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第十八話

「此処……よね?」


「ああ、そのはずだ」


 ケモ耳をピクピクと動かし雑草が生い茂る周囲を見渡しながら警戒しているトリフィラさんが呟くと、コーデリアさんを背負ったメリッサさんが肯定するように答える。 


 街道のど真ん中で立ち往生していたワイルドローズの面々と僕らは、大怪我を負っていた森人(エルフ)の女性、コーデリアさんの治療が成功したことで、街道を人里があるという北に進むことにした。


 傷は塞がったといっても、未だ顔色が蒼白なコーデリアさんは安静にしていたほうがいいのだが、森が成長したために封鎖されたこの旧街道のど真ん中では、前後左右へ魔物からの襲撃に対する警戒が必要となるため、簡易的とはいえ、森に対して柵が設置されている野営地の方が比較的安全であるという判断だった。


 コーデリアさんの容態を確認するため休憩を多く取って四時間ほど歩き、日暮れ間近に辿り着いたのが、この街道脇が半径三十メートルほどの半円状に切り開かれた野営地と思われる原っぱだ。


 メリッサさんが言っていたように、確かに切り開かれた森に沿って半円状に柵が設けられてはいたが、使われ無くなって久しいのか、柵は朽ち果てており、既に柵としての体を成していなかった。


 唯一使えそうなのは、石を積み上げただけの簡易的な(かまど)であるが、それも所々崩れてしまっているので、補強が必要な状態である。


「……まあ、封鎖されて大分経っているしな。仕方ないか」


 旧街道のど真ん中で野営するのと大して変わらない状況に渋い顔をしつつも、無理矢理自分を納得させるメリッサさんだった。


 その脇でオーリンちゃんが担いでいた二つの背嚢、その片方から毛布を取り出しいそいそと地面に敷いていく。


「ぃよっと……ふぅ」


 その上にメリッサさんがコーデリアさんをゆっくりと下ろし、静かに横たわらせた。


「ではトリフィラと私は薪になりそうな木の枝と食料になりそうなものを探して来る。ハルト君は申し訳ないが、その間コーデリアを見ていてもらえないだろうか?」


 トリフィラさんは疲れた表情をしつつも頷き、柵の向こうの森の方へ向かおうとしたところで、毛布を取り出してから座り込んでいたオーリンちゃんが杖を支えに立ち上がろうとする。


「アンタは休んでな。まだ魔力、回復してないんだろ?」


「……ん、二割くらい。《ファイア》なら二十回はよゆー」


 ステータス画面を開いているのか、虚空を見つめながら年相応に慎ましい胸を張ってドヤ顔で呟くオーリンちゃんに対して、トリフィラさんは腰に手を当てて呆れ顔をしている。


「《ファイア》ってアンタ、【火魔術】の第一階梯でしょーが」


「……ん、そだよ」


「そだよって、アンタねぇ。そんなモン、この森じゃ牽制くらいにしか役に立たないじゃないのさ。そこは《ファイアバレット》か最低でも《ファイアボール》にしなさいよ」


「……トリ(ねぇ)、細かい」


 やいのやいのとじゃれついている二人を見てメリッサさんはため息を吐く。


 コーデリアさんの容態がだいぶ落ち着いていることと、一先ず腰を落ち着けられる場所に辿り着いたことで、三人の雰囲気もかなり和らいでいるようだ。


 しかし、依然として三人の表情には披露の色が濃く浮かんでいるのが容易に見て取れる。


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


名前:メリッサ=ウェルライト

種族:人間族

性別:♀

年齢:23

職業:従騎士(エクスワイア)

身分:冒険者、ディアモント帝国侯爵令嬢


状態:疲労(大)


BLv:55

JLv:44


HP:1001/2225

MP:114/293


筋力:248

体力:321

知力:80

敏捷:230

器用:155



保有スキル


【コモンスキル】(6/10)

・宮廷作法:Lv4

・魔力操作:Lv2

・強化魔術:Lv3

・片手剣術:Lv4

・索敵:Lv5

・盾術:Lv4


【ジョブスキル】(2/10)

・クロススラッシュ:Lv3

・シールドチャージ:Lv2


【ユニークスキル】(1/10)

・ウォークライ:Lv2


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―



―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


名前:トリフィラ=ルイ=サンストン

種族:獣人族(獅子獣人)

性別:♀

年齢:22

職業:探索者

身分:冒険者、サンストン王国第二王女


状態:疲労(大)


BLv:51

JLv:41


HP:802/1786

MP:213/405


筋力:273

体力:185

知力:177

敏捷:357

器用:178



保有スキル


【コモンスキル】(4/10)

・宮廷作法:Lv6

・気配察知:Lv3

・短剣術:Lv3

・投擲術:Lv2


【ジョブスキル】(2/10)

・罠感知:Lv3

・罠解除:Lv2


【ユニークスキル】(2/10)

・獣化:Lv1

・脚部強化:Lv3


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―



―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


名前:オーリン=ミメタイル

種族:樹人族(ドルイド)

性別:♀

年齢:13

職業:魔道師

身分:冒険者、ミメタイル氏族族長の娘


状態:疲労(大)


BLv:48

JLv:12


HP:298/877

MP:255/1212


筋力:71

体力:67

知力:357

敏捷:80

器用:284



保有スキル


【コモンスキル】(3/10)

・魔力操作:Lv5

・火魔術:Lv4

・風魔術:Lv3


【ジョブスキル】(3/10)

・火霊魔術:Lv3

・風霊魔術:Lv3

・詠唱短縮:Lv5


【ユニークスキル】(1/10)

・魔術効果拡大:Lv4


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―



 んー、なにやら『身分』のところに僕的にはあまりお近づきになりたくないモノ筆頭が並んでる人が二人ほどいるなー。


 けど名乗りの時には名前だけだったし、冒険者って言ってたから、多分それについては触っちゃいけないんだろーなー。


 ……よし、ここはスルー推奨ということで、見なかったことにしよう。そうしよう。


 閑話休題(それはともかく)


 三人とも表面上は元気に振舞ってはいるが、『状態』の項目にも『疲労』とあり、その動きには精彩が欠けているように思える。


 この『状態:疲労(大)』はゲーム的に言うなればバッドステータスの一種のようで、HP回復大幅低下、MP回復低下、筋力値大幅低下、体力大幅低下、敏捷大幅低下、とかなり厄介な効果が目白押しとなっていた。


 まあこんなステータス表記が無くとも、疲労というのは痛み、発熱と並んで生体の三大アラームとも言われているし、疲れが抜けきっていない状態ではどんな作業をしていても効率は低下してしまう。


 この状態を抜けきらなければ、本来のパフォーマンスを発揮出来ないというのは、確かに理解出来るのだが、こうもはっきりとステータスに表記されるっていのは、HPや体力とは違ったスタミナなんていう隠しステータスでもあるのかな。


「お前ら、そろそろいいか? もう間もなく陽も落ちる。とっとと探しに行かないと火も飯も無くなるんだが?」


「へーい」


「……ん」


「はぁ、全く。ではハルト君、すまないが、私たちは少し出てくる」


 ふとステータスについて考え込んでいたら、疲れと呆れが浮かんだ顔で二人のじゃれあいをメリッサさんが窘めていた。


 肩を竦めるトリフィラさんとそっぽを向いたオーリンちゃんに再びため息を吐きつつ、野営地の外に薪と食料を探しに行くと言うが、皆さんだいぶお疲れのようだし、ここは僕の在庫を放出するべきかな。


「あ、あの、ちょっと待ってください」


「ん? どうした?」


「いえ、皆さんお疲れのようですし、薪なら僕が森の中で拾ったのがありますので、それを使ってください。それと食べ物も……」


 僕はそう言いながら、掌を地面に向けて翳して、乾いた木の枝を五十本ほど、森で採取したリピコの実というテニスボールくらいの大きさの橙色の果実を三十個、そして額に一本の角が生えた兎の魔物であるホーンラビットを二体、【アイテムインベントリ】から取り出して、地面に積み上げた。


 このホーンラビットは森歩きの途中、薬草やリピコの実などの色々な果実を採取している時に偶然出くわし、出会い頭に運良く仕留められたやつである。


 それを学園の教材資料であった牛肉加工の手順というビデオで、一度だけ見たことがある血抜きの作業をうろ覚えの手順で必死で記憶の底から掘り起こしながら、試してみたものだ。


 森歩き初日にガーネが仕留めたイリーガルボアは図体(ずうたい)がデカ過ぎて、試せなかったが、コイツはちょっと大き目の兎程度だったので、教材ビデオの内容を思い出しながら頑張ってみたのだが、中々上手くいったと思う。


 まあ横たわらせた状態で頚動脈に刃を入れてしまったので、噴き出した血で毛皮が血塗れになってしまったので、この毛皮はもう使い物にならないかもしれない。


 取り敢えずこれは肉が食べられればいいか、と思っていたので血塗れのままなのだが、改めて見るとこれはちょっとグロいな。


 また、このとき今までの人生において、初めて他の動物の生命を自らの手で絶ったのだが、噴き出した血に多少驚きはしたものの、『生命を奪う』という行為に対して思いのほか忌避感が無かったことには驚いた。


 恐らく【状態異常無効】が仕事をして、『恐怖』や『恐慌』といった感情に対する状態異常を無効化してくれたのだとは思う。


 だが下手に取り乱したり、陰鬱な気持ちにならなくて良かったと思う反面、人として何か大事なものが欠落してしまったのではないかという思いが過ぎり、この世界の理不尽に立ち向かうために獲得したスキルではあるが、なんともやるせない気持ちになってしまったものだ。


「えーと、取り敢えずこんなもんですかね。あ、それとすいません、僕は解体方法がわからないのでこれの解体をお願いしていいですか? ……ってかこれ食べられますよね?」


「「「…………」」」


 視線を三人の方へ向けると、三人ともぽかーんと口を開けたまま唖然とした様子で固まってしまっている。


「あのー、皆さん?」


「「「…………」」」


「えっと、メリッサさん?」


「……え? あ、ああ、そうだな! ホーンラビットの肉は街でもよく食べられているから、大丈夫なはずだし、解体も私かトリフィラなら出来るが……」


「そうですか、それは良かったです」


 何故か焦った様子で再起動したメリッサさんが捲し立てるように喋ったかと思うと、最後は尻すぼみになってしまったのが気にかかるが、取り敢えずこの兎の肉は日常的に食べられているようなので、安心した。


 血抜きはなんとかうまくいったけど、流石に解体までは手を出せなかったから二人が解体出来るというなら、お任せしてしまおう。


「あとはスープにしたいんで水も必要ですよね。……あ、でもどうしよう、鍋かなんかがあればいいんだけど」


 鑑定結果によれば、この兎肉はスープにして煮込めば、ダシが出て美味いらしいので、出来ればスープにしたいところだが、残念ながら鍋までは拝借してきていなかった。


 さてどうしたもんかと頭を捻っていると


「……ちょい待ち、坊や」


「へ?」


 その声がした方に顔を向けると、なんというか、苦虫を噛み潰したような表情をしたトリフィラさんがいた。


「あー、その、なんて言うかさ、坊やは控え目に言ってもコーデリアの命の恩人だし? あんま詮索するつもりは無かったんだけど、これは無理だわ」


 トリフィラさんがメリッサさんと顔を見合わせ、メリッサさんが肩を竦める。


「え、えっと、ど、どういうことでしょう?」


 やばい、なんかやらかしたか?!


 といっても、【アイテムインベントリ】に収納していた物を取り出しただけなんだけど……。


「ねぇ坊や。ソレ、今どっから出した?」


 トリフィラさんが『ソレ』と言って差し示したのは、積み上げられた木の枝とリピコの実、そして二体のホーンラビットだった。


 ん? あれ? アイテムボックス系のスキルってそんなに珍しいスキルだったのか?!


 いや、でもログハウスにあったスキルオーブには結構な量のアイテムボックス系スキルが込められた物があったから、そんなに珍しいものじゃないと思ってたんだけど。


「……さっきのリア(ねぇ)の手当のときに使った魔術、詠唱してなかった」


「それもそうだし、さっきの薬、あれヒールポーションでしょ。あんな効果が大きいヒールポーションなんか見たこともないわよ。しかもあれ、坊やが自分で作ったとか言ってなかったけ? ヒールポーションが作れるってことは【調薬】スキルも持ってるってことよね?」


「……魔術の名称すら口にしなかった。なら【詠唱省略】でも【詠唱短縮】でもない? まさかの【無詠唱】?」


「え? え? あ、あの、そのですね」


 一言発する度に、ずい、ずいっと一歩ずつ迫ってくるトリフィラさんとオーリンちゃんの気迫に気圧されて、僕の背中に冷や汗がだらだらと流れ、頭の上に陣取っているラピスも怯えているのか高速でぷるぷると震えている。


 なんと答えるべきかと高速で思考を回転させていると、視界の端で一人呆れた表情のメリッさんが、本日何度目かのため息を吐いていた。


「はぁ……トリフィラ、オーリン、その辺にしておけ。それ以上はマナー違反だ」


「それはそうなんだけどさぁ……んー、なんというか、危なかっしいわねぇ」


 メリッサさんに窘められたトリフィラさんは唇を突き出し、若干どころではなく不満そうな声を挙げ、次いで心配そうにこちらへと視線を投げかけて来ていて、オーリンちゃんはオーリンちゃんで、僕のことをじっと見つめて視線を離さないでいる。


「その辺の話は後にしよう。今は火と食料の確保が先決だ。ハルト君これは本当に使っても構わないか?」


「あ、は、はい。」


「うむ、ならば、時間も無いことだし、ありがたく使わせてもらおう。トリフィラ、陽のあるうちにコイツを捌いてしまおう」


「りょーかい」


「オーリンは火の準備をしておいてくれ」


「……ん」


 メリッサさんの指示が飛ぶと、トリフィラさんは視線を僕からホーンラビットへと移し、そのうちの一体を掴むと、朽ちかけた柵の間を抜け、数十歩ほど森へ入っていくと、そこにしゃがみこんで解体作業を始める。


 それに合わせて、オーリンちゃんも薪を抱えて(かまど)へと向かい、作業を開始していた。


「ああ、そういえばハルト君は水が出せるんだったよな?」


「あ、はい。【生活魔術】が使えますので、飲み水なら出せますよ」


 僕がそう正直に答えると、一瞬何故か苦虫を噛み潰したような顔をする。


 はて? また何か不味いこと言ったか?


 僕が首を傾げていると、メリッサさんは難しい顔をしつつ、背負袋から二つの鍋を取り出した。


「ふぅ、であれば、手数をかけて申し訳無いが、この二つの鍋いっぱいに水を出しておいてくれるか? そのあとはオーリンに渡してくれ」


「わかりました!」


 メリッサさんは僕の返事に一つ頷き、難しい顔をしたまま、もう一体のホーンラビットを掴み、トリフィラさんの方へ向かい、同じようにしゃがみこんで解体作業に移っていった。


 メリッサさんのその様子に、何かマズイことを仕出かしたかと若干不安に苛まれながら、僕は言われた通りに《スプリングウォーター》で二つの鉄鍋に水を満たしたところで、オーリンちゃんが戻ってきた。


「あ、オーリンちゃん、これどうすればいい?」


「……ん、二つとも湯を沸かすの」


「わかった、手伝うよ」


 そう言うと僕は、えっちらおっちらと鉄鍋を竈へと運んでいくオーリンちゃんに続き、もうひとつの鉄鍋を抱えてそのあとについていく。


 無事竈に鉄鍋を二つともセット出来たところで、オーリンちゃんがそのいつも眠たそうにしている半眼をにっこりと細める。


「……ありがと、ハル(にぃ)。ここはもう大丈夫、リア(ねぇ)についててあげて」


「あ、ああ、うん。……ぅん? ハル(にぃ)って?」


「……ん? ダメ、だった?」


 はる(にぃ)なんて呼ばれたのはいつ以来だろう。


 確か初等部のころは、まだ花凛ちゃんからはそう呼ばれていた気がする。


 でも花凛ちゃんが中等部に上がる頃にはもう先輩って呼ばれてたから、およそ三年ぶりくらいか。


 などと昔に思いを馳せていると、オーリンちゃんの不安に揺れる瞳に見つめられていることに気付き、ちょっとした罪悪感が鎌首をもたげる。


「ああ、いや、ダメってわけじゃないから。好きに呼んでくれればいいよ」


「……ん。なら良かった」


 思考を現実に戻し、そう答えると、ほっとしたように微笑むオーリンちゃんの笑顔になんとなくほっこりした気分にさせてもらった。


 オーリンちゃんの作業場である竈から離れ、毛布の上に横たわっているコーデリアさんの容態を確認する。


 顔色はまだまだ青白いが、呼吸も落ち着いているし、今のところは大丈夫そうだ。


 だが、やはりこのままじゃ目が覚めても、半日ほどとは言え、街までの移動は相当厳しいだろう。


 やはりここはひとつ、いや二つほど新しい薬が必要だな。


 ということで、取り出しましたるは~、ぱんぱかぱんぱんぱーんぱっぱーん、て~つ~の~て~な~べ~。


 ……こほん。


 さらに木のお椀を二つ、不純物を取り除く為の濾し布、魔石粉を少々、魔力水の入った魔道水袋、コルク栓付きの空き瓶を二つ、そして主役となるこの二種類の薬草だ。



=======================


名称:活力草

ランク:★★

区分:素材

品質:やや高


概要:各種ビタミン類やアミノ酸、ミネラル類が豊

   富に含まれた薬草


   この草を()んだ旅人が、一昼夜休み

   なく活動出来たという噂が名前の由来


=======================



=======================


名称:レンヘイ草

ランク:★★★

区分:素材

品質:やや高


概要:鉄分とビタミンを多量に含んだ葉野菜

   貧血気味の女性が食する事で、体質改善に効

   果が確認されているため、一部地域では薬草

   として扱われることもある


=======================



 まず活力草だが、これは見た目は黄色の治癒草ではあるが、これはむしった時に出る草汁から仄かに甘酸っぱい香りが放たれるのが特徴だ。


 次いでレンヘイ草、これの見た目は赤黒いほうれん草だった。


 こいつは葉野菜とも記載があるので、食べられる植物ではあるのだが、生のままでは少々見た目が悪く、食べられる気がしないのだが、茹でると鮮やかな赤へと大変身するらしい。


 この二種類の植物は共に、ガーネたちとの森歩きの際にいくつか採取していた。


 さて、それではこれらを使って、新しいポーションを作って参りましょうか。


 まず手始めに、薬草類を【生活魔術】第二階梯の《ドライ》を使って乾燥させてしまう。


 続いて、鉄の手鍋に魔石粉をひとつまみと魔力水を八分目まで注いでいく。


 んで、手鍋一杯分の溶媒に対して必要な活力草の分量を【錬成】を起動させながら計る。


 一束投入。まだ反応しないな。


 二束目投入。んー? まだ反応無しか。


 さらに三束目を投入。


 すると【錬成】が反応したので、すかさず発動すると、淡い光を放ち、ポーションが完成した。


 これを濾し布で木のお椀に濾して不純物を取り除けば、完成っと。


 ふむ、見た目は透明な濃い黄色で、香りはなんとなく甘酸っぱい香りがする。


 いい感じだ。


 お味はどうだろうか、と思い指先にちょっとだけ垂らして、パクリ。


 ……にっげぇ。


 んだよ! 香り詐欺かよ!!


 見た目は完全にリポ○タンなのに、肝心の味がただの薬草汁ってどういうことだよ!


 ふーふー!! ちょっと取り乱してしまった。反省。


 気を取り直して、もうひとつの方に取り掛かろう。


 手鍋は一度《スプリングウォーター》と《クリーン》で洗浄してから、魔石粉と魔力水を同じように準備する。


 そして今度は活力草ではなくレンヘイ草を五束投入したところで【錬成】に反応があったので、これを発動。


 すると光が収まった手鍋の中には、なんだか身体に悪そうな真っ赤な薬液が出来上がった。


 コイツも先程と同じように別の木のお椀に濾して不純物を取り除けば、完成だ。


 味は……みなくてもお察しだろうなぁ。


 真っ赤な液体を眺めながら辟易していると、二つの足音が近づいてくるのが聞こえてきた。


「坊や、何してるんだい?」


「ああ、これですか。コーデリアさんの容態はだいぶ落ち着いてるようですけど、血を流しすぎているので、今のうちにそれを補う薬を調合しようかと思いまして」


 後ろから声をかけられたが、最後の工程が残っているので、失礼かとは思ったが、そのまま作業を続け、慎重に零さないように空き瓶へとそれぞれ一本づつ詰め替えていく。



=======================


名称:スタミナポーション

ランク:★★

区分:薬品

品質:中


概要:エネルギーを作る手助けをする効能があり、

   重い疲労を回復することが出来る


   ただし、活性化作用があるため、就寝前のご

   利用は避けてください


   本品は効果が強い為、用法用量を守って正し

   くお使いください


効果:『疲労』状態を半段階回復する

消費期限:299日と23時間55分21秒


=======================



=======================


名称:ブラッドポーション

ランク:★★★

区分:薬品

品質:中


概要:造血作用を強く補助する効能を持つ魔法薬


   短期間に複数使用すると、思わぬところから

   出血するため、ご注意ください


   本品は効果が強い為、用法用量を守って正し

   くお使いください


効果:『貧血』状態を半段階回復する

消費期限:89日と23時間57分33秒


=======================



 ……ヒールポーションの時にも思ったんだが、これって鑑定結果を出したら、テレビコマーシャルみたいに口で『ぴんぽーん』とか言ったほうがいいのかな?


 完成した二種類のポーションを掲げて憮然としていると、呆れたような、それでいてちょっと困ったような声が僕に降り注ぐ。


「あのねぇ、坊や? さっきは言い損ねたけどさ、取り敢えずちょっとそこに座んなさい」


「え? あ、は、はい?」


 有無を言わさない圧力を感じ、座ったまま無意識に正座の姿勢へシフトチェンジしながら百八十度回転すると、そこにはバナナの葉のような大きな葉っぱに、解体の終わったホーンラビットの肉を乗せ、それを片手に担いだ状態のトリフィラさんが仁王立ちしていた。


「いい? 坊やはコーデリアの……」


 とトリフィラさんが何か言いかけたところで、後方から僅かな衣擦れの音と、小さいうめき声が発せられた。


「……う……ん……あ」


「っ! コーデリア!!」


 するとトリフィラさんは、その声を聞いた瞬間、葉っぱごと肉を放り出し、コーデリアさんの傍らに跪き、コーデリアさんの手を取った。


「う……ぁ……とり……ふぃら……ちゃん……?」


「気が付いたのね! 良かった……よかったぁ」


 嗚咽混じりの安堵の声。


 そして辺りに鳴り響く虫の音と鳥の声が、まるでコーデリアさんの意識が戻ったことを祝福しているようだった。


「メリッサさん、コーデリアさんにこの二つを飲ませてあげてください」


 僕は、それを視界の端に納めたまま、信じられない光景を目にしたかのように呆然と佇むメリッサさんに、つい先ほど完成したばかりのポーションを差し出す。


「これは?」


「こっちの黄色いのは疲労回復効果のあるスタミナポーションです。こっちの赤いのは失った血液を作り出すのを助ける効果があるブラッドポーションです」


「な!? ……い、いいのか?」


「いいも悪いもないですよ。意識を取り戻されたようですけど、危険な状態には変わりありませんし、これはコーデリアさんのために作ったんですから、お代は結構ですから使ってください」


「……すまん、恩に着る」


 治療を施したといっても、コーデリアさんの意識はなかったのだから、突然現れた僕が飲ませるより、パーティーとして行動していた彼女たちに任せた方が、いいだろうと思う。


 片手に担いでいた、トリフィラさんが担いでいたのと同じような葉っぱを地面に下ろしてから、二つの小瓶を震える手で受け取ったメリッサさんは、ゆっくりとした足取りでコーデリアさんに傍らに辿り着くと、そこに火の番をしていたオーリンちゃんも駆けつけ、三人で意識の戻ったコーデリアさんを囲んでいる。


 陽も落ち始めて、辺りはは間もなく真っ暗になるかといった様相であったが、少し離れたところでも、メリッサさんがコーデリアさんの口元に瓶の口を傾け、ポーションを飲ませているのが見て取れ、コーデリアさんもしっかりと嚥下しているようなので、これで喫緊の懸念事項は完全に取り除かれたと思い、ラピスと共に安堵の息を吐いた。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

誤字・脱字・矛盾点・説明不足・わかりにくい表現等のご指摘いただければ幸いでございます。

ただ、作者ガラスのハートでございますれば、柔らかい表現でお願いいたします。

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