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勇者は明後日の方向へと進んでいる

 城の中で堂々と猫を盗もうとした盗人少女を独房に蹴り入れ、拷問監に「好きにして良い」と指示を出した後、マサムネは謁見の間に向かっていた。


「いや、そんな事してないからね?」


 彼女は猫を盗もうとしたので、意趣返しに「猫にしろ」と調教指定した。

 きっと数日後には従順な雌猫が完成している事だろう。

 今から楽しみである。


「だから、そんな事はしてないからね? そんな命令も出してないからね? エリ達と一緒に城を出て行ったからね? というか、僕のイメージ悪すぎない?」


 今から楽しみである。

 クックックッ。


「ベックさん、僕に何か怨みがあるんですか!?」


 狙っていた獲物の心を奪われた男の怨みは深かった。




■◇■◇■(;゜∇゜)◇■◇(`ヘ´#)■◇■◇■◇■◇■◇■◇■




 僕はこの数日の城生活で仲良くなった男性兵士のベック他数名と共に城の中を歩いていた。

 ここファンブール城では、防衛上の観点から城内では必ず二人以上で行動する事が義務付けられている。

 それは国賓待遇の勇者であっても例外ではなかった。


 先導する者、横について守る者、後ろを警戒する者。

 随分と物々しい一行。

 彼らは全員、目を離すと何をしでかすか分からない勇者(ぼく)の監視を仰せつかった城の兵士さん達だった。

 

「これでまた、部屋に猫が一匹増える。次はどいつを猫にしようか……と、勇者は密かにまた新しい計画を練るのだった」


「妙なナレーションを付けないでください。そんな計画、練っていませんからね」


 ベックと知り合ったのは、城を抜け出そうとしていた僕を見つけた彼が面白がって悪知恵を授けてくれたのが始まりだった。


 巡回中に見つけた怪しい人物。

 普通なら即捕まえて牢屋行きだけど、勇者一行を召喚した話と、その勇者一行の中に5歳ぐらいの子供が交じっていたという話を彼も噂で聞いていたらしい。

 後宮にいる子供達という線もあったみたいだけど、彼は己の直感を信じ、その不審人物を勇者と断定。

 断定したうえで、たまたま城に紛れ込んだ子供としてベックは対処してくれて、僕の逃亡を補助してくれた。

 面白そうだから、という理由で。

 その他諸々の邪な心付きで。


「なんだ、練っていないのか。残念。もしそうなら俺も全力で協力してやろうかと思ってたのにな」


「いったい何処の悪党ですか。というかそれ、5歳児が考える様な内容じゃないですよ」


 敢えて勇者とは言わない。

 勇者が同郷の存在なら、そういう事を平気でしそうな人達には事欠かないよね。

 たまたま呼び出された勇者の全員が全員、聖人君子などとは僕は思わない。

 自分がどういう人間なのかを僕自身が良く知っているため。


「そうか? 貴族様ってのは、だいたいそんな感じなんだけどな」


「……だとしても、5歳でそれはないと思います」


「本当に5歳だったらな」


 ベックがニヤッと笑う。


「御前、本当に5歳か? サバよんでるだろ」


「鯖、美味しいですよね。こっちにもいるんですか、鯖。食べたいなぁ」


 僕も真似してニヤッと笑ってみる。

 別に隠している訳では無いけど、一兵卒ごときにわざわざ真実を伝えても僕には何のメリットもないので、堂々かつわざとらしくはぐらかしてみた。


「サバ、か……そういや、聞いた事があるな。マテンの事を、御前達はサバって呼ぶんだったな。あるぞ。町に出たときに見なかったか?」


「諸々の事情により、市場には行ってないんです」


「でも、あそこには真っ先に向かったんだろ? どうだった?」


 男の子なら、やっぱりあそこにまずは向かわないとね。

 そのお店には夢がいっぱい詰まってます。

 詰まっている筈なんだけど……。


「……絶望しました。ちょっとアレは無いかと」


 町で見た光景を思い出し顔が曇る。

 はぁ……ファンタジーな世界に夢を見過ぎだったんだよね。

 ほんと痛感したよ。


 綺麗な町並みなど存在しなかった。

 日本って、本当に過ごしやすい国なんだなぁ。

 汚物が……汚物が……!


「ベック、お喋りが過ぎる。あと、仮にも相手は勇者様だぞ? その口調は何とかならんのか」


 反対側の警備を固めていた男性兵士がギロッと睨む。


「許可を得ていますので問題ありません。それに、情報収集の命令も仰せつかっておりますので、これはお仕事です」


 ベックが敬礼しながら答える。

 その行動から、左隣の兵士はベックの上司だという事を僕は知った。

 ただのムッツリさんじゃなくて、職務に忠実なちょっと偉い人だったんだね。

 どうでも良い事なのですぐに忘れたけど。

 女の子の顔を覚えるだけでも大変なのに、男の顔なんて覚えてられません。


「ああ、着きましたね。我々はここまでです」


 大扉の前に到着。

 扉の前には当然の様に騎士さん達がいる。

 明らかにベック達とは異なる雰囲気を持った彼等の顔は兜に隠されていて全く見えない。

 だから中身の性別も分からない。


「おい、私の台詞を取るな」


「引き継ぎはお願いします。では、私達はこれで」


「コラッ!」


 全員に素早く敬礼した後、ササッと逃げる様にベックが背中を見せる。

 一瞬、騎士の一人に挨拶のような目配せがあった気がする。


 巻き込まれた他の兵士達も慌てるように敬礼し、ベックの後を追った。


「ったく……申し訳ありません、勇者様。躾のなっていない者ばかりで」


「構いません」


 意外とフレンドリーに接してくれるベックという存在は、ちょっと堅苦しい王城生活の中では結構貴重な存在だったりする。

 まぁ、この5日の間で城のみんなの僕に対する扱いが徐々にぞんざいになっている気がするけどね。

 役に立たない勇者に価値は無いって事でしょう。


 同時に召喚されたエリとリタは、既に仲間を集めて遂に冒険の旅に出かけちゃったし。

 旅に出る前には、実力を確認するためか城にいる騎士達とカキンカキンやりあったりもしてたから、周りの見る目も期待に満ちていたのを僕は覚えている。

 高校生はほんとアクティブだよね。

 二人が特別なだけかも知れないけど。


 僕もそろそろ何かをしないとな~。

 チート内政とか、異世界知識でカルチャーショックとか、ちょっと頑張ってみようかな?

 金策はすぐにでも始めたいけど、誰か良い案ぷり~ず。


「今日、呼び出された理由は何でしょうね?」


「では、私もこれで失礼します」


 僕の質問をサラッと無視して、この兵士さんもその場を後にした。

 どうやら、躾のなっていない者の中に彼も入っているらしい。

 本気で扱いがそんざいになってます。

 せめて一週間ぐらいは猫被ろうよ。


 それから約30分後。


「暫くお待ち下さい」


 何度話し掛けてもNPCの様な回答しか返してくれない門番騎士を前に、僕はひたすら待ち惚けをくらっていた。

 昨日までは王様の方が僕を待っていた。

 今日からは王様の都合を優先するらしい。

 うぬぬ。


 時計も無い世界なので約束の時間通りに事が運ぶ事など無いって知ってるけど、ただ待っているだけって僕嫌いなんだよね。

 でも本来はこれが正しいんだから我慢我慢。

 僕は勇者だけど、元は一般人。

 相手は一国の王様。

 これまでが普通じゃなかっただけ。


 待つ。

 待つ。

 待つ。

 ひたすらに待つ。


 ……暇。


 こういう時、ベックの様なお軽い存在がいれば雑談で時間を潰せるのに……と思ってみたけど、そもそも謁見の間の前でペチャクチャお喋りをするというのは明らかにマナー違反なので諦めた。


 扉の前にいる騎士達も、さっきからず~っと突っ立ったままで全く動かない。

 鉄製っぽいグリーブをツンツンつついてみたけど反応無し。

 ペシペシと叩いてみる。

 中身入ってますか~?

 音が鈍いよ。

 実はパチモン?


「し・ば・ら・く! お待ち下さい」


 怒られた。

 でも一つ発見。

 こっちの騎士さんは中身女性なんだね。

 気持ち、この堅苦しい世界が和らいだ気がする。


 仕方ないので、この暇な時間を使って将来設計を考えてみた。

 女騎士さんの足を背もたれにしながら座って考える。


 城を抜け出して、エリやリタの様に僕も仲間を集めて一冒険者として旅に出てみるのはどうだろう。

 ……うん、ダメだ。

 近所の悪ガキどもしか集まらない未来しか思い浮かばないよ。

 それに身体が小さすぎて倒した敵の素材を剥ぎ取るのも超苦労しそうだし、そもそも狩った獲物をほとんど町に運べないよね。

 レベル上げぐらいは出来るけど、日々の糧を稼ぐのが物凄く大変そう。

 今のニート生活を丸々投げ出して新しい人生って線はパスで。


 異世界知識を活かしてチート商売を始めましょう。

 ……何で?

 う~ん、お食事革命とか、男の子の僕にはハードル高すぎ。

 クリエイティブな方向で何か良いの無いかな?

 今すぐには全然思い浮かびません。

 やっぱり物語の中の主人公の様にポンポンアイディアが浮かんではフィーバーひゃっほいみたいにはいかないみたいです。


 やっぱ面倒だから、適当に勉強しながら日々を自堕落に軟禁生活を送ろうかな。

 10年もすれば、きっとエリとリタが世界を救ってくれる筈。

 その後は2人のヒモになって豪遊三昧。

 酒池猫林ニャー!!

 理想のヒモ計画です。

 うん、夢だね。

 現実を見ましょう。


 そんな感じで最善手?優良手?をうんうんと考えながら時間を潰した。


「謁見の許可が出ました。扉の前へお願いします」


 騎士のお姉さんに首の後ろを掴まれて、強制的に扉の前に連れて行かれました。

 言ってる事とやってる事が違うんだけど。


「にゃー」


 幾つかの提案を胸に、僕は謁見の間へと進む。








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