閑古鳥が鳴いている。
もうダメか、と思った瞬間、颯爽と現れた少年の姿に、葵はドキリと胸が高鳴った。
そして、はっ!と、自分の格好に気付いた。腰が抜けて突っ伏したまま振り返る姿は実に間抜けだ。その上服が破けてお尻が丸見え。
(ああ、なんて事!?見えちゃたかな!?……でもそれどころじゃない。)
一人で真っ赤になりながら、なんとかお尻を隠して起き上がろうともがく。
確かに今はそれどころではないのだ。
宗士郎が放つ異様な殺気に、熊は一瞬ひるんだかに見えた。
しかし、手負いの獣は事の元凶を見付け、更に怒り狂った。
「ぐるるるる、がぁぁぁぁ!!!」
「やかましいわ!!」
宗士郎もまた殺気を放ち、睨み合いになった。
「ちぃっ!」
と思わず舌打ちをする。
駆け寄って来た村人達も立ち止まり固まってしまった。下手に動けば危険だと分かっている。
格好良く出て来たものの、結界の中では、分が悪い。
たった今、ここまで跳んで来て思い知った。無理をした反動もある。
今の宗士郎は、外見に見合う程度の力しか出せない。
頼りは技と経験、そして………。
「まっ、コイツがあればなんとかなるだろ。」
………と、背に縛っていた槍を握り素早く構えた。
体は重いのに、この黒い槍だけはいつも通り軽く、手に馴染んだ。
(よし。あとは………、)
「フライパンのおっさん!!……そのガキを連れて離れてくれ!」
「おっ!俺か!?おいおい、お前だってガキじゃねーか、その槍を貸しな!俺が囮になるから葵ちゃんと逃げろ!」
フライパンのおじさんは、少しずつこっちに向かって来ていた。
武器を投げてしまい、丸腰だというのに大した度胸だ。
「ありがとう、おっさん。だが、コイツを連れてきたのは俺だからな。責任はとるよ。行ってくれ!!この槍は俺にしか扱えない特別なモノだ。ケツ丸出しの小娘さえいなけりゃあ、楽勝なんだよ!!」
「やっぱり見られてたぁ。」半泣きで更に赤くなる葵はまだ立てずにいた。
「それに、俺は化け物だ、どうなろうとも気に病む必要は無いさ。」
「バカたれ!化け物がそんな事を言うかよ!!一人じゃ無理だ!」
「あ、葵もそう思います!!………三人で力をあわせましょう!」
「三人?丸腰と腰抜けは数に入って無いだろうな!?いや、丸腰と丸出し、だったかな。」
「いやぁぁぁぁぁ!!」
「確かにそうだが……。」
良い人間に巡り合えて、本当に嬉しかった。長いこと人との関わりを断って来た宗士郎は、もう少しこのまま問答を続けたかったが、そうもいかない。思わずため息がでた。
「さっさと行け!!」
宗士郎は低く唸るような声に乗せて殺気を放った。
「わ、わかった!!」
「は、はいぃ!!」
おじさんが肩を貸して、二人はそそくさと退散した。
宗士郎はまたため息をつき、気を取り直して目の前の敵に集中した。