兄姉
………ぞくっ!! 二人は振り向くことすらできない。どす黒い気に押し潰されまいと震える膝はあっさりと地に着いてしまった。 今までの殺気がそよ風に感じる程の恐ろしい怨念。怒れる悪鬼羅刹の、まさに鬼の形相が、背を向けていても感じ取れた。
華子だけが、まっすぐに羅刹の眼を見つめていた。
「お願い、もうやめて!兄さん!!」
「やめる?何を言ってるんだよ姉さん。やっと姉さんに会えた、やっと姉さんが帰って来たんだ!これからじゃないか、これからはずっと一緒だ!もう二度と離すものか!」
「兄さん、話を聞いて……。」
「あぁ、姉さん……、姉さんを傷つけたこんな世界、焼き払ってしまおうよ!そしてアイツに……、アイツに復讐するんだ!僕らを裏切ったあのグズ野郎を地獄から引きずり出してバラバラにしてやるんだよ!!」
華子の声を聞いて一旦緩んだかに見えた殺気がまたしても凄まじい怨念と共な襲いかかる 。気を失ったままの桃子が白目を剥いて泡を吹いている。
ーーこのままではこの子が死んでしまう!しかし圧倒的な力と恐怖を前にして雪那に出来ることは限られていた。
「叔父上様!どうかお願いです、せめて子供達だけでも見逃して下さい。お願いします、お願いしますぅ!」
彼女は地べたに這いつくばって羅刹の足にすがり付いき、必死に懇願した。
「黙れ!姉さんが帰って来たんだ、もうお前なんかに用はない。さっさと死ねよ!」
ドゴッッ!
「うぐぅぅ!」
雪那は蹴り飛ばされ、うめき声をあげる。
「雪那ちゃん!このっ!いい加減にしなさいよ、あんた達、兄だか姉だか知らないけど、兄弟ゲンカなら地獄に帰ってやんなさい!!華子も桃太郎も置いてさっさと帰れ!!!……っうぐ!」
間髪入れずに首を掴まれて吊し上げられてしまったが、言ってやった。
しかしこれが遺言になってしまいそうだ。もう首が千切れそう。
「黙れよ、お前らこそ黙ってさっさと死っ……っつ!?」
ヒュッッバーン!!
もうダメかと思った瞬間白い閃光が羅刹に直撃する。
身体は宙に放り投げられたが、幸い首もつながっている。空気が美味しい、いったい何が起きた?きいちゃん?いやアレは、………しかし次の瞬間には、また衝撃が走る。
……っぐは!!着地成功。
「…っ兄さん!この子達を傷つけるというなら私が相手です!」
二人の前に華子が立ちはだかる。その手には白い槍が握られていた。
「久しぶりね、八光。良く来てくれたわね、会いたかったわ。」
槍は答えるようにしなり、嬉しそうに華子に絡み付く。




