第十四話 旅立ち
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
活動報告の方でもご報告いたしましたが、先日累計PVが10,000を突破しました。
ありがとうございます。
今後も皆様に面白いと思っていただけるよう、頑張りますので、引き続き拙作を宜しくお願いいたします。
それでは第十四話、始まります。
『ふふ、さてお話も纏まったことですし、出口にご案内しますので、付いて来てください』
柔らかく微笑むグリンさんに促され、僕はラピスを頭の上に乗せたまま、その後についていく。
スライムたちの基本生活圏である治癒草の異常増殖エリアを抜け、雑多な植物が自生する草原エリアの進んでいくと、ようやく森との境目付近に辿り着いた。
辺りを見回してみると、治癒草の異常増殖エリアを歩いていた時は右手に見えていた泉の大樹が、今は背後にあることから、どうやらここは僕が最初に迷い込んだ場所から、泉の大樹を挟んで、対角線上に近い場所のようだ。
そんなことを考えていると、前を歩くグリンさんが不意に森との境目、その手前で立ち止まり、振り返った。
『では、ハルトさんの道案内を引き受けてくれた、この子たちをご紹介しますね……いらっしゃい』
グリンさんのその呼び掛けから程なくして、バスケットボールよりふた回りほど大きいスライムが三体、グリンさんの足元からうにょっと、唐突に現れた。
『ハルトさん、この子たちが人の街付近までですが、道案内をします。この子たちは今から向かわれる森にはそこそこ詳しく、レベルもそれなりですので、護衛にはうってつけかと思います』
――おぅ、よろしくな
――お外は危険がいっぱいですから~
――母からのご命令、命を賭して臨ませて頂きます
グリンさんから紹介されたのは、ちょっと蓮っ葉な言葉使いの赤いスライム、ゆるい雰囲気を纏った深緑色のスライムと、なんとも軍人っぽい雰囲気を纏った黄色いスライムだった。
ラピスの青と合わせれば、初代ポケットなんちゃらの博士からもらえる初期相棒コンプリートな配色だな。
「うん、宜しくね」
しゃがみ込み、三体のスライムに視線を合わせて、挨拶をすると同時に、鑑定によるステータス情報が浮かび上がる。
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名称:レッドハイスライム
種族:魔物(スライム)
性別:-
年齢:342
職業:レッドハイスライム
身分:-
ランク:★★★★★★★
状態:平常
BLv:64
JLv:33
HP:39393/39393
MP:3598/3598
筋力:2128
体力:2118
知力:869
敏捷:1254
器用:1245
保有スキル(11/20)
・溶解:Lv8
・吸収:Lv8
・進化:Lv7
・打撃耐性:Lv5
・斬撃耐性:Lv5
・火魔術:Lv4
・火霊魔術:Lv3
・火属性攻撃吸収:Lv8
・気配察知:Lv6
・奇襲:Lv5
・硬化:Lv6
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名称:グリーンハイスライム
種族:魔物(スライム)
性別:-
年齢:358
職業:グリーンハイスライム
身分:-
ランク:★★★★★★★
状態:平常
BLv:77
JLv:42
HP:14813/14813
MP:14712/14712
筋力:911
体力:933
知力:2271
敏捷:1399
器用:1842
保有スキル(15/20)
・溶解:Lv8
・吸収:Lv8
・進化:Lv7
・打撃耐性:Lv3
・斬撃耐性:Lv3
・水魔術:Lv4
・水霊魔術:Lv2
・風魔術:Lv4
・風霊魔術:Lv4
・風精魔術:Lv1
・火属性耐性:Lv7
・水属性耐性:Lv7
・風属性耐性:Lv7
・雷属性耐性:Lv6
・気配察知:Lv5
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名称:イエローハイスライム
種族:魔物(スライム)
性別:-
年齢:351
職業:イエローハイスライム
身分:-
ランク:★★★★★★★
状態:平常
BLv:69
JLv:40
HP:46793/46793
MP:10597/10597
筋力:895
体力:2511
知力:2508
敏捷:1332
器用:1710
保有スキル(13/20)
・溶解:Lv8
・吸収:Lv8
・進化:Lv7
・打撃耐性:Lv8
・斬撃耐性:Lv8
・火属性耐性:Lv8
・水属性耐性:Lv8
・風属性耐性:Lv8
・雷属性耐性:Lv7
・光属性耐性:Lv6
・気配察知:Lv7
・硬化::Lv9
・HP回復速度上昇:Lv6
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おぉ、三体ともふつうに強過ぎだわ。
こうして見ると、それぞれ個性が出たステータスになっていることがわかる。
レッドハイスライムは見た目通り、火属性に特化しているようだ。
また物理攻撃も得意なようであるが、その反面魔法には滅法弱い印象を受ける。
一応、火系統の魔術も持っているようだが、これは【火属性攻撃吸収】とのコンボによる回復が主な使い道なのだろうか。
ゲーム風に言うならば、特殊回復方法を所持した前衛アタッカーといったところだ。
グリーンハイスライムのステータス、スキル構成を見た感じだと、こちらは属性、魔術寄りとなっている。
物理攻撃に対する耐性は低いものの、水と風系統の魔術、そして基本四大属性の内三種類の耐性を持ち、さらに上位属性である雷属性の耐性も持っていたので、恐らくこの子は、後衛アタッカーといった立ち位置になるのだろう。
最後にイエローハイスライムであるが、この子は典型的なタンク型であると思われる。
ステータス値としての体力、知力共に他の二体よりも高いのだが、スキルに攻撃系統の物が無く、耐性系のスキルがずらりと並んでいた。
このように三者三様の特徴を持ち、ステータス値としてもこれほどまでに強いのであれば、道中は安全といっていいだろう。
しかし、スライムに筋力って……いや、野暮なツッコミは止めておこう。
それにしても、これだけ強くてもスキルレベルがMAXまで到達しているものが一つもないことに驚いた。
やはり、この世界においてスキルのレベルを上げるということは、相当大変なことなのだろう。
まあ元の世界でも技術を習得するには、年単位の時間が必要となることが多いので、スキルという目に見える形で習得したか否かという事が分かるだけ、この世界の方がマシなのかもしれない。
まあそれはともかく道案内の、少しの間とはいえ、スライムたちに名前が無いのはちょっと不便かな?
ログハウス周辺にいた、数えるのもしんどいほど一杯いて、個体識別するのも間に合わないほど入れ代わり立ち代わりに群がってくる子スライムたちとは違い、これから少なくとも数日間はつきっきりでお世話になるわけだし、なんか名前を考えてあげたほうがいいのかなあ。
そんな風に考えながら、ふと上を見上げると、グリンさんがちょっと申し訳なさそうな顔をしていた。
『ハルトさん、もし宜しければ、この子たちにも名前を与えて戴けますか?』
「え? それは構いませんけど、いいんですか? 僕なんかが付けちゃっても」
『はい。この子たちも高位の魔物なので、本当なら名持ちであっても可笑しくはないのですが‥…』
頬に手を添え、少し困ったような顔をしつつ、その先をちょっと言い辛そうに、言葉を濁していたが、ため息とともに言葉を続ける。
『その、私が付けてあげられれば良かったのでしょうけど、そういったことに関してはとんと疎くて。なので、お手間でなければ、是非お願い出来ませんか?』
「そういうことでしたら、喜んで名付けさせて貰いましょう」
なんて、安請け合いしたが、正直僕もネーミングセンスに自身は無い。
なので、ラピス繋がりで宝石シリーズにしてしまおう。
えっと、まず赤いスライム。
赤い宝石といえば、ルビー、紅玉……柘榴石なんてのもあったな。
柘榴石は確か……ガーネット、か。
「よし! 赤いスライムくん、キミは『ガーネ』だ」
お次は緑色のスライム。
緑色の宝石といえば、エメラルドだけど、この子はそれよりももっと濃い緑なんだよなぁ。
それ以外の緑色の宝石ってなんかあったっけ?
ああ、翡翠が深緑色の宝石だったな。
「うん、緑色のスライムくん、キミは『ヒスイ』」
最後は黄色いスライムだな。
さて黄色い宝石か。
となると、トパーズかシトリンだな。
「決めた! 黄色いスライムくん、キミは『トリン』でどうかな?」
我ながらちょっと安直過ぎたかな? と思いつつも、スライムたちの顔色を伺う。
あれ? でもちょっと待てよ。
僕の【ネームド】スキルって、僕の従魔にならないと、効力が無いんじゃなかったけか?
などと疑問に思っていたら、三体のスライムたちが淡い光に包まれる。
あ、これ、ラピスの時と同じ光だ。
ということは……
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名称:ガーネ
種族:魔物(スライム)
性別:-
年齢:342
職業:レッドハイスライム
身分:ハルトの従魔(盟約)
ランク:★★★★★★★
状態:微興奮
BLv:64 ▲【決定】
JLv:33 ▲【決定】
HP:65370/65370 ▲【決定】
MP:5989/5989 ▲【決定】
筋力:3511 ▲【決定】
体力:3495 ▲【決定】
知力:1434 ▲【決定】
敏捷:2069 ▲【決定】
器用:2054 ▲【決定】
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名称:ヒスイ
種族:魔物(スライム)
性別:-
年齢:358
職業:グリーンハイスライム
身分:ハルトの従魔(盟約)
ランク:★★★★★★★
状態:微興奮
BLv:77 ▲【決定】
JLv:42 ▲【決定】
HP:24667/24667 ▲【決定】
MP:24390/24390 ▲【決定】
筋力:1503 ▲【決定】
体力:1539 ▲【決定】
知力:3747 ▲【決定】
敏捷:2308 ▲【決定】
器用:3039 ▲【決定】
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名称:トリン
種族:魔物(スライム)
性別:-
年齢:351
職業:イエローハイスライム
身分:ハルトの従魔(盟約)
ランク:★★★★★★★
状態:微興奮
BLv:69 ▲【決定】
JLv:40 ▲【決定】
HP:77619/77619 ▲【決定】
MP:17575/17575 ▲【決定】
筋力:1477 ▲【決定】
体力:4143 ▲【決定】
知力:4138 ▲【決定】
敏捷:2198 ▲【決定】
器用:2822 ▲【決定】
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……ぉぅっふ、まじか。
どうやら、『盟約』というものが付いてはいるが、【ポイントコンバーター】の効果も作用しているので、僕の従魔になることを受け入れてくれたようだ
従魔契約によるパスを通じて、楽しげな感情が流れ込んで来るので、名前も気に入ってくれたようである。
それはいいのだけど、名付けによるステータスの上昇値がちょっと笑えない。
三体とも、苦手とする分野におけるステータス値は三桁で収まっていたのが、軒並み四桁の値になってしまっていた。
どうにも【ネームド】スキルのレベルカンスト特典が凶悪過ぎるな。
30%くらいのステータス値上昇であれば、それほど大きな影響はないのかなと、漠然と思っていたが、これは基本ステータス値が大きければ大きいほど、恐ろしいほどの効果が得られるようだ。
これ、任命系のスキルと併用した場合、下手するとこの世界の生態系というか戦力バランスを崩すことになり兼ねないかもしれない。
まあ、それは僕がかなり多くの魔物と従魔契約を交わした上に、その従魔たちが世界の方々に散って行った場合となるので、そこはあまり気にしなくてもいいか。
改めて、ガーネ、ヒスイ、トリンのステータスを見てみる。
……うん、まあ、護衛役が強くなるのはイイコトダヨネ?
背中を伝う変な汗は気のせいということにして、立ち上がると、グリンさんがとても嬉しそうに微笑んでいるのが目に入った。
『素敵な名前をありがとうございます』
「え、ええ、気に入ってくれたようで何よりです」
引きつってしまいそうな表情筋を意志の力でなんとか押さえ込んでいると、グリンさんは改めて三体のスライムたちに向き直り、柔らかい微笑みから、真面目な表情に変わる。
『ガーネ、ヒスイ、トリン、ハルトさんから頂いたその名に恥じぬよう、より一層精進しなさい。いいですね?』
――あいよ
――はいなのです~
――承知しました
三体のスライムはピンっと背筋? を伸ばし、こちらも真剣な眼差しで応えていた。
彼らの名前は適当に付けたわけではなく、僕なりにかなり必死に考えた名前であるが、それでも名前くらいでそこまで難しく考えることもないんじゃないか? と思ったが、以前グリンさんから魔物にとって名持ちになるというのは、憧れであるという話をしていたことを思い出した。
種族を構成する一部として生きている魔物にとって、名持ちというのは、個として世界に認められることを示しているのだという。
個として世界に認められた魔物は、種族としての恩恵とは別に、世界からの祝福を受ける。
人であれば生まれた時に親から名を貰うことで、世界の祝福を受け、才能といった形で、スキル等を授かることになるのだが、魔物の場合は生まれた時点で既に種族としての恩恵――スライムであれば、【溶解】や【吸収】といった種族固有スキル――を得ているので、名付けにより人のように新たにスキルを得るのではなく、その代わりにステータスに補正という形で祝福を受けるのだ。
本来なら、名付けによる魔物への世界の祝福といっても、微々たるもので、上昇率も一割から二割といったところになるはずだった。
だが、僕が名付けたことで、従魔になったことも相まって【ネームド】スキルの効果に加え、カンスト特典の効果が遺憾無く発揮されてしまったようだ。
しかし、魔物側の視点からすると、ステータス値が上昇する祝福を受けることよりも、世界に個として認められるということのほうが重要らしく、付けられた名は自身の命と同等、もしくはそれ以上に大切なものになるのだという。
そして名持ちとなった魔物は、他種族の魔物からも、その名を汚すような行為は慎み、常に堂々とし、雄大であることが求められる。
その反面、名を汚されるようなことがあれば、同種族だけでなく、魔物全体が怒り狂い、全てを蹂躙するまでその怒りが治まることはないのだという。
即ち、名持ちの魔物とは、種族を越えた魔物の代表に抜擢されるということになるのだろう。
それを考えると、付けた名前を大切に想ってもらえるのは嬉しいが、その反面今後は軽々しく名付けすることは憚られる。
まあ僕の持つ【ネームド】スキル、このスキルの効果が得られるのは、僕の従魔であることが条件になるので、魔物に名前を付けるような機会はそう無いだろうと思われる。
が、いつの間にか僕の従魔となっていたラピスの時のようなこともあるので、今後は特に注意しておく必要があるだろう。
それにしても、未だに【テイム】の成立条件がわっかんないんだよなぁ。
『それでは、今から出口を繋ぎますので、少し離れてくださいね』
そんなことを考えていると、名持ちとなったガーネたちへの諸注意が終わったのか、グリンさんは草原と森との境界のごく手前に移動していた。
そしてグリンさんが徐に前方へ、壁に手を付くようして腕を真っ直ぐ伸ばすと、その掌の部分から水面に描かれるような波紋がゆっくりと広がっていき、幾重にも広がるその波紋が収まると、グリンさんの伸ばした手を中心にして、アーチ状に空間が歪み、開かれていく。
そのアーチの内側に見える景色は、周囲の草原側から照らされ、陽の光を受けた森とは違う、陽の光が殆ど届かないような鬱蒼とした森であった。
その薄暗い森から流れてくる空気は少し湿っていて、明らかに周囲とは違う、別の場所に繋がっているのだということわかる。
『この泉の周辺には、ある一定以上の強さを持つ者は出入りが出来ないように結界が張られていているんです。ここの管理を任されている私が許可した者であれば出入りは出来ますが、そうでないものはこの泉やあの大樹すら認識することは出来ません。それと、この結界はの役目の他に、楔を打ち込んである森にならば、ちょっといじればこのように出口を繋げることも可能なんですよ』
元の世界では到底ありえない光景に呆然としていたが、グリンさんの説明を聞いて、なるほどと納得した。
ここは魔力水で満たされている泉があり、治癒草が異常繁殖するほどに魔力が満ちている草原エリア、そしてあまり行くことは無かったが、反対側にある岩場エリアも尽きることのない、良質な魔力がにじみ出てくる場所であるという。
魔力が満ちている土地というのは、魔物にとっては住みやすい環境であるはずなのに、何故スライムたち以外の魔物がいないことが疑問だった。
だが、一定以上の強さを持つ者は出入りが出来ない、ということであれば、それそのものが、僕の疑問の答えになる。
そして、強さの条件を満たさないが、そこそこ強い――結界は越えられないが、一人立ち前のスライムでは太刀打ち出来ないような強さを持った――魔物が結界を越えてきた時に備えて、ガーネたちのような個体が結界と外界との境界を随時巡回しているのだという。
また、楔を打ち込んである森に出口を繋げられるというのは、恐らく【空間魔術】の術式がこの結界に組み込まれているのと思われる。
生憎、僕はまだ魔術初心者どころか、入門したてなので、どういった術式が組み込まれているのかは、全くわからなかったが、【結界魔術】も【空間魔術】も獲得はしているので、いずれ似たような魔術が使えるようになるかもしれない。
そう思うと、ちょっとワクワクしてきた。
魔術というものは使い方次第で、様々な可能性があるのだろう。
せっかく異世界に来たのだ。
スライムと戯れるのもよかったが、出来れば早く大々的に魔術を使ってみたい。
まあ、この結界を抜けた先も、ここには及ばないものの、そこそこ魔力が満ちているように感じられるし、薄らとだが魔物の好戦的な気配もするので、思ったより早くその事態は訪れそうだ。
物騒なことにあえて飛び込んでいくつもりは無いのだが、ちょっと不謹慎ではあるが、魔術を使ってみたいという気持ちは段々と大きくなってしまう。
そんな逸る気持ちをどうにか抑え、改めてお礼の言葉を口にする。
「それでは、本当にお世話になりました」
『いいえ、こちらこそハルトさんのおかげで大変助かりました。あの青い草が生えるようになってからは本当に困っていましたので』
人間である僕にとっては、触るだけでは特に害の無い薬草だったが、グリンさんたちスライムにとっては、本当に天敵のような存在だったんだな、あの魔枯草は。
『そうだ、ハルトさん。こちらをお受け取り下さい』
そう言ってグリンさんから差し出されたのは、五センチくらいの大きさの、雫型をした、透明な緑色の宝石に似た輝きを放つ石だった。
「これは?」
『それは私の体の一部を固めたものです。全ての森で、とはいきませんが、この大陸にある大きな森、その中心部に近いところでそちらに魔力を注ぎ込んでいただければ、この泉の結界周辺を巡回している子たちがお迎えにあがります』
「え? それって……」
『はい、私の名において、ハルトさんの通行を許可致しますわ』
その雫石を受け取って、僕が何か言う前に、グリンさんは浮かべていた笑みを困り顔に変えて、ぼつりと呟くように零す。
『子供たちがハルトさんにとても懐いておりましたのは、喜ばしいことだとは思うのですが、ハルトさんがここを出て行くと知ったときは、全員それはもう見ていられないほど落ち込んでおりましたの』
そして困り顔から一転、真剣な眼差しで、真っ直ぐ僕の目を見据えてくる。
『ハルトさんが何か大きな目的を抱いていることはわかります。それが果たされるまで貴方は歩みを止めないだろうということも。ですので、それが果たされてからで構いません。もう一度あの子たちに、会いに来て頂けませんか?』
まいったな。
僕が決めた目的のことはグリンさんに話していないはずなのに、その内容は知らずとも、事の大きさや、成すことの難しさは勘付いていましたか。
確かに、僕が成そうとしていることは、何処に手がかりがあるのか、本当にその方法が存在しているのかも、わからないものだ。
何年掛かるかもわからない、それだけを追いかけ続けていたら、次第に心は摩耗し、擦り切れ、いつかは壊れてしまうかもしれない。
もちろんそうなる前に、見つけられればいいのだし、そうするつもりでもある。
だが、もし十年、二十年と探し続けても見つからなかったら……見つけられなくてもいいとは思っていても、僕は平静で居続けられるだろうか?
どこかで焦る気持ちが出て、ありえない失態を犯さないだろうか?
ここに居た間も、一人となった夜には、そんなことが頭を過ることは何度もあった。
だが、そんなとき、窓の方を見れば、いつだってそこには雄大に聳え立つ大樹が見えた。
朝になれば、グリンさんが微笑みながら出迎えてくれて、ラピスが嬉しそうにぷるぷる揺れていて、ログハウスの外に出ればスライムたちが無邪気に戯れてくる。
不安に押し潰されそうになる度、その光景に、その存在を目にするだけで、不安に思っていたのが馬鹿らしくなった。
未だ見ぬ不安に虞を抱いてどうするのか、と。
そして今も振り返れば、大樹がまるで僕の全てを包み込んでくれるかのように見下ろしているようだった。
その向こうに、目には見えないが、無数の小さいが無邪気な魔力が飛び跳ねているのを感じる。
ここは何もかもを包み込んでくれるような安心感がある場所だった。
ここを出たあとに不安に苛まれたとき、通行許可をもらったからといって、それに縋ることは簡単だ。
だが、それをしてしまえば、僕はもうそこから一歩も動けなくなってしまうだろう。
それではいけないと思う。
無い、とはっきりわかればいいが、あるかもしれないという状況で投げ出すことは僕の矜持が許さない。
「わかりました。ある程度落ち着いたら、また遊びに来ますよ」
不安になったら、とは言わない。
ここは逃げ込む場所じゃないから。
ここは、この世界での僕の出発点なのだから。
「それでは、行ってきます」
『はい、行ってらっしゃいませ』
グリンさんとの別れの挨拶を済ませた僕は、結界の穴の手前で待っていてくれたガーネたちの元にやって来た。
「お待たせ、行こうか」
――おう、道中は俺らが守ってやんよ。
赤いスライム、ガーネのちょっとぶっきらぼうな言い方だが心強い宣言と、
――それでは出発するのです~
緑色のスライム、ヒスイの気の抜けるような号令の元、
――某が先導します。足下にお気をつけ下さい。
黄色いスライム、トリンが先導を買って出てくれて、僕はスライムの泉を後にした。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
誤字・脱字・矛盾点・説明不足・わかりにくい表現等のご指摘いただければ幸いでございます。
ただ、作者ガラスのハートでございますれば、柔らかい表現でお願いいたします。
17.11.21 ガーネ、ヒスイ、トリンのステータス修正




