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とある学校の七不思議

誰にも読めない本

作者: 頭 垂

『誰にも読めぬ本』

耳を澄まさなくとも窓の外からはザーザーと言う音が聞こえてくる。

その音の正体は実にシンプルで、今日の昼ごろから降り出した雨が屋根に叩き付けられている音だった。

授業が終わった放課後になっても一向に止む気配はない。

「あ~あ。俺もさっきの内に帰っておけばよかったぜ。馬鹿見た」

そう窓の外を見ながらつぶやくのは、一人の男子の制服を着た学生。

彼は雨がやむまでの暇つぶしとしてここ――図書室に来ていたのだ。もちろん本を手に取ることなどなく、ずっとスマホを使って音楽を聴いたり、ゲームをしたりしていたのだ。

ふと、イヤホンを取って窓の外を眺めてみると、雨は酷いことになっている。

まだ授業が終わった直後はシトシトといった感じで雨が降っていたのだが、今はもうザーザーと言った感じでどしゃ降りである。

そんな酷い雨を見ながら彼は悔やむ。

授業が終わった直後に、友人と一緒に駅までダッシュすればよかった、と。

雨に濡れるのが嫌だったし、もう少しすれば止むだろうと思っていた。そんな甘い考えをした結果が今の現状である。

友人に誘われた時に、スマホで今後の天気を調べればよかったとも思う。今となっては後の祭りだが。

そんな時に、スマホが揺れる。

メッセージを受信したようで、ロックを外して内容を確認してみると、電車に乗ることができた友人たちからのものだ。

ご丁寧に画像を添付したうえで、ザマァと書かれている。

友人たちの優しさに心が温まる思いである。

「明日、覚えておけよ。っと」

そんな友人たちに返信をした後、改めてゲームに戻ろうとしたが、スマホのバッテリーが真っ赤になっている。

これ以上使ったら非常時に不味いと思い、省電力モードにしてポケットにしまう。

スマホをポケットにしまってしまったら、何もやることがなくなってしまった。

勉強道具は教室に行けば多少はあるのだろうが、テスト期間でもないのに勉強するほど彼は勤勉ではなかった。

本当に手持無沙汰になってしまったので、しょうがなく彼はてきとうに本棚の下に行き、何か暇を潰せるものはないのかと物色し始める。

「ん?」

本棚を流し見していると、彼の目に一冊の本が止まった。

その本は、光を吸い込みそうな真っ黒な装丁で、タイトルや著者などの本の表紙に書いてあるであろうことが何一つ記されていなかった。

一見して完全に怪しい本。

だが、その本に彼は初見で惹かれていた。

「ま、これでいいか」

彼はとりあえずの時間が潰せればいいので、特に何も考えずにその本を手に取る。

席に戻って、本を開いて中身をパラパラと読んでいく。

内容を頭に入れる気はそれほどないのだろう。目で中身を追えないであろう速度で、ページがめくられていく。

そのページをめくる勢いが、徐々に遅くなっていき、途中のページで止まった。

彼は興味深そうにそのページをまじまじと眺めている。

「へぇ……。これなら俺でもできそうだな」

彼はカバンからてきとうなルーズリーフを取り出す。

そこに本と見比べながら、必要だと書いてある物を書き記していく。

その必要であると書いてある物は、とても普通に生活していくうえではお目にかかれないようなものだ。

だが、不思議なことにそれがどこに行けば手に入るのかは頭の中に浮かんでいた。そのことに対する疑問は浮かばなかった。

必要なもののリストアップが全て終わったころには雨も止んでいる。

これは、自分にこれを行言えと言う天啓だと彼は感じる。

だからさっそく行動に移すことにした。

帰り道でリストアップした必要なものを購入していく。その必要なものが打ってある場所と言うのは総じて、路地裏などの人が寄り付かなそうな場所にあった。

その店で必要なものを言っていくと、信じがたいものを見るような目で店員から見られた。だが、ちゃんと物を売ってくれたので良しとしよう。

必要なものと本を手に持ちながら、彼は山の中を進んで行く。



電車に乗っている学生に突然メッセージが届いた。

それには位置情報だけが載っていて、それ以外の情報は何一つ書かれていなかった。

「……なぁ」

「あ? なんだよ」

「これなんだと思う?」

「ん? これは……うちの学校の近くにある山か?」

「そうだよな? 唐突にあいつからこの位置情報だけだ届いたんだが……」

「来いってことか? にしても一度降りてから戻らんといかんからなぁ……。どうする?」

「来いってんならなんか書いててもいいと思うんだがね。とりあえず俺は行こうと思うが……お前は?」

「お前が行くなら行ってやるよ」

「サンキュー」

二人は、次の駅で電車から降り、学校方面に行く電車に乗り込む。幸いなことに、次の電車が来るまで大して時間はかからない。

すぐに来た電車に乗り込み、程なくして学校の周辺駅に着くことができた。

その駅から山までは徒歩で十分もかからない。

だが、その山は整備されていない獣道とかも多いので革靴で歩くのには向かない。

「ったく……。こんなところに呼び出しといて何の用だってんだよ」

「そう言うなって。後で何かおごらせりゃ良いだろ」

「それもそうだな」

そんな話をしているうちに、メッセージとして届いた位置情報の場所についた。

そして、男二人は愕然としてしまう。

そこにあったのは飛び散った血と、このメッセージを送ってきた友人のものと思われる制服。

肝心の呼び出した友人の姿は影も形もなかった。

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

二人は悲鳴を上げながら来た道を戻っていく。

その場に残されたのは、おびただしい量の血痕と制服だけ。

だが、二人は一つ見落としているものがあった。

その場には、真っ黒な装丁の本が無造作に放り投げられていたのだ。

開かれているその本は真っ白で、何も書かれていない。

風が吹き、本のページがめくられる。だが、どのページにも滲みひとつなかった。


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