閑古鳥飛んだ
「がぁぉぉぉお!!」
敵は吠え、前傾姿勢のまま両腕を広げて、飛び掛かってきた。
まるで猫が鼠でも獲るかのように。
宗士郎は大きな影に包まれた。
…………………………………………………、あれから五年……、宗士郎は身体を鍛え上げ、たくましくなっていた。
自分は化け物なのだと諦め、その力に頼ることで、人としての力や技が衰えてしまっていた事を、あの時思い知ったのだ。
相変わらず歳はとっていないが、少し大人びて見える。成長した、と言うべきかも知れないが、百年近く生きていながら、外見は未だ二十歳ほど。
やはり化け物だな、とため息を一つついた時だった……。
「シっロぉぉ!!すきありぃぃ!」振り返る宗士郎に槍が迫る。
「おう、おはよう。一週間ぶりだな、葵。」
槍をかまえ、身体ごと突撃してきた女を軽く躱して、すれ違いざまに片手で地面に押さえつけ、その背中に腰を下ろす。
「ぐぇ!」
「すきありぃぃ!なんて、叫ぶのはどうかな……、だいたい、もう諦めたのかと思っていたぞ?」
「じゃあ、今度は好きだよぉ!って叫ぼうかな?………一週間寂しかった??」
「バカたれ。いい加減わかってくれよ。理由は全部話しただろうが。」
宗士郎は少し顔を赤らめて真顔になると、葵も真顔で答えた。
「私の気持ちも伝えたはずよ?
……自分で言うのもなんだけど、なかなかいい女に成長したと思うし、約束は、守ってくれるわよね?」
「ああ、だがお前には無理だよ。諦めろ。」
「それはどうかしら、この一週間の成果を見せてあげるわっ!!ん………う……ぬ…。」
「どうした?」
「どいてよ!」
「動けないなら大口叩くんじゃないよ。」
宗士郎は立ち上がって槍を取り、少し離れた。
葵も立って土を払う。
「それじゃ、見せてもらおうか。」
「望むところよ!そこに立って動かないで。」
「動くな、っておかしくないか?」
「可笑しい時は笑うものよ。シロ。」
「ふっ、まったく………。」
宗士郎は呆れたように笑った。
つまらない約束をしてしまったものだ……。まさか五年間諦めないとは。
あの日、熊を仕留めた宗士郎は、村長の家に担ぎ込まれた。
そこは結界の中心で、葵の家でもあった。