閑古鳥が鳴いている
控えめな胸を張り、見下ろす形のまま固まった少女は、今更ながら戸惑いを見せた。
「ほえ?」
「………やぁ。」
お互い、実に間の抜けた出会いだったが、ゆっくり自己紹介をする状況ではない。
まもなく、時は動き出す。
「ぐおぉぉぉぉぉ!!!」
「ぐぇ!」
ぶちぶちっと縄を引きちぎり、みしみしと宗士郎をふみつけ、熊が立ち上がった。
口の縄を切ったのは、目の前にいる、やたら目の細いオトボケ少女だが、とても彼女に感謝している様には見えない。
顔面を叩き割られたのだ、スイカでもなければ怒るのは当然だろう。
少女は一気に青ざめた。華奢な身体を震わせ、辛うじて槍をかまえて立っている。
どうやら、あの槍も彼女も、もののけ専門らしい。
「アオイちゃん逃げろぉ!!」
慌てた村人が叫びながら助けにくる。
「おじさん、助けて!!」
「バカ野郎目を逸らすな!!」
宗士郎も叫ぶがもう遅い。
少女が振り返ると同時に熊は襲ってきた。
「ぐおぉぉぉあ」
前足の鋭い爪が迫っる。
「きゃー!!!」
少女は背を向けて前のめりに跳んだ。
爪はギリギリをかすめ、なんとか躱したが、すぐさま追い討ちが来る。
少女は、膝を就いて突っ伏したまま腰が抜けている。
村人に手を伸ばすも間にいそうにない。
「いやぁぁぁぁぁ!!」
「ぐるるるぁ!!」
怯える少女にきばをむき、襲い掛かる。
村のおじさんは一か八か持っていた武器を投げ付ける。しかし、フライパンはあっさり弾かれてしまった。
その時、重圧から解放された宗士郎が風のように熊の前に躍り出た。
「ふぅ、間に合ったか。……今度は覚悟しろ!」