弟妹喧嘩
「八光」、地獄に生まれた時から刹那の一部として意思を持ち付き従い、魂で繋がる白い槍。刹那がこちらに来るとき、人間に警戒されないよう、万が一にも危害を加えたりしないようにと、地獄に置いてきぼりにされていた。
そしてあの時、刹那の危機を感じ強引に地獄を抜け出した時にはすべてが終わっていた。
実際にはまだ何か揉めているようだったが、どうでも良かった。槍にとっては彼女が消え失せてしまった事、ソレが全てだった。恨みだの仇なんて概念や意思は持ち合わせていないのだ。
出来ることはただ1つだけ、彼女の帰りを待つのみだった。「死の世界」に生まれたために「死」を知らない槍はソレを信じて疑うことはなかった。
こうして八光もまた刹那の復活を待ち望み、この世に留まり、たまたま波長があった「大巳一族」に拾われ、家宝、ヤマタノオロチとして祀られていた。
クロの母である葵を気に入って懐いていたが、彼女の死をきっかけに消息を絶っていた。あるいはその時槍は何かを感じ、理解したのかもしれない。
それでも遂に主との再開を果たした八光は今、狂いそうな喜びをもて余していた。
同じように羅刹にとっても、半身と言える刀がある。銘を……、
「黒雨!」
雪那の胸を貫いたあの黒い刀が、今思い出したように呼び戻され、羅刹の手に握られた。
雪那は無意識に胸の傷跡に触れていた。愛する夫に突然胸を貫かれた衝撃、それが、ただ一人の肉親で育ての親だった叔父の凶行だという現実。鬼の回復力で傷は塞がっているが、それらが残酷に突き付けられたのはつい先刻の事なのだ。
今の自分達では叔父を止めることも、夫を取り戻すことも出来ない。子供達を逃がす事すら叶いそうもない。それなのに叔父を、羅刹を恨む事も出来ずにいた。自分には何の責任もないなどと、どうしても思えなかったのだ。
悲しいかな当の羅刹は嬉しそうに、勝手に浸っていると言うのに。
「あぁ、懐かしいね、姉さん。子供の頃に戻ったみたいだ。ははは、姉さんは本当に戻ってるね。羨ましいなぁ。」
「そうね、でも全然笑えないわ、羅刹……過去に戻る事は出来ない。私の……、私達の罪は決して消えない。帰るべき場所など地獄の底にもありはしない。消え失せるしかないの!私達は塵に返るべきなのよ!!」
右手を振り払う彼女の意のままに八光はヒュッッッッっと鞭のようにしなやかに羅刹の首を狙う。
しかしその白い閃光はどす黒い刃に弾かれた。
羅刹の足下には、いつの間にか赤黒い血溜まりのようなものが現れ、ソコから血の塊のような黒い刃が、いつでも射出出来るように何本も伸びていた。
「ふん!罪だって?刹那、いったいなんの罪だ!!あぁ?たかが二つの村を皆殺しにしたことか!?それとも………、アイツを裏切って人間の子を産んだことか?」
「黙りなさい!!」
刹那は両手を握りしめ、癇癪を起こした子供のように地面を踏みつけた。その怒りに呼応するように八光から三本の光の刃が現れ羅刹を狙う。
同時にさらに五本の光が彼女を守るように構えた。
黒雨は向かってきた刃に反応して迎撃。同じく三本発射して弾き返した。
しかし……、
「っぅぐはっ!!」
羅刹はひざをついてなにやら喘いでいた。刹那の攻撃は黒雨が勝手に弾いてくれているというのに。
どうやら、愛する姉に暴言を吐いたことに加え、人間にその貞操を奪われた事を思い出して悶えているらしい。
……、どうでもいいが、いちいち面倒臭い男だ。




