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旅立ち

地響きのような唸り声が聞こえる……。

雄叫びや金属のぶつかり合う音…。

誰かが戦っている。



(ここはドコだろう?)


松明の灯りの他にあちこちで炎が上がり、辺りはよく見えた。


広い、洞窟のようだ……。



突然何かが迫って来る。赤黒い肌の大男が巨大な斧を振り上げて、赤く血走った目でこちらを睨んでいる。……鋭い牙や爪に、二本の角。


(お、お、お、オニ!?なんで!?)

振り下ろされる斧を見つめたまま体が動かない。


悲鳴をあげようとしても声が出ない。


代わりに「ちぃっっ!!」という舌打ちと同時に跳んだ。

(え??体が勝手に!?)


地面が砕かれる音を背後に、鬼の腕を蹴り、一直線に首へ飛び掛かる。



「グルルルル、その首食い千切ってやる!!」

(……!?)


しかし、そうはいくかと斧を離した鬼の拳が飛んできた。


「うがぁぁぁ!!」


「ギャン!!」

(ぅわぁ!?)



今度はまともに食らって吹き飛ばされた。



その先では黒い槍を持った青年が戦っていた。


(まさかあの人は……でも……)


「ちぃっ!!おい、宗士郎どけぇ!!!!」


(ソウシロウ!?やっぱり父さんだ!でも……若い??)


「おっ、クロガネ!元気そうで何よりだ!悪いが今手が離せないんだ。」


これで我慢しろ!っと言って左足一本で顔面を受け止め、そのまま地面にたたき落とした。

「ぐえ゛!?」

(ぐえ゛!?)


「宗士郎は敵の攻撃をさばきながらも、見事に味方を撃墜したのである。ってか!」


がっはっはと笑いながら、鬼の攻撃を弾いて喉元に強烈な一撃を入れた。


「ってか!じゃねー!!」

(ってか!じゃないよ!)


どーんと鬼が倒れる。しかし間髪入れずに後ろから斧が振り下ろされる。


「お前が避ければ自力で着地できたんだよ!どけと言っただろうが!?」


ヒラリと跳んで躱しながら怒鳴る。斧はまたしても地面を砕き、折れた。


「どけと言われてどく奴などいない!!」


黒いの槍が物凄い勢いで目の前に迫り、頭を掠めながら横凪ぎに払われた。


「いや、いるだろ!味方を撃墜するほうがオカシイだろうが!?」


今度は無事着地した。と同時に鬼は倒れた。


「おい、おい、可笑しかったら笑うもんだぞ?」


(………)


「そっちのオカシイじゃねーよ!まったく、話にならんな!!」


無駄な問答をしながらも二体の鬼を倒し、2人はようやく一息ついた。


「そうカリカリするなよ、クロガネ。

話は可笑しく、屁は臭くって言うだろ?」


と言って、ばふ!!っと豪快にぶっぱなした。


「ばかやろう!!なんてコトを!?うおぉぉぉ、鼻が曲がるぅ」

(うわ!く、臭い!?いつもの百倍臭いぃぃ………)

………


………


……………



「うーん、臭いぃぃ………」

「……クロ、……クロ、起きなさい。……父さんと狩りに行こうか。」



少ししわがれた優しい声に起こされたクロは、一瞬惚けていたが、パッと笑顔になり飛び起きた。



「んー?……うん!行く!行きます!!」


がっはっはっと笑いながら背中を叩かれ、クロはすっかり目が覚めた。

(……あれは夢、だったんだよね?……)


「よし、ではすぐに出発だ。」


支度は済ませてあるからと、小さな荷物を渡され、着替えて背に縛り、自分の武器を持つ。

−−武器と言っても自分の背丈程の長さの槍の柄、ただの木の棒なのだが父さんから貰った大切な物だ−−


その何倍もの荷物を背負った父さんに連れられ、家を出ると、まだ真夜中だった。



それでも辺りがよく見えたのは、綺麗な満月だったから。


世界は、青白い光に包まれていた。いつもと違う景色に、2人は立ち止まり見惚れた。


「……綺麗だな。クロ。」


「…うん。」



クロは、胸のざわつきを感じていた。なんだか二度と、この村には戻れないような、そんな気がする。



その予感は概ね当たっていたが、クロが確信に至ることも、それ以上考えるコトもなかった。


「…さて、行こうか。」


2人は歩き出した。

クロは何も疑うことなく、父さんの背中を見つめながら着いて行った………。




クロの父さんは村一番の狩人。




どんな獲物も百発百中で射ぬく弓の名手にして、大ナタ一本で正面から熊を仕留める豪傑。


お人好しで、気前が良く、度々大物を仕留めては村の皆に振る舞っていた。

背が高く筋骨隆々、我流の剣術や体術で、村を襲って来た野党集団を1人で退治した、村の英雄。宗士郎は、クロの自慢の父親だ。



そんな父さんから今朝、初めて一緒に狩りに行こうと言われたのだ。


クロは嬉しくて浮かれていた。

夢のコトや多少の疑問など吹き飛んでいく程度には。


クロは期待に胸を踊らせながら、ただ必死でついていった。

(あれ?……ついて行くのがやっとだ……。)


時折振り返る父さんの顔はよく見えない。



(……急いでる?……いや、ここで弱音を吐くようなら引き返して二度と連れてきてはくれないのかもしれない。)


無理矢理笑って見せようとしたが、上手くいかなかったようだ。


父さんはふりかえり立ち止まった。


「ん?どうした、クロ?いつもより変な顔して。」


「いつもより、は余計じゃないかな。」


「はっはっは。冗談だ。少しペースが速かったか?」

「大丈夫!着いて行けるよ。」



「そうか。さすが俺の息子だ。

だがもうすぐ森に入る、森は暗いし危険がいっぱいだ。絶対に父さんから離れるんじゃないぞ。」


「うん。わかった。」



少しペースを落として、2人は進んで行った。




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