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第十話 日記

 夕暮れ時。


 ここには当然、夜は月明かり以外の光源はなく、ログハウス内にも油の切れたランタンしかなかった。


 油が残っていたとしても、火起こしの道具が見当たらなかったので、どっちにしろ昨日までは陽が落ちれば、後は就寝するしか無かった。


 だが先程、光源を生み出す事も出来る【生活魔術】を獲得したので、今日からは陽が落ちても、多少は活動することが出来る。


 早速『光源が欲しい』と念じつつ右手の人差し指を立てて、そこに魔力を集中させると、頭の中に五節の呪文と魔術の名称が浮かんできた。


 【無詠唱】スキルの効果で呪文の部分をスルーして、その魔術の名称だけをそっと呟く。


「《イルミネイト》」


 すると、指先に集めた魔力が抜けていく、ちょっとした脱力感を感じた次の瞬間、指先の少し上にバスケットボール大の光の球が現れた。


 ちょっ! まぶしっ!


 目の前に突然現れた光の塊が、暗闇に慣れ始めた目に直撃。


 慌てて僕は、その光の球を遠ざけようとすると、ふわーっとゆっくり上昇していき、やがて光の球は天井に触れるかどうかといったところで上昇を止めた。


 ふむ、さっきはいきなりで驚いたけど、こうして見ると蛍光灯とほぼ同じくらいの明るさで、このログハウスのリビングを照らすには十分、というか明る過ぎるくらいだ。


 そして、何より地球で慣れ親しんだ白色光というのがいい。


 しかし、ちょっと大きすぎやしないかな?


 僕としては握り拳大をイメージしたんだけど。


 そう不思議に思っていると、光の球はその明るさを変えずに、少しづつ小さくなっていった。


 そして、握り拳より少し大きい位まで小さくなると、縮小が止まった。


 照らす範囲は狭くなったが、それでもリビングくらいならほぼ全域照らされている。


 ……これ、発動後に操作出来るのか?


 結論から言うと、操作は可能だった。


 色々検証してみると、大きさはビー玉サイズからバランスボール(大)位のサイズまでは自由自在。


 恐らくもっと大きくも出来るのだろうが、室内で使うならば、これくらいで十分だろう。


 効果時間は大きさによって異なるようだが、標準サイズ――標準サイズと念じて現れたのが、ソフトボール大だったので、この大きさがそうなのだろう――で凡そ一時間位だった。


 込めた魔力によっても変動するようだが、一番最初のように、魔力を集めたりしなければ、自動的に適量の魔力で発動する仕組みのようである。


 また、効果時間内に任意で消すことも可能だった。


 再度点灯させるには、もう一度魔術を発動させなければならないのだが、総合すると、この魔術というのは割りと自由度が高いものと感じた。


 さて、折角明かりを確保出来るようになったのだから、スキルオーブが詰め込まれていた部屋にあった、もうひとつについても確認を済ませてしまおう。


 スキルオーブが山積みになっていたその下に、一メートル四方の大きさの木箱が三つほど鎮座していたのだ。


 何が入っているのか気になり、グリンさんに聞いたところ、グリンさんの(あるじ)が生前使っていた道具類が纏められているとのことだった。


 グリンさんの主曰く、『道具は使われてこそ、存在意義がある』というのが口癖だったらしく、この木箱の中にあるもので使えるものがあったら自由にしていいとのお墨付きを頂いたので、ありがたく拝見させてもらおうと思う。


 それでは御開帳。


 木箱の蓋は釘などで打ち付けられてはおらず、細工にて嵌め込まれているだけのようだったので、思い切って蓋を外そうとずらしたところで、突然青色の幾何学模様が浮かび上がり、次いでパキンっと甲高い音を響かせながらその幾何学模様が砕け散った。


 どうやら劣化を防ぐ状態保存的な魔術がかけられていたようだ。


 それはいいんだけど、突然現れた『青色の幾何学模様』を目にした途端、体が硬直した挙句、冷や汗がどっと吹き出してきやがった。


 なんかもー、こっちに召喚されたあの瞬間の出来事が若干トラウマになってるよ。


 そういえば麗華さんたちと離れてからもう一週間位経つのか。


 みんな無事かな?


 皇国の奴らに無茶振りされてなけりゃいいんだけど。


 まあ、麗華さんたちのスペック――この世界のステータスだけじゃなく、行動力も含めて――はやたら高いから、大抵のことはどうにかしちゃうんだろうなぁ。


 っと、それはともかく今は目の前のことに集中しますか。


 気を取り直して、グリンさんの主の持ち物が保管されているという木箱に向き合う。


 まず、一つ目の木箱の蓋を外して中を見てみると、カンナやトンカチ、鋸といった大工道具、乳鉢や乳棒、鉄製の薬研(やげん)などの調薬道具、包丁や鍋、そして木製の食器類といった台所用品が入っていた。


 二つ目の木箱には、簡素ではあるが麻と思われる布で出来たTシャツのようなものとズボンや手拭い、そして明らかに場違い感と存在感が半端ない赤褌といった衣服類が入っている。


 それ以外にも、旅人風の動きやすそうな服と、これまた場違い感が強い貴族が着るようなゴテゴテの装飾が施された仕立てのいい服がそれぞれ数着づつ見つかった。


 問題は最後の木箱だ。


 中に入っているものは一見、普通の道具類に見えたのだが、よくよく見てみるといくつかの道具類から少なくない魔力が漂っているのが感じられたため、【万象鑑定】を使って一つづつ注意深く調べていくことにした。



=======================


名称:魔道水袋(大)

ランク:★★★★★★★

区分:魔道具

品質:高


概要:収納拡大の力が付与された水袋

   約3000リットルの液体を収納出来る


   魔石残魔力122/200


内容量:0リットル


=======================



 はい、いきなり出ました、ファンタジーお約束のアイテム、魔道具。


 これの見た目は古代や中世を舞台にした物語に出てくるような、飲み口のついた革製の水袋だ。


 道具自体の大きさとしては3リットル入るかどうか、というぐらいで、その他の特徴としては外側一面に幾何学模様が描かれているのと、飲み口の金具と革との繋ぎ目あたりに透き通った真っ赤な平べったい丸い石が固定されている。


 鑑定先生によると、この模様の効果で実際の大きさ以上に液体が入れられる魔術的仕組みに、その効果を発揮させるための魔力供給源として魔石――透き通った真っ赤な平べったい丸い石――が取り付けられているらしい。


 このどちらがなくても魔道具としては機能しない代物のようだ。


 そしてこの水袋、幾何学模様の複雑さ以外、見た目がほぼ一緒で効果が(小)(中)の三種類があった。


 飲料水の確保としては【生活魔術】の【スプリングウォーター】があるので、僕としてはこの魔道具は不要かなとも思ったが、MP切れや咄嗟に魔術が使えないことがあるかもしれないと思い直し、せっかくなので効果が(大)の魔道水袋を拝借することにした。


 この魔道具の懸念点としては、汲んだ水が腐らないかどうかなのだが、まあ基本はこの水袋ごと時間経過の無い【アイテムインベントリ】に突っ込んどきゃ、問題ない。



=======================


名称:ヒールポーション

ランク:★★

区分:薬品

品質:最低


概要:治癒草から作られる低級回復薬

   飲んでも掛けても効果がある


効果:HPを5~10回復する

消費期限:8日と20時間31分21秒


=======================



 そしてもういっちょ来ました、ファンタジー定番アイテム、ポーション。


 これはユ○ケルの瓶より一回りくらい大きいサイズの透明な小瓶に薄緑色の液体が入っており、コルクで栓がされている。


 治癒草から作られているということは、恐らくグリンさんの主という人が、一つ目の木箱にあった乳鉢やら薬研を使って作ったものと思われる。


 この世界においてヒールポーションが一般的に普及しているものなのかどうかは判らないが、鑑定先生からもたらされた情報の第一印象としては、回復量少なっ!


 いくらなんでもこれはちょっと少なくないか?


 この程度の回復量しかないのであれば、もしかすると材料の治癒草も、完成品のポーションもかなり安価に出回っているのではなかろうか。


 ちらっと視界の端に、無造作に転がっている乾燥させた治癒草の束が映る。


 やべぇ、こりゃ二束三文どころか、最悪買い取ってすらくれねぇぞ。


 いやいや待て待て、まだ慌てるには早い。


 このヒールポーションの品質は七段階評価の一番下である『最低』だ。


 僕のスキルには素材から品質を一段階ないし二段階向上させられる【採取】があるし、何より作成した薬品類の効果が200%も上昇する【薬効増加】があるんだ。


 素材である治癒草の買取ではなく、僕が作ったポーションでこの二つのスキルがきちんと仕事をして、ポーションの品質が七段階評価の真ん中である『中』以上であれば、まだワンチャンある……はずだ。


 それでもあまり高値での買取には期待出来ないけど、買い取り拒否等の最悪の事態は避けられる……といいなぁ。


 まあこんなところでぐだぐだ言っててもしょうがない。


 最悪の最悪は自分で作って自分で使う用にするか。


 さて、気を取り直してポーションシリーズを改めて検分してみよう。


 このヒールポーション以外には、MPを回復するマナポーションや、軽い毒を治癒するキュアポイズンといった定番回復アイテムがいくつか見受けられた。


 だがどれもヒールポーションと同じく、品質は最低だったので、使用するのはちょっと二の足を踏むような状態だった。


 小瓶の方は空き瓶も十数本あったので、中身入りの方は手を付けず、空き瓶だけ使わせてもらうことにしよう。


 そして木箱の中でも一際不思議な魔力を放つ五十センチほどの少し角張った棒のようなものがあったので、徐にそれを手に取ってみる。


 作りは丁寧で、持ち易くなっており、真ん中から少し右側の位置に一周するように微かな、だがはっきりとした切れ目があった。


 そして右側の方には親指の爪ほどの大きさの菱形をした、灰色の石が表面裏面各三個づつ、合計六個嵌め込まれている。


 一通り外観を確認したあと、その棒のようなものを左右に引っ張るように軽く力を入れてみると、スっと左右に分かれ、石が嵌め込まれた持ち手の方から刃渡り三十センチほどの白銀色に輝く片刃の刀身が姿を現す。


 ……これって匕首(あいくち)、か?



=======================


名称:ミスリルの匕首

ランク:★★★★★★★

区分:短剣・魔導具

品質:高

攻撃力:145

属性:無属性


概要:刀身がミスリルで作られた異世界の短剣


   魔晶石『鋭化』   残魔力  0/300

   魔晶石『魔力刃形成』残魔力  0/300

   魔晶石『腐食耐性』 残魔力  0/300

   魔晶石『自己修復』 残魔力  0/300

   魔晶石『聖属性付与』残魔力  0/300

   魔晶石『不死特効』 残魔力  0/300


=======================



 なんで異世界に匕首が?


 この匕首といい、さっきの赤褌といい、もしかしてグリンさんの主って地球の、それも日本人だったのか?


 ってことは僕たち以外にもこの世界に召喚された人がいる、もしくはいたってことになる。


 その人らが元の世界である地球に帰れたのかどうかは判らないが、何かしらの手がかりを残しておいてくれているといいんだけど。


 まあそれも大事だけど、やっぱりあるんだな、ファンタジー金属ミスリル。


 鑑定先生によると、ミスリルとは銀が長年魔力に晒され続けて変質した別名魔法銀とも呼ばれる金属で、産出量は物凄く少なく、加工するのもかなり難易度が高いらしい。


 それと、もうひとつ気になるのが匕首に組み込まれている魔晶石とやらだ。


 これはどうやら魔石を何らかの方法で加工したものらしく、よくよく見てみると石の内部に複雑な模様が刻み込まれていた。


 灰色となっているのは、恐らく内部に充填されていた魔力が無くなってしまっているからで、本来は魔石同様透き通った赤い色をしているようだ。


 改めて全体を見回してみると、刀特有の芸術品としての美しさと実用品としての鋭さが合わさって、素人目に見ても素晴らしい逸品であると思われる。


 その上、刀身は希少なミスリル製であり、割と実用度が高そうな効果を持つ魔晶石がいくつも組み込まれており、匕首自体のアイテムランクも七ツ星とかなり高い。


 これはもしかしなくとも相当なお宝なのではなかろうか。


 しかし、六つの魔晶石全てに魔力が残っていないというのは少々宜しくない。


 どうにか補充出来ないものかと思案しつつ、試しに魔力を右手に集めてみると、急にぎゅーーーん! とものすごい勢いで魔力が引っこ抜かれるような感覚に陥った。


 ぬぉっふ! ちょ、おまっ!


 急激な魔力の喪失に突然の目眩と極度の脱力感、そして激しい頭痛に襲われて、一瞬何が起こったのか判らなかったが、手元の匕首に嵌った魔晶石が赤い輝きを取り戻しているのを見て、なんとなく理解した。


 魔力が空っぽだった魔晶石に大量の魔力を持って行かれたのだ。


 落ち着きを取り戻した僕は、改めて【万象鑑定】にて表示された鑑定結果を確認した。



=======================


名称:ミスリルの匕首

ランク:★★★★★★★

区分:短剣・魔導具

品質:高

攻撃力:145+50

属性:聖属性


概要:刀身がミスリルで作られた異世界の短剣


   魔晶石『鋭化』   残魔力100/300

   魔晶石『魔力刃形成』残魔力 50/300

   魔晶石『腐食耐性』 残魔力100/300

   魔晶石『自己修復』 残魔力 50/300

   魔晶石『聖属性付与』残魔力 50/300

   魔晶石『不死特効』 残魔力 50/300


=======================



 思ったとおりだ。


 どうやらこの魔晶石、どんな原理かは解らないが、使い手が魔力を集めて手にした時に、その魔力を取り込む性質があるようだ。


 魔晶石の魔力が補充された為なのか、攻撃力も鋭化により50プラスされ、属性も聖属性付与により無属性から聖属性に変化していた。


 ステータスを開いてみると、先ほど使った【イルミネイト】の分と魔晶石に持っていかれた分のMPがきっちり減っていて、現在MPは最大MPの三割弱程になっている。


 状態の項目も『魔力枯渇』になっていたので、この急な体調の悪化は恐らくこれが原因だろう。


 しかしこの安全な状況で、MPが極度に減った時の経験が出来たのは僥倖だった。


 これが何も知らない状態で、敵意を持った何かに襲われている時に起きたと思うと、ぞっとする。


 スキルによって状態異常の混乱は無効化されているが、それでも咄嗟の判断を誤る可能性は大いにある。


 今後は魔力、MPを使用する行動については特に注意が必要だな。


 それはそれとして、現状身を守るための獲物が無く、スキルの【短剣術】も効果が乗るようなので、これはありがたく使わせていただこう。


 つか、攻撃力とか……ますますゲームじみてきたなぁ。


 それはさておき、次に目に付いたのは、羽ペンのような筆記具と魔力を発している小瓶に入れられた塗料と数十枚の無地の羊皮紙、そして三十本ほどの巻物(スクロール)だった。


 巻物(スクロール)とは【スクロール作成】というスキルの所持者が魔力を含んだ塗料を使い、木簡や羊皮紙に特定の魔術の効果を現した魔法陣を描くことで作成されるマジックアイテムである。


 使い方は簡単で、ほんの少量魔力を流し込むことで詠唱の必要もなく、魔術を発動させることが出来る。


 この巻物(スクロール)、役割や性質は魔道具に似ているが、魔道具は組み込まれた魔石の含有魔力が尽きるまで使用出来るのに対して、巻物(スクロール)は一回こっきりの使い切り。


 巻物(スクロール)に刻まれた魔術を使用すると、その魔法陣は跡形も無く消えてしまうので、先ほどのミスリルの匕首に嵌め込まれた魔晶石のように魔力を充填して再利用することも出来ないので、魔晶石を見た後では少々使い勝手は悪い物のように感じる。


 それに加えて、完成品のほとんどは四大属性魔術の下級のものだったので、僕としては活用出来る場面が思い浮かばなかったが、こういったマジックアイテムなんかは高額で取引されているかも知れないので、換金用として半分ほど拝借したった。


 そして最後に残ったのは羊皮紙ではなく紙を束ねた十数冊の書籍。


 半分ほどは背表紙にタイトルが書かれてあったので、それに関してはどのようなものかある程度予測はつくのだが、取り敢えず一冊づつ目を通してみる。


 先ずはこちらの三冊。


『ミジンコでも解る属性魔術 入門編』

『これでキミも一人前の魔術士! 中級魔術応用編』

『キミは賢者になれるのか?! 上級魔術基礎理論編』


 どれもタウ○ページほどの分厚さであったが、タイトル通りにどれも魔術関連の本で、書かれている内容も【万象鑑定】の制限を五割ほど落とした時に出る鑑定結果とほぼ同じ内容だった。


 僕はまだ獲得したばかりで慣れていないのもあって【万象鑑定】の鑑定内容は一割にまで落としているので、この本の内容ほど詳しくは無いが、それでもいずれはこの本に書かれている内容よりも詳しい事を知ることが出来るようになるだろう。


 だが、もしこの世界で一から魔術を学ぼうとした場合は、これらを読破した上で、何百、何千時間と修練しなくてはならなかったのだろうと想像すると、確実に途中で挫折した未来が見える。


 改めて、スキルオーブとそれを使うことを許してくれたグリンさんに感謝だな。


 そして次に手に取ったのは絵本だった。


『英雄と呼ばれた男』

『碑文の勇者と亡国の姫』

『お師匠さまをぶっ飛ばせっ!』


 これらは男の子が喜びそうな冒険譚を綴ったものや、女の子が大好きなラブロマンス的なもの、ちょっとお年を召した人も楽しめるコメディ的なものだった。


 他にも何冊か絵本があったが、そのほとんどは読み書きの練習用だったり、いくつかの訓戒が描かれていたりと、総じて幼い子供向けに書かれた物のようだ。


 印刷技術が発達していなさそうなこの世界で、これだけの紙の本を所有していたということは、グリンさんの主さんは相当高貴な出自だったのかな。


 次は背表紙にタイトルが書かれていない物を手にしてみた。


『帝国軍 戦略目標一覧 【機密文書につき持ち出し厳禁】』

『領土拡大指示書 【機密文書につき持ち出し厳禁】』


 ……いや、これここにあっちゃダメなやつじゃん。


 なに持ち出しちゃってんの!?


 『持ち出し厳禁』って書いてあんじゃん!


 ちょっと冷や汗をかきつつ、改めて書籍類が並べられているエリアを見てみると、これ以外にも三冊ほど、背表紙は無いが、外装が妙に頑強そうな作りをした本があり、ちらっと表紙を見てみると、どれも朱書きで『持ち出し厳禁』の文字が書かれていたので、そっと元に戻しておいた。


 ふぅ。


 ……。


 …………。


 ………………。


 バカぢゃねぇの!!


 何で機密文書を五冊も持ち出してんだよ!


 しかもこんなとこに放置してんじゃねーよ!


 まあ何十年も前の話だろうし、ここにあるってのが判明しているかどうかも怪しいが、これってタイトルから察するに、軍部とか情報部とかが血眼になって行方を捜すレベルのもんではなかろーか。


 こーゆーのには関わらないのが一番なんだけど、ここにあるってことを知っちまった時点でアウトな気がする。


 ……良し、ボクハナニモミナカッタ。


 そういうことにしておこう。


 これは綺麗サッパリ忘れるに限る!


 よし、次!


 といってもこれが最後の一冊なんだけど、これは外装も無く、単に紐で綴っただけの、雑記帳のようなものだった。


 紙自体は少々黄ばんでいたが、特に解れもなく、和紙のようにかなりしっかりした紙のようだ。


 その雑記帳のようなものは、表紙にも何も書かれていなかったので、機密文書等では無いことを祈りながら、慎重に一頁目を捲る。


 そこにはこう書かれていた。




『帝国歴 三五七年 水無月 十日 晴れ


 森に入ること半年、ようやく終の棲家となる安住の地を見つけた。

 この森の魔物どもはやたら強ぇが、俺様とグリンがいりゃぁなんてことはねぇ。

 それよりも、ここには魔力が満ち満ちてやがる。

 俺様程となりゃそれほど影響はねぇし、グリンにとっちゃぁ天国みたいなもんだ。

 ここで余生をのんびり過ごすことにするか。』




 僕はその文章を読み、そしてその内容を反芻する。


 これは恐らくというか間違いなく、グリンさんの主が綴った日記帳だ。


 どういう経緯かは不明だが、この泉を見つけてここに住むことにしたのだろう。


 だが問題はそこではない。


 これ、()()()だ。


 ()()()()()()()()日記だ。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

誤字・脱字・矛盾点・説明不足・わかりにくい表現等のご指摘いただければ幸いでございます。

ただ、作者ガラスのハートでございますれば、柔らかい表現でお願いいたします。

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