少し離れていたので、聞き取れなかったが、あれは恐らく状態異常に対して復帰効果のある【治癒魔術】だと思われる。


 魔術を唱えたコーデリアさんの手の平から淡い光の粒がシャワーのようにアンナさんへと降りかかった。


「あら? ああ、ありがとうございます、コーデリアさん」


 それを受けたアンナさんは、俯いた状態でもまるわかりなほど、怒りで耳まで真っ赤にしていた顔を上げ、不思議そうな顔をしていたが、自身に降りかかる光のシャワーが鎮静効果のある魔術だと理解するや否や、コーデリアさんに向けて笑顔を返した。


「ふふ、どういたしまして」


「んんっ、ワイルドローズの定期巡回報告に対して、ドガラン氏の参加ね。わかった、手配しておくわ。ま、大丈夫でしょ」


 一度咳払いをして気を取り直したアンナさんが再び受付嬢の顔に戻り、席に座り直す。


 怒りに耐えていた間も、話はしっかり聞いていたようで、すかさず業務を継続していく。


「おお、そいつは、ありがてぇ」


「うむ、では明日の四の鐘が鳴る頃の時間で面会を取り付ける予定なので、またその頃に来てくれるか?」


「あいよ。四の鐘か、随分早ぇな。んじゃ、あと三本くらいにしとくかぁ」


 そう言いつつ、手にした酒瓶を逆さまにして残ったお酒を喉に流し込む。


 四の鐘って冒険者にとって早い時間帯なのかな? と疑問に思ったが、そもそも四の鐘って何時ぐらいなんだ? という疑問が浮かび上がった。


 鐘っていうくらいだから、時間を示すものなのは間違いないけど、一日を何等分しているかによってそれは大きく変わってくる。


 あ、因みに一日が元の世界と同じ二十四時間だってのは、ポーションの消費期限を見た時からわかっている。


 そんなことを考えていると、話は終わったとばかりに、ドガランさんは酒場の方へ足を向けた。


 その途中、すれ違いざまに、僕にだけ聞こえる大きさの声でぼそりとドガランさんが呟く。


(坊主よ、ああいうこたぁあんまり真正面からやるもんじゃねぇぞ? マナー違反だ。次はバレねぇように気ぃつけな)


 なん……だと。


 まさかステータスを鑑定したのがバレていたのか?!


 あ、だから『有能』って……。


 慌てて振り返って、ゆっくりとした足取りで酒場の方へ向かうドガランさんの姿を視線で追うと、背中越しに手をひらひらと振った姿が目に入る。


 なんか、背中で語る男って感じで、かっけぇ。


「はぁ、えーっと、どこまで話しましたっけ……ああそうそう、登録用紙への記入についてでしたね」


 ぼーっとその背中姿を見つめていると、ため息と吐いたアンナさんが、改めて登録について切り出したので、僕もあんな男になりたいという思いを胸に秘め、受付台に向き直る。


「あ、はい」


 気を取り直して、改めてパピルスもどきの用紙に目を落として流し見るが、そう難しい物じゃない。


 ふむ、まあ特に問題無さそう、かな。


「読み書きが不自由でしたら代筆を承りますが、如何致しますか?」


「あ、それは大丈夫です」


 街門の所でも仮身分証を発行してもらうために名前を書いたが、【異世界言語】の効果でこちらの世界の文字も書けた。


 よって、代筆も代読も不要だ。


 これは地味に助かる。


 一緒に渡されたペンを手にして、名前と年齢と出身地は西の森、得意武器は両手剣っと。


 それから備考欄にはどうしようか迷ったが、ここはみんな使い魔って言ってるから『使い魔あり』と、こんだけ書いとけば取り敢えずは大丈夫かな。


 もう一度内容を確認してから、アンナさんへ用紙を返却する。


「これでお願いします」


「はい、拝見致します」


 アンナさんが内容を確認していると最後の部分で視線が止まり、その視線は僕の顔……をスルーして、怯え状態から復帰して再び頭の上に鎮座し直したラピスへと注がれ、にっこりと微笑んだ。


「……かわいいですね」


「はい! スライムのラピスっていいます! ラピス、ご挨拶」


 僕の言葉に反応したラピスは半球の身体をみょ~んと縦に伸ばし、棒のような形になって、半ばから折り曲がる様にお辞儀をした。


「あら、ほんとに可愛らしい……こほん、畏まりました。では後程、使い魔証をお渡ししますので、目立つところに着けてあげてください」


 アンナさんはラピスの挨拶にちょっと吃驚していたが、直ぐに気を取り直して微笑みを浮かべていた。


 そして受付台の上に鈍く光る鉄色のカードの様なものとナイフを取り出す。


「それではこちらに血を一滴頂けますか?」


 僕は言われるがままにナイフを受け取り、左手の指先を少し切り、カードに血を垂らす。


「はい、ありがとうございます。ではギルドカードが出来上がるまで少し時間がかかりますので、その間に冒険者ギルドについて、簡単にご説明します。先ず冒険者ギルドとは……」


 ギルドカードが出来上がるまで少し時間が掛かるらしいので、その間にギルドの仕組みを教えて貰えた。


 アンナさんの説明を要約すると、このようになる。


 一つ、冒険者ギルドとは冒険者たちの互助組織であり、依頼者との仲介や素材買い取りが主な業務である。


 一つ、依頼受注は上は自身のランク一つまで、下は限度無し。但し、身の丈に合った依頼の受注を推奨。


 一つ、依頼失敗には違約金が発生するので注意すること。連続失敗の場合はランク降格もある。


 一つ、依頼に対する不正は罰金又は冒険者資格剥奪とする。


 一つ、冒険者ギルドを介さない依頼については全て自己責任とする。


 一つ、冒険者同士の諍いには基本関与しない。


 一つ、冒険者ギルドは国家間の戦争には関与しない。個人で関与する場合は冒険者資格を返上すること。冒険者資格を返上せずに関与した場合は資格剥奪とする。


 一つ、犯罪や悪質な行為、ギルドの不利益になるような行為をした場合、軽いものでランク降格、最悪資格剥奪もある。


 一つ、ランクは無星から始まり、最高十ツ星の十一段階。


 一つ、ランクアップについてはそれぞれ設定された依頼達成ポイントを満たし、試験に合格することでランクアップすることが出来る。


 一つ、四ツ星以上の冒険者には緊急時において、ギルド側からの強制依頼が発生することがある。


 一つ、六ツ星以上の冒険者には指命依頼が発生する場合がある。


 一つ、堅気に迷惑かけるな。


 とまあ、最後の項目がちょっと気になったが、この十三項目さえ頭に入っていれば概ね問題無いとのこと。


 よくある仲介の仕組みである。


 また予想通りと言うか規定にある罰則は割りと厳しめだ。


 スキルの恩恵もあるのだろうが、下位ランクであっても冒険者の戦闘能力は一般人のそれより遥かに高い。


 それに加えて仕事の内容柄、武器の携帯は必須――銃刀法違反なんて無いのかと思っていたが、普通に街中で武器を振りかざすのは重罪であるとのこと、そりゃそうだ――と言う事もあり、冒険者のモラルが問われる。


 だがそれも冒険者同士であれば、当てはまらないらしい。


 ビックスさんが言っていた『やられたらやられ損』ってのは規定にある『冒険者同士の諍いには基本関与しない』って部分のせいなのだろう。


 どうにも冒険者には血気盛んな輩が多く、堅気に手を出していないならいちいち構ってられないということの現れだと思う。


 要するに冒険者同士で喧嘩を売るのも買うのも自己責任ってことだ。


 とはいっても、街の大通りなんかで喧嘩をおっぱじめると衛兵さんがすっ飛んできて喧嘩両成敗、有無を言わさず双方ともに詰所の独房に一晩ぶち込まれてしまうらしい。


 まあ衛兵さんも堅気の仕事だ。


 それに逆らえば、詰所にぶち込まれるだけでなく、前科持ちになり、当然冒険者資格も剥奪になってしまうので、もっぱら喧嘩が発生するのはこのギルドハウス内だけらしいとも。


 剣呑剣呑。


 と、そんな話を聞いていると、チンッっと一昔前の電子レンジのような音が鳴る。


「お待たせしました、こちらがギルドカードになります」


 アンナさんがそう言いながら、コトっと小気味良い音を立てて受付台に厚さ三ミリほどの鉄色をしたカードを差し出して来た。


 若干感動しつつ、それを手に取ると、少しひんやりとしていた。


 その手触りにちょっと不思議な感じがして、多少のすったもんだはあったが、これで漸く僕もこの世界での身分を手に入れることが出来たのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

誤字・脱字・矛盾点・説明不足・わかりにくい表現等のご指摘いただければ幸いでございます。

ただ、作者ガラスのハートでございますれば、柔らかい表現でお願いいたします。

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