職業後見人
必要な証明書は多数ありました。
・本人の戸籍謄本・住民票
・候補者の戸籍謄本又は住民票
・本人の登記されていないことの証明書(郵送申請は東京法務局のみにて発行)
・収入印紙と郵便切手
・診断書、申立書(綴り)※決まった書式の書面が一冊に綴られています。
さらにさまざまなコピーが必要です。
・健康に関する証明のコピー
(精神障害福祉手帳・身体障害者手帳・養育手帳。介護保険認定書、等)
・収入、支出についての資料のコピー(直近三カ月分)
・すべての預金通帳のコピー(直近三か月分)
・不動産に関する資料のコピー
・保険に関する資料のコピー
・投資、信託、株式、遺産に関するコピー
……他にもとにかく全資産を証明できる資料のコピーが必要らしい。資産なんてないから楽だけど。
この申請書や証明書類は各地方家庭裁判所によって書式や内容が違うようなので、もし申請をお考えなら、まずは最寄りの裁判所に問い合わせが必要です。さらに地方の中でも管轄地域というのがあって、実際の申請場所はそれぞれ管轄によって分けられていますので、それもきちんと聞いておきましょう。
健康に関する証明書の欄で分かる通り、これは認知症だけではなく、精神障害者、身体障害者、知的障害者も同じ申請方法です。ただし、本人が未成年の場合は手続きどころか制度自体が違います。詳しくは家庭裁判所のホームページか、電話で問い合わせてください。
まずは後見人候補者を紹介してもらわなくてはなりません。家族である私が後見人として身近にいられないので、その代りを担って下さる人を探さなくてはならないのです。
見ず知らずの人の全財産を預かり、管理し、逐一裁判所へ報告する仕事。しかも低額報酬。
あなた、したいですか? 普通、やりたくないですよね?
だから本人の身近にいる家族が、普通は後見人候補者として申請するのです。私だって自分が近くにいたら自分でやります。でも、できない以上この責任の重い仕事を誰かに頼まなくてはなりません。
そこで、こういう時に候補者となって下さる人を養成、紹介してくれる機関があります。
その機関に登録している人を「職業後見人」と言います。この職業後見人の紹介先として一般的なのが「公益社団法人リーガルサポート」。ここは司法書士の団体です。もう一つは「日本社会福祉士会ぱあとなあ」。こちらは社会福祉士の団体ですね。他にも事情に応じて日本行政書士会連合会や、全国女性税理士連合にもサポート組織があるようです。
私は日本社会福祉士会の「ぱあとなあ」に依頼しました。急いでいる事情から司法書士さんの利用も考えましたが、家族の中に障害者がいる以上、福祉関係のつながりが円滑に行えるに越したことはありません。
介護というのはどうしても行政のお世話になるため、縦の関係で手続きが行われますが、現実の介護、生活となれば横のつながりがとても重要なのです。
福祉もいろいろな書類を申請したり、証明をする機会は多くあります。司法書士はそうした仕事のプロですから、関連はあるでしょう。しかし実際の現場感覚はどうでしょうか。
例えば介護と看護は一見似ていますが、よく見てみると実際接し方はかなり違います。看護師に対して患者は病気を治してもらおうと相手の仕事に合わせて作業しやすいように行動します。
介護士は利用者にそう言う気を使わせないように、よく考えて接します。無用に不安にさせないよう、相手の意思を尊重出来るよう、利用者に合わせて介護します。
もちろん看護師も患者に気を使いますが、それは患者の怪我や病気を治すためのもの。相手を見ては表情や顔色や肌艶から体調を読み取り、声をかけては相手の反応や声の状態を確認し、治療時の余計な負担を軽減させようと、そっと体に触れたりします。
そうやって効率よく患者に治療を施し、早く健康になれるように導きます。そして多くの患者に対応するのです。
介護士も声をかけますが、まずは相手に受け入れてもらえるように慎重に話しかけます。
いきなり用件を切り出すことなく、利用者が受け入れる態度を示すのを待ちます。そして相手を見るときも、相手の視線の高さに合わせます。介護中も常に相手の意思を尊重します。
体に触れるときも相手が安心するのを根気よく待つのです。たとえ効率が悪くても、実際にできる事の量が減っても、利用者に残された機能をできるだけ生かすことに重点を置いて寄り添うのです。
この似ているように思える二つの仕事でさえも、これほど大きく違うのです。まして司法書士と社会福祉士では導く結果が同じだったとしても、相当目的に相違がありそうです。
それに福祉関係者は本当にいつも忙しい。とにかくすべてを利用者に合わせて行動していますし、想定外の出来事など日常茶飯事。事前の段取りよりもその場の判断がものを言います。効率化は自分にわずかに残された時間内で工夫するしかありません。
この時間間隔の差だけでも、段取りを合わせたりスケジュールを調整したりするのに苦労するでしょう。普通の接客業でも他の仕事より客の都合が優先されるのです。心や身体機能に問題のある人の都合を何より最優先に考えなくてはならない福祉は、他の業種と相性が良いとは思えません。
しかも同じ家族を「こっちは障害者」「こっちは認知症患者」とより分けて管理するわけにはいかないのです。
人にお任せする以上、そういう大変さは少しでもこちらが避ける工夫をするべきでしょう。裁判所への申請というのは、一度決定したら個人の事情で取り消すことは普通できません。後見人を決定してしまえば、「やっぱり司法書士より、福祉関係の人が良かった」と思っても途中で変更できないのです。
ですから職業後見人を依頼するときは、家族の状況や環境などをよく考えて、慎重に選んだ方がいいと思います。私も入所を焦って間違った選択をしなくてよかったと思っています。やはり同じ畑で話の通りがいいですし、いろいろな事情をとても考慮してもらえます。
本当なら直接「ぱあとなあ」の事務所に候補者のご紹介をお願いに上がるべきだったのですが、私は時間が切迫してできませんでした。事情説明もこちらの要望も短い電話と郵便によるやり取りになってしまいました。候補者も常に人数不足で条件に合う人を見つけるのは難しいといいます。
それでも事情を考慮して大変早い対応をしていただき、こちらの書類が整う頃に無事、候補者のご紹介をいただけました。本当に慌てずに信頼してよかったと思っています。