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死神方程式  作者: 向日葵
4/7

初乗りは740円

 歩き出して暫く。不意に立ち止まった匡は首をかしげた。


(アイツ、迷ったな・・・)


 声には出さずに心の中でため息をつく。

 見渡す限りの岩石地帯であるし、地獄の主だった建物は冥府庁付近にかたまっている為、この辺りには目立った建築物がない。しいて言えば、随所に設置してあるおどろおどろしい閻魔像くらいだろう。これは歴代の閻魔たちが像どられているのだとか。まぁ、実際の所それほど似てはいないらしく、親父に言わせれば経費の無駄、であるらしいがある種の慣習のようで中々廃止することが出来ないようだ。もちろん、どこかに親父の像もあるようなので、目下探索中だ。おもいっきり笑ってやる予定である。

 

 と、話がずれた。ともかく、絶賛迷子中なわけだが、さてどうしたものか。


「おい、匡」

「ん、どうした?順調だから心配すんなよ?」


 オレの心配を気配で感じたのか、振り返った匡が素晴らしいくらい爽やかに微笑む。その笑顔が、やけに怖い。大丈夫じゃねぇだろう。現状迷ってるだろうが、とか言いたいオレ。けど、張り切っているところに水を差すのも悪い気がする。

 気持ちは既に“子供のはじめてのおつかいを見守る親”だ。結局、そうか、と答えるしかない。まぁ、やれるだけやらせてみるか。いざとなれば、どうとでも出来るしな。このまま匡に付き合うのも面白いかもしれない。

 とりあえず見守る方針に決めたオレは、引き続き匡の後に続く。途中振り返ってくる匡からは、大丈夫だからな!なんていう励ましをもらいつつ歩くこと数時間。この頃には、今までの状況から嫌でも確信を持たざるを得ない事実があって、既に乾いた笑いしか出てこなかったオレ。

 そして、目の前に現れたのは、30mの幅は有にありそうな深緑色の川。


「この川ってもしかして・・・・」

「・・・・俗にいう『三途の川』ってやつだろうな。それよか、匡お前迷ったんじゃなくて、そもそもこの場所来たこと無いんじゃないか?」


 オレは眼の前を流れる、深緑の河を眺めながら問いかけるけど、


「オレ、三途の河の向こう側って、花畑が広がってるんだと思ってた」

 

 感心しきりの匡はオレの問いなどまるっと無視して、ぽつりと呟くだけ。

 違う。オレが言いたいのはそういうことじゃない。というか、問いにすら答えてないがでもこれで、はっきりした。不慣れ故の迷子ではなく、ただの知ったかぶり迷子だと。奇跡的にここまでたどり着けたのは僥倖だったな。


 とりあえずは匡を促し、舟守に掛け合い反対岸へ渡してもらおうと声をかけようとし、


「生憎だけど、それはあくまでも想像論であって、事実じゃあないんだ。実際の三途の河の向こう側なんて、ご覧の通り荒涼とした荒地にしかなっていないんだ」

 

 突如として聞こえてきた青年の声に先を越される。二人して驚き慌てて振り向くと、オレの真後ろにその人はいた。腰まで届くほどの銀髪。それを高い位置で緩く結び。髪を結ぶ事に使われている紅い組紐についた玉飾りが涼しげな音を響かせている。淡い蒼色の着流しを纏い、履いているのは靴ではなく、下駄。そしてなぜか、腰紐にはauの携帯がぶら下がっている。手には扇子を持ち、はたはたを自分を扇いでいる。口元には、微かな微笑。優しげに細められた眼が、温和なイメージを見る者に与える。

 これほど近くにいたのに、全く気が付かなかった。これほど気配を断つ事に長けた舟守なんて、めちゃくちゃ怪しすぎる。三途の川の舟守なんて、下位の者の仕事なのだから。

 そんな理由から思わず訝しげな眼差しを向けてしまっており、それに気付いた青年が一瞬だけ愉しげな笑みを浮かべこちらへと視線を向けた。けれどこちらが言葉を発する前に視線を逸らされてしまう。


「それで?」


 何事もなかったかのように、改めて匡へ視線を向けた青年が小さく小首を傾げた。


「へ??」

 

 青年の質問の意図が判らなかったのか、今度は匡が首を傾げる。


「組紐を持っているみたいだし、君達死神だろう?向こうへ渡りたいのかな?」

「・・・あ、そうなんです!」 


 今まできょとんとしていた匡が、まるで水を得た魚とばかりに、肯定した。余りに迷いのない肯定の仕方に、半ば呆れる。仮にも何も知らない事になっているオレがいる前で、そんなに簡単に自分の職業を明かす奴がいるか。

 全く。考えなしというか、単細胞というか。思った事や、感じた事が顔に出るのは悪い事ではないが、出すぎるというのも、考えものである。おおっぴらには言えない職業に就いているのだから、その辺の事は常に念頭に入れておくべきではないのか?まぁ、たとえ口にしたところで信じてもらえるとも思えないが。


「なら・・・、はい」


 突如として差し出された青年の手。一瞬何をされているのか判らなかったが、ここがどこだかを思い出し、青年の行動の意味を知る。二人して財布を取り出し、五円玉を探しはじめる。


「まさか、死者同様たった五円玉6枚で渡れるなどと、思っていないよね?」


 頭上から落ちてきた青年の声に、手に握りこんでいた五円玉が、財布の中に逆戻りしていく。いよいよ訳が判らないと顔を上げると、青年は寧ろ見蕩れるほど鮮やかに笑い。


「今のご時世、そんなに格安で渡してくれる船なんかある訳ないだろう。今時の渡し舟は初乗り740円からなんだよ?」

「タクシーかよっ!?」

 

 絶妙なタイミングで匡が青年の言葉に突っ込む。


「別に、嫌なら河を泳いで渡ってくれても一向に構わないけれど?」


 匡がオレを振り返り、そして河へと視線を転じた。河から伸びている、黄土色の無数の触手。くねくね、うねうねと、まるで、手招いているようにも見える。

 こんな河を、果たして無事渡って向こう岸に辿り着く事が出来るだろうか。

 結局、オレ達に残された道は、一つしかないのだ。


「まいどあり~」


 小気味いい音を立てて、硬貨が青年の腰袋に消える。

 青年に促されるまま乗った船は木製で、ところどころ欠けた所があってなんだか今にも沈みそうだ。同じ位古ぼけた櫂もあって、あの細腕でこれを操作するんだろうかなんて、なんとなしに考えていると急に聞こえたエンジン音。


「「え?」」


 そのまま、櫂なんてまるで飾りだと言わんばかりに推進式スクリューの搭載された木舟は凄まじいスピードで三途の川を渡りきった。途中例の触手のようなモノが襲いかかってきたのだが、それは青年の手に持たれた櫂によって撃退されている。いや、それはそういうためのモノじゃないだろう。そう思ったのだが、何だか突っ込むのにも疲れてしまい、そっと心にしまっておく。


 何だか、匡に任せて楽しむつもりが、逆に疲れたような気がする。先に降りた匡を追い、船から降りようとした瞬間、


「また。逢えるのを楽しみにしているよ。次代の主よ」


 青年の囁きが耳朶に届いた。

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