悲劇
戦いに勝った桃太郎は宣言通り美しい女性を連れ帰ってきた。
出迎えた母親は両腕を広げたまま固まってしまった。
「でかした桃太郎ぉ!!」
「よくやった!」
「桃太郎バンザーイ!!!」
「「「バンザーイ!!」」」
……他、一族の誇りだのなんのと勝手に盛り上がるクズどもを無視して、更にはたった今感動の再会を果たし、この女性を嫁にすると言ってきかない息子も押しやり、恐る恐るその女性を観察する。
少しうつむいて悲しげな表情、桃太郎よりだいぶ年上に見え、少し背も高い。そして息子に手を引かれるままに歩くその歩き方に違和感を覚えた母親は、膝を着き、彼女の眼を見つめる。はっとした彼女は顔を曇らせ、小さく頷くと、着物の裾を少しだけ上げた。彼女の足首を覆う足袋を優しくほどくと、そこには足枷の後。
ブチッ!
「この!どぉ外道ぉがぁ!!!」
「へ!?ぐえっ!!?」
母を覗き込もうとかがんでいた桃太郎の腹部に強烈な鉄拳が撃ち上がる。
「人拐いとは何事かぁ!!!」
殴り飛ばした息子に空中で追い付き更に追撃を加える。
顔面に膝
「ふごぉ!?」
そこから反転して後頭部に回し蹴り
「うげぇ!?」
蹴り落とされた桃太郎は顔面で着地、と同時にその背中に母の両膝がめり込む。
「ぎゃふん!」
「「も、桃太郎ぉ!!!」」
そこでようやく男達が停めにはいる。
「落ち着いて下さい!姉御ぉぉ!!!」
「誰が姉御だクズどもがぁ!!!」
ニヤニヤしながら飛びかかってくる男達を怒鳴り散らすと
足下の小枝を拾い上げ立ち上がる。
「……全部、お前等のぉ…………」
小枝は手の中で成長し、次の瞬間には彼女の背丈を超える巨大なこん棒に姿を変えた。
「「「げっ!?ちょっと待って!姉さん!?」」」
すでに彼女に向かって発射され空中を成す術なく泳ぐ彼等に、口から怒気をはきながらゆっくりと構え、彼女はそのこん棒を軽々とフルスイング。
「お前等のせいだぁぁぁぁぁ!!!」
「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」
キラリ!
「ふしゅうぅぅぅ」
体から湯気をあげながら怒気を吐き出し、邪魔者はいなくなったとばかりにゆっくりと振り替える。
「は、母上落ち着いて!この人は僕が助けたんだよ!」
「助けたから自分のモノだとでも?」
息子向き直りゆっくりこん棒を振り上げる。
「助けたんなら家族のもとに帰してあげるべきでしょう!?」
「ま、待って、家族はいないって言うから……ひっ!?」
ズドン!!!!
桃太郎が言い終わる前に目の前の地面にこん棒が沈む。
「だからってあの子の気持ちも聞かずに嫁にするとか言って、無理矢理連れて来たんじゃぁないの!??」
「!………………ぇーと、あのね…………。」
「このっ!馬鹿息子ぉぉぉぉぉ!!」
ズドンッ!ズドンッ!!!!
ズドーン!!!!!
桃太郎はめちゃくちゃに振り下ろされるこん棒を転げまわりながら必死でかわす。
「待って、違うんだよ母上!……あ!ゆ、雪那さん!お願いだから助けてくれよぉ!」
「わかり……ました。」
「こんな女の子を盾にしようだなんて!何処まで腐ってしまったの!!」ズドン!!!
「違うよ!説明を……ぅわ!?」ズドン!!
「これ以上、問答無用です。覚悟しなさい!桃太郎ぉ!」
ついに追い詰められて尻餅をついた桃太郎にぼろぼろになって更に凶悪化したこん棒が迫る。
不味い、コレは食らってはダメなヤツだと本能が告げる。
やむ無しと刀に手をかけ、無論抜くわけにはいかないので、鞘ごと腰から引き抜いて方膝立ちのまま構えた。目を閉じひたすら力を込めて受け止めようとする桃太郎。
「ぐっ!」
「………………」
「……………………あれ?」
ところが衝撃が来ない、恐る恐る片目を開くと、目の前には雪那が立っていた。
「ゆ、雪那さん?…な…なぁ!?」
彼女は片手でこん棒を受け止めている。こん棒はミシミシと悲鳴をあげ、ついには砕けちった。
「「えぇぇ!?」」
母子は揃って驚愕の声をあげるが、雪那は眉ひとつ動かさない。
「私は、桃太郎さんに、助けていただきました。とても、感謝して、います。」
と、雪那はたどたどしく語り出した。
「それは本当にあなたの意志ですか?無理矢理連れて来られたんじゃぁないのね?」
「……はい。」
「母上、酷いじゃないですか。」
「おだまりなさい!それでも嫁にするっていうのは桃太郎が勝手に言っているんでしょう!?」
「……はい」
「あれ、……ははは!」
「まったく!馬鹿息子が!」
悪態をつきながらもホッと胸を撫で下ろし、彼女の怒りはおさまったようだった。
桃太郎も、その場にへたり込んだ。
「……助かったぁ。」
「ごめんなさいね、見苦しいところを見せてしまって。それに、怪我はない?」
「……はい。」
見たところ本当にかすり傷一つなかった。となるとやはり雪那の出自が気になった。
「本当に家族はいないの?」
「……はい。父は私が産まれるまえに、母も、幼い頃に死んでしまったので、あまり覚えていません。」
「そうですか。辛いことをきいてしまってごめんなさいね。」
「……いえ。」
「でも、育ててくれた方がいたんじゃ……?」
「私は、叔父上に育てられました。」
「その方は?」
「桃太郎さんと闘い、討ち死にを……。」
「「えっ??」」
ニヤニヤと雪那の尻を見て油断していた桃太郎と、意表を突かれた母の声が重なり顔を見合わせる。
「えっ、いやそうだけど、ちょっと違…………うわ!」
母は既に鬼の形相で刀を抜いていた。
「あなたはなんて事を……!雪那さんは下がっていなさい」
「……はい。」
「はい、じゃないよ雪那さーん!ちゃんと説明してよぉ!」
「……はい。…………?」
正しく答えたつもりの雪那はどうしたらいいかわからず、首をかしげる。
そして、桃太郎の悲劇は第二幕を迎えた……。
「今度こそ、覚悟しなさい!」
一瞬で掻き消える母、桃太郎は全力で逃げ出した。
桃太郎の背中を白刃が掠める。
「は、母上、死んでしまいますよ?」
「死んで詫びなさい!馬鹿息子ぉ!」
「だから違うんだよぉぉぉ!」
怒鳴りながら飛び回る二人に雪那はついて行けなかった。
「……あ、あの、叔父上は、悪い鬼で、……私を、ずっと洞窟に閉じ込めていたんです、よぉぉお。」
と、抑揚のない口調で途切れながら語尾だけ精一杯叫んだけれど、やはり届かなかった。
「ごめんね、桃太郎さん。……でも……楽しそう、です。」
二人は三日三晩闘い続けた。両者ダウンしたところでようやく雪那のことを思い出す。すると、彼女がそれまでずっと同じ場所から一歩も動かず
に自分達を眺めて立っていたと知り、母子揃って平謝りして、やっと誤解をとくことができた。この日を境に雪那は少しずつ笑うようになっていったという。




