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悲劇のひきだし

「それから、お母さんはお婆ちゃんに保護されて、桃源郷で暮らし始めたそうです。……宗士郎様は、お母さんのことご存知ですよね?」


「ああ、あの時は驚いたよ。鬼の巣窟で、あんな美人に出会えるとはね。でも、もっと驚いたのは桃太郎のヤツが、いきなり彼女に向かってすっ飛んで行きやがったことだよ。敵に囲まれてるにもかかわらずだ!だいたい、普通に考えたら罠だろ?実際、陣形が崩れた俺達は皆バラバラに闘う羽目になったんだ。まったく酷い目に遭ったよ。」


今となっては懐かしい光景が記憶に甦り、宗士郎は苦笑いする。


「父らしいです。」


と桃子も笑う。その笑顔が悲しげで、ハッと息を呑む宗士郎は言葉を失ってしまった。


……やはり、ここから先の話は結末。それも少女にとってあまりに辛い結末の物語なのだろう。だから、遠い昔の話で先延ばしにしていたのだ。

その痛ましさに、続きを促す事などできる筈がなかった。


しかし、少女は間も無く語り出した。努めて同じ調子で、取り繕うように。


「ところで宗士郎様、鬼を退治してから、こちらでは何年たちましたか?」


桃子は人差し指を立てて、真面目な顔で問う。


「……?ああ、桃源郷は時間の流れが緩慢……なのだったか。あれからおよそ百年だよ。」



「やはりそうですか。本当にお婆ちゃんの言っていた通りなのですね。……宗士郎様、桃源郷で父と母が過ごした時間は、二十年なのです。」


今度は指を二本立てて、得意げに突き出した。


「な、なんだって!?」


宗士郎は目を丸くして驚いた

。その表情に満足したように桃子はニヤリと更に得意げな表情を見せる。


「父が帰ってから、お婆ちゃんは桃源郷の結界を格段に強化しました。それはもうこの世界からほぼ隔離してしまう程のモノでした。それにより、時の流れからも外れてしまったのだそうです。」


「それは、今のこの事態を予知していたという事か?」



「予知というよりは、女の勘だったと。それに、お婆ちゃんは怖かったそうです。……だって父は、悪鬼羅刹の首をその手で討ち取り、その羅刹の一番の宝物だった鬼の姫を奪って来てしまったのですから、何か恐ろしい事が起こるんじゃないかと。」



「その勘は当たり、結界は破られたという事か……。」


しかし桃子は首を横にふる。


「それは、少し違います。」



「え!?違うのか?」


肩透かしをくらう宗士郎。桃子はソレが嬉しい様子で、調子が出てきたのが表情に表れている。


「はい。では、順を追って説明します。」


そしてまた桃子は語る。語るべきはやはり父の、桃太郎の物語…………。


「その後、もちろん父と母は結ばれたワケですが、実はソレに十年かかったそうです。」



「い、意外だな!?アイツなら強引に……!そうか、母親が許さなかったか。」



「正解です!そりゃ強引に自分のモノにしようだなんて鬼と変わりませんからね。鬼畜、いやソレ以下のゴミですよね?お婆ちゃんが許す筈ありません!そういう意味でもお母さんを保護していたそうですから。」




かつての友が哀れに思えてくるほど辛辣な所から物語は始まっていた。




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