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成年後見制度申請奮闘記  作者: 貫之
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娘であることの証明

 もう一つ、私にとって厄介な証明書類が必要でした。それは「本人の登記されていないことの証明書」という、長い名を持つ証明書です。


 これはなにかというと、本人が後見人やそれに属する補佐、補助を受ける権利を有する登録の記載がすでにされていないこと……つまり、あらたに登記してもダブらないことを法務局の後見登録係に確認してもらい、それを証明する書面のことです。本人の記憶になくても、過去に登記されていない証明にはなりませんから。


 ここでもまた、「あなたは本当に血縁者か?」という問題が発生します。私は父の娘として申請書を代理で作成していることを証明しなくてはなりません。


 父と同居家族の現在の戸籍は、すぐに役所で発行してもらえます。しかしそこに私の名前は既にありません。結婚して別の籍に入っています。それでは父と私の親子関係の証明は出来ません。


 そこで、すでに籍の抜けた子の記載を現す、除籍前の記録が必要になります。普通なら除籍前の記録を発行してもらい、私の戸籍謄本を発行してもらって、その二種類の証明書で婚姻によって籍が移ったことを証明すればいいのですが……父の本籍は長く現在の居住地にありませんでした。


 厄介なことに、昔の人は戸籍をただの便宜上の記録と割り切った考え方を持っていないのです。籍というのは家族そのものであり、絆であり、そこに生まれ落ちた証のような物だと信じています。戸籍に心の安定を求めているのです。


 私の両親はそろってこの戸籍に対する考え方の持ち主でした。そして戸籍は自分たちの生まれた地……故郷にあるべきだと考えていました。私は関東で育ち、東京で結婚して北海道に移ったのですが、出生したのは母の里帰り先の病院でした。


 そして当然のように両親の故郷であるその地の戸籍に入りました。育ちは関東でも結婚まで本籍は両親の故郷にあったのです。


 もちろん、それまでも不便はありました。家族に人生の節目や何かの証明が必要な時、戸籍謄本を手に入れるにも、いちいち手間がかかりました。


 私もある程度の年齢になるとその不便さを知って現住所に本籍を移すように勧めてみましたが、両親とも目を丸めて、まるで私が故郷への想いのすべてを捨てろと言っているかのようにおののき、叱りました。


 私は長く、父たちの本籍を現住所に移すことをあきらめていました。しかし父の認知症が発覚し、様々な手続きを人の手に頼るようになると、ようやく父も折れてくれました。それでも本籍を移す事が出来たのは、申請手続きを始めるわずか三か月半前のことでした。


 一応役所に問い合わせたのですが、やはり私の除籍前の記録は父の故郷にあるとのこと。


 そのうえ、この申請には家族相関図に記入欄があり、父方の祖父、祖母、父の配偶者である亡くなった母、父の子である私と兄弟、父方の叔父、叔母の名前と、その全員の生年月日、死亡年月日を記入することが求められていました。


 父の幼いころに亡くなった祖父や異国で戦死したという叔父は、私は名前さえよく知りません。生年月日もですが、死亡年月日など関心を持ったこともありません。叔父叔母も呼び名を知っていても全員の正確な氏名を書けませんし、生年月日などまるでわかりません。


 それも含めた記録を父の故郷の役所から郵送してもらうように手配し、待つこと十日ほど。ようやく手元に書類がそろいました。三月ならもっとかかったかもしれません。


 しかし「登記されていないことの証明」を得るには、ようやく手に入れた私の除籍前の記録と、戸籍謄本を添付して、証明発行の申請書を法務局の登録係に郵送する必要があります。


 これは申請者が同居親族であるなら、管轄の地方裁判所に出向いて本人である証明をして、そこですぐに法務局に確認してもらい、その場で発行してもらえるらしいのですが、郵送に頼ると親族の証明が必要で、東京の法務局しか受け付けてくれないのです。


 とりあえず私の除籍分だけの記録を速達でやり取りすれば、もう少し時間の短縮ができたかもしれません。けれどあちらに何度も手間をかけるのも気が引けて、父の家族の記録も同時郵送でお願いしました。北海道という遠距離であったことも時間がかかった原因です。


 三か月の期限付きですが、こうした証明書はなるべく早く手配するに限ります。


 法務局からの証明書は、こちらが申請書を郵送してから六日間で届きました。予想より早かったです。これも時期によってはかなり日数がかかったりするので、書類がそろい次第速やかに郵送申請した方がいいでしょう。


 ちなみに上京中に父がマイナンバー通知カードを受け取っていないので、役所に取に来るようにと通知がありました。私が行くと「本人を証明するものを二種類、あなたの証明を二種類以上」と言われ、慌てました。


 父の年金手帳や介護保険認定書を提示し、自分の保険証や財布にあったカード類(診察券やキャッシュカードや会員証など)をありったけ出して見せて、ようやく受け取ることができました。苗字の違う私が娘であることの証明は、本当に難しいことのようです。


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