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第十六話 第一村人発見 ……されただとぅ!?

 泉を出てから三日目の昼過ぎ、下草がちらほらと目に付き出した頃、(ようや)く遥か前方に森の切れ目が見えてきた。


 慣れない森歩きは大変だったが、道中についてはそれほど危険な事はなかった。


 森自体は薄暗いが、立ち木が密集しているわけではないので見通しも良く、木漏れ日などは差し込んできていたので、日中帯において視界の確保は特に難しくはなかった。


 ただ、夜においてはそういうわけにはいかない。


 月明かりも届かない夜の森を手探りで歩き続けるのは流石に厳しかったし、睡眠も必要なので、夜は移動せずにラピスを抱き枕がわりに抱えつつ、休ませてもらった。


 ガーネたちは睡眠をそれほど必要としないらしく、夜番を引き受けてくれたので安心して任せていたのだが、今朝方事件が発生した。


 僕が朝目を覚まし、硬い地面の上で寝ていたため、強ばってしまっている体を解していると、何故かガーネとヒスイが自慢気にしていて、トリンが憮然としていたのだ。


 雰囲気から喧嘩しているというわけでは無さそうだが、一体僕が寝ている間に何かあったのかと首を捻っていたが、ふと後ろを振り返って見ると、そこには二体の魔物が積み上げられているのを発見した。


 僕の感覚では突如として現れた巨大な魔物の死体に大いに驚き、腰を抜かしかけたが、寝ている間も起動させたままであった【気配察知】にはその二体の魔物からの反応は無く、この魔物たちは既に事切れているようであった。


 一体は、立ち上がれば四メートルはゆうに超えるであろうと思われる巨大熊で、もう一体は胴回りが一メートル、全長十五メートルにも及び、木漏れ日が当たりキラキラと光る真っ白な外皮が美しい巨大蛇のようである。


 既に死体ではあるというのはわかっているのだが、その巨躯は中々に迫力があり、今にも動き出しそうである。


 そんな恐怖感を抱きつつ、恐る恐る近づいてみると、熊の方は左右に上下に連なった二本の腕がある異形の巨大熊であった。


 だが、左腕の上側一本は、肘から先が無くなっており、その切断面を見てみると、食い千切られたというよりも、鋭い刃物で切り落とされたかのような切断面になっていた。


 また熊の頭部を見てみると、鼻から上の部分がごっそりと削げ落とされている。


 取り敢えず、【万象鑑定】を起動させてみると巨大熊の方は『四ツ腕狂乱熊』という名称が浮かび上がり、コイツは、目にした障害物はその四本の腕で全てを薙ぎ倒し、一度暴れだしたら一帯を破壊し尽くすまで止まらない、森の破壊者と言われているらしい。


 もう一体の頭部がまるで煎餅のようにぺしゃんこになっている大白蛇の方を鑑定してみると、名称は『白亜之大蛇』。


 コイツはありとあらゆる生き物を喰らい飲み込んでしまうため、四ツ腕狂乱熊とは多少ベクトルが違うが、森の厄介者という点では同類だ。


 どちらの魔物も六ツ星の魔物であり、本来はこのような森の中層域には現れないはずなのだが……。


――よくわかりませんが、ちょっと騒々しかったので静かにして欲しかったのですが~


――喧嘩売って来やがったもんだから、逆にぶちのめしてやったぜ


――某も死合ってみたかった……


 どうやら夜中にトリンの探査に引っかかったので、ガーネとヒスイが様子を見に行ったら、バトってた二匹が標的をガーネとヒスイに変えたので、返り討ちにしたと。


 んで、トリンは僕の周囲の警戒のため、それに加われなくてイジけている、ということらしかった。


 まあ何にしても、ガーネとヒスイに怪我がなくて良かったと思ったが


――はん、この程度のザコにやられっかよ


――そうですね~、もう少し研鑽を積んでもらわないと~


――某が見つけたのに……


 ということらしい。


 ガーネやヒスイはともかく、トリンはステータス的にはタンク型だろうに。


 取り敢えず、この三体のスライムは、僕の護衛や道案内といった役割が無ければ、やたら好戦的だということが判明した朝だった。


 とまあ、そんなトラブルとも言えないような出来事があったものの、移動自体は順調に進んでいた。


 途中、初日に見つけたような茸の群生地や、珍しい花や植物が生えている場所があったので、それらを採取したりと、道草を食ったりもしていたが、この二日半で【気配察知】にも大分慣れ、今では探査範囲もレベル5相当の半径100メートルまで広げることが出来ている。


 それ以外にも、道中の休憩中や夕食後の寝る前には【生活魔術】や【系統外魔術】などの魔術についても、効果や威力の確認などをして、今の僕に何が出来て何が出来ないのかの確認も一通り済ませた。


 そんな風に森歩きを満喫し、且つスキルの習熟をしながら進んでいると、(ようや)く森の終わりが見えてきたのだ。


 延々と続くかのような深い森の中、いつまで経っても見えてこなかった森の終わりが見えたことで、ほっと息をつく。


 どうやらこの薄暗い森の雰囲気に釣られて知らず知らずのうちに、不安に駆られていたようだ。


 足を止めて、深呼吸をして、改めて森の切れ目の方に目をやると、今まで僕の前を駆けていたトリンが振り返る。


――某らの案内はここまでです


――森を抜けりゃ人間たちの領域だ


――ワタシたちのような魔物が、人間さんたちの前に姿を見せると大騒ぎになってしまいますので~


「そっか、そうだよね。うん、ここまでありがとう、ガーネ、ヒスイ、トリン。戻ったらグリンさんに無事森を出られたことと、改めて『ありがとうございました』って伝えてくれるかな?」


――おう、必ず伝える。母も喜ぶだろうさ


「うん、宜しく。じゃあ、またね」


 そう言い、僕はガーネたちに振り返ることなく、森の出口へと足を進めた。


 さあ、ここから正真正銘、僕とラピスだけの旅が始まるのだ。


 そう思うと緊張感と共に、ちょっとワクワクしてきた。


 とは言っても、まだ後ろではガーネたちの気配がそこに留まっている。


 どうやら森を抜ける迄の間、ガーネたちはその場に留まり、他の魔物に対して睨みを効かせてくれているようだ。


 この距離であれば、ガーネたちなら文字通り一息の間に詰められる距離なので、森を出るまでは、安心出来る。


 逸る気持ちを抑え、下草に足を取られないように、しっかりと歩を進めていると、やがて【気配察知】を展開している範囲のギリギリ端っこ、右前方百メートルの所に四つの気配を捉えた。


 正確にいうと、三つのそこそこ強い気配と、今にも消えてしまいそうな弱々しい気配が一つだ。


 脳内マーカーの色は四つとも警戒を現す黄色を示している。


 マーカーのサイズは他の四つとも僕とほとんど変わらない大きさ――ということは恐らく同じくらいのレベルなのだろう――であったので、不用意に近づくのは少々危険が伴う。


 草食性の野性動物の群という線も無くはないが……どうにもその弱々しい気配が気になった。


 となると、怪我若しくは衰弱して弱っているのかもしれない。


 であれば、ヒールポーションの実験台に丁度いいな。


 グリンさんの泉でポーションを作って、鑑定でもきちんと効果があることは確認したし、素材追加による味の改変や追加効果を付与するという魔改造もしたが、実際にこれを使った時にどんな風に傷が癒えるのかは、まだ確認したことは無かった。


 一応手元には匕首という刃物があるので、自分で傷を付けて治すという事も出来るのだが、テキスト上であるとはいえ、効果のあることがわかっているものを、自傷行為をしてまで確認するほどマゾではないので、この確認は後回しにしていたという事もある。


 また、草食動物であれば仕留めれば食料となるが、食料ならば【アイテムインベントリ】に道中ガーネが倒した猪や大熊、白蛇などの肉が、そして食べられる野草や茸の類いがたんまりとあるので、ここで態々(わざわざ)手負いの獣を相手取るなんて危険を冒す必要は無いし、こういった機会に出会(でくわ)したのであれば、これを利用してポーションの効果を直に確認するのも悪くない手であろう。


 まあそもそも、その手負いの獣に近づけるかどうかという問題はあるんだけど。


 それともうひとつの可能性、この気配が獣では無く人間という可能性もあるのだ。


 その場合は……どうすべ?


 商人や旅人が怪我をしているなら助けてあげたいけど、盗賊や皇国から追い出された直後に襲い掛かってきたような相手だったら、と思うと下手に近づくべきではないか?


 何にせよ、未だ距離はかなりある。


 この気配が何者であるか、それを確認してから、どうするか判断することにしよう。


 そう結論付け、取り敢えず【隠形】を発動させると、身体全体が薄い膜のようなものに包まれる感覚を覚えた。


 手足を振って確認してみると、薄膜のその動き合わせるかのように纏わり付く感覚に少々こそばゆく感じたが、動きには全く支障はなかった。


 この薄膜が僕の気配を隠しているのだろうと当たりを付け、森の外縁部に近くなったせいか、下草が大分増えてきた地面に足を取られないよう、慎重に歩を進める。


 お、活力草めっけ。


 あ、こっちには治癒草もあんじゃん。


 などと多少の道草をくいつつも、ゆっくりと気配のある場所に近づいていく。


 そうこうしていると、【気配察知】に示されたマーカーとの距離が、凡そ三十メートルを切るほどになり、その頃には森の向こう側に陽の光が降り注いでいるのが、はっきりと見えてきた。


 ということは、そこで森が終わっているのか、若しくは切り開かれた場所になっているのだろう。


 僕が近付いていっている間も、その四つの気配は警戒しているらしく、一向に動く素振りを見せなかった。


 そろそろ見えてきたかなと思い、視線を地面から前方に移すと、【気配察知】が示すそこには、しゃがみ込んでいるような四つの人影があった。


 あちゃー、どうすっかな。


 遠目で見る限り、近くには馬車もなく、服装もローブのような外套を羽織っているのが二人程見えるので、商人では無さそうだ。


 もしかしたら、商人とその護衛かもしれないが。


 それ以外の候補となると、旅人かはたまた盗賊か……。


 流石にこの距離では、表情も人となりも見えないが、なんだか雰囲気が暗い。


 やっぱり、怪我をしているのか?


 それも結構ヤバめの。


 それとも盗賊の演技?


 心配して近づいたら、これ幸いと襲い掛かるような?


 いやでも、この弱々しい気配は、到底演技だとは思えないんだけどなあ。


 むぅ、状況がいまいち読めない。


 仕方ない、【隠形】が発動している限り、僕の気配は見つからない筈だし、もう少し近づいてみるか。


 そう思い、音を出さないように、慎重に一歩を踏み出そうとすると……


「誰だ!」


 森の向こう側から挙がった、少しハスキーな女性と思われる、鋭い誰何(すいか)の声にびくぅっと背中を飛び上がらせてしまった。


 え? まじ? 気付かれた!! なんで?!


「そこにいる奴! 出てこい!!」


 二度めの誰何の声。


 やっぱりバレてる! なんで気付かれたんだ?!


 【隠形】は発動しているので僕の気配はわからないは……ず……?


 【隠形】スキルが発動している感覚はあるし、カンスト特典の効果も発動している感覚がある。


 それなのに【隠形】が見破られるという、突然の事態にテンパっていると、何やら頭の上でぽよんぽよんと柔らかい反応が。


 つつっと視線を上の方に向けると、ラピスがにゅ~と僕の頭の上から身を乗り出し、視界に入ってきた。


 ……あー、うん、そーゆーこと?


 そっと【隠形】の効果範囲にラピスを含めるように念じると、僕の身体を覆っていた膜のようなものが動く感覚がし、その膜がゆっくりとラピスを包み込んだ。


 なるほど、仲間の気配を隠すならこうゆう風にしないといけないのね。


「今更気配を隠したところで……出て来る気がないというのなら……!」


 などと、暢気に考察なんかしてたら、四つの内三つマーカーが警戒の黄色から敵対を示す赤色に染まり始めた。


 あ、やばい。


 のほほんと検証なんかしている場合じゃなかった!


「わー! ま、待って下さい! 今、そっち行きます!! 撃たないで!!」


 気配がある方向に届くよう、叫ぶように声を張り上げる。


 思わず『撃たないで』なんて言ってしまったが、この世界の文明では、恐らく銃なんて兵器は無いだろう。


 だが、弓矢や魔術という存在はあるので、(あなが)ち間違いでもないだろう。


 念のため、敵意が無いことを示そうと両手を挙げながら、木の根に足を取られないよう、慎重に声がした方向に歩いていく。


 程なくして森が終わり、(わだち)が微かに残る、剥き出しの土が踏み固められたような街道に出る。


「お、おお、道だ。獣道じゃない」


 幅は八メートルほどで、思ったより広い。


 所々に雑草が生えており、お世辞にも整備されているとは言えないが、少なくとも、人の手が入っていたことが伺えた。


 (ようや)く、人の営みを感じられる場所に出られたぞ。


 空を見上げると、この二日半ずっと鬱蒼とした森の中での生活だったので、直射日光がやたらと眩しい。


「あんた何者? なんでこんな所に居る? アタイらに何か用か?」


 手で(ひさし)を作り、空を見上げながら感傷に浸っていると、訝しむ声を投げ掛けられ、意識を戻す。


 おっと、いかんいかん。


 目の前の三人のマーカーは、赤色にまでは染まっていなかったが、未だ黄色と赤色の中間色なのだ。


 この後の受け答え次第では、これが真っ赤に染まってしまう。


 さて、どう答えたものか。


 見上げていた視線を声がした前方へと戻す。


 そこにはケープのようなフード付きの肩掛けを羽織り、革の胸鎧と頑丈そうなブーツを履いた、少しキツめの目つきではあるが目鼻立ちが整った女性が中腰で短剣を逆手に構えている。


 そしてなんとこの女性、その頭部にはメスライオンのような、少し丸みを帯びた三角形のケモ耳があった。


 おおっ、獣人さんだ! ケモ耳娘だ!


 ステータスには『種族』という項目があったので、居るとは思っていたけど、この世界に召喚されてから、人間族の人かスライムくらいしか見たことがなかったから、この目で確認出来たことで、興奮しつつ何故かちょっと安心している自分がいた。


 で、そのケモ耳の女性から少し左に視線を移すと、大きな二つの膨らみが一際強い存在感を放つ、鈍い光を放つ鉄製と思われる軽鎧と具足を纏い、カイトシールドを前面に構えて、背負った剣らしきものの柄に手をかけている女性がいる。


 こちらの女性も警戒しているせいか、厳しい眼つきをしているが、装備や雰囲気と相まってカッコイイ女性だ。


 そのカッコイイ女性の右後ろには、絵本に出てくる魔女が被っているような大きな三角帽子とこれまた魔法使いが好みそうな真っ黒のローブを纏った十二、三歳くらいの小柄な少女が杖の先端をこちらに向けていた。


 てんでバラバラな格好をした三人の女性が、一様にこちらを警戒している。


 ……あれ? 三人? 【気配察知】が捉えた反応は四つだったはずだけど……。


 と、思ったら魔法少女の更にその後ろに法衣というか神官服っぽい服を着た女性が、背負い袋を枕にして横たわっているのが目に入った。


 その神官服の左脇腹部分がどす黒く染まっているので、恐らく弱々しい気配の正体は彼女ではなかろうか。


 現に今も脳内レーダー盤上では、一番奥にある反応がどんどん弱くなっていっている。


 この勢いで弱まっていけば、たぶんあと一時間もしないうちに、このマーカーは灰色に変わってしまうだろう。


 神官服の女性の傍らには、空き瓶やら血に染まった布やらが散乱していたので、治療中だったのかもしれない。


 となると助けるのであれば、あまり悠長にはしていられないのだが、そもそも僕が作ったヒールポーション程度がどこまで役に立つかという問題もある。


 こんな重傷というか危篤状態だなんて想定していなかったもんだから、ヒールポーションで助けられればいいが、助けられなかった場合のことを考えると、彼女らには関わらず、人里がある方向だけ教えてもらって、この場を去るのが選択としてはベターなのだろう。


 そんなことを考えていると、不意に向けられた短剣の放つ鈍い光が目に入り、自称冒険者に剣を向けられ、追いかけ回された記憶が脳裏に甦る。


 その途端に顔から血の気が引き、胸が激しく動悸を打ち、心臓が立てる早鐘のような鼓動が煩いくらいに響き、無意識に胸を抑え、息が荒くなる。


「ちょ、ちょっと、大丈夫? え、メリッサ、ど、どうしよう?」


「え? い、いや、どうしようと言われても……ど、どうしよう?」


「……! ……!?」


 突然顔色を悪くして、崩れ落ちそうになる僕を見た短剣を手にした女性が、構えを半分解き、僕の心配をしてくれている。


 カイトシールドを構えていた女性も問いかけられて、おたおたと慌てふためいていた。


 魔術師っぽい少女も構えていた杖を抱えて、おろおろしている。


 彼女らは神官さんを僕から守るような配置を取っているので、恐らく彼女らは旅の仲間なのだろう。


 本当なら神官さんの治療を優先してあげたいだろうに、脅威となるかも知れない僕の対処を最優先にしているにも関わらず、急に調子を崩した僕の心配をしてくれている。


 その態度から察するに、彼女らは少なくとも、目の前にいる具合の悪そうな人を気遣えるくらいには優しい人たちなのだろう。


 だけど、この世界の在り方が、命の価値が羽のように軽いこの世界が、その在り方を許さない。


 警戒を怠れば、油断すれば、痛い目に遭うどころか自身の命を奪われる。


 ここはそういう世界。


 その証拠に彼女たちは、僕の心配はしていても、その場から近づいてこようとはしていない。


 改めてこの世界の現実というものを思い知らされた気分だ。


 とはいえ、今はそんなことを考えている場合では無い。


 この場での闖入者は僕の方なのだから、先ずは僕が落ち着こう。


 幸い、彼女たちはアイツらとは違って、こちらの言い分を聞いてくれそうなのだから。


 いい加減煩わしくなって来たこの鼓動を落ち着かせるため、大きく息を吸い込み、一旦溜める。


「ふぅ~~~~~~!!」


 そして盛大に吐き出すことで、動悸を抑え、思考を切り替える。


 僕が息を吐き出す音に目の前の三人の肩がびくっと跳ね、すかさず先程と同じような構えを取った。


「あっと、驚かせてすみません。えっと、まず僕はハルトといいます。人間族です。こっちは友達……じゃないな、家族のスライムで、ラピスっていいます」


 正直、ここから先は出たとこ勝負だ。


 どうするべきか迷ったが、此処でにらみ合いを続けていても仕方ないし、人里がある方向を教えてもらうにしても、神官さんを治療するにしても、先ずはある程度彼女たちの警戒心を解かなくてはならない。


 なので、どこまで通用するかわからないが、取り敢えず胸を抑えていた両手を挙げ、無抵抗であることを再度アピールしてみる。


 三人は僕が両手を挙げた際にピクリと反応していたが、それが敵対行動では無いと判断したのか、そのままの姿勢で問い返される。


「家族? スライムが?」


「はい、家族です。それで、実は森の中で暮らしていたのですが、食料に困ってしまいまして、こちらの方に人の集落があるようでしたので、森から出てきました」


 ……うん、嘘は言っていない。


 食料については本当に困っている。


 実際はグリンさんたちからもらった果実が【アイテムインベントリ】内にたんまりとあるので飢えることは無いと思うが、僕は肉が食べたい。


 道中ガーネたちが狩った魔物は【アイテムインベントリ】内にしまってあり、鑑定によればこの魔物は食えるらしいが、解体の仕方なんか知らないし、血抜きすらしていない。


 森で採れた茸なんかは焚き火で焼いて食べてはいたが、ルーベリア皇国の皇宮を追い出されてからこっち、肉類は一切口にしていない事もあり、そろそろお肉が恋しいお年頃。


 育ち盛りの男子高校生の胃袋はお肉を欲しているのだ。


 あ、あと出来れば米も食いたい。


「森で暮らしていた? この『灰の森』で暮らしていたというのか?」


「えっと、森の名称はわかりませんが、僕の居たところから真っ直ぐ二日半ほど東を進んできました」


「徒歩で二日半の距離だと中層辺りか……いや、やはりそんな場所で人が暮らしていけるなどとは思えん」


 うーん、困った。


 カイトシールドを構えた女性がブツブツと呟いているようだが、どうにも信じて貰えていないようだ。


 確かに、道中でガーネたちが倒した魔物はどれもランクが高いやつばっかだったからな。


 鑑定したのは倒された後だったので、詳しいステータスはわからなかったが、ガーネたちのステータスを指標にするならば、高ランクの魔物であれば、レベルやステータスはかなり高いのであろう。


 実際、森の中にいるときに【気配察知】で捉えたマーカーの大きさは、半数以上が僕よりも大きいマーカーだった。


 普通の人がこの森の中を彷徨い歩いていれば、瞬く間に魔物たちの腹に収まってしまうのだろう。


 僕はグリンさんが管理しているスライムの泉で安穏としていられたし、道中もやたら強いガーネたちに護衛してもらっていたから、あまり身の危険は感じていなかったからあまり気にしていなかったが、彼女たちの様子からすると、どうやらこの森は相当危険な場所らしかった。


 さて、どうするかな。


 選択肢そのいち。

 別に信じてもらわなくていいから、人里の方角だけ教えてもらう。


 選択肢そのに。

 取り敢えず、何かしらの証拠を出して信じてもらった上で、人里の方角を教えてもらう。


 選択肢そのさん。

 そのに(ぷらす)この人たちに人里まで案内してもらう。


 選択肢そのよん

 このままバックして森の中に戻る。


 ……うん、そのよんは無いな。


 たぶん、後ろに下がった時点で、あの短剣か魔術が飛んでくると思われる。


 【強化魔術】と【系統外魔術】の第六階梯《アンチマテリアルシールド》と第七階梯《アンチマジックシールド》を使えば逃げられると思うけど、それを実行してしまうと、未だに僕の後方百メートル付近に控えているガーネたちに呆れられてしまうだろう。


 流石にそれは恥ずかしい。


 となると、そのいち又はそのにかそのさんになるのだが、そのいちは素直に教えてもらえるか不明だ。


 最悪適当な方向を教えられて、迷子になってしまう。


 現時点で既に迷子だろうが、とか言わないよーに。


 ふむ、そうすると残る選択肢はそのにかそのさんになるのだが、何を出せば信じてもらえるのか、あと案内してもらうには後ろの方で寝かされている神官さんをどうにか治療して、少なくとも意識を取り戻すところまで持っていかなければならないのだが……。


 さて、どーすっかなーっと考えていると、神官さんのものと思われる気配が急激に弱々しくなっていくのが感じ取れた。


 僕の一挙手一投足に意識を集中させている目の前の三人は、どうやらまだ気付いていないようだ。


「あのー、ちょっと良いですか?」


「なんだ? 正直君の話は信じがたいのだが……」


「あー、いや、出来れば信じてもらいたいんですけど、それよりも後ろの方、大丈夫ですか?」


 僕が何となしにそう告げると、三人は焦りの表情を浮かべ、勢いよく体ごと後ろを振り返った。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

誤字・脱字・矛盾点・説明不足・わかりにくい表現等のご指摘いただければ幸いでございます。

ただ、作者ガラスのハートでございますれば、柔らかい表現でお願いいたします。

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