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第十五話 森でお散歩気分

『――お気を付けて』


 そんな言葉を背に受けて、僕は開けてもらった結界の穴を通り、森へと足を踏み入れる。


「おっと」


 踏み出した足が下草を挟まない、堅い土の感触をスニーカー越しに感じると同時に視界が歪み、軽い酩酊感を覚え多少バランスを崩したが、転ばないようになんとか踏ん張る。


 その場で数度瞬きをすると、歪んでいた視界が元に戻ったので、改めて正面を見渡すと、そこは結界を越える前に見えていたものとは若干植生が違って見える、鬱蒼とした森が広がっていた。


 ここは朝方にも関わらず、陽の光が殆ど届かないようで、辺りは薄暗く、そのせいで足下に下草は全く生えておらず、土が剥き出しになっている。


 所々木の根が盛り上がっていたり、朽ちた倒木が転がっていたりするが、地面はそこそこ硬いようなので、それさえ避ければ歩くこと自体は問題無さそうだった。


 この森を抜けるまで、どれくらいの日数が掛かるかわからないが、下草に足を取られて、無駄に体力を消耗しないで済みそうなのは助かる。


 ふと、後ろを振り返ると、まるでこの半月の出来事が幻であったかのように、そこにはグリンさんの姿や異常増殖した草原、広大な泉は影も形もなく、天をつくかのように聳え立っていた大樹の雄大な姿すら目にすることは出来ず、前方と同じ森が広がっていた。


 けれど、足下にはガーネ、ヒスイ、トリンの三体のスライムがふるふると辺りを伺うように、周囲を警戒しており、頭の上にはラピスの重みを感じる。


 そして手を開くとそこにある、透明な緑色をした雫石。


 これらの存在が、昨日までのことは決して夢や幻では無く、現実であったことを証明してくれていた。


――おう、大将。準備はいいか?


 泉でラピスやグリンさんに出会ったことや、スライムたちと戯れた事は嬉しくも楽しいことではあったが、異世界に無理矢理と言っていいほど唐突に召喚されたことや、その後のことを思い出し、ちょっと気分が落ち込んでいた所に、ガーネから声が掛けられた。


 ガーネたちはここが森のどの辺りになるのか、判別がついたようで、頻りに周辺を警戒している。


――この辺りはちと面倒なヤツが多い。出来れば相手にしねぇで、駆け抜けたい


――そうですね~。以前のワタシたちでは、一対一だとちょっと手こずる相手が多かったですね~


――確かに。名前を頂戴した今ならば、それほど手こずることはないかと思われますが


 ガーネたちが代わる代わる、鬱陶しそうに、今居るこの場所には厄介な相手が多いと零す。


 魔物の中でも強者であると思われるガーネたちが、ここまで面倒くさそうな感情を垂れ流しにするということは、この辺はよほど危険な場所なのだろう。


 そんな場所に一人と一体で放り出されていたらと考えると……ちょっと寒気がする。


 結界からの出口ということを考えると、森の浅いところに繋げるのは、人目にも付きやすいので、あまり宜しくないということか。


 まあグリンさんもそのことを知っていたからこそ、ガーネたちを道案内兼護衛としてつけてくれたのだろう。


 泉を出た後のことまで、フォローしてくれているとは、グリンさんも中々出来た女性? だ。


――いけますか~?


 背中を伝う冷や汗と寒気を払拭して、心の中でグリンさんに改めて感謝の念を送っていると、ヒスイからも声を掛けられる。


「ああ、ごめん。ちょっとだけ待って」


 ここから先は、泉でグリンさんの世話になっていたときのような安全は無い、常に危険と隣り合わせ、と考えていた方がいいだろう。


 この異世界に召喚される前は、日本という他に類をみないほど安全な国で、安穏としたぬるま湯のような環境で生きてきた僕にとって、この異世界は危険がありふれた世界である。


 だが、それらを極力回避するために、自重無しでスキルを山ほど獲得したのだ。


 しかし、そのスキルも使い慣れていないと、咄嗟に使うことが出来ないかもしれないので、ガーネたちという優秀な護衛がいるうちに、危険回避に最も重要だと思われるスキルの習熟に努めようと思う。


 僕は目を閉じ、深呼吸を一つして、【気配察知】のスキルを起動させるべく、意識を切り替え、集中する。


 この【気配察知】はスキルレベルが10ならば、半径100キロメートルまで効果を及ばせることが可能であった。


 だが、流石にそんな広範囲をいきなり探査しても、僕の脳内処理が追い付かないのは明らかだ。


 なので、探査範囲をレベル3相当である、半径20メートルほどに絞ってから発動させるが……。


「ふぉ!」


――どうされました?


「あ、ああ、ごめん。ちょっと驚いただけで、何でもないよ」


 あー、ビックリした。


 目を閉じて、周囲に在るだろう気配に意識を向けていたら、瞼の裏一面が真っ白に塗りつぶされてしまったのだ。


 どうやらこのスキル、意識を集中すると、指定した範囲に対して、僕を中心としたレーダー盤のようなものが脳裏に広がり、そこへ気配を示す色分けされた大小様々なマーカーが浮かび上がるようである。


 マーカーの大きさは、脅威度を示しており、僕を示すマーカーより大きければ、僕よりレベルが高く、小さければ低いといったところだ。


 色による識別はカンスト特典であり、これはその対象がどのような心理状況を現しているかを判断することが出来た。


 白が無警戒、緑が友好的、青が仲間、黄が警戒、赤が敵対を示している。


 他にも灰色が死亡を示しているのだが、これは一定時間経過すると、マーカー自体が消えてしまうようだ。


 まあ、死体が気配を発する事はないので、恐らくこれは残留した気配を示すのだろうと思う。


 改めて瞼の裏に感じるレーダー盤を知覚してみると、真っ白な盤面の中央部分に僕の存在を示す青色マーカーが一つ在り、判りにくいが、それに重なるように小さいマーカーがくっついている。


 そして中央のマーカーを取り囲むように、でっかい青色マーカーが三つ、表示されている。


 小さいマーカーはラピスを、でっかいマーカーはガーネ、ヒスイ、トリンを現しているようだ。


 それ以外の部分は白で埋め尽くされているが、辺りを見回しても太い幹をした木々が見えるだけ、見上げても鬱蒼と繁る木葉と僅かばかりの木漏れ日が射しているだけ、見下ろしても茶色い落ち葉と少し硬めの土の地面だけで、生き物の姿は見当たらない。


 ふと、足を払って、落ち葉を掻き分けてみると、小さい虫がわらわらと這い出してきて、レーダー盤のその部分に当たる箇所が黄色に変わった。


 そういうことか。


 感覚的による探査であれば、気配がある位置は、方向は勿論、上下もある程度感じることが出来る。


 だが、このレーダー盤で表した場合、三次元的な見方が出来ないようで、レーダー盤頼りでは高低差が判らない仕様のようだ。


 今も、感覚的に探査してみると、地表や地中に無数の蠢く存在を感知している。


 その感覚にちょっと悪寒が走ったが、ならばと思い、探査対象を全長十五センチ以上、又は重量一キロ以上に設定した。


 これならば、小さい虫や狩っても食べる部分が無さそうな小動物の気配は無視出来るようになるはずだ。


 すると案の定、殆どの白色マーカーは消え、レーダー盤の中心から等間隔に描かれた四つの円が引かれていたのがわかるようになった。


 現在設定した探査範囲は二十メートルなので、五メートル間隔で距離が測れるようだ。


 そして、改めてレーダー盤の方に意識を集中させると、探査範囲ギリギリの所に、薄い黄色のマーカーがいくつか点在していた。


 今度は目を開き、レーダー盤に映っていたマーカーの方向に意識を集中させると、それほど見通しは悪くないのだが、身を潜めているのか視認出来なかったが、地表から少し離れた位置、具体的には僕の腰辺りの位置に気配があることを感じた。


 レーダー盤に映るマーカーの大きさは、僕よりは明らかに大きく、ガーネたちの半分位の大きさなので、恐らく名付け前のガーネたちに負けず劣らずな高位の魔物なのだろう。


 本来ならば、気配を察知してから、正確な距離と脅威度を測るのだろうが、僕の場合【ポイントコンバーター】で急激にレベルを上げてしまったため、本来の使い方とは順序が逆になってしまっている。


 これも極力不安要素を排除しようとした結果、発生した弊害とも言えるので、他のスキル共々慣れていくしかない。


 さて、優秀な護衛たちが揃って厄介と言っているのだ。


 早々にこの場を離れた方がいいだろう。


 【強化魔術】の第一階梯である《パワーブースト》と第二階梯である《フィジカルブースト》、そして第三階梯の《スピードブースト》を【多重詠唱】によって其々二連で唱える。


 すると、魔力が抜けていく感覚と共に、身体全体が淡い青色の光に包まれたかと思ったら、その光は身体に引き込まれるように消えていった。


 《パワーブースト》は筋力を、《フィジカルブースト》は体力、《スピードブースト》は敏捷のステータスをそれぞれ300秒間上昇させる魔術である。


 上昇量はステータス基本値に対して、スキルレベル×10%となり、スキルレベルが上がれば上がるほど、強化出来るステータス項目は増えていく。


 以前、【多重詠唱】で同時発動させた場合、効果は直列、並列どちらになるのか、それとも一回分の効果しか乗らないのか、またステータス補正に乗るのは加算なのか乗算なのかということを検証した結果、効果は並列加算になるということがわかった。


 具体的にはこんな感じである。



―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・


名前:ユウキ ハルト

種族:人間族

性別:♂

年齢:17

職業:魔物使い

身分:異世界人


状態:平常


BLv:55  ▲【決定】

JLv:30  ▲【決定】


HP:1503/1503 ▲【決定】

MP:213/543   ▲【決定】


筋力:199 +199+199  ▲【決定】

体力:199 +199+199  ▲【決定】

知力:200           ▲【決定】

敏捷:197 +197+197  ▲【決定】

器用:296           ▲【決定】


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・



 この体力と敏捷の項目に+と追加表示された値が、魔術による補正値になり、これは其々の項目で最大10個まで表示される。


 同じ【強化魔術】を六連で二回発動させた時と、五連で二回発動させた時で、身体に掛かる負荷や強化度合いは変わらなかったので、同時に11回以上の強化をしても、11回目以降は無効となることも判明していた。


 また、一つのステータスを最大である10回同時に強化した場合や、複数のステータスを強化して、補正値が10個になると、効果が切れたときの反動で、数十分は身動き出来なかったので、僕の場合、同時強化は10個が限界なのだろう。


 なので、こんな森のど真ん中で動けなくなるのは危険極まりないので、今回は効果が切れた後でもどうにか通常時とほぼ同じように動ける、6段強化に留めておくことにした。


「うし、準備おっけー」


 因みに危険管理スキルとして獲得したスキルである【隠形】は発動させていない。


 本当なら、このスキルも使い勝手含め、慣れておきたいところであったが、これを発動させてしまうと、僕の身体に直に触れているラピスはともかく、ガーネたちですら、目の前にいても僕の姿を見失ってしまうため、今は使わないで欲しいとお願いされたからだ。


「あ、ラピスはどうする? そこにいると、落ちちゃうかもよ」


 魔術によって強化されている今の状態で走った場合、どのくらいの速度が出せるのかわからないし、足場も硬い土とはいえ、根が張り出していたりするので、あまり良いとは言えない。


 そんな環境下で走っていれば、急に体勢を傾けたりしてしまうこともあるだろう。


 そうしたとき、僕の頭の上に乗っかっている状態のラピスでは踏ん張れずに、すってんころりんと落っこちてしまうかもしれない。


 そんな心配と共にラピスへ問い掛けると、僕の意図が伝わったのか、ラピスは返事の代わりに、ぽぽーんと頭の上から肩に飛び移り、そこから更に首元を伝い服の中へと潜り込んで来る。


 もぞもぞと服の中で体勢を整えると、襟元から辺りを伺うように、身体を半分ほど乗り出してきて、先程発動させた魔術によって僕の身体の周囲に漂っていた魔力の残滓を取り込んでは、嬉しそうにぷるぷるしていた。


――準備も宜しいようですので、参りましょうか。先頭は某が務めさせていただきます。ハルト殿は某の後ろについて来てください


「了解。宜しく頼むよ」


――くれぐれも足下にはお気を付けください


 トリンがそういうや否や、ダンッ! と砲弾のように飛び出し、その衝撃波と音に若干気圧されつつ、僕もトリンに置いていかれないよう、ワンテンポ遅れて駆け出した。


 僕が駆け出すのとほぼ同時に、ガーネとヒスイも飛び出し、僕の右後方にガーネ、左後方にヒスイが位置取り、側面と後方の警戒をしてくれている。


 進路上にある朽ちた倒木はハードル走の要領で飛び越え、トリンが低い位置に張り出した横枝が無いルート取りをしてくれたので、地面も硬い土ということもあり、案外走り易く、思った以上の速度で僕たちは森を突き進んでいた。


 ほぼ全力で駆けること凡そ三十分――効果時間が切れる直前に【強化魔術】を六回ほど掛け直したのでそのくらいだろう――森特有の湿った空気と相まって、じっとりと汗が浮かび、息が切れ始めた頃、先頭を駆けるトリンが漸くスピードをゆっくりと落とし始め、やがて周囲を警戒しつつも完全にその足を止める。


――ここまで来れば、もう大丈夫でしょう


 立ち止まったトリンに追い付き、膝に手をついて肩で息をしていると、直ぐにガーネとヒスイも追い付き、何て事もない様子で、トリンと一緒になって周囲の様子を伺っていた。


――そうだな、面倒くせぇヤロウどものテリトリーは抜けたみてぇだしな


――はい~、この辺りをテリトリーにしている魔物は、比較的穏やかな方でしたね~


 こちらの様子を伺いながら、徐々にスピードを上げていくトリンに置いていかれないよう食いついて行くのに必死で、ほぼ全力に近い速度で走っていたので、周囲の気配を探る余裕が無い僕としてはその情報はありがたかった。


「はぁ、はぁ、そう、なの?」


――ええ、この辺りを縄張りとする(ぬし)なら、通り抜けるだけであれば、不用意に某らを襲撃してくることも無いでしょう


 腰を伸ばし、息を整えていると、トリンがそう安全宣言してくれた。


 流石にちょっと疲れたな。


 正直、助かった。


 あと十分もあの速度で走り続けていたら、倒れていたかもしれない。


 はは、高々三十分ちょっと走っただけで、膝が笑ってら。


 学園で体育の授業をサボる事はなかったが、道場に通わなくなって二年近く経つ。


 相当身体が鈍っているようなので、何処かで一度きちんと、出来れば早急に鍛え直した方がいいな。


 このままじゃ、いくらレベルを上げて、ステータスの値を高くしても、身体がついてこない。


 そんな風に鍛練の優先順位の押し上げを検討していると、大分息が整ってきたので、人差し指を立てて、【生活魔術】の第三階梯《スプリングウォーター》を発動する。


 すると、人差し指の直ぐ上に、直径十センチほどの水球が作られ、その水を【アイテムインベントリ】から取り出した木製のコップに移し、一気に飲み干す。


 水分を取ったことで、幾分か落ち着いたので、改めて辺りの気配を探ってみると、僕の探査範囲には白色マーカーがポツポツあるくらいで、赤色どころか黄色のマーカーすら表示されていなかった。


 まあ、僕の今の探査範囲はたったの二十メートルぽっちなので、そんな近くに敵性反応があれば、真っ先にトリンが反応しているだろう。


――ここからはゆっくりと進んでも問題無いでしょう


「ああ、うん……ごめん、それならちょっと休憩させてもらっていい?」


――承知しました。ですが念のため、我らの傍から離れないでください


「了解、面倒かけるね」


 息は整ったけどまだ膝が、というか下半身に疲労が残っている。


 このままでは足が(もつ)れたり、出っ張りなんかに足を取られたりして、すっ転んでしまいかねない。


 トリンたちという護衛がいるからといって、流石に何が起こるかわからない森の中で座り込むことはしなかったが、屈伸などの軽いストレッチをして、疲労を散らすことにした。


 そうすることで、十分ほどの休憩をもらえたこともあり、下半身の疲労はだいぶ和らいだので、今度は歩くよりも少し早いくらいの速度で、森歩きを再開する。


 それからは何事もなく、途中休憩を何度か挟み、(たきぎ)になりそうな枯れ枝を回収しつつ、四時間ほど歩いていると、前方に薄暗い中であっても目立つ、まるでキャンバスの上に絵の具を適当にぶちまけたかのような、カラフルな様相が目に入った。


 その元いた世界でもあまり目にしたことがない光景に何事かと、前方に対する警戒度を一段階上げ、さらに【万象鑑定】をアクティブにしてから、ゆっくりと歩を進めていく。


 そこに近づくにつれ、【万象鑑定】が反応を示し、鑑定結果が次々とポップアップされていく。


 そこに示されたのは、食べれば少量のHPを回復する『ヒーリングマッシュルーム』、巾着袋を逆さにしたような笠が特徴的で辛味成分が強い『レッドテイストマッシュルーム』、乾燥させてから煎じて飲めば高い疲労回復効果がある『イエローテイストマッシュルーム』、魔光草よりは低いが魔力を回復する効果を持つ『パープルテイストマッシュルーム』、興奮剤や精力剤の素材の一つである『タケダケシイタケ』、焼き物にしても煮物にしても美味い『アカシメジ』等、見たことも聞いたこともない様々な茸であった。


 どうやら、そこはそれらの茸が所狭しと密集して生えている群生地のようである。


 原色などの目立つ色をしている動植物は総じて毒を持っていることが多い、と聞いたことがあったな。


 だが、これらは暗い森の中であっても目立つ色をしているが、どれも毒は無く、普通に食べられる種類みたいである。


 しかし、そんな毒々しい色をしているにも関わらず食用に適している茸が群生している中、とある一画に一際目につく茸が固まって生えていた。


 その問題児を鑑定したときに出た名称は『ニジイロテングダケ』。


 ……いやこれ、名前からしてベニテングダケの近縁種だよね?


 ベニテングダケといえば、毒茸の代名詞といっても過言ではない。


 そしてこの問題児もあからさまに『毒ありまっせ? 食えるもんなら食ってみぃ!』と自己主張するかのごとく、堂々と生えていた。



=======================


名称:ニジイロテングダケ

ランク:★★★★★★★★

区分:素材

品質:やや高


概要:強い毒性を持つ、向精神性の担子菌類。

   虹色に輝く傘を持ち、魔力を多く含む土壌で

   生育する非常に珍しい茸


   毒性が高いため、食用には適さないが、強い

   旨味成分を内包しているため、食べれば非常

   に美味であるが、食す場合は辞世の句を残す

   ことを強く推奨する。


効果:猛毒、麻痺、幻惑、混乱を引き起こす


=======================



 鑑定結果にも多数の状態異常を引き起こす作用があるようで、かなりえげつない茸のようだ。


 まあ、僕の場合はこれを食べても【状態異常無効】スキルのお陰もあり、特に問題は無いが、味は良くても、毒物とわかりきっているものを態々(わざわざ)口にする趣味は無い。


 まあ、これはこれで珍しい茸ということもあり、数個は採取しておいてもいいかもしれないな。


 他の食用茸は採りすぎない程度に採取して、腹の具合からそろそろ昼時ということもあり、茸の群生地からちょっと離れた所で昼休憩を取る事にした。


 近くにあった比較的真新しい倒木の幹に腰を下ろし、【アイテムインベントリ】からお土産に貰った果実を幾つか取り出して、齧り付く。


 齧り付いた瞬間に甘酸っぱい果汁が口一杯に広がり、疲労感を感じていた身体に心地いい爽快感が走り抜ける。


 空腹も手伝ってか、夢中で果実を頬張り、二つ目のマジックアップルを食べ終わった時、ふとガーネの姿が見えないことに気付いた。


 辺りを見回してもその姿は見当たらず、【気配察知】の探査範囲にも反応が返ってこない。


「あれ? ガーネは?」


――ガーネでしたら、うざい気配があるとか言って、先程あちら側に向かいましたが


 そうトリンが視線で茸の群生地の向こう側を指し示し、そちらに視線を向けると、なにやらでっかい赤茶けた塊がゆっくりとこちらに向かってくるのが見えた。


 【気配察知】の反応には、青いマーカーだけがこちらに向かって来ているようなので、恐らくそれはガーネだと思われるが、あの赤茶けた物体はなんなのだろうか?


 暫く様子を伺っていると、段々とその全容が明らかになってくる。


 近づいて来たその赤茶けた物体の正体は、横倒しになった全長二メートルほどの猪のようだった。


 どうやら、ガーネが仕留めて、引きずって来たようである。


 これといって危険は無さそうなので、トリンとヒスイと共に茸畑を跨ぎ、ガーネの元に向かい、尋ねてみた。

 

「えっと、ガーネ? これは?」


――おう、さっきからチラチラとこっちを遠目から伺ってきてて、うざったかったからぶっ飛ばしてきた


 ふむ、確かガーネの【気配察知】のレベルは6だったけ。


 であれば探索範囲は200メートルも及ぶ。


 僕の探査範囲にはこれっぽっちも反応は無かったので、この猪は結構遠くからこちらの様子をずっと伺っていたようだ。


 ガーネは僕が休憩している間を見計らって、この猪が何か仕掛けてくる気配に気付いたようで、先手を取って危険を排除してくれたらしい。


 それ自体は嬉しいことなのだが、ガーネはこの猪をどうする気なのだろうか。


 まさか猫のように仕留めた獲物を自慢したいわけではないだろうし……。


 そんなことを考えていると、ガーネは猪をずいっと僕の方へ押し出して来る。


――人間ってのは俺らと違って、他の生物を食わなきゃ生きていけないんだろ? これ食えるか?


 ああ、なるほど。


 ガーネたちスライムの主食は魔力そのものだ。


 魔力は万物に宿っているので、その辺の石ころでも雑草でも取り込めば生きていける。


 極端なことを言えば――高位でないと出来ないことではあるが――大気中に漂っている魔力を取り込めば、それで十分である。


 高位であり、大気中の魔力であっても取り込むことが出来るガーネが、脅威と感じ取ったのであればある程度こちらの力を示した上で追い払えばいい所をそうせず、態々(わざわざ)仕留めて尚且つその獲物を持って帰ってきたのは、(ひとえ)に僕のためであったのだ。


 まあ、手加減を知らないグリンさんが用意してくれたお土産の果実がまだまだ大量にあるので、この森を出るまでは食べる物の心配はいらないとは思うけど、そこまで考えてくれていたことは単純に嬉しかった。


 改めて猪を見てみると、既に事切れているようで、ピクリとも動かなかったので、【万象鑑定】で鑑定してみる。



=======================


名称:イリーガルボア

ランク:★★★★★

区分:素材

品質:中


概要:森の中~深遠部に生息する猪の魔物

   魔力を大量に取り込み、異常に巨大化した結

   果、凶暴性が前面に出た魔物


   本来猪系統の魔物は臆病な性質を持つが、肉

   体の大きさに比例して凶暴性も高くなるので

   注意が必要


   肉は食用とすることも出来、皮は高い耐久性

   が有るため防具の下地に使われることが多い

   また強力な突進力を有する魔物のため、正面

   から討伐する事が難しいことから、その牙は

   『勇敢なる証』として装飾品に加工される


=======================



 どうやら肉は普通に食えるみたいだ、美味いかどうかはわからんが。


 まあ、元の世界でも牡丹鍋なんて料理もあったし、昔はシシ肉なんていって、貴重なタンパク源であったこともあるから平気だろう。


「うん、大丈夫。食料としては問題無く食べられるみたいだ」


――へへ、そうか。なら良かった


「ありがとう、ガーネ。と言っても食べるには色々処理しなきゃいけないから、取り敢えずこれは仕舞っておくね」


 仕留めた後は直ぐに血抜きをしないと肉に臭みが移ってしまうらしいが、流石に血抜きの仕方なんて知らないし、よしんば知っていたとしても、下手にここで血抜きでもしよう物なら、その匂いに獣が寄せられて来ては面倒だ。


 人里に着いたら、お肉屋さんにでも解体してもらうことにしようか。


 この猪は牙や皮も、装飾品や防具の下地に使うことが出来るみたいだし、素材としても優秀らしいので、もしかしたら現金収入も期待出来るかもしれないな。


 【アイテムインベントリ】に収納しておけば、時間経過はしないので、このまま仕舞っても時間経過による肉の品質低下などは心配しなくても大丈夫だろう。


 というか、こんなでっかい獲物は【アイテムインベントリ】にでも入れなきゃ、持ち運びなんか出来っこ無い。


――おう、俺らはいらねぇから、好きにしてくれや


 ガーネが狩ってきた獲物の使い道をを考えていると、少々ぶっきらぼうな言葉が返ってきたが、パスを通して伝わってくる感情には安堵や喜々といったものが含まれているようだったので、どうやらそれは照れ隠しのようであった。


 小中学生が精一杯背伸びしているような、そんな微笑ましい態度にちょっと頬を緩めつつも、まだほんのりと温かさを残す猪を【アイテムインベントリ】収納する。


「さて、ガーネも戻ってきたし、そろそろ行こうか」


 茸の採取に少し時間を掛けてしまったこともあり、ちょっと長居しすぎたかもしれない。


 この辺りの(ぬし)が比較的穏やかな気性であったとしても、一所(ひとところ)に長時間留まっているのはあまり宜しくないだろう。


 ガーネの突然の狩猟には多少戸惑ったが、ガーネの可愛い所も見れたこともあり、僕的には十分な休息だったので、足取りも軽くなり、僕たちは移動を再開したのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

誤字・脱字・矛盾点・説明不足・わかりにくい表現等のご指摘いただければ幸いでございます。

ただ、作者ガラスのハートでございますれば、柔らかい表現でお願いいたします。


17.11.21 一部表現変更

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