閑古鳥の巣立ち
「お母さん、私、お嫁にいけなくなりました。」
葵は両手で顔を隠す。そして恥じらう様に首を振りながら宗士郎をチラ見。
この娘もだいぶ楽しんでいる。指の隙間から見える彼女の目はその言葉と裏腹に輝きを放っている。
「大丈夫よ、葵。彼は伝説の英雄だもの。責任から逃げたりするはずが無いわ。」
ひろみもあおる。
「おいおい、ちょっと待て!責任ってまさか……、今日初めて会ったばかりじゃないか!?」
焦る宗士郎。
「あら、女に恥をかかせるものではありませんよ。
その会ったばかりの娘を汚したのは誰ですか?……まさか、娘の体だけが目当てだったなどと…」
「い、いえ!決してそういうワケでは……、ってちょっと待ってくれよ。」
しかし、もはや不可抗力だったと言った所で訊かないだろう。まして…ちょっと視ただけじゃないか…なんて言えなかった。
……だいたいこの二人は本気なのだろうか?もし本気なら葵の為にならない。ちゃんと話さなくては。
「二人共、オレが何歳か忘れたのか?歳上をからかうんじゃぁないよ。」
「シロ……、私は本気よ、葵が嫌いならそう言って。急に歳上ぶったって誤魔化されないから。」
宗士郎は首を横にふる。
「葵……、オレは一緒に歳を取ることが出来ない、いつか必ず辛い思いをさせてしまう。結果は見えてる、…いや、オレは結果を知っているんだよ。」
「それってつまり…」
「ああ、ずっと昔、オレには妻と、五人の息子がいた。……鬼退治から帰って間もない頃、自覚が無かったんだ。落ち着いて、普通の暮らしをしようと思った。…出来ると思っていたんだよ。だが現実は違った。子供達はあっという間に成長してオレに追い付いてくるし、いつの間にか妻も老けていった……。
オレだけが何も変わらない。」
そこで小さくため息を吐いた。
宗士郎は遠い目をしている。忘れられない辛い過去なのだ。
「オレは気にならなかったが、妻は…、女としては耐え難い事だったのだろう。彼女は泣いていた、これ以上自分だけが年老いていくのを見られたくない…と。」




