受難の始まり
自分の人生を衝撃的に変える出来事とは、いつも突然訪れるものだ。
心の準備など、お構いなしに。
オレの場合、その出来事が起こったのは、13歳の冬だった。
その日の事は今でも鮮明に思い出す事が出来る。
擦れ違いがちだった両親が、珍しく揃って帰って来た日だったからだ。
不自然なくらいにこにこと笑う両親。おまけに、誕生日でもないのに、ずっと欲しかったゲームと大好きな作家の小説をプレゼントだと手渡された。
嫌な予感だ。
だって怪しすぎる。
記念日でもないのにそろい踏みの両親。その両親の不自然すぎるほどの笑顔。更には突然のプレゼント。三拍子揃うと、色々と勘ぐってしまうものである。モノで釣っといて、後から変な頼みごとでもするつもりじゃないか、と。
その後も二人の奇行は続き、久しぶりに手料理を食べさせてやると腕を振るう母と父親らしい事が出来なくてすまなかったと謝罪を求めた父。そんな二人に猜疑にまみれた視線を向けるが、気づいているはずのふたりは何食わぬ顔だ。
甘い卵焼きに肉じゃが。唐揚げやアスパラの肉巻き、春雨サラダ、統一性など皆無の品々が続々とテーブルの上に並べられていく。そのどれもがオレの好物の料理ばかり。
嫌な予感が加速度的に上昇していく。この流れはあれだ。今からオレにする話が、オレにとってあまり好ましくないが故にご機嫌取りないし、ヤケ食いでもさせて発散させる腹に違いない。
そう確信してしまったオレには、その二人の行動はもはや異様にしか映らなくて。妙な空気が流れる中、食事は黙々と進んでいった。誰も何も話さず、食器の音だけが静かな部屋に響いていく。かつてこれほど緊張を強いられた食事があっただろうか。別にやましい事をしている訳でもないのにもやもやとした不快感がまとわりついていい加減息苦しい。もはや料理の味なんて判るはずもない。
「昂太郎」
食事も中盤にさしかかったとき、急に真剣な声で、母親に名前を呼ばれた。
いよいよかと手を休め、母親の顔を見ると、真っ直ぐ逸らさない視線とぶつかる。その時訳もなく身体がふるりと震えた。今思えば、この時身震いしたのは、属に言う『悪寒』というやつだったんじゃなかろうか。
父親は何も言わず、母親が口を開くのを、静かに待っていた。オレが焦れて問い質そうとした時、漸く母親は話しはじめた。
――――そして。この日から、オレが歩んでいくはずだった、平凡な日常は終わりを告げたのである。