刹那
辺りは静まり返っていた。まるで、何事もなかったかの様にしんとしている。
しかし、視界が晴れると辺りはすっかり焼け野原。屋敷も庭も、森さえも抉り取ったように、羅刹を中心にしてそこからは何もかもが消えさっていた。
驚くべきは、ソレ程の惨状が鬼の所業ではなく、味方によるものだということ。あと一歩遅ければ自分達四人とも危なかった。
だが、それよりも雪那を驚愕させたのは、今目の前にいる
自分の娘、華子である。聡明な仙女である義母でさえも、この状況に困惑を隠せずにいた。
あの時、子供達を抱えていた満身創痍の二人がギリギリその被害の外に逃れることができたのは華子のおかげだった。
あの大爆発の間際突然カッッと目を覚ました華子は大人二人の手を引いて力強く走り出した。あげく二人を、いや、桃子をいれて三人を同時に森の茂みへと投げ飛ばしたのだ。
いくら血筋がいいからといっても、子供の力ではあり得ないことだった。そして華子も茂みに飛び込み全員が伏せたところで爆炎が背中を掠めていった。
………目の前にいるのは確かに自分の娘。間違いなく、愛娘だ。それなのに…………。
「あなたは…………、誰?」
ソレが自分の娘でないのが分かる。娘の姿をしていても、気配が違う、でも何故か懐かしさを感じてしまう。なんだかんだ言っても愛する夫、桃太郎をうばわれてしまい、次いで娘までも何者かに身体を乗っ取られてしまたったというのに、雪那は安心感すら感じていた。
その気配は数ヶ月前にも華子から感じた事があった。ほんの一瞬の違和感だったけれど、桃太郎が異様に動揺していたのを覚えている。思えばあの時から、羅刹は目覚め始めていたのではないだろうか。
……だとすれば、自分と羅刹を繋ぐ人物など、一人しか知らない。
「「……雪那、ごめんね…。」」
ただ、涙を流し謝罪のことばを吐き出す。ソレは答えとして十分だった。失われた筈の幼い日の記憶が甦り、華子の声と重なる。あまりに凄惨な記憶……、
……その女性は同じことばを遺して直後目の前で首をはねられた。もろともに切って捨てようとする刃から自分を逃がすために突き出した両腕も同時に切断される。
地面を転がる首が処刑人を悲し気に見つめていた。
「……、………。」
何かを呟くと、間もなく灰と化したソレは、呆気なく崩れて消え去ってく。
子供の心を壊し、思考を停止させるには十分な光景だった。
「ーーーっ!ーーーーーーーーーー!!!!!」
………悲鳴が聞こえる。それが自分の声だと気が付いてやっと我に返った。
両肩を掴みながら必死に名前を呼ぶ義母の声が掠れている。
……この非常時に、自分はどれだけの間呆けていたのだろうか……?
「お…かぁさ…ん…なの?」
戸惑いながらの呼び掛けに、涙を流しながら首をふる華子。
「…………あなたに、そう呼ばれる資格が、私にはありません。……あなたに降りかかった不幸は全て私の責任なのだから。そして今もまた……、あなた達を、この子を危険に晒してしまうなんて。」
「お母さんのせいじゃないわ!悪いのは全部お母さんを殺したあの男、あいつのせいで叔父さんはおかしくなっでしまったのよ!」
「あの人を悪く言わないで!!」
「……どうして、あれは誰なの?」
「……………」
「…ちょっと待って雪那ちゃん!今はそんな場合じゃないわ!」
そこで割ってはいった聡明な仙女は状況を忘れてはいない。今は空気を読んでる場合ではないのだ。
………しかしそれでも、何もかもが手遅れでどうしようもなかった。
「そうだ、雪那。全てはアイツのせいだ。」
羅刹の声は耳元で囁かれた。




