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第一話 はぢめての異世界

 一瞬の出来事だった。


 足下に青い幾何学模様が浮かび上がったと思ったら、視界が真っ白に塗りつぶされた。


 咄嗟に目を腕で庇ったが、目の奥がまだ痛い。


 チカチカする目を開いてみたが、今度は真っ暗で何も見えない。


 取り敢えず、今の状況を整理しよう。


 暗闇の中、手探りで服装をチェック。


 この手触りは学園指定のブレザーで間違いないな。


 生徒手帳、財布、スマートフォンに家の鍵等を纏めたキーケース、身に付けていた物はあるようだ。


「なんだったんだ、さっきの光りは?」


 この何処か落ち着かせるような声音は恐らく麗華さんだろう。


「真っ暗でなんも見えないよ~」


 ちょっと間の抜けた、脱力するようなこれは朱音だな。


「みなさん、ご無事ですか?」


 柔らかくも暖かい響きを感じる声は花凛ちゃんか。


「ええ、取り敢えず痛む所は無いですね」


 このイケメンボイスは天宮君かな?


 この場所がどれ程の物かはわからないが、声の響き具合からしてそれほど広くは無さそうだ。


 あの場にいたのは麗華さん、朱音、花凛ちゃん、天宮君そして僕の五人。


 どうやら全員無事のようだ。


 僕はポケットからスマートフォンを取り出し、懐中電灯のアプリを起動させる。


 周りを照らすと、上下前後左右六面総石造りの部屋らしかった。


 スマートフォンの光りを周囲に当てると、四つの人影が浮かび上がる。


 四人とも光りに包まれる前と全く変わり無いようで少し安心した。


「良かった、皆無事みたいですね」


「陽斗君か、明かりがあるのは助かるよ」


 どうやら流石の麗華さんでもこの状況に随分取り乱していたようだ。


 手持ちの道具で明かりを確保するということにまで頭が回らなかったようで、ちょっと顔を赤らめていた。


 僕? 僕はなぜかこの状況に不思議と落ち着いていた。


 順応能力が高い、というのとはちょっと違う気がするのだけど……。


 しかし此処は何処なんだろう?


 さっきまで学園の木造建屋に居たのに、総石造りの部屋?


 それに、スマートフォンの電波が届いていない。


 今時、トンネルの中はともかく地下鉄ぐらいなら余裕で繋がるのに、全く繋がる気配がない。


 まさかどこぞのネット小説じゃ無いけど、異世界に召喚でもされたってのか?


 だとしたらこのあとの展開は神様らしき老人とか、ないすばでぃーの女神様が現れて、チートスキル貰って俺THUEEEEEして世界を救えって言われちゃうのかな。


 ……めんどくさそうで嫌だな。


 そうゆーのに限って貴族だ、教会だってめんどくさいのに絡まれるのが目に見えてる。


 作り話の中なら、魔王やら邪神やらを倒した後にお姫様や女騎士を嫁に貰ってハッピーエンドなんだろうけど、現実はそんな甘くない。


 そんな化け物を倒せるくらい強いんなら、今度は順繰りでその化け物を倒した奴が危険人物認定されるのがオチだ。


 っていうか、異世界召喚って召喚される側からすればただの誘拐だよね。


 誘拐された挙げ句、命懸けで戦えってか?


 冗談じゃない!


 ぼかぁ勇者とか英雄とかには憧れてませんからっ。


 善良な一般人が身の丈に合ってます!


 あ、待てよ。前に読んだやつだと召喚されたら奴隷印が刻まれて強制的にってのがあったな。


 ……無いよな? 奴隷印。


 うん、見えるところには無さそうだ。ちょっと安心。


「どうした、陽斗君?」


「へ? あぁ、いや、何でもないです。此処は何処なんだろうなあって思って」


「確かにな。さっきまでは生徒会室にいたはずたが……此処は明らかに違うな」


 あっぶね、妄想に浸ってた。


 今はこの状況をどうにかしないと。


 っても、どうすれば正解なのかは皆目検討もつかないけどね。


 不幸中の幸いは、この部屋は気密性が甘いのか時折風鳴りが聞こえてきて空気が流れ込んで来るので酸欠の心配が無いって事かな。


 それでもお腹は減るし、生理現象もあるので、余り長居はしたくない。


「さて、これからどうするか、皆の意見を聞きたい所だが……ん?」


 麗華さんが音頭を取ろうとしたところに、微かにではあるが、カツーンカツーンと足音が複数聞こえて来た。


 その足音はやがて大きくなり、くぐもってはいるが話し声も聞こえて来た。


『……、ほん……の……か?』


『は……、……が…………ほど……ます』


『…………で……、ば…………りになる、…………うこ……ね』


『……に…………た……の者が……さき…………高密度……を……せん』


『っ! 何故……です! ……ぎ……よ!』


 所々というか遠すぎてほとんどの聞き取れなかったけど、微かに聞こえた声質の感じから察すると若い女性と老人の男性のようだ。


 速まった足音が確実にこの部屋目指して近づいて来るのがわかる。


 それと共に、石壁の隙間から僅かに明かりが漏れ差してくる。


 皆の緊張感が高まり、部屋の温度が急激に下がったかのように感じた。


「陽斗君と天宮君は前に、朱音君は花凛君と一緒に私の後ろに」


 麗華さんの言葉にそれぞれが頷いて、僕はスマートフォンの懐中電灯を消して天宮君と一緒に最前列に陣取る。


 その後ろに麗華さん、さらにその後ろに朱音と花凛ちゃんといった配置で此方に向かってくる存在を待ち受ける。


 さっきの話し声からして言葉が通じるかどうかは不明だけど恐らく対話する事は可能なんだろう。


 けど、友好的とは限らない。


 万が一の場合は肉体言語が必要になってくる。


 一応花凛ちゃん以外は道場で手解きを受けているので、ある程度は動けるけど……。


 それでも、僕らの実力で抑えられるとは限らない、というのが現実だ。。


 しかも、僕に到ってはこの石造りの部屋に来てから何故か身体が重く感じて、感覚も鈍い……皆はいつもよりキレが良さそうなんだけどなー。


 さて足音も静になり、壁の向こうから青い光が漏れ出した。


 生徒会室での出来事が脳裏に浮かび、更に緊張感が増す僕たち。


 誰もが息をのみ、その光を凝視していた。


 やがて、光が収まり、重苦しい音を響かせながら石壁が一段奥に、続いて引き戸のようにスライドしていく。


 石壁の向こうから現れたのは、ゲームなんかに出てくる魔法使いが手にするような節くれだった木の杖を手にして、深緑のローブを纏った老人だった。


 その後ろには中世ヨーロッパに居たとされる、鉄の全身甲冑を着込み、腰に剣を履いた騎士と思われる格好の四人の女性――鎧の胸の部分に結構な大きさの膨らみが作り込まれているので女性と判断した――が、緊張と驚きを隠せず、動揺しているようだ。


 騎士の女性は松明を手にしているのが二人、槍を構えているのが二人。


 フルフェイスタイプではないが、兜を被っているのでいまいち判りにくいが、四人とも日本ならば十人中七人は振り返る位に美人さんだった。


 僕ら側からしても、これだけでも結構な驚きなのだか、その女性騎士に挟まれるような位置には見ただけで仕立ての良さがわかる簡易ドレスを着て腰まで届くような長さのブロンド髪の美少女が目を見開いてあんぐりと驚いていた。


 歳は花凛ちゃんより少し下くらい。お胸はまあこのくらいの歳なら標準よりちょっと大きいくらいかな。ボディラインとの均整が取れていて全体的にスタイルが良い。


 ……そろそろ口閉じた方がいいよ? 美少女が台無しだよ。


 双方一同が驚きに固まっている中、いち早く復活したのは流石と言うべきだろう、我等が生徒会長麗華さんだった。


 ずいっと一歩前に出て、僕と天宮君の間に陣取る。


「失礼、私たちは皇仙学園生徒会の者だ。此処が一体何処なのか知っていたら教えて貰えないだろうか?」


 中々に肝が据わっていらっしゃる。


 開口一番に情報を入手しようとしている。


 けど、言葉は通じるのか?


 その麗華さんの言葉でブロンド美少女が我に返ったようで、慌てて一歩前に出てくる。


「大変失礼致しました、救世主の皆さま方。(わたくし)はルーベリア皇国第二皇女シャルロット・ルーベリアと申します。皆さま方が既に此方にいらっしゃっているとは存じ上げず、お待たせしてしまったようで申し訳ありません」


 どうやら通じたみたいだ。


 それどころか随分と流暢な日本語で返してきた。


 そして良くわからないが、謝罪の言葉と共に優雅な所作で頭を下げてくるブロンド美少女もといシャルロットさん。


 って、ちょっと待った。ルーベリア皇国? 皇女?


 僕が知らないだけで、もしかしたらそういう名前の国があるのかな? と思い麗華さんの顔を見るが、麗華さんも僕の視線に気がついたのか、首を横に振る。


 全国模試二桁台常連の麗華さんでも聞き覚えが無いご様子。


 そうかぁ、やっぱりそうなのかぁ。


 そもそも外国ならば普通に日本語が通じている時点でおかしい。


 ……いやまあ、アジア圏なら日本語とボディーランゲージで割りとなんとかなる場合が多いけどさ、今の状況がそういうレベルじゃないのはわかる。


「色々と申し上げたいことが御座いますでしょうが、先ずは此方より地上の方へ出てから、とさせていただきたく存じます。如何でしょうか?」


 さて、どうしたもんかね。


 目の前のお姫様はなんかしらの情報を持っていそうだ。


 情報は欲しい所だが、のこのこ付いていっていいもんかね。


「いきなりこのような場所に降りられて、混乱されているかと存じます。また警戒されるのも理解致しますが、(わたくし)どもは皆さま方に危害を加える意思は全く御座いません。これだけは何卒信じてくださいませ」


 お姫様のその言葉に麗華さんが皆の顔を見渡し、一つ頷く。


「わかりました。私たちとしても、何がどうなっているのか、私たちの身に何が起こっているのかわからないことだらけですので、一先ずは貴女を信じます」


「ありがとうございます! では皆さま方、此方へ。アイミィ、キアラ、先導を」


「「はっ」」


 きびきびとした返事で呼ばれた二人の先導で石造りの部屋から通路に出ていく。


 途中何度か階段を上り、左右くねくねと十分ほど迷路のような作りになっている通路を歩き続ける。


 やがて左右の高い所に燭台が設置されている通路に差し掛かり、その先にある階段を上ると、教会の礼拝堂のような場所に出られた。


 やっと広い空間に出られたが、壁際に一定間隔で火が灯された燭台が浮かび上がっており、此処も全てが石造りだった。


 なんか出そうな雰囲気満載だな。


「此処は遥か昔に建てられた最古の神殿の一つなのです。過去には戦火より逃れてきた臣民を保護するためにこのような地下施設が建造されたようです。さあ皆さま方、この扉の向こう側が外になります」


 教会かな? と思ったら神殿でした。


 お姫様が上ってきた階段の対面にある三メートルほどの高さがある木製の扉を指差す。


 お付きの騎士の人が扉を押し明けると、陽の光が差し込んで来て、僕らは二時間振りにお天道様を拝むことが出来た。


 神殿から外に出ると、そこには膝丈ほどの青々とした草が辺り一面に生い茂っていた。


 風が吹き、草原がザァァと心地よい音を奏でる。


 北海道あたりでもなければお目にかかれないようなその光景に僕らは言葉を失った。


 これはいよいよ異世界召喚説が現実味を帯びてきたな。


「それでは皆さま方、少し離れた位置に部隊が陣を張っておりますのでもう暫くお付き合いくださいませ」


「わかりました。お手数お掛けしますが、宜しくお願いします」


 お姫様の言葉で我に返った僕らは先程と同じ並びで、草原に足を踏み入れる。


 踏み固められた地面が辛うじて道に見えるが、ぶっちゃけほぼ獣道だ。


 歩きにくいことこの上ない。


 暫く無言で歩いていると、麗華さんの肩が強張っているのが気になった。


「麗華さん、どうしました?」


「皆、済まない。勝手に決めた形になってしまって」


 麗華さんが申し訳なさそうにポツリと小声で僕らに謝って来る。


 あの状況では仕方なかったと思う。


 誰か一人が代表してとなると、年齢、実績共にこのメンバーでは麗華さんが一番適任だろう。


「それは仕方ないでしょう。俺たちも何も言わなかった時点で麗華さんに決定権を委ねたもんですから」


 天宮君が僕の言いたいことを言ってしまった。


 取り敢えず、僕も頷いておこう。


「んー、難しいことはよくわからないので、そういう頭使うことは麗華さんと陽斗にお任せなのだ。んで、もし万が一何かあったら、あたしらでふぉろーすればいいと思いまっす」


 おいこら、麗華さんはまだしも、なんで僕まで頭脳労働担当になってんねん。


 緊迫感ありすぎて、朱音がちょっとあほの子化してる。


 難しい話苦手だもんな。仕方ない。


「たぶんですけど、大丈夫だと思います。あの皇女様の言葉に嘘は無いと思います。なんでって言われると困っちゃいますけど」


 ほほう、女の勘ってやつですかね? 花凛ちゃんが言うとなんか説得力があるな。


「しかし、本当に此処は何処なんでしょうかね?」


 周囲を見渡してみても、さっき出てきた石造りの神殿らしき建物以外は森と草原が広がっているだけで、人工物が全く見当たらない。


 それから他愛もない話をしながら緊張感を解しつつも五分ほど歩ていると、草原と森の境目辺りに鎧姿と思わしき複数の人影が動いているのが見えた。


 恐らくあれがお姫様の言う部下の人たちなのだろう。


 はてさて、これからどうなることやら。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

誤字・脱字・矛盾点・説明不足・わかりにくい表現等のご指摘いただければ幸いでございます。

ただ、作者ガラスのハートでございますれば、柔らかい表現でお願いいたします。

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